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「楽天からは10年前に撤退」北欧、暮らしの道具店が"月間200万人"の心をつかみ続ける理由

プレジデントオンライン / 2022年1月25日 9時15分

クラシコム代表の青木耕平さん(左)と共同創業者の佐藤友子さん(右) - 撮影=今村拓馬

クラシコムが運営する「北欧、暮らしの道具店」は、雑貨や衣料品の販売などを手がけるサイトだ。月間200万人ものユーザーを集める。しかも、提供しているのは商品だけではない。オリジナルの記事や動画、音声コンテンツもあるのだ。なぜこのような事業体になったのか、クラシコム代表の青木耕平さんと、共同創業者の佐藤友子さんに話を聞いた――。

■読み物は月80本ペース、動画や音声も発信

雑貨や衣料品のオンライン販売などを手がける「北欧、暮らしの道具店」は、2007年の開店から約15年で、月間200万人の顧客を集めるサイトに成長した。その特徴は、読み物や動画、音声といったコンテンツと、物販を組み合わせるという巧みな戦略だ。ECサイトでもあり、同時にメディアでもあるという独自のビジネスモデルはどのように確立されたのか。運営するクラシコム代表の青木耕平さんと、共同創業者の佐藤友子さんに聞いた。

ネットを介して顧客と直接つながるD2Cモデルでありながら、商品を販売するだけにはとどまらない。雑貨やオリジナルのファッションアイテムを暮らしの中にどう取り入れればいいのか、月80本ペースでリリースする読み物(ウェブ記事)を通して伝えている。動画や音声などのコンテンツにも果敢に進出。YouTubeチャンネルの登録者数は約48万人、ポッドキャストの再生数は月間約50万回と、ファンの心をしっかりとつかんでいる。

風変わりとも映るその立ち位置の狙いは? 青木さんは「やらざるを得ないと感じたことを実践してきたら、結果的に現在の形になった」と語る。

■アマゾンや楽天と顧客を取り合っても、勝ち目はない

通信販売事業の成功を左右するポイントは2つある。1つは、新規の顧客といかにつながるか。もう1つは、つながった顧客に商品を買ってもらい、さらに継続して利用してもらえる関係を築けるかどうかだ。多くの事業者は、前者を実現するために広告を打ち、後者を促すためにクーポンの発行やセールの開催といったいわゆる「販促」を実施する。

「でもね、そのやり方を続けていけば、アマゾンや楽天などの巨大モールとお客さんを取り合うことになる。勝ち目がないでしょう」(青木さん)

「“いいコンテンツをくれる人”としてお客様と出会いたい」というならば、「勝てる」土俵を自らつくり出せばいい。
撮影=今村拓馬
「“いいコンテンツをくれる人”としてお客さんと出会いたい」という - 撮影=今村拓馬

ならば、「勝てる」土俵を自らつくり出せばいい。

同店は「今すぐ商品を買いたいと思っているお客さん」の争奪戦から、距離を置いた。買い物をする気はないがちょっとした隙間時間を持て余している、「将来お客さんになり得る層」に注目した。彼らに親しみを持ってサイトを訪問してもらえるようにするために考えたのが「コンテンツの力を活用する」というアイデアだった。

「読み物などをきっかけにして、当店を知ってもらう。そこで触れられるコンテンツの内容が面白ければ、何度も何度も訪れてもらえる。そうした中で『買おう』という機会も生まれてくる。お客さんに喜んでもらいながらビジネスとしての持続可能性も実現していくには、このやり方しかないと考えたわけです」(青木さん)

