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「デカくて強い」から「エモい」に変わった…これから中国市場で儲けるために必要なキーワード

プレジデントオンライン / 2022年1月20日 11時15分

2020年10月27日、中国山東国際りんご祭で、Eコマースキャスターがネットワークライブ中継の形でりんごを紹介する。 - 写真=CFoto/時事通信フォト

中国でヒット商品のトレンドに変化が起きている。かつて人気だったのは「強くてデカい」だったが、それが「エモい」に変わってきたのだ。『新消費 デジタルが実現する新時代の価値創造』(プレジデント社)を書いた藤井直毅さんに、中国ルポライターの安田峰俊さんが聞いた——。

■「デカくて強い」から「エモいもの」にトレンドが変化

——書名にもなった、中国の「新消費」現象とは、簡単に言ってしまえば「エモさ」(情緒性)を理由にした消費……ということになるでしょうか。これは以前と比べて何が違うのですか。

【藤井】そうですね。まず以前の話ですと、たとえば自動車なら、デカくて強いのがいい車。本当は衝突時にボディがちゃんと衝撃を吸収してへこんだほうが安全で、コンパクトな車のほうが燃費がよくて環境に優しかったとしても、とにかくデカくて強いのがいい。面子(めんつ)が立つものを欲しがる「面子消費」というやつです。

——ああ、わかる気がします。20年ほど前は、携帯電話でもとにかくエラそうに見えるデカい携帯「大哥大」(=ビッグ兄貴)がカッコいいという価値観がありましたね。

【藤井】はい。好みの方向が単一で、みんなが思う「いいもの」が一致していたんです。なので、全員がその方向に飛びついた。しかし、それが徐々に変わって、自分がいいと思ったものこそが「いいもの」という価値観に変わってきた。

——「いいもの」と思う動機には、もちろん価格や便利さ、ブランドの好き嫌いなどもあると思います。ただ、そこに「エモさ」、感情が動かされるかという要素が強く関係してきた。

【藤井】そうです。たとえば広告にしても、最近は「この車ができるまでにはこんなことが」といったメイキングストーリーや、「家族の暮らしがこう変わって幸せ」というイメージをアピールする方向性も強くなってきた。

——以前はそうでもなかったんですか?

【藤井】もともと中国の広告ってアメリカと似たところがあって、「価格がいくらだから得だ」「このエアコンを使うと一瞬で気温が○度下がる」みたいな、即物的なアピール(理性訴求)をする傾向が強かったのですが、ちょっと変わってきた感じはあります。

■ゆるい感情が購買につながっていく

——本書『新消費』で特に紹介されているのが、近年の中国におけるライブコマース(動画のライブ配信による商品紹介と販売)の隆盛です。こちらも「エモさ」重視の風潮と関係があるとか?

【藤井】そう思います。実はライブコマースって、普通のEC(電子商取引。日本ではAmazonや楽天などが該当)とは、効率性の面ではある意味で真逆なのですが、なぜか中国では強いんです。

中国のタオバオ(アリババが提供する中国の最大手ECサービス)も、日本でもおなじみのAmazonも、ECって商品がすごく整理されていて、検索によって最も効率的なものが一瞬で表示され、それを最小のクリック数で買えるイメージがあるじゃないですか。しかしライブコマースの場合……。

——インフルエンサーが動画のなかで喋りまくっているわけですから、化粧品ひとつ買うのにもすごく時間がかかりますよね。他の商品や業者との比較も面倒ですし。

【藤井】そうなんです。従来のECのKPI(重要業績評価指標)でいえば、こんなに時間をかけて買わせるなんてありえない(笑)。でも、そうした効率の競争とは別の「エモさ」がライブコマースのキーです。なんだか動画がおもしろい、次も見ようかな、この人が売るなら買うか、みたいな、ゆるい感情が購買につながっていく。

中国のオンラインショッピングサイト
写真=iStock.com/Yongyuan Dai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yongyuan Dai

■8億円のロケットを販売するインフルエンサーも

——なるほど。一昔前までのアジア各地の市場では啖呵売(たんかばい)がお馴染みで、売り手の面白さや親しみやすさから買うという購買動機が存在した。ある意味、それが変形してサイバー化したのが、中国のライブコマースなのかもしれません。

【藤井】売り物のおもしろさが加わるケースもあります。本書でも紹介した、中国の「ライブコマースの女王」薇婭(viya)が、キャンペーンの形でロケットを4500万元(約8億円)で売ったことがあります。もちろん高価なわけですが、超大幅割引(笑)。

