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「性格が激変し、仕事を失い、夫とも離婚」30代女性を10年間苦しめた若年性更年期の怖さ

プレジデントオンライン / 2022年1月23日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chinnapong

「更年期障害」は50歳前後の女性が発症することが多い。しかし、中には30代から症状が表れ、「若年性更年期」と診断される人もいる。エッセイストの葉石かおりさんは「すぐに婦人科を受診しなかった私は、原因が分からないまま追いつめられ、仕事も家庭も失った」という――。

■「更年期かも?」で受診した女性は3割

「更年期ロス」という言葉がある。

更年期によるカラダの不調で、仕事に及んだマイナスの影響を指す。流し見をしていたNHKのニュース番組から聞こえてきたこの言葉にハッとし、作業していた手を止めてしまった。かつて私も「更年期ロス」で、仕事を切られ、さらには離婚にまで至った経験があるからだ。

更年期とは、閉経を挟んだ10年間を指す。日本人女性の閉経の平均年齢は50歳前後と言われているが個人差があり、まれに30代で閉経してしまう人もいる。更年期は女性ホルモンの一種であるエストロゲンの急激な減少によって、ホットフラッシュや肩こりや不眠といった、さまざまな不調がカラダに表れる。これらが更年期障害と言われる症状だ。

かつて更年期は公にすることが少なかったが、今ではニュース番組で更年期ロスの特集が組まれたり、著名人が自身の更年期の体験を語ったりする時代になった。しかし、一般人にとって更年期は、まだ「秘するもの」なのかもしれない。

番組内で使用されたNHK「更年期と仕事に関する調査2021」に先立つスクリーニング調査(29~59歳の女性3万人が対象)によると、更年期の症状を感じた際、婦人科を受診した人は40代、50代ともに約3割という結果がそれを物語っている。

■取材中、突然顔から滝のような汗が…

これはあくまで推測だが、「更年期は恥ずかしい」という思いが根底にあるのに加え、「婦人科は敷居が高い」と思い込んでいる人が多いように思う。実際、私もそうだった。30代半ばと、人よりも早くに更年期の症状を感じていたが、「婦人科は妊婦が受診する医療機関」というイメージが強く、受診するまで数年間かかってしまった。そして、受診してわかった。心身に影響をきたすつらい症状の原因は、若年性更年期によるものだったということが。

私が最初に「異変」を感じたのは33歳、12月のことだった。ワインの専門家を取材中、突然首から上がカーッと熱くなり、滝のような汗が取材ノートにたれ、びしょびしょになってしまったのだ。その時は、「緊張して汗をかいたのだろう」と軽く思っていたが、その日を境に同様の症状が頻繁に表れるようになった。

一瞬、「更年期」という言葉が頭をよぎったが、元々暑がりであることもあり、すぐに打ち消した。しかし、ほてりの症状はおさまるどころかどんどんひどくなり、さらにはメンタルやカラダのさまざまな箇所に不調が表れてはじめた。

■「調教不能な猛獣」を飼っているかのよう

カラダの面ではほてりに加え、体重増加(今より8キロ増)、大量の抜け毛、肌荒れし放題で、目に見えて老化が進んでいった。メンタル面ではとにかくイライラと不安が止まらず、周囲にいる人に当たり散らしていた。

特に当時の夫にはひどい当たりようだった。ちょっとでも気に入らないことがあると暴言を吐いたり、時には物を投げつけたりすることもあった。自分でも「こんなことを言ってはいけない」と心ではわかっていながら、暴言を抑えることができなかった。彼が穏やかなのをいいことに、私は家庭内暴君として君臨していた。その後、子どもを持つ、持たないで意見が分かれ、最終的に最初の結婚生活は約10年で幕を閉じた。

職場では上司にくってかかり、ついにはクビに。まさに「更年期ロス」を地でいっていた。どうがんばっても感情のコントロールができず、心の中に「調教不能な猛獣」を飼っているかのような気がした。更年期に良いとされる市販の漢方薬や、イソフラボンやザクロエキスのサプリメントを飲んでも効果はゼロ。誰かに相談することもできず、次第に追い詰められ、一時は自死さえ考えたほどだった。

