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「高いIQも幅広い専門知識も役に立たない」10兆円投資家バフェットがそう言い切るワケ

プレジデントオンライン / 2022年1月23日 19時15分

毎年夏、テクノロジー業界やメディア業界、金融界の大物たちを米アイダホ州のリゾート地に集めて開かれるサンバレー会議で、自分で車を運転して会場に現れたバフェット(2014年7月8日) - 写真=AFP/時事通信フォト

一流のファンドマネジャーは高い知能と幅広い知識を持っているとされる。ところが10兆円の資産を築いた投資家ウォーレン・バフェット氏は「投資というゲームでは、知能指数160の人間が130の人間に必ず勝つとは言えない」と述べている。その理由とは――。

※本稿は、桑原晃弥『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■「能力の輪」という投資行動の指針

バフェットの投資に関する考え方を特徴づけるものの一つに「能力の輪」という考え方があります。

ある時、バークシャー・ハザウェイの株主総会に出席したサンフランシスコの投資家が、次のような噂についてバフェットに質問したことがあります。その噂というのは、バフェットが中国の国営石油会社ペトロチャイナの年次報告書を読み、極端に過小評価されていると判断するとすぐに同社の株式の1.3%を4億8800万ドルで取得、多大な利益を上げたというものです。

サンフランシスコの投資家は、会社を訪問したり、経営陣に電話をかけるといったこともせずに、なぜそんな大金を投じることができるのかが疑問でした。そこで、株主であれば誰もがバフェットに質問ができて、時間の制限なしにバフェットが答えてくれる株主総会に参加した折、本人に「なぜ年次報告書だけをもとに、投資できるのですか?」と質問をしたのです。

バフェットの答えはこうでした。「2002年と2003年に、年次報告書を読みました。誰にも相談はしていません。私がしたのは、ペトロチャイナの複数の事業の査定です」(『バフェットの株主総会』)

バフェットはエクソンや他の石油会社の案件でたくさんのことを経験し、豊富な知識を持っていました。そんなバフェットから見ればペトロチャイナの「価値」がいくらかを知ることは簡単なことであり、その次に「価格」を見て、「これは過小評価されている」となれば、会社を訪問することも、バフェットなら可能な経営陣と話すこともなしに「投資する」という判断は瞬時にできることだったのです。

これがバフェットのいう「能力の輪」です。

■IT企業への投資を長年避けてきたバフェット

自分にとって詳しい分野があり、その業界の企業について正しい判断ができる能力があればその能力の輪の中で投資を行う。一方、自分がよくわからない分野については、いくら株価が魅力的であろうが、人気の銘柄であろうが、安易に手を出してはいけない。それが、バフェットのいう「能力の輪の中で」という意味です。

木製本棚に並ぶ古書
写真=iStock.com/Bet_Noire
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Bet_Noire

今でこそバークシャー・ハザウェイの保有銘柄の1位にはアップルが君臨していますが、バフェットは「能力の輪の外にある」として長くIT企業への投資を避けてきました。そのため周囲から揶揄(やゆ)されることも少なくありませんでしたが、そんなことを気にせずに「能力の輪」にこだわり続けたことが、バフェットに不動の成功をもたらしたともいえます。

■理解していないものには決して手を出さない

投資で成功するためには何が必要なのでしょうか。高いIQか。幅広い専門知識か。

バフェットの「能力の輪」でいえば、その輪が広ければ広いほどチャンスは広がり、大きな収益を上げることができるのではないかとも思えますが、バフェットはその意見には与しません。「ウォール街では誰もが少なくとも140以上のIQ(知能指数)を持っている」(『ウォーレン・バフェット 華麗なる流儀』ジャネット・タバコリ、東洋経済新報社)とバフェットがいうように、金融の世界、投資の世界に高いIQを持つ人間はいくらでもいます。

だからといってIQの高さで成果が決まるわけではありません。なぜなら、「投資というゲームでは、知能指数160の人間が130の人間に必ず勝つとは言えない」(『ウォーレン・バフェット 自分を信じるものが勝つ!』ジャネット・ロウ、ダイヤモンド社)からです。

では、何によって決まるのでしょうか。バフェットはこう言い切っています。

「最も重要なのは、自分の能力の輪をどれだけ大きくするかではなく、その輪の境界をどこまで厳密に決められるかです。自分の輪がカバーする範囲を正確に把握していれば、投資は成功します。輪の面積は人の5倍もあるが境界が曖昧だという人よりも、裕福になれると思います」(『ウォーレン・バフェット 自分を信じるものが勝つ!』)