——それは見る側にとってはエンタメですよね。「どこの金持ちがこの商品に手を上げるのか」をワクワクしながら見るという娯楽、1990年代の日本のTV番組「ハンマープライス」みたいです。当然、みんなの前であえて高額品を買ってみせる人は、空気が読める粋な金持ちというわけで、賞賛の対象になる。

【藤井】実際のモノの売り上げ以上に、話題を作ることでの波及効果は大きいでしょう。もっとも、ライブコマースは普通の商品を売っていることのほうが多いわけで、普段から配信内容がそこまでおもしろいわけではないのは注意が必要です。無編集のライブで喋っているだけですから、映像の演出もないですし。

——普段の配信は「そこまでおもしろいわけでもない」。なのに、なぜ盛んになるのでしょうか。

【藤井】ダラダラ、無目的に見られるからかもしれません。ライブコマースはコロナ禍で大きく伸びたそうなんですよ。ずっとステイホームで、ドラマや映画を見るのも、ある程度は集中して見なくていはいけないので飽きてくる。そこでライブコマースが見られるようになった。

■テレビショッピングの流行がそのままライブコマースに引き継がれた

——しかし、日本でも同様の需要はあるようにも思うのですが、インフルエンサーによるライブコマースは低調ですよね。

【藤井】確かに、日本でもコロナ禍でECは伸びたのですが、ライブコマースは伸びませんでした。

——違いはどこにあったんでしょう?

【藤井】ひとつは社会環境の違いです。ライブコマースといちばん感覚が近いのは、実はテレビショッピングなのですが、日本でこれがすごく流行していたのは1990年代まで。日本で放送されていた往年(おうねん)のテレビショッピングの購買層は、現在は高齢化していますから、ウェブでの購買活動になかなか踏み切らない。

いっぽう中国では、2010年前後までテレビショッピングの流行がまだ続いていたんです。それゆえに、テレビショッピングのユーザーたちがスムーズにライブコマースに移行した面があります。

2019年、iPhone7の画面上にTikTokとSNSのアイコンが並ぶ
写真=iStock.com/Wachiwit
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wachiwit

■ネット文化が一気に普及したからこそ幅広く定着した

——みんな忘れかけていますが、中国はついすこし前まで「発展途上国」です。現在ほどウェブサービスが普及する前、つい10~15年前までは、日本以上にアナログなものが市民権を得ている「古い社会」でした。

【藤井】その通りです。同じく、もうひとつの理由はテクノロジーが浸透した状況の違い。つまり、現在は中国のほうが日本よりも、ネットで動画配信を視聴する習慣が一般にも幅広く定着している。だからライブコマースが普及したという面はあります。

——既存の社会インフラが整備されていない新興国で、先進国が歩んだ技術進展を飛び越えて新しいサービスが一気に広まることを「リープフロッグ(カエル跳び)現象」と呼びます。中国のライブコマースの流行も、市場の啖呵売やテレビショッピングから、いきなり最先端が普及した感があります。

【藤井】友達からの口コミの延長線上みたいな面もあると思います。しかも、現在の中国のインフルエンサーが売る商品は、タオバオなんかの大手ECプラットフォームがちゃんとバックにあって、ダメな商品だった場合の返品・返金の仕組みもしっかりしています。なので安心感もある。

■10億人のネットユーザーの反応を見てサービスを改善

——2010年代後半から顕著になったのは、リープフロッグ現象によって中国の「先進的」なサービスやライフスタイルが、日本に逆流する動きです。中高生がみんな中国の動画アプリ(TikTok)を見て、関西圏では多くの人が中国のタクシー配車アプリ(Didi)やフードデリバリー(Didi Food)を使って……みたいな状況は、10年前は考えられませんでした。

【藤井】そうですね。中国について、かつては「遅れているよくわからない国」だったのか、最近は「進んだ部分がよくわからない国」になってきた感があります。

——これらのサービスが生まれる土壌としての、中国の強みはどこにあるんでしょうか。

【藤井】ユーザーの反応をみて改善することがやりやすい点が最大の強みかもしれません。中国は14億人の人口がいて、ネットユーザーも10億人以上。つまり、あるアプリをリリースしてから、改善のためのサンプルが膨大にある環境なんです。

