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国公立・早慶上理に「推薦で合格」続出…そんな高校の"すごい探究教育"の中身

プレジデントオンライン / 2022年1月25日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mizoula

かえつ有明中・高等学校は、東京都江東区にある私立中高一貫校だ。アクティブラーニングや探求教育に力を入れており、中でも高校「新クラス」では、より探求教育を徹底している。生徒たちはどんな進路を選んでいるのか。子育て・教育ナビゲーターの中曽根陽子さんが取材した――。

■学ぶためのスキルを身につけ鍛える「サイエンス科」

東京2020オリンピック・パラリンピックの競技会場がいくつも造られた東京都江東区有明地区。それらの会場の近くにあるのが、かえつ有明中学校・高等学校です。

かえつ有明中学校・高等学校は、2006年に嘉悦女子中学校・嘉悦女子高等学校が校名変更し、有明キャンパスに新校舎を造って開校した男女共学の学校です。

この学校では、アクティブラーニングや探究といった言葉が全く使われていなかった10年以上前からそれらを教育に取り入れ、常に未来を見据えて教育改革に取り組んできました。

中学校で行われている「サイエンス科」は、その象徴のような教科です。学ぶために必要となるスキルを身につけ、トレーニングすることに特化した独自の授業を行っています。

「サイエンス」というと理科をイメージするかもしれませんが、サイエンス科のサイエンスは、人文科学・社会科学の「科学」(サイエンス)を意味しています。さまざまな教科の先生や卒業生、時には外部の専門家も交えて話し合いながら、取り組むテーマとコンテンツ、そして身につけてほしいスキルを設定します。興味深いテーマに前のめりに取り組む中で、生徒たちは「情報を集め、整理・分析して自分の考えをまとめ、人に伝える」というプロセスを実践しつつ、学ぶために必要なスキルを磨くトレーニングを行います。サイエンス科の授業は、中学1〜2年生は週2回、中学3年生は週1回行われています。

■教員たちがワークショップ形式でミーティング

そして、週1回、サイエンス科と高校のプロジェクト科を担当している教員たちのミーティングが開かれています。そこでは、教員自身がさまざまなワークショップの手法を学び、実践をフィードバックし合います。今回は、その場を見学しました。

サイエンス科・プロジェクト科主任の田中理紗先生。英語科教員 サイエンス科立ち上げからのメンバーで、さまざまな手法を自ら学び、先生や生徒に伝えている(筆者撮影)
サイエンス科・プロジェクト科主任の田中理紗先生。英語科教員 サイエンス科立ち上げからのメンバーで、さまざまな手法を自ら学び、先生や生徒に伝えている(筆者撮影)

その日は2学期最後ということで、サイエンス科・プロジェクト科主任の田中理紗先生のファシリテーションのもと、それぞれの取り組みについて1人3分で紹介し、隣に座っている異学年担当の教員が1分でフィードバックしていくワークショップ形式で行われていました。いろいろな学校を取材してきたなかで、先生がこういうワークショップスタイルのミーティングをしているのは初めて見ました。年齢や経験の差がある先生同士がフラットな信頼関係を築いていることが短時間で伝わってきました。しかも、先生自身が、サイエンス科の取り組みを楽しんでいる様子が見てとれて、聞いているだけでこちらも楽しくなってきました。

サイエンス科・プロジェクト科担当教員による朝のミーティングの風景
筆者撮影
サイエンス科・プロジェクト科担当教員による朝のミーティングの風景 - 筆者撮影

■「学ぶことが楽しい」と思えることがゴール

サイエンス科で使用したリサーチノートブック(筆者撮影)
サイエンス科で使用したリサーチノートブック(筆者撮影)

この学校では、「教員はCo Learnerである」と言っています。Coとは共同、共通、相互を表す接頭語で、「教員もまた、学び手である」という意味だそうです。教員自身が互いに学びあう関係性を作ることができてこそ、生徒と教員もフラットな関係性の中で共感的な対話ができ、学び合えるのでしょう。

かえつ有明の教育目標は、①学び方を学ぶ、②自分軸を確立する、③共に生きる、の3つで、サイエンス科はこの目標達成のためのコアプログラムです。ここで身につけたスキルは、教科学習の中でも生かされ、教室の授業も生徒が主体的に学ぶアクティブラーニングになっているのです。プログラムのゴールは、「学ぶことが楽しい」と思えること。生徒が主体的に動きたくなるそんな仕掛けや声かけを教員自身が、いつも学び合っているのです。

■探求教育を徹底する「高校新クラス」

サイエンス科は、高校では「プロジェクト科」という名前になり、より生徒主導になります。なぜなら、探究でもっとも大切なことは、テーマ設定だからです。子供たち自身が、常に「自分は何がしたいのか?」「どんなことに興味があるのか」に向き合い、対話することを通じて、自分たちがやりたいプロジェクトに出会えれば、そこから自主的にどんどん行動しはじめる。教師はそれをサポートしていくというスタイルです。

