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30年前に亡くなったはずなのに…「夫がこっち見てる」真顔で言う73歳義母に戦慄した31歳嫁のいばらの道

プレジデントオンライン / 2022年1月22日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Gyro

心身ともに健康だった遠方に住む73歳の義母が突然おかしくなった。義父は約30年前に他界していたが、「今、畳の部屋に座ってこっちをじっと見ているよ」「ご飯を食べさせるから、仕送りして」などと言い始める。診断はアルツハイマー型認知症。30代の嫁は、夫が家事・育児にも介護にも非協力的だったため、2歳の子供を抱えながら介護に孤軍奮闘する――。
この連載では、「ダブルケア」の事例を紹介していく。「ダブルケア」とは、子育てと介護が同時期に発生する状態をいう。子育てはその両親、介護はその親族が行うのが一般的だが、両方の負担がたった1人に集中していることが少なくない。そのたった1人で背負う生活は、肉体的にも精神的にも過酷だ。しかもそれは、誰にでも起こり得ることである。取材事例を通じて、ダブルケアに備える方法や、乗り越えるヒントを探っていきたい。

今回紹介するのは、結婚4年目で義母を介護することになった現在31歳の女性の事例。彼女は、約1年前、義母(73)の認知機能の低下に伴い、義母宅の近くにアパートを借りて、そこから“通い介護”することになった。夫(34)は、家事・育児だけでなく介護にも非協力的。義妹は遠方に暮らしている。なぜ彼女は、夫や義妹よりも献身的に義母を介護することができたのか。嫁であり、幼い子どもを抱える自分が、近距離に引っ越してまでキーパーソンとなって介護していくことに迷いはなかったのか。

■お正月の帰省で発覚した、73歳義母の「異変」

九州生まれ九州育ちの近藤紗代さん(仮名・31歳・既婚)は、医療従事者である父親と保育士として働く母親のもとに生まれた。自宅の敷地内に祖父母宅もあり、2歳下の弟とともに、両親と祖父母に囲まれて成長。21歳で専門学校を卒業すると、介護福祉士として介護施設に就職した。

27歳になった頃、友達から「たまたま休暇で帰省していた」という3歳年上で公務員の男性を紹介される。近藤さんが住む隣の市出身だという男性は、大学進学を機に地元を離れて関東に移住し、そのまま就職していた。

近藤さんと男性は旅行の話で意気投合し、約2カ月おきに男性が帰省したり、近藤さんが関東へ行ったりする遠距離恋愛が始まった。それから2年後、2人は結婚。近藤さんは介護施設の仕事を辞め、関東へ移住。翌年には男の子を出産した。

さらに2年後の2020年1月のこと。結婚後、毎年お正月には家族で夫の九州の実家を訪れていた近藤さんは、当時73歳の義母に違和感を覚えた。

夫の父親は、夫が幼い頃に亡くなっており、夫に父親の記憶は全くないという。義母は明るく社交的で友達も多く、ランチに行ったりカラオケに行ったりとアクティブな人。料理が得意で、近藤さんたちが遊びに来ると、いつもおいしい手料理でもてなしてくれた。

それなのに、その年は外食を提案するか、買ってきたお総菜ばかり。かろうじて「すき焼きにするね」と言ってくれた日があったが、テーブルに用意されたのは、焼肉用のカルビとタレ。パスタを作ってくれた日は、平然と分量オーバー(5人分)のパスタを茹で始めたため、近藤さんは慌てた。

後でこっそりと夫に、「お義母さん、大丈夫かな?」と聞いてみたが、夫は、「もともと天然(ぼけ)だし、いつもあんな感じだよ」と言って意に介さなかった。

この時、近藤さん夫婦は結婚4年目。結婚後はすでに関東に移住しており、近藤さんが義母に会うのは年に数回だけ。そのため、息子である夫にそう言われれば、「そうなのかな」と納得するしかなかった。

■「今、お父さんとばあちゃんが畳の部屋に座ってこっち見てるよ」

2020年5月。コロナによる緊急事態宣言があったため、ゴールデンウイークの帰省は見送ることに。

7月。近藤さんは息子を出産してから、2週間に1度、息子(義母にとっての孫)の成長を見せるため、定期的にスマホでテレビ電話をしていたが、この頃から近藤さんがテレビ電話をかけても義母が出られないことが多くなり、普通に出られても話がかみ合わないことが増えてきた。

このことを夫や近藤さんより1歳上の義妹に伝えるが、「もともとの性格と年のせいだろう」と言って、あまり気にしなかった。

8月に入ると、義母宅の近所に住む佐賀さん(仮名)から、「お義母さんが、ちょっとおかしなことを言っているんだけど……」と連絡がある。なんでも、立ち話をしていたら義母が、「今日は月曜日だから仕事に行かないと!」と言い出したため、佐賀さんが「違うよ、今日は日曜日だよ。5日の日曜日だよ」と伝えても、カレンダーを見せても、携帯の日付を見せても、「いや、今日は月曜日だから!」と聞かなかったというのだ。