もちろん英語のサービスもユーザーは多いのですが、こちらはユーザーの国や文化背景が違う。いっぽう中国の場合は、まがりなりにもひとつの同じ国の人たちなので、同環境の下での反応を測定しやすい。なので、サービスが短期間でよいものになる。これが海外に出ることで、より研ぎ澄まされていくところがあるかもしれません。

■人材の平均的なレベルが高いことが日本の強み

——コロナ禍が終われば、日本はそんな中国から再び儲けていかなくてはいけません。現在の日本は中国に対して、どういう部分で優位性を持てると思いますか。

【藤井】まずは人材でしょう。私が中国にかかわりはじめた2012年ごろからすでにあった流れですが、テレビ番組や映画などのクリエイターを中国に呼んでコンテンツを作ってもらうという流れがありました。これは今後もあると思います。むしろ増えるかもしれません。

——中国にも人材はいると思いますが、あえて日本から呼ぶ。

【藤井】中国は激しい競争に勝ち残った一人の「すごい人」を盛り立てるのは上手なのですが、「普通の人」のレベルを全体的に底上げするのは下手なんです。凡才に知識を伝承して秀才に育てるよりも、完成された天才に頼った市場運営がなされる。良くも悪くも。

——わかる気がします。ちなみに私は恐竜が好きなんですが、中国の恐竜研究って世界レベルの研究者がいる一方で、裾野がめちゃくちゃ狭いんです。日本であれば、学者のタマゴみたいな「そこそこ知識を身につけた人材」という2軍層がすごく厚いのですが、中国は天才と完全な一般人しかいない印象です。

【藤井】これはある意味で、日本が優位に立てる部分があります。中国から見れば、日本の人材には突出した人はいないが、平均的なレベルが高くてハズレがない。人材を使うときの出費に対する最低限のリターンが必ず計算できるという安心感がある。こういう意味で、中国にとって日本はまだまだ値打ちが高いところだと思います。

■中国のトレンドをチューニングするためのヒントに

——2017年ごろにチャイナ・イノベーションがもてはやされましたが、ほどなく、「あれは中国の社会じゃないと無理」というものがたくさんあることが明らかになり、ブームはしぼみました。事実、“街のどこにでも乗り捨てられる”という中国型の仕組みのシェア自転車なんて、日本ではそもそもサービス開始にこぎつけることも無理です。

藤井直毅『新消費 デジタルが実現する新時代の価値創造』(プレジデント社)
藤井直毅『新消費 デジタルが実現する新時代の価値創造』(プレジデント社)

【藤井】その通りです。中国社会特有の事情でしか成立しないものと、日本でも取り入れられるものを選り分けて、やれることが何かを示していくのは、日中間で働く人間の仕事であって、それは今後より重視されるように感じます。

——本書『新消費』は、「進んだ」中国における流行の消費トレンドを、どのようにして日本に適用させていくかを考えるうえで、ヒントに富んだ一冊かもしれません。

【藤井】ありがとうございます。中国で売れているもの、人気が出ているものを、どのように日本に適用できるようチューニングするか。それを考える上でのヒントを提供できればと思いますね。

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藤井 直毅(ふじい・なおき)
マーケッター/プランナー
電通マクギャリーボウエン・チャイナ Group Account Director。早稲田大学在学中から欧米系PR会社に勤務。投資ファンドから消費財まで幅広いクライアントに対する広報コンサルティングを中心としたコミュニケーション&マーケティング支援に携わる。近年は中国現地でのマーケティング支援に注力しており、2021年より二度目の中国生活として北京に居を移す。「日経ビジネス」電子版、「東洋経済オンライン」などに寄稿多数。著書に『新消費 デジタルが実現する新時代の価値創造』(プレジデント社)がある。

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安田 峰俊(やすだ・みねとし)
ルポライター、立命館大学人文科学研究所客員協力研究員
1982年生まれ、滋賀県出身。広島大学大学院文学研究科博士前期課程修了。著書『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』が第50回大宅壮一ノンフィクション賞、第5回城山三郎賞を受賞。他の著作に『現代中国の秘密結社 マフィア、政党、カルトの興亡史』(中公新書ラクレ)、『「低度」外国人材』(KADOKAWA)、『八九六四 完全版』(角川新書)など。近著は2022年1月26日刊行の『みんなのユニバーサル文章術』(星海社新書)。

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(マーケッター/プランナー 藤井 直毅、ルポライター、立命館大学人文科学研究所客員協力研究員 安田 峰俊)

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