そこには、NVC(共感的コミュニケーション)・U理論(課題に対して前例のない解決方法を見いだし、組織にイノベーションをもたらす手法)・ブレインストーミングのためのシックスハット法(あるテーマ、課題、問題に対して6つの視点から考える思考法)など、かなり専門的な対話の手法が埋め込まれています。

このプロジェクト科を中心に置いて、徹底的に探究教育が行われているのが、高校「新クラス」です。このクラスは、理想の授業を大胆に行える場所を作りたいという思いから、2015年に立ち上げられました。

高校新クラス1年生の数学の授業風景 生徒自らが考えたプロジェクトを行っていた
筆者撮影
高校新クラス1年生の数学の授業風景 生徒自らが考えたプロジェクトを行っていた - 筆者撮影

■教科書通りではなく、プロジェクトを通して学ぶ

新クラスでは、教科書に沿ったカリキュラムをこなすのではなく、生徒たちが主体性を持って、授業の枠を超えて、さまざまなプロジェクトを立ち上げています。

そこで、今回新クラスを立ち上げた先生にお話を聞きました。その一人が、新クラスのリーダーである福冨高彦先生。理科担当です。

ご自身の授業について開口一番「定期テストのために、赤いシートで答えを隠して覚え、テストが終わればきれいさっぱり忘れるというのが、勉強だと思っている人が多いけれど、忘れるようなことをやっても意味がないので、そんな授業はやりません」と話します。

そこで、どんな授業をしていて、評価はどうしているのかを聞きました。

■理科総合で「熱気球を作って空に上げる授業」をした理由

「例えば、理科総合では、熱気球を作って空に上げるという授業をしました。ただ上がればいいというのではなく、なぜ上がるのかを考える過程で、化学や物理の総合的な知識を駆使し、設計理論を数式を使って証明するところまで学ぶことになります。このように、教科書に沿って進めるのではなく、その単元で手に入れてほしいことを生徒と共有し、総合的に学んでいくのです。

評価については、授業内容の延長を定期テストに出すようにしていますし、その本質が理解できているかどうかを見ます。また、プレゼンや提出物、授業での取り組みなども含めて評価します。ただそこは、漠然としていてはいけないので、評価基準のルーブリック(評価基準表)を事前に生徒と話し合いながら取り決めていて、それぞれの基準に従って評価します。

授業の評価は、私の場合は、教室でも全員Zoomに入ってもらい、質問に対してプライベートチャットで解答してもらい、その発言も点数化しています。だから、寝るわけにはいかない(笑)。途中でネットから落ちてしまった生徒が、後から必死にその質問の答えをポストイットに書いて持ってきたりします。こうして全員とやりとりをすることで、授業をしながら生徒の理解度を確かめ微調整できますし、私自身が授業をブラッシュアップしていくことができます」(福冨先生)

左が佐野和之副校長、右が福冨高彦先生
筆者撮影
左が佐野和之副校長、右が福冨高彦先生 - 筆者撮影

■「失敗してもいい」安心感がある

サイエンス科とプロジェクト科の授業は、図書館に併設されたスペースで行われている(筆者撮影)
サイエンス科とプロジェクト科の授業は、図書館に併設されたスペースで行われている(筆者撮影)

つまり、新クラスで行われているのは、生徒と先生が共に作る学び合いの場。その中で、教科書に示されている知識も習得し、さらに学び方も学んでいくのです。そして、この学びを経験した生徒たちは、自分たちでプロジェクトを立ち上げたり、創作活動を行うなど、主体的に探究学習に取り組みはじめます。

このクラスに入学したある生徒は、「中学生の時には、いろんなことに挑戦することがダサいみたいな雰囲気があったし、勉強はやらされるもので、楽しいと思ったことがなかった。でもこの学校に来て一番感じているのは、自分らしくいられているということです。何を発言しても受け止めてもらえ、失敗してもいいという安心安全な場があります。今やりたいことがたくさんありすぎて、毎日学校に行きたくて仕方ないです」と話してくれました。彼は、その良さを伝えたくて、自分から買って出て受験生や保護者に向けて学校説明会を企画しているそうです。

■「大学受験を目的としていない」のに難関大に合格

同校の新クラス立ち上げの立役者の一人である佐野和之副校長は、「新クラスは大学受験を目的としていない」と言います。大学に効率よく入るための勉強はしないし、教科書の要素は網羅するけれど、こちらから順序立てて与えることはしない。自ら学んでいくクラスなので、「『教わっていない』というセリフはない」と説明会でもはっきり伝えているとか。

実際、大学には行っても行かなくてもいい。自分で選ぶことが大事だと言い切ります。

では生徒たちの進路はというと、2018~2021年の卒業生120名のうち、国公立7名、早慶上理ICU47名、GMARCH32名、海外大学18名(同校「高校学校案内」より)となかなかのもの。

このほとんどが公募推薦やAOなどの推薦型入試によって進学しています。自らさまざまなことに問いを持ち、やりたいことを探究してきた生徒たちだから、意欲はあるし、自分の言葉で伝える力はあるし、大学側も放っておかないはずです。