創業当初は楽天市場に出店していたが、2011年末には退店した。広告は絞り、その分のリソースを、質の高いコンテンツを制作することへと振り向けていった。

■マーケティングの専門部署は持たない

「『このお店で買いたいな』というよりも、『このお店と付き合いたいな』と思ってもらうための活動はすべて、マーケティングだと思うんです」

共同創業者の佐藤さんは、そう話す。だから同社は、マーケティングの専門部署を持たない。

「関係性をつくること」に力を入れているという
撮影=今村拓馬
「関係性をつくること」に力を入れているという - 撮影=今村拓馬

リアルの路面店を思い浮かべてもらえば分かりやすい。「雑貨店」に確固たる購買目的を持って訪れる人は多くないはずだ。もちろん、その店でしか手に入らないようなユニークな商品も置かれているだろう。だが「電化製品のように、分かりやすい機能性や革新性で差別化されるものではない」(青木さん)。

気が向いたときにフラッと訪ねたくなる雰囲気がある。何度も訪れ、店員との会話を楽しむ。「付き合っていく」うちに、ささやかな1品が愛おしくなり、購入に至る――同店が一貫して目指してきたのは、そんな顧客体験の提供だ。

■「小さな花」を「価値観というリボン」で花束にする

「商品を売るためにコンテンツがあると言い切ってしまうのも、そういう意味でいえば少し違うかな。私たちにとっては、商品自体もコンテンツです。『このお店と長く付き合っていきたい』と心から思ってもらえるための一つの要素ですから」(佐藤さん)

青木さんは、そんなありようを「花束」になぞらえて説明する。

「洋服や化粧品などの物理的コンテンツ、そして読み物や動画、音声といったデジタルコンテンツ――これら一つひとつは、いってみれば『名も無き小さな花』かもしれません。少なくとも、1本で世界中をアッと驚かせるようなものではない。でも、そうした1本1本を共通の『価値観というリボン』で縛ってみる。コーディネートしてお客さんに届ける。『この花が好きなら、こういう花も合わせてみたらどうですか?』という提案を繰り返してきた結果、大きな花束になってきた、ということだと思います」(青木さん)

コラム、ポッドキャスト、YouTubeでの動画配信に劇場映画の公開と、展開するコンテンツは幅広い
撮影=今村拓馬
コラム、ポッドキャスト、YouTubeでの動画配信に劇場映画の公開と、展開するコンテンツは幅広い - 撮影=今村拓馬

■北欧のデザインだけではなく、カルチャーを伝えたい

「リボン=価値観」が生まれた原点は、店名の通り「北欧」にある。会社を設立した直後に始めた別の事業が失敗に終わり、「会社をたたむ前の思い出づくりに」と北欧旅行へ出かけた先で、現地の人々の暮らし方にカルチャーショックを受けた。

当時、青木さんたちを家に泊めてくれた男性はシステムエンジニアだったが、毎日夕方5時台には仕事を終え、親しい人たちとの団らんを楽しんでいた。そして、スティグ・リンドベリ(スウェーデンの代表的デザイナー)のヴィンテージのカップに、日本の南部鉄器の急須で中国茶を淹れ、もてなしてくれた。

「彼らは効率的に働き、暮らしを楽しむことを大切にしていました。日常を彩るさまざまなものを自分らしい感性で選び取り、生きがいや居心地のよさを感じられる毎日を自らつくっていた。単に『デザインが素敵だから』ということではなく、北欧のそういうカルチャーこそを日本の人たちに伝えたいと強く思ったのです」(青木さん)

■「私たちみたいな誰か」に向けてアプローチをしている

その思いは、同社のミッションである「フィットする暮らし、つくろう。」という言葉と響き合う。店と顧客の関係性は、売る側と買う側という硬直的なものではなく、ミッションとして表現されている価値観に共感する人たちが集う、一種のコミュニティーとしての性格を持っている。

「不特定多数の誰かというより、『私たちみたいな誰か』であるお客さんに向けてアプローチしている」と佐藤さん。「例えば、インテリアの好みだとか、メイクはちょっぴり苦手だとか。『好き・嫌い』『快・不快』『得意・苦手』といった感覚を自分たちと共有できる人たちが、世の中の一部にはいるだろうという仮説のもとに事業をしています」

