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「これ以上、白人をいじめるな」トランプ支持者に広がるCRT批判という無視できない潮流

プレジデントオンライン / 2022年1月20日 10時15分

2021年10月9日、米国アイオワ州デモインで開催されたセーブ・アメリカ集会で支持者と話すドナルド・J・トランプ前米大統領。この集会は、2020年11月の総選挙後、トランプ氏がアイオワ州を初めて訪問したことを強調している。 - 写真=EPA/時事通信フォト

アメリカのバイデン政権が支持率低下に苦しんでいる。今年11月の中間選挙でも敗色濃厚だ。上智大学の前嶋和弘教授は「『批判的人種理論(CRT)』という人種差別に関する学校教育が、白人への逆差別を助長しているという主張が保守派のトランプ支持者らの間に広がっている」という——。

■既に中間選挙での敗北が予想されているバイデン政権

今年11月に中間選挙を迎えるアメリカでは早くも「バイデン政権、危うし」という言葉が飛び交っている。

中間選挙は大統領の4年任期の折り返し時期に行われる。下院の435人全員が改選になり、上院も100人のうちの3分の1の34が改選となる。日本でいえば衆議院選挙と参議院選挙のダブル選挙並みの大きな選挙だ。

選挙結果によって大統領が変わることはないが、政権は過去2年間の実績に対して国民の審判を仰ぐ。

この選挙には「方程式」がある。どうしても現政権に対する批判票が増え、その政党が大きく議席を減らすというものだ。

現在、上下両院で民主党が多数派と言っても、上院は50対50、下院は9議席差と超僅差である。もしどちらかの院で共和党に多数派をとられたら、政権が進めたい法案は一気にストップし、国内政治の観点からは早くもレームダック化してしまう。

■トランプもオバマも足をすくわれた

トランプ、オバマという前の2つの政権も政権発足時には上下両院いずれも自分の政党が多数派だったが、最初の中間選挙で大きく足をすくわれた。

2010年の中間選挙の場合、当時のオバマ政権にとって、状況は深刻だった。民主党は何とか上院で多数派を維持はしたものの、6議席減。下院では63議席減となり少数派党に転じた。

この63議席という数字は、議席減としては75議席が入れ替わった1948年以降、62年ぶりの最悪の数字となった。オバマ政権は最初の2年で大型景気刺激策、ウォール街改革、オバマケアの3つの大きな国内政策をまとめたが、中間選挙以降政策運営は行き詰まった。

「何もできなかったオバマ政権」という日本でも広く伝わったイメージは2010年中間選挙以降、6年間の政策が停滞していたためだ。

2018年、トランプ政権下の中間選挙では、共和党は上院では2議席増やしたものの、下院では41議席も民主党に奪われ、少数派党となった。メキシコ国境の壁建設やオバマケア撤廃などのトランプ大統領が掲げた大型公約は進まなかった。

■「民主党は学校で批判的人種理論を広めている」

バイデン政権はこれまでコロナ対策とインフラ投資という2つの公約を実現させたが、やはり方程式に当てはまるというのが大方の予想だ。

その上で、共和党側が進めている戦術いかんでは中間選挙での“大敗”が予想されている。

それは、「民主党は学校で批判的人種理論を広めている」というものだ。

「批判的人種理論(Critical Race Theory=CRT)」はアメリカ人にとっても、ついこの間までは聞きなれなかった言葉だ。というのも、学術的な場で人種を議論する際の概念のようなものであり、筆者もアメリカの大学院で学んだ際に、ゼミの議論で頻繁に出てきた。

この理論を非常に簡単にいえば「人種差別というのは個人の心の問題ではなく、法律や社会的な制度、政策が生み出す」ということである。

実際、その通りだ。黒人差別があったのは、人をモノとして売買した奴隷制度の存在が大きい。南北戦争後の奴隷制廃止以後も南部諸州では長年、各種の隔離政策が続いた。白人の黒人の結婚禁止から始まり、「白人専用」の水飲み場やトイレを作ることで黒人蔑視がさらに深刻になっていった。

女性の地位についての議論とも同じだ。「男性優位な社会の中で作られた諸制度が女性を苦しめている」という観点から社会を眺めればさまざまな問題点が見えてくる。

■トランプ前大統領が理論を社会問題化した

かつて私が経験したように、この理論は、大学院で議論するための題材のようなものだった。しかし、人種平等に社会が敏感になっている中で、大学院のみならず小中高の教員の研修で引用されることが増えている。

ただ、一部の保守派が「アメリカ社会そのものが差別的であるかのような理論を教師が学んでいる」「黒人に過度に配慮をし、すべての問題を白人の責任にしている」「白人への逆差別だ」と批判を始めたのだ。激しい政治的分極化の中、今のアメリカは何でも政治問題化する。