実際、日本でも推薦入試(2021年度からは学校推薦型選抜)やAO入試(2021年度から総合型選抜)の割合が増えています。すでに入学者の半分近くがこうした入試によって進学しているという事実を考えると、むしろ最先端の大学進学指導をしているとも言えるかもしれません。もちろん先生たちは、そんなことを言うと反論されるでしょうが、実際自ら考え、必要だと思うから大学に進学するので、入学後の意欲も高く行動力もあるでしょう。

ちなみに、高校新クラスの偏差値は60(W模擬調べ)推薦入試や一般入試の他に、国際生もいるので、入学時の学力は幅がありますが、生徒にはこのような傾向があるそうです。

「高校進学時に新クラスを選ぶ生徒は、既存の教育を受けて安心感を得ることよりも、結果がどうなるかわからず試行錯誤が続くであろう未知の世界にチャレンジしようという意識があると思います。それが目に見えて活発な生徒もいますし、表面的にはおとなしくても内面に強い想いを持っている生徒もいます。そして、それらの想いが、入学後にさまざまな形で表現できるようになっていきます」(佐野和之副校長)

やはり、自分の意思に自覚的になり、それを強く持っている生徒が多いようです。

■一般受験のための勉強なら独学でもできる

なかには大学進学をせずに起業する生徒もいます。新クラスの立ち上げ当時、一番学業成績のよかった生徒が大学進学よりも起業を選択したそうです。まわりからはもったいないと批判もあったそうですが、人からの評価よりも、今、何をしたいのかを優先したのです。必要になったら進学すればいいのです。実際、その生徒は数年後に立ち上げた仕事をしながら、必要な学びをするために、大学にも通っているとのこと。学ぶ意欲があれば、いつからでも学べるのです。

前述の福冨先生は、「高校レベルまでの勉強であれば、情報はいくらでもネット上に転がっていて、一般受験であれば独学でも十分できます。じゃあ、学校は何のためにあるのか。子供たちが自分を見つけ、自己を確立していくためには他者が必要であり、学校は、彼らが持っているものを最大限に引き出す場所である」と言います。

「学ぶことが楽しいと思うか、義務でやっているかでおのずと結果は変わるはず。大学進学のため、未来の準備のために今日頑張るというのはもったいない。今学んでいることが楽しい。悩んでいることが楽しいと感じてほしい」という言葉が印象的でした。

■教員自身が「やりたい」というエネルギーを持つことが大切

「教員自身が自分の中から出てくる『やりたい』というエネルギーを持つことが大事だ」と言うのは、前述の佐野副校長。

そう思うようになったきっかけは、佐野先生自身の体験にあります。

前任校で大学進学に向けて勉強をさせる授業を行っていくうちに、生徒の目の輝きがなくなっていくことが気になり、外部とコラボする授業など新しい取り組みをして手応えも感じていた。しかし、新しいことをやろうとすると職場に軋轢も生む。そんな経験を通して、自らのあり方を問い直し、学習する組織・U理論・NVCなどを学ぶ中で、教員自身が自分らしくいられる組織にしていくことが大事だと思うようになったと語ってくれました。

そこで、かえつ有明に移ってからまず取り組んだのが、先生自身がなんのために教員になったのかという対話をくり返していくことでした。その中で、先生の中から「やりたい」というエネルギーが出てきて、自らいろいろなことに挑戦されるようになっていったのです。

教員のミーティングで感じた前向きなエネルギーは、先生自身が自らこのプロジェクトを楽しみ、よりよくしていきたいという意欲の表れだったのです。

■新クラスの影響が他のクラスに広がりつつある

かえつ有明中学校・高等学校は、1学年6クラスです。高校になると、一般受験を目指して勉強するトラディショナルクラスが2つ、アクティブラーニングの授業を進めるオーセンティッククラスが3つ、探究をさらに尖らせた高校新クラス(高校からの入学生が約半数)が1つにわかれます。

先生方は、高校新クラスの挑戦が、少しずつ他のクラスにも広がりだしている段階だと話していました。

大学入試改革から始まった教育改革を先取りして、進化を続けている学校です。

新クラスで学んだ生徒たちが、これからどんな活躍を見せてくれるのか、楽しみになりました。

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中曽根 陽子(なかそね・ようこ)
子育て教育探究ナビゲーター
マザークエスト代表。出版社勤務後、女性のネットワークを活かして取材・編集を行う、編集企画会社を発足、代表に。「お母さんと子どもたちの笑顔のために」をコンセプトに、数多くの書籍をプロデュースした。その後、教育ジャーナリストとして、紙媒体からWEB連載まで幅広く執筆する傍ら、海外の教育視察も行う。ポジティブ心理学コンサルタントも取得し、最近は子育て教育探究ナビゲーターとして、親に寄り添った発信をしている。最新刊『成功する子は「やりたいこと」を見つけている 子どもの探究力の育て方』(青春出版社)他著書多数。

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(子育て教育探究ナビゲーター 中曽根 陽子)

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