心配になった近藤さんは、その足で義母に電話をする。義母に、近所の佐賀さんが心配していたことを伝え、「大丈夫?」と訊ねると、「佐賀さんが勘違いしたのよ。私は大丈夫よ」と言って笑っていた。

長い間スーパーでパートの仕事をしていた義母は、この頃にパートの仕事を辞めた。理由を聞くと、「お客さんとトラブルになったから」と言っていた。

お盆前、コロナは一向に収まる気配がなく、近藤さん夫婦はお盆の帰省も見送った。

近藤さんは、自分たちが帰省できず、「1人で寂しがっているかもしれない」と思い、義母に電話をする頻度を2〜3日に1度に上げた。

9月。いつものように義母に電話をすると、「今、お父さんとばあちゃんが畳の部屋に座っているよ」と言い始め、近藤さんは面食らう。義母の言う「ばあちゃん」とは、自分の母親(夫の祖母)のことだ。一緒にいた夫が、「何を言ってるの? 父さんもばあちゃんももう亡くなっているでしょ?」と言っても意に介さず、「お父さんとばあちゃんがそこに座って、こっちをじっと見ているよ。何か食べさせたほうがいいのかなあ?」と返答し、まるで義母には2人が見えているようだった。

畳、障子のある部屋
写真=iStock.com/VTT Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/VTT Studio

同じ月、今度は慌てた様子の義妹から連絡が入る。「お父さんにご飯を食べさせないといけないから、仕送りをしてほしい」と、義母から連絡があったらしい。

近藤さん夫婦は、「これはさすがにおかしい」と思い、近所の佐賀さんにお願いをして、義母の病院受診に付き添ってもらうことにした。

■診断はアルツハイマー型認知症でも車を運転する73歳義母

病院を受診した結果、義母は中等度のアルツハイマー型認知症ということがわかった。

アルツハイマー型認知症の経過は個人差があるが、その症状は共通の段階を経て現れると考えられている。中等度の段階では、言語や論理的思考、感覚処理および意識的な思考を制御する脳の領域に障害が起こると言われ、症状には、記憶障害や錯乱、家族や友人を認識しにくくなる、新しいことを覚えられない、複数の手順による作業が困難になる、幻覚、妄想、衝動的行動などが含まれるようだ。

義母宅がある地域は、1人1台車がないと生活できない地域だったため、義母は73歳になった当時でも車の運転をしていた。しかし、近くには小学校があり、登下校の時間帯、道路は小学生でいっぱいになる。

近藤さんは、夫と義妹と話し合い、「もしものことがあるといけないので、車の運転はやめさせよう」と判断し、夫や義妹が代わる代わる電話で説得に当たる。

だが、「そろそろ車の運転はやめたほうがいいんじゃない?」と言うと義母は、「まだ年寄りじゃないし、認知症もないから大丈夫」と笑って流した。

脳の形のパズルにはまっていないピースがある
写真=iStock.com/designer491
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/designer491

2020年10月。義母の様子が気になっていた近藤さんは、コロナの感染者数が落ち着いた隙を見て、息子を連れて九州に帰省することに。

夫や義妹は仕事があるため身動きが取れず、専業主婦で動きやすい近藤さんが行くことになったのだ。とはいえ、息子はまだ2歳になったばかり。幼い子供を連れての長距離移動は容易ではなかった。

義実家と近藤さんの実家は隣の市同士なので、帰省中は実家に寝泊まりさせてもらう。しかし、近藤さんの62歳の父親と59歳の母親は、まだ現役で働いているため、平日の昼間は不在になる。1人で置いては行けないため、息子を連れて義実家を訪れると、別人のように痩せこけた義母が出迎え、近藤さんは愕然とした。

「後の病院受診で知ったのですが、2020年の1月から10月までで、義母は約10キロも体重が落ちていたそうです……。冷蔵庫の中は賞味期限の切れた魚と調味料が入っているだけで、野菜なども含め、食べられる物は何も入っていませんでした」

近藤さんは、すぐに義母を車に乗せ、スーパーに連れて行き、食材を購入。義母宅へ戻ると、食事を作り、食べさせ、薬を飲ませた。もともと甘いものはめったに食べない人だったが、約10カ月ぶりに会った義母は、甘いお菓子などを好むようになっており、野菜が多く入ったおかずはあまり食べなくなっていた。

「多分、認知症が進行し、まともな食事はほとんどできなくなっていたのでしょう。義母は高血圧と高脂血症で定期的に病院を受診し、処方してもらっていた薬があったのですが、その薬も約200日分も残っており、ちゃんと飲めていなかったようです」