■「80年代のスーパースター」も同意見

バフェットとよく似た考え方をしているのがピーター・リンチです。リンチは株式投資信託マゼラン・ファンドの運用を担当し、1990年に引退するまでの13年間で同ファンドの資産を2000万ドルから140億ドルへと世界最大規模に育て上げる驚異的なパフォーマンスを発揮。「80年代のスーパースター」「全米ナンバーワンファンドマネジャー」と称えられた投資家ですが、リンチが一般投資家に推奨していたのが「テンバガー(10倍上がる株)を見つけるには、まず自分の家の近くから始める」ことでした。

リンチによると、一般投資家が株式投資を行うとなると、自分が日ごろからよく知っている企業や普段から利用している企業を選ぶのではなく、あまり聞いたこともない、事業内容も十分に理解できないような企業へと投資したがるといいます。

毎日、食べているダンキン・ドーナツよりも、証券会社の人間が推奨する、一目見ただけでは何をつくっているのか、どんなサービスを提供しているのかさっぱり理解できないようなテクノロジー企業などに自分の大切なお金を投じたがるというのです。

■自分の実感を大切にする

しかし現実には、知見のない会社を理解するのはとても難しいものです。会社のことが理解できなければ、その会社の将来がどうなるかを理解できるはずもなく、結局は証券会社のいうがままに買ったり売ったりを繰り返し、最終的にはその投資は失敗に終わります。

では、そんなややこしい会社ではなく、たとえば自分が日ごろから利用しているお店やサービスならどうでしょうか。自分の身近にあるファミリーレストランやコンビニエンスストア、宅配便などであれば、どんな事業をしているかもわかるし、人気があるかどうかも実感できるはずです。

あるいは、ゲームや鉄道、写真などが趣味の人であれば、そうした分野に関連する企業に関する知識もあるでしょうし、調べるとしてもちっとも苦にはならないはずです。「自分がよく知るものに投資しなさい」がリンチのアドバイスです。

■「時代遅れ」と揶揄されても

バフェットがポリシーとしている「能力の輪」も同じことです。バフェットの投資も「自分が理解できる、よくわかっている分野」に絞り、その外には安易には出ないということを自らの基本にしています。

桑原晃弥『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」』(KADOKAWA)
桑原晃弥『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」』(KADOKAWA)

そのため、先述したように人気のテクノロジー企業やIT企業に関しては、どんなに市場が過熱しようが決して手を出さず、「時代遅れ」といわれることもありましたが、最終的にはバフェットが正しかったことが証明されています。

これは「テクノロジー企業やIT企業には手を出すな」という意味ではありません。その分野に詳しく、将来性を正しく評価できるならどんどん投資すればいいのですが、その分野が自分の能力の輪の中にないとしたら安易に手を出してはいけないという意味です。

投資の世界には基本原則を揺るがすような誘惑や、能力の輪からつい出たくなるほどの魅力的な誘いがたくさんあります。誘惑に負けて誘いに乗るか、それとも決めた原則や能力の輪をしっかりと守ることができるか。どちらを選ぶかで投資の成果が決まるというのがバフェットの考え方です。

大切なのはIQの高さや、能力の輪の広さではなく、基本的な原則や能力の輪にどれだけ忠実でいられるか――それは、ビジネスの世界での成功のヒントでもあるでしょう。

■無理に投資を行うのは流儀に反する

1969年、バフェットはグレアムの会社を辞め、オマハに戻った時から続けていたパートナーシップを解散することを表明しました。そこに至るまでバフェットのパートナーシップは素晴らしい運用実績を上げ続けていましたが、それ以前の「ゴーゴー時代」を含め、バフェットが関心を示す企業、利用できるチャンスは確実に減っていることをバフェットは感じていました。とはいえ、パートナーシップを運営し続ける限り、投資を行う必要がありますし、みんなが満足する成績を上げ続ける必要もあります。

しかし、投資のチャンスがなく、優れたアイデアもないにもかかわらず、無理やりに投資を行うのはバフェットの流儀ではありませんでした。

■チャンスが巡ってきたときだけ行動する

バフェットのやり方はこうです。紙と鉛筆を用意して、自分が理解できる企業の名前を紙に書き、それを取り囲むように輪を描きます。次にその輪の中から価値に比べて価格が割高なもの、経営陣がダメなもの、事業環境が芳しくないものを選び、輪の外に出します。そして最後に輪の中に残ったものが投資対象となります。