そんな話を取材で知り合った「よしの女性診療所」の院長・吉野一枝医師にしたところ、「血液検査をしたほうがいい」と言われ、早々に採血をすることになった。そして検査から1週間後、若年性更年期だったことが判明したのである。この時、私は42歳。初めての「異変」から、実に10年近くの年月が過ぎていた。

30代で女性ホルモンが急激に減少する「若年性更年期」
30代で女性ホルモンが急激に減少する「若年性更年期」 出所=葉石かおり『死んでも女性ホルモン減らさない!』(KADOKAWA)

■更年期障害を引き起こす3つの要因

しかし、まさか自分が更年期だとは。あの時、頭をよぎった言葉が正解だったことに驚きと、ショックを感じたが、それ以上に「この苦しみから解放される」という喜びのほうが勝っていた。「悪魔に魂を売ってでもラクになりたい」とすら思うほど、更年期の症状がつらかったからだ。

吉野医師によると、「更年期の症状は千差万別」だという。その理由は「3つの要因」が複雑に絡み合っているからだ。1つ目は身体的要因で、エストロゲンの急激な減少によるもの。これにより、生殖機能、自律神経系、心血管系などの不調が表れる。2つ目は元々の性格や幼い頃の家庭環境が影響する心理的要因。くよくよしやすい人ほど、症状が重たくなる傾向にある。そして3つ目は職場での人間関係や、現在の家庭環境が関係する社会的要因。更年期は親の介護や、子どもの自立といった家庭環境が変化する時期で、それが症状に影響することが多々あるという。

私は身体的要因に加え、最愛の父の急逝や過干渉の母との関係性が大きく影響していたように思う。吉野医師からこうした話を聞くまで、「感情のコントロールができないのは、人間として欠けた部分があるから」と常に自分を責めていた。もちろん未熟な部分があったことも否めない。だが意志ではコントロールすることができない女性ホルモンが影響していたと分かり、自分を許してやれるようになった。

若い女性の手には低用量ピル
写真=iStock.com/Mindful Media
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mindful Media

■乳がんリスクが不安なら定期的な検診を

更年期と判明したところで、いよいよ治療がスタート。私の場合、閉経前だったことと、生理痛が重く、経血量過多の月経困難症でもあったことから、低用量ピルが処方された。

「ピル」というと、避妊薬のイメージを強く思う方もいるが、月経困難症の他、子宮内膜症の予防やニキビ予防などにも処方される。乳がんのリスクが不安視されるが、厚生労働省による調査では「乳がんのグループに比べ、乳がんではないグループのほうに約2倍のHRT(低用量ピルなどによるホルモン補充療法)経験者がいた」という結果もある(45~69歳の日本人女性が対象。過去10年間以内に乳がんの手術を受けた女性と、受けていない女性にHRTなど21項目のアンケート調査を2004~2005年秋に実施)。

もちろん乳がんのリスクはゼロというわけではないが、定期的に乳がん検診を受けることで不安は大幅に解消されるはずだ。実際、私自身も年に一度、乳がん検診を受けている。

■治療のおかげで「真冬でも半袖」状態が解消

最初に処方された低用量ピル(マーベロン)は体質に合わず、むくみなどの症状があったが、ヤーズという種類に変えてから副作用は皆無。そして、飲み始めて2週間、症状のうちで一番つらかったホットフラッシュが消えた。それまではいつ症状が出るかわからなかったので、真冬でもジャケットの下は半袖しか着ることができず、風邪ばかり引いていた。「これからは長袖も着られる」。そんな些細なことが妙に嬉しかった。

ホットフラッシュの症状が消えるとともに、ジェットコースターのようにアップダウンが激しかったメンタルも一気に穏やかになった。心に住んでいた猛獣もいつの間にか消え、感情のコントロールも容易になった。それによって人と対立したり、言い合ったりすることもなくなり、人間関係がスムーズに。「消滅した」と思っていたキャリアも、徐々に元通りに、いや、それ以上に回復していった。

