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なぜセブンは最強コンビニなのか…それは「お客のため」ではなく「お客の立場」で考えているからだ

プレジデントオンライン / 2022年2月5日 10時15分

インタビューに答えるセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文名誉顧問=2018年4月17日、東京都千代田区 - 写真=時事通信フォト

セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問の鈴木敏文さんは、セブン‐イレブンでさまざまな試みを成功させ、「小売の神様」と評されてきた。そこにはどんな経営哲学があるのか。鈴木さんは「私はいつも『お客様のために考えるのではなく、お客様の立場で考えろ』と言ってきた」という――。

※本稿は、齊木由香『トップの意思決定 日本のビジネス界を牽引する15人に聞く』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。

■新しいサービスは私の「思い付き」で始めている

いろいろと取材やインタビューを受ける機会はあるけれど、私はこうやってお話しするときに、どんなことを話すか、事前に準備するということがないんです。何を聞かれるかわからないのに、準備しようがないんですよね。

私の高校時代は弁論大会が非常に盛んで、みんな原稿を作ったり話す練習をしたりしていました。そういう準備も、私はしたことがない。講演にしても、座談会にしても、あらかじめ考えておくということがありません。そういうことができないタイプなんです。簡単に言えば、面倒くさがりなんです。

何か問われると、反射的に言葉が出てきます。自分の頭の回転が速いかのようなことを言っていますが、そういうわけではありません。瞬間的に思ったことを、パッと発言する。

新しいサービスを考えるときにも、「どう発想するのか」とよく聞かれますが、これも、何か特別なことを考えているわけではありません。「こういうものがあれば便利だな」という思い付きでやっているんです。

■便利を実現するためのシンプルな発想

日本でコンビニエンスストアを始めたとき、最初は周囲に反対されました。「すでにたくさんの小売店や商店がつぶれていっているじゃないか」って。「こんな状況で小さな店をつくって、それが拡大していくなんてことはあり得ない」。業界の人たちは、みんなそう考えましたね。

スタートしてからも反対だらけです。例えばおにぎりを初めて売り出したときも、みんな最初は賛成しませんでした。

「鈴木さん、おにぎりは家庭で作るものだから、売れませんよ」と言われる。社内でもそういう声がものすごく多かった。「家庭で作るから安心して食べられるんだ」「誰が握ったかわからないものなんて、食べられない」と言うわけです。だけど私は、「いや、そんなことはない」と言い続けました。

買い物は毎日のことです。昼間の時間帯だけにしかできないのは不便。だったら、家の近くで、24時間いつでも買えるようにすれば便利です。

おにぎりは昔から日本にあって、みんなが食べているものです。今日も明日も、日本中どこでも食べられている。だったら、それを家庭で作るものだって決め付けることのほうがおかしい。いつでもどこでも買える状態にしたら、逆にとても便利なんじゃないか。

便利なものであれば、あったほうがいい。まったく難しい話ではありませんよね。だったら、それを実現するにはどうしたらいいか。ずっとそういう考え方をしてきただけなんです。

■単純な考えを、真っ直ぐ追求する

便利さを見つけるって、大変なことのようですが、そんなに大げさなことではありません。毎日の生活の中でも、「もっと便利に」と思うネタは至る所にあります。

例えばホテル。建てるとき、すべての部屋の壁にモニターを埋め込んでおく。それでボタンを押せば、インターネットでどこにでも繋がる。現代のテクノロジーを考