パートでお客さんとトラブルになり辞めることになったのも、認知症のせいだったのかもしれない。

■「失くなった」と騒ぐ財布や印鑑を一緒に探す

義母宅と近藤さんの実家は、車で20分ほどの距離だった。近藤さんは、毎朝9時ごろに息子とともに義母の家へ行き、朝食を用意して食べさせ、薬を飲ませる。

その後、必要なものの買い出しや病院受診、銀行などに連れて行くなどした後、失くなったと騒ぐ財布や印鑑を一緒に探し、昼になると、義母と一緒に昼食の準備をした。

「私が一つひとつ声かけをして、義母ができることはなるべく義母にしてもらうようにしていました」

昼ごはんが終わると、近藤さんは夕食の支度に取り掛かった。夕食の支度が終わると、夕食後の薬が飲めるよう薬の準備を済ませる。

掃除や片づけ、洗濯などをすると、帰宅はいつも夕方だった。

「この頃はまだ介護認定調査の結果が出ず、介護サービスを使えませんでしたし、夫は関東にいたので、息子を連れての私1人での介護でした。そのため、息子と過ごす時間を十分に取ってあげられないことが続き、息子に寂しい思いをさせてしまうことをつらく感じていました」

義母は同じ話を何度も繰り返し、財布や印鑑などの大事なものを毎日のように失くすうえ、金銭管理もできなくなっていた。

財布から出したコインを数えるシニア女性
写真=iStock.com/kasto80
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kasto80

さらに義母は、「医者もわからないような何か大きな病気になっているのではないか」と不定愁訴のようなものを口癖のように繰り返し訴え、「病院に連れていってほしい」と何度も懇願してくる。

近藤さんが来ている間はもちろん、ひどいときには実家に帰宅した後でもおかまいなく、数分おきに電話がかかってくる状態だった。

近藤さんは義母の訴えを聞き、定期受診とは別に2度病院に連れていったが、結果は異常なし。

相変わらず、「車の運転はもうやめたほうがいいよ」と近藤さんから直接話して聞かせても、「まだ事故をしたこともないし、まだ若いし大丈夫。車がないとどこにも行けないから」とやはり拒否。

近藤さんは、なるべく義母が運転しなくていいように、用事があるときは近藤さんが連れて行くようにするしかなかった。

■夫「自分たちが九州へ帰って、母の面倒を見てあげたい」」

近藤さんは、九州に帰省してからのことを、夫や義妹に逐一報告していた。しかし義妹は、「九州に帰るつもりはない、もし母の面倒を見るのであれば、こちらに連れてくる」と。

夫は、「最期まで家で見てあげたい。妹が帰らないのであれば、自分たち夫婦が帰って、母の面倒を見てあげたい」と言う。

身近でサポートしている近藤さんは、通院するにも買物するにも、車がないと生活できない地域に暮らす義母に車の運転をやめさせるためには、「義母の足代わりになる誰かが近くにいる必要がある」と、常々思っていた。

結局、近藤さんは、10月中ずっと実家に滞在し、義母の通い介護を継続。11月になると、息子を義母宅に預け、4日間だけ関東に帰り、荷物をまとめた。夫と義妹との話し合いの結果、近藤さん夫婦が九州へ移住することに決まったのだ。

近藤さんは義実家から徒歩圏内にアパートを借り、そこから通いで介護をすることに。そして12月。夫の転勤願いが通り、関東から移住。親子3人での九州暮らしが始まった。

ちょうど義母の車の保険が切れる月だったので、「この車は古くてもう乗れなくなるんだって」と夫が話をして、車を処分。

介護認定調査の結果、義母は要介護1と認定され、デイサービスを週に2回、夕食作りのためにヘルパーを週に2回利用し始めた。

介護サービスを使えるようになり、多少は楽になった近藤さん。2歳になったばかりの子供と、中等度のアルツハイマー型認知症である義母のダブルケアは、文字通り、目の回るような忙しさだった。しかし長崎さんには、どうしても諦められないことがあった。それは、2人目の出産だった。(以下、後編へ続く)。

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旦木 瑞穂(たんぎ・みずほ)
ライター・グラフィックデザイナー
愛知県出身。印刷会社や広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターなどを務め、2015年に独立。グルメ・イベント記事や、葬儀・お墓・介護など終活に関する連載の執筆のほか、パンフレットやガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作などを行う。主な執筆媒体は、東洋経済オンライン「子育てと介護 ダブルケアの現実」、毎日新聞出版『サンデー毎日「完璧な終活」』、産経新聞出版『終活読本ソナエ』、日経BP 日経ARIA「今から始める『親』のこと」、朝日新聞出版『AERA.』、鎌倉新書『月刊「仏事」』、高齢者住宅新聞社『エルダリープレス』、インプレス「シニアガイド」など。

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(ライター・グラフィックデザイナー 旦木 瑞穂)

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