商品紹介ページにはスタッフ自らが登場し、商品の使い方や魅力を伝えている
撮影=今村拓馬
商品紹介ページにはスタッフ自らが登場し、商品の使い方や魅力を伝えている - 撮影=今村拓馬

社員は全員が中途採用だが、自社サイトを通じた募集に力を入れ、3カ月という長期間の選考を通して「価値観」を共有する。結果として社員の「元顧客率」は約8割となる。入社後、半年間は先輩社員がメンターとして付き添うなど、事業を運営していく中での判断一つひとつについて、互いの思考プロセスを丁寧に振り返り、すり合わせるコミュニケーションを徹底している。

自分に「フィットしている」と感じられる暮らしづくりを標榜する以上、無理な働き方もしない。プロジェクトごとの進行管理や個々のタイムマネジメントの仕方を工夫し、残業は全社の月平均でたったの4.3時間だという。コンテンツを企画する社員たちが、一個人として日々の暮らしを味わい「自分たち=お客さん」という感覚を持ち続けられるような環境が実現されている。

■「僕らの役割は温泉リゾートのデベロッパーのようなもの」

採用、働き方、社員同士のコミュニケーション――隅々にまでクラシコムのカルチャーを行き渡らせる。そこまでやり抜いて初めて、「価値観」を基盤にしたコミュニティーに求心力が生まれるのだ。その上で多彩なビジネスを展開していくことも可能になる。土壌がしっかりしているから、そこに根を張る草木ものびのびと成長できるというわけだ。

近年、同店は「ライフカルチャープラットフォーム」を自称するようになった。今後に向けたビジョンをどう描いているのか。

「ライフカルチャープラットフォームというのは、温泉リゾートをつくっているデベロッパーのようなイメージです。山の中に『気持ちよく浸れるいい温泉』が湧いているから、交通網が発達し、人が集まり、話題になる。より多くの人に親しまれるようになる。『日帰りじゃなくて長く滞在したい』という人向けにホテルが建ったり、『素敵な体験を家に持ち帰りたい』という人が出てきたら土産物屋ができたり。その中心にある温泉というのは『僕らの価値観』を表現するものすべてです。動画や音声のコンテンツは『長時間、浸れること』を可能にしていく取り組みの一つ。新しい事業機会は、このイメージの延長線上に生まれてくると考えています」(青木さん)

取材は東京・国立にあるクラシコムのオフィスで行われた
撮影=今村拓馬
取材は東京・国立にあるクラシコムのオフィスで行われた - 撮影=今村拓馬

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青木 耕平(あおき・こうへい)
クラシコム代表取締役
1972年、埼玉県生まれ。2006年、実妹である佐藤友子と株式会社クラシコム共同創業。2007年より北欧ヴィンテージ雑貨のECサイト「北欧、暮らしの道具店」を開業。現在では「フィットする暮らし、つくろう。」をコンセプトにした“ライフカルチャープラットフォーム”として、北欧雑貨に限らない様々なセレクト・オリジナル商品を取り扱うとともに、日々の暮らしに関するコンテンツ配信、2021年に劇場公開した『青葉家のテーブル』をはじめとした映像製作、企業とのタイアップ広告事業など様々な事業を展開中。

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佐藤 友子(さとう・ともこ)
クラシコム取締役執行役員
創業者・D2Cファウンダー「北欧、暮らしの道具店」店長。1975年生まれ。実兄である青木と株式会社クラシコム共同創業。「北欧、暮らしの道具店」の店長として、商品・コンテンツの統括を行う他、『青葉家のテーブル』などオリジナルドラマではエグゼクティブプロデューサーをつとめる。プライベートな一面を覗かせるSNSやパーソナリティをつとめるインターネットラジオ「チャポンといこう!」も好評発信中。

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(クラシコム代表取締役 青木 耕平、クラシコム取締役執行役員 佐藤 友子 取材・文=加藤藍子)

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