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バイト代と年金では月12万円だけど…山谷のドヤに暮らす男性が月25万円を稼げるカラクリ

プレジデントオンライン / 2022年1月23日 20時15分

隅田川にかかる白鬚橋の近くに國友氏が構えた寝床。 - 筆者撮影

果たして貧困とは何なのか。2021年夏、ライターの國友公司さんは2カ月間、ホームレスとして過ごし、共に生活する人々の生活を見つめた。そこでは約13万円の生活保護費を受け取りながら、年金とアルバイトでも稼ぐことで月25万円の収入を得ているという男性がいた――。(第2回)

※本稿は、國友公司『ルポ路上生活』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■「お盆だから炊き出しも休みなんだよ」

八月十二日。

翌日の昼過ぎ、白鬚橋の周りに続々と人が集まってきた。みんなから「ター坊」と呼ばれている四十歳くらいの男が、「俺金ないんだから貸しておくれよー。頼むよー」と集まった男たちに言い回っている。

このター坊という男はとにかくよく喋る。話し相手を見つけては相手が相槌を打つ隙も与えず、延々と話し続ける。「もう終わりにしてくれ」といった顔で相手がその場を立ち去ろうとしても、横をずっと付いて回っている。面白そうな男だが同棲するとなったら黒綿棒(編注:著者の國友氏が作中でそう名付けた長身のホームレス)よりもはるかに鬱陶しそうである。

みんなが集まっている理由が炊き出しであることは聞かなくとも分かりきっている。そうと知りながら何食わぬ顔でダンボールの上に待機している自分がとても卑しく感じた。しかし、途中から「来ねえなあ」「今日は休みか」という声があちこちから聞こえてきた。そして、私の近くに座っていた三人組のおじさんの一人がハッキリと言った。

「ないな」
「やっぱり炊き出しないですか?」

私が横から聞くと、一緒に行動していたかのようなテンションでおじさんが答える。

「ないなら前もって言ってくれればいいのにな。お盆だから炊き出しも休みなんだよ。ないと分かっていたらわざわざ来ないのによ」

たしかに周知する方法がないのであれば、先週の時点で言っておいてくれればいいのに。

■山谷で食べるものに困ることはまずない

「じゃあ今日は飯抜きですか?」
「いや、もう腹いっぱい。午前中は玉姫公園で炊き出しがあったから。昼は上野公園でもあるだろ。上野公園を捨ててこっちに来たのによ。悲しさを通り越して虚しいよ」

玉姫公園とは山谷にある公園だ。ブルーシートで覆われた小屋がいくつか立っており、ホームレスが暮らしている。上野公園の炊き出しは私も行った火・木・金・土に開催されている韓国系キリスト教会主催のものだ。

「君は昼飯食べたのか? 余っているからこれやるよ。いいいい、食えって」

おじさんと一緒にいた二人も「どうせ捨てちゃうからもらってくれ」と、私に飲み物や弁当をくれた。都庁下と同じく東部エリアも飯に困ることはまずなさそうだ。

「俺たちは三百六十五日炊き出し回ってるんだよ。全部知ってるぞ」

週四日の韓国キリスト教会の炊き出しに加え、ここ白鬚橋でも毎週木・土に炊き出しがある。土曜日は十四時からもあるので日に二回だ。山谷地域も炊き出しが豊富だ。山谷労働者福祉会館、山日労(東京・山谷日雇労働組合)、キリスト教会、朝ご飯を出してくれる炊き出しもある。

明日から三日間は玉姫公園で「山谷夏祭り」が開催される。飯と酒が食べ飲み放題で、出店なども出る。音楽隊の演奏会やレクリエーションまであるという。少し離れるが八丁堀の公園でも毎週カレーが食べられる。

■ホームレスが熱心に聖書を読む理由

このおじさんのイチオシは水曜の昼に上野駅前でもらえるほっともっと弁当。そして大久保にある韓国系キリスト教会。なんとここは月に一回現金をくれるそうだ。今は人が増えすぎて一人三千円だが、一万円くれた時期もあった。みんな服装を変えて何回ももらおうとトライして、このおじさんは五万円までチャレンジに成功した。