共和党も2020年ごろから、ことあるごとに批判的人種理論(CRT)を攻撃し、理論に基づく研修などを中止させる運動を広げていった。保守層の怒りを選挙の動員に使う彼らにとって、反ワクチン運動、反マスク運動に次ぐ、新たな武器と考えたからだ。

2020年9月、トランプ前大統領が、CRTの問題を取り上げた保守系のフォックスニュースを視聴。同月22日には、CRTが「新たな分断を生む」と名指し、連邦政府機関内でのこの理論に基づく研修を禁止する大統領令を出した。

2021年に入ってバイデン大統領にはトランプによる大統領令を取りやめているが、既に全米にCRT批判が飛び火した後だった。

■監視カメラを置いて教師を監視する

現在、南部や中西部の白人が圧倒的に多い学校では「白人という人種そのものが差別的だというのか」「罪悪感を持てというのか」「誇るべきアメリカの歴史を歪ませて教えるな」といった親からの苦情が殺到している。

理論を支持した教育委員会委員の罷免運動が保護者から起こっているほか、理論に基づいて教員が教えないように監視カメラをつけることを呼びかけている。まるでモンスターペアレントの難癖にすら感じる。

とはいえ、奴隷制も南北戦争も教えなければ歴史教育は成立しない。「白人差別にならないための配慮」という複雑な教え方に教育の現場は戸惑っている。

■「モンスターペアレントの難癖」を利用する共和党

現在、CRTに基づく教育を禁止したのは8州。多くが共和党の強い州だ。「教育の場の自由を守る」という合言葉で、この理論をやり玉に挙げており、今年はさらに禁止の動きが進むのは確実だ。

共和党がこの理論を政治利用するのは保守派が強い州だけではない。共和党支持と民主党支持が拮抗(きっこう)する激戦州ではCRTを叩くことで保守派の動員増が見込める。

2015年11月28日、ドナルド・トランプを支持するプラカードを持つ白人高齢者たち
写真=iStock.com/csfotoimages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/csfotoimages

実際、昨年11月に行われたバージニア州知事選では、州全体でCRTが争点となった。

■共和党候補を僅差の勝利に導いた団体の正体

そこでは「批判的人種理論に反対する親の会(Parents Against Critical Race Theory)」という団体が活躍した。

この組織はちょうど連邦政府機関でのCRTに基づく研修を禁じた上述のトランプ前大統領の大統領令を発令した2020年9月に発足した。

組織のホームページによると「学校、社会における退行的、分裂的、破壊的なイデオロギーを見つけ顕在化させ、責任者をあぶり出すことに専念してきた」とし、「言論の自由と思想の多様性は、自由な社会の基本的な構造であり、常に保護され祝福されるべきものである」と「自由」の重要性を強調する。

「批判的人種理論に反対する声」として各メディアが報じることによって組織の知名度は実際の会員数よりも明らかに大きくなっている。共和党は既にこの組織に接近し、「共和党はParty of Parents(親のための政党)だ」というスローガンを掲げている。

バージニア州知事選において、「批判的人種理論に反対する親の会」は「民主党候補のマコーリフはこの理論を支持している」と主張し続けた。

マコーリフは「CRTはバージニア州で教えていない。この批判は人種差別主義者の犬笛だ」と反論したものの、僅差で共和党候補ヤンキンが勝利した。

■教育をめぐっても広がるアメリカの分断

共和党にとって、中間選挙の決め手となるのが、バージニア州知事選で効果的だった「民主党は学校でCRTを広めている」というレッテル貼りである。

今秋にかけて「批判的人種理論(CRT)」という聞きなれない言葉がさらに大きな論争を呼び、この理論に基づく教育カリキュラムを阻止する動きが、南部の州から全米に広がっていく。また、この動きは2024年の大統領選出馬を虎視眈々(たんたん)と狙うトランプへの追い風となるだろう。

奴隷制がもたらした問題を直視することは、平等で多様な社会を作る上で当然である。そう考えると、理論に対するバッシングは、そもそも「濡れ衣」のような話といえる。

だが既に、理論の本当の議論を飛び越えて、教育においても皮膚の色をめぐる「アイデンティティの政治」が、アメリカの分断をさらに広げているのだ。

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前嶋 和弘(まえしま・かずひろ)
上智大学総合グローバル学部教授、学部長
上智大学外国語学部英語学科卒、ジョージタウン大学大学院政治学部修士課程修了(MA)、メリーランド大学大学院政治学部博士課程修了(Ph.D.)。文教大学准教授などを歴任。主な著作は『アメリカ政治とメディア』(北樹出版、2011年)、『危機のアメリカ「選挙デモクラシー」』(共編著、東信堂、2020年)、『現代アメリカ政治とメディア』(共編著、東洋経済新報社、2019年)など。

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(上智大学総合グローバル学部教授、学部長 前嶋 和弘)

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