当時の私を知る人たちは口をそろえてこう言う。「悪霊にでもとりつかれているかのようだった」と。それほどまでに更年期は、人を変えてしまうのだ。今でこそ笑いのネタになっているが、あのまま放置していたら、ここに存在しているかどうかもわからない。これは決しておおげさではなく、経験したからこそわかる「まぎれもない事実」である。

婦人科検診を受ける女性
写真=iStock.com/Chinnapong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chinnapong

■「一時的な体調不良」「放っておけば治る」は誤り

更年期は症状がひどくなれば私生活はおろか、私のように仕事を切られるなど、仕事にも悪影響を及ぼす。前出のNHKの調査データによると、更年期によって離職した女性は46万人に上ると推定される。

離職の主たる理由は「仕事を続ける自信がなくなったから」「症状が重かったから・働ける体調ではなかったから」「職場や会社に迷惑がかかると思ったから」などさまざま。今や更年期は、自民党の「女性の生涯の健康に関する小委員会」においても議論される社会全体で向き合うべき問題なのだ。今後は生理休暇のような更年期休暇や、更年期症状で休職した際の収入保証など、職場や国の支援が求められていくと考えられる。

自身の経験を通して思うのは、「更年期は女性ホルモンの減少による一時的な体調不良」ではないということ。ましてや「放っておけば治る」ものでもない。

今までにない不調を少しでも感じたら、更年期を疑ってほしい。そして、躊躇することなく、婦人科を受診してほしい。今、私が平穏な暮らしをしていられるのは、婦人科を受診し、適切な更年期治療をしたから。そう、つらい更年期を乗り越えるには、婦人科医の力が欠かせないのだ。

■治療は「更年期」が終わった後も続く

ちなみに55歳になった今も治療は継続中で、定期的に吉野医師のクリニックに通院中だ。更年期の定義とされる「閉経を挟んだ10年間」を過ぎたら治療は終わりと思いたいところだが、残念なことに閉経後は「老年期」というステージが待っている。

60歳を超えると女性ホルモンはほぼゼロとなり、骨粗しょう症、動脈硬化、尿失禁や性交痛といった泌尿生殖器症状が起こりやすくなる。それらを予防するため、50歳を過ぎてからは低用量ピルに代わり、ウェルナーラ配合錠でホルモンの補充療法(HRT治療)を行っている。現在のところ副作用は一切なく、体調も万全。中性脂肪は若干高いが、他の数値は標準値以内だ。公私ともに順調で、老年期というより、「幸年期」といったほうがしっくりくる。心に猛獣が住んでいた頃が嘘のようだ。

最新のデータによると、日本人女性の平均寿命は87.74歳(厚生労働省「令和2年簡易生命表」)。その中で更年期が占めるのは、「人生のトロ」ともいえる時期にあたる。ガマンして、やりすごすには、あまりにも長い10年間。「一生分でもティースプーン1杯程度」と言われる女性ホルモンに、人生を左右されるのはあまりにももったいない。

更年期や老年期を「幸年期」にするためにも、自分のカラダとメンタルのちょっとした変化を見逃さないでほしい。

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葉石 かおり(はいし・かおり)
酒ジャーナリスト・エッセイスト
1966年、東京都生まれ。日本大学文理学部独文学科卒業。全国の清酒蔵、本格焼酎・泡盛蔵を巡り、各メディアにコラム、コメントを寄せる。「酒と料理のペアリング」を核にした講演、セミナー活動、酒肴のレシピ提案を行う。2015年、一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーションを柴田屋ホールディングスとともに設立し、国内外で日本酒の伝道師・SAKE EXPERTの育成を行う。著書に『酒好き医師が教える最高の飲み方』(日経BP)、『日本酒のおいしさのヒミツがよくわかる本』(シンコーミュージック)、『死んでも女性ホルモン減らさない!』(KADOKAWA)など多数。

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(酒ジャーナリスト・エッセイスト 葉石 かおり)

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