お小遣いがもらえるキリスト教会の集会には数百人が集まった。
筆者撮影
お小遣いがもらえるキリスト教会の集会には数百人が集まった。 - 筆者撮影

この教会は以前こんな制度もあったという。月四回炊き出しに来ると皆勤賞で千円もらえる。次の月も皆勤賞なら二千円、その次は三千円とステップアップしていく。

さらに魅力的なのが、とあるキリスト教会で炊き出し時に行われている聖書クイズ(取材当時はコロナ禍でクイズは休止中)。聖書にまつわるクイズが出題され、当たると数千円のお小遣いがもらえるので白熱するのだという。そして、このクイズがかなりマニアックで難しい。

「みんなクイズに正解して金もらいたいからよ、教会から聖書もらって勉強するんだぞ。そうでもしないとまず正解できないレベルだからな」

街で聖書を読んでいるホームレスは何度か見かけたことがある。「ホームレスは聖書読みがち」とすら思っていた。みんなテスト勉強をしていただけだったのだ。

そしてこの教会で出るカレーが抜群に美味いという。このおじさんだけではなく、ほかのホームレスと炊き出しの話をするたびに、さらには黒綿棒までもがみんな口を揃えて、「あのカレーはもう食べた? あれを食べたらもうよそに行けなくなるよ」と目を輝かせて言うのだ。

■都営の電車とバスを無料で乗り回し、東京中の炊き出しを網羅

「新宿、渋谷、池袋、上野、山谷、毎日全部歩きで回ってるんだぞ」
「え、歩きですか?」
「そうだよ。根性だよ。すごいだろ?」

私なんて都庁下から代々木公園まで歩くのにもヘトヘトなのにすごすぎる。考えられない。鉄人ではないか。

「みんなそうやって炊き出し回って生活してるんだよ。向こうにベラベラ喋っている奴がいるだろ。アイツは生活保護歴五十年。全部の炊き出しを回ってるぞ。生活保護を受けてると都営電車と都営バスが全部タダで乗れるからな」

鉄人が指をさした男はター坊とはまた別の男だった。その男もよく喋るので炊き出し界隈では「九官鳥」と呼ばれており、自分でノートにまとめた炊き出しスケジュールを常に持ち歩いている。黒綿棒とは違い東部も西部も網羅しているので、「今日本にある炊き出し情報としてはこれが最強だと思っている」という黒綿棒の言葉は嘘ということになった。

鉄人は現在七十五歳。オフィスビルを専門とする引っ越しセンターで人材派遣の仕事をしていた。街で私のような人間に声を掛け、会社で面接をし、入社させるのだという。

日給は一万三千円をもらっていたが、酒とギャンブルにすべて消え、家を借りるのが馬鹿らしくなってホームレスになった。路上から出勤し続け、五年前に退職した。

国民年金と厚生年金は手取りが減るのが嫌だからと会社の勧めを断って払わなかった。どこまで本当か分からないが、三十五歳で家を解約し、それから四十年間路上で生活しているとのことだ。

■ホームレスなのに銭湯に通えるカラクリ

鉄人はホームレスとは思えないほど清潔だが、これにはカラクリがある。鉄人の紹介で引っ越しセンターで働いていた男たちが現在何人も、生活保護を受けながら山谷のドヤで暮らしているという。被保護者は年間で六十枚、行政から銭湯の入浴券が交付される。それらを昔からの人脈を使ってかき集めているのだ。

昔助けた仲間のよしみでほかにも様々な助けをもらっているという。

■生活保護を受けながら月収は二十五万円

鉄人のとなりにいた二人が「ドヤに戻る」と言って先に帰り、鉄人と二人きりになった。

「あの二人も生活保護を受けて山谷のドヤに暮らしてんだ。金が入っても三日で全部ギャンブルに使っちまうからよ、一緒に炊き出し回ってんだ。アイツら毎月ガバガバ金が入ってくるんだぞ。月収二十五万くらいはあるだろうな」

