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「森喜朗元首相の側近が、想定外の大苦戦」石川県知事選で"保守王国の仲間割れ"が起きたワケ

プレジデントオンライン / 2022年1月21日 11時15分

自民党スポーツ立国調査会長の馳浩元文部科学相(左)から提言書を受け取る安倍晋三首相(中央)=2020年6月23日、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

■プロレスラー政治家、参院議員、金沢市長の三つ巴

3月13日に行われる石川県知事選が、大変なことになっている。これまでは「保守王国」として保守系の元官僚が多選を繰り返してきたのだが、今回は自民党系から元閣僚、元参院議員、そして現職の金沢市長が名乗りを上げて大混戦なのだ。

1月20日現在で出馬表明しているのは3人。まず元衆院議員で文科相を務めた馳浩氏。「プロレスラー政治家」として知名度は抜群だ。2人目は参院議員の座をなげうって表明した山田修路氏。知名度は高くないが、元農水官僚で、第1次産業のスペシャリストだ。選挙も強い。

そして今年になって名乗りを上げたのが金沢市長の山野之義(ゆきよし)氏。県都金沢の市長を3期務めており、知らない県民はいない。1月13日、山野氏は「中核市の県庁所在地の市長として培った経験を県政に活かしたい」と出馬表明した。

市長辞任によって金沢市長選も同日に行われる見通しとなり、石川県では「盆と正月が一緒に来る」という展開となった。山田氏の辞職に伴う参院補選も4月に待ち構える。

■1963年から現在まで、石川県知事は2人しかいない

現職の谷本正憲知事は自治官僚、石川県副知事を経て1994年(平成6年)、知事選に出馬。以降、7期連続当選し、今、現職知事としては最多選となる。ことし3月に28年間、主を務めた県庁を後にする。

新型コロナウイルスが全国にまん延し始めた2020年3月には「(東京の人は)息抜きしたければ、無症状の人は(石川県に)お越しいただければ」と発言。その後、県内で感染者数が急増したことで、県民からバッシングを受けるなど放言癖はあったが、総じていえば抜群の行政手腕を誇り、県政界をグリップしてきた。

金沢駅
写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

ちなみに谷本氏の前任、中西陽一氏は1963年(昭和38年)に初当選し、8期目の途中で死去した。つまり昭和後半から平成を経て令和の世になるまで、この県では2人の知事が君臨してきた。知事交代は「改元並み」の出来事なのだ。

■知名度では馳氏が圧倒的に優位に見えるのだが…

3者入り乱れる情勢は混沌としている。そもそもこの県では知事選でも国政選挙でも自民党の支援を受けた有力候補が危なげなく当選する展開が多い。「分裂」とか「激戦」には慣れていないのだ。

知名度では馳氏が圧倒的に優位に見えるのだが、自身の出馬を巡ってスタンドプレーも目立ち、反発も招いている。地元の地方議員の大半が支持するのは山田氏だとみられている。そして「第3の男」、山野氏は出遅れはしたが、18日の地元紙・北國新聞の選挙情勢では、最も優位に立っていると報じられた。

今回の知事選は県内の主導権争いにとどまらない。東京の自民党本部も神経をとがらせている。岸田文雄首相や党本部は7月に行われる参院選を最重視している。この先の政治日程をみると、参院選の後は大型の選挙はあまり見当たらない。昨年10月の衆院選で勝った岸田自民党は、参院選でも勝って長期安定政権にしたい。石川県知事選挙、さらに4月の参院石川県補選は「夏の参院選の前哨戦」として注目されるのだ。

■石川県政界で今も絶大な力を持つ森喜朗元首相

当初、党本部は、真っ先に手を上げた馳氏支援で県内をまとめて事実上の信任投票に持って行こうという考えだったようだ。馳氏が、石川県政界で今も絶大な力を持つ森喜朗元首相の側近であること、そして永田町のドンになりつつある安倍晋三元首相が率いる安倍派の幹部でもあることが要因だ。

加えて夏の決選を前に無用な体力を使いたくないという思惑もあった。現状の保守分裂はそんな党本部側の思惑と真逆の展開となっている。結果として自民党は今回の知事選で事実上の自主投票となる。

今回の知事選を巡っては、過去、全国で行われた知事選の歴史的なシーンと酷似している点が多い。

自民党の茂木敏充幹事長は昨年11月30日の記者会見で石川県知事選の対応について「これまで基本的に馳氏の出馬を前提に準備を進めていた。これは県連も党本部もその方向だった」と発言した。この段階で馳氏が既に出馬表明していたのは事実だが山田氏も出馬に意欲を見せており、県連の対応は調整中だった。茂木氏の発言は、馳氏支援に誘導しようとした発言と受け止められ、山田氏側は猛反発。多くの県民も違和感を持った。

この展開は、今から約30年前の東京都知事選の時のドラマとそっくりだ。

■石原慎太郎氏の「後だしじゃんけん」を意識か

1991年の都知事選では現職の鈴木俊一氏が4選を目指していたが、当時自民党幹事長として辣腕を振るっていた小沢一郎氏がトップダウンで元NHKキャスターの磯村尚徳氏を擁立。これが都民から「独断専行だ」「高齢者いじめだ」などとの批判を招き磯村氏は敗北。小沢氏は幹事長を辞任した。

当時の小沢氏と今の茂木氏を同一視するわけにはいかないが、現段階で馳氏に逆風が吹いていることを考えると、31年前の「東京の乱」とダブってみえてくる。

山野氏の出馬をめぐる展開は、都知事選での別のドラマを想起させる。昨年中に出馬を明言した馳、山田の両氏とは違い、山野氏は出馬への意欲を見せつつも正式な表明は今年1月13日まで引っ張った。「じらした」と言ったほうが正確かもしれない。

最後の最後まで出馬表明をせず、告示が迫ってから表明して話題を独占、選挙でも勝った石原慎太郎氏の「後だしじゃんけん」と言われた手法を意識しているのかもしれない。

■保守王国の自民党に、知事選で亀裂が生まれる恐れ

山野氏は2月24日の知事選告示ギリギリまで金沢市長を務め、コロナ対応などにあたる考えだという。昨年3月、千葉市長だった熊谷俊人氏がぎりぎりまで市長を務めて千葉県知事選に転身して圧勝したのは記憶に新しい。いち早く市長を辞任して馳、山田の両氏とともに「主な立候補予定者」として扱われてしまうよりも、県庁所在地の市長としてニュースに露出しているほうが知事選にも有利になる、という目論見がありそうだ。

3月13日の投票日に向けて、石川県は全国で注目を浴び続けることになる。自民党本部としては、勝敗もさることながら保守王国の自民党が知事選によって亀裂が生まれ、4月の参院補選に影響するという展開が最悪のシナリオだ。そうなれば7月の参院選にもマイナス要因となる。政治の世界ではこれまで繰り返し「前哨戦」という言葉が繰り返されてきたが、この春の石川県の選挙は正真正銘、「7月の参院選の前哨戦」となる。

(永田町コンフィデンシャル)

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