では、もし輪の中に1社もないとすればどうするのでしょうか。

「自分の能力の輪の中にめぼしいものがないからといって、むやみに輪を広げることはしません。じっと待ちます」(『ウォーレン・バフェット 自分を信じるものが勝つ!』)

野球の打者が狙いを定めて
写真=iStock.com/RBFried
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RBFried

「チャンスが巡ってきた時だけ、行動する」というのがバフェットの考え方です。大好きな野球を例にこう話しています。

「投資の世界には、見送りの三振がありません。投資家は、バットを持ってバッターボックスに立ちます。すると、市場という名のピッチャーがボールをど真ん中に投げ込んできます。たとえば、『ゼネラル・モーターズ株を47ドルでどうだ』という感じで投げてくるのです。もし47ドルで買う決心がつかなければ、バッターはそのチャンスを見送ります。野球であれば、ここで審判が『ストライク!』と言いますが、投資の世界では誰も何も言いません。投資家がストライクをとられるのは、空振りしたときだけなのです」(『ウォーレン・バフェット 自分を信じるものが勝つ!』)。

投資家は傍から見てどんな絶好球であっても、気に食わなければバットを振る必要はありません。自分の得意な球、好きな球が来るまでいつまでも待てばいいのです。

■他の投資家やウォール街の見解にとらわれない

さらには野手(他の投資家やウォール街など)が眠ってしまったのを見計らってから球を打つこともできるとバフェットはいっています。

バフェットはチャンスが豊富にあるとは思えなくなったからこそパートナーシップを解散しましたが、やがてウォール街が「見通しがはっきりするまで、株の購入は見合わせた方がいい」と言い始めると、猛然と買い始めています。そこにはバフェットにとっての絶好球がたくさん存在していたのです。

バフェットはどんな業種であれ、一般にいわれることを鵜呑みにせず、自分の頭で納得いくまで考えます。手に入るものをすべて読み、調べ、考えます。そうやって出来上がったのがバフェットの「能力の輪」です。

「私は天才ではない。ある分野では高い能力を持ってはいるが、その分野以外には手を出さないのだ」(『バフェットからの手紙 第5版』ローレンス・A・カニンガム、パンローリング株式会社)はIBMの創業者トーマス・ワトソンの言葉ですが、バフェットも自分が理解できるものを守り続け、能力の輪によって自分が何をするかを決めることで世界一の投資家となったのです。

■世界的な「金余り」の中で問われる信念

しかし、そんなバフェットもコロナ禍の影響を完全に避けることはできませんでした。

バークシャー・ハザウェイの決算自体は黒字に転じていますが、こと運用に関してはバフェットがかねがね公言していた「エレファント級の買収」はなかなか実現していません。2020年には米ドミニオン・エナジーから天然ガス輸送・貯蔵事業を買収しましたが、それ以外では目立った案件はなく、過去最大規模となった余剰資金は自社株買いに回っています。

なぜ大型の買収が難しいかというと、世界的な金余りの影響を受けて投資ファンドとの競合が激化していること、また買収価格が吊り上がっていることですが、こんな時に豊富な資金にものをいわせて高値でも買うというのはやはりバフェットの流儀に反することなのでしょう。

バフェットのやり方は価格と価値の差をしっかり見極めるものですし、「投資の世界には見送り三振がない」というように自らのストライクゾーンからはずれていても、「買収をしなければ」と無理にバットを振ることはしません。

しかし、一方では有り余る資金をどうするのかという課題もあり、株主の要求もあってバフェットにとっても今は正念場といえるかもしれません。コロナ禍は、バフェットが変わらず原理原則に忠実であり続けるかどうかを問いかけているのかもしれません。

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桑原 晃弥(くわばら・てるや)
経済・経営ジャーナリスト
1956年、広島県生まれ。慶應義塾大学卒。業界紙記者を経てフリージャーナリストとして独立。トヨタからアップル、グーグルまで、業界を問わず幅広い取材経験を持ち、企業風土や働き方、人材育成から投資まで、鋭い論旨を展開する。主な著書に『ウォーレン・バフェット 巨富を生み出す7つの法則』(朝日新聞出版)、『「ものづくりの現場」の名語録』(PHP文庫)などがある。

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(経済・経営ジャーナリスト 桑原 晃弥)

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