二人は、年金をもらいながらダンボール手帳(※)の仕事とシルバー人材派遣の仕事(月約十万円になるという)もこなし、その上で生活保護(現金書留でもらっている)を満額受給しているという。

(※)求職受付票。路上で寝る野宿者のための手帳なので、通称ダンボール手帳と呼ばれている。これに登録をすると、月に三回ほど東京都から清掃の仕事をもらうことができる。

行政から発注される掃除の仕事をこなす男性たち。
筆者撮影
行政から発注される掃除の仕事をこなす男性たち。 - 筆者撮影

一定額の控除はあるが、収入があればそのぶんの生活保護費は差し引かれるはずだ。

「そんなことできるんですか」
「法の網をかいくぐればできちゃうんだよ。法には必ず抜け道があるからな。山谷で同じことやってる奴が五十人はいるぞ」
「どうやってやるんですか」
「そりゃ詳しいことは言えないよ」

■生活保護は性善説で成り立っている

どういった方法が予想されるか。社会問題に詳しい弁護士の大城聡氏に聞いた。

國友公司『ルポ路上生活』(KADOKAWA)
國友公司『ルポ路上生活』(KADOKAWA)

「少なくとも虚偽申告をしているということにはなるでしょう。そもそも生活保護を受給している場合、収入があれば申告をしなければいけない。法の抜け道という話ではなく、ただ単にルールを破っている(=収入の申告をしていない)ことが見つかっていない、というだけの話のように思えます」

偽名を使って生活保護を受給していた人間が逮捕されるといった事案もある。それはつまり、生活保護は偽名でも受給できるということだ。ならば、収入の無申告などわけない。行政の制度に不備があり、ザルだということか。

「いえ、収入の申告は義務です。そのため、そこはある程度、“収入があった被保護者は申告をする”という性善説によって成り立っています。全員の生活実態を隅々まで把握することは不可能です。働く際に偽名を使ったりほかの人の口座を使ったりしているかもしれない。ダンボール手帳の仕事とシルバー人材派遣の仕事も、行政とはいえ第三セクター的なポジションにある。厳密な身元確認はできていないはずです。そもそも、高齢者に仕事を与えることが本分なわけですから」

■不正防止にフォーカスすると、救いたい人を救えない

生活保護の不正受給をゼロにするためにあらゆる対策を取れば、それは生活保護のハードルを上げることに繋がってしまう。それこそ「水際対策」の横行が再び起こるはずだ。悪用している人が責められるべきであって、見つけられなかった行政を問い詰めるのは賢くない。「それは性善説だ」と言われそうだが、性善説を前提としているからこそ本当に困っている人を助けることができるのだ。

ギャンブルで金を使い果たした生活保護受給者が大勢押しかけているのにも関わらず、全員が二周もらえる量の食材を毎回用意する炊き出し団体もきっと同じ考えだ。不正をする人のことをメインで考えていたら、救いたい人を救えない。生活保護の制度も炊き出しも、悪用する人にフォーカスを当てているわけではないのだ。

毎週行われる衣類の配給には転売目的の生活保護受給者も見られた。
筆者撮影
毎週行われる衣類の配給には転売目的の生活保護受給者も見られた。 - 筆者撮影

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國友 公司(くにとも・こうじ)
ライター
1992年生まれ。筑波大学芸術専門学群在学中よりライター活動を始める。キナ臭いアルバイトと東南アジアでの沈没に時間を費やし7年間かけて大学を卒業。編集者を志すも就職活動をわずか3社で放り投げ、そのままフリーライターに。元ヤクザ、覚せい剤中毒者、殺人犯、生活保護受給者など、訳アリな人々との現地での交流を綴った著書『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』(彩図社)が、2018年の単行本刊行以来、文庫版も合わせて6万部を超えるロングセラーとなっている。

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(ライター 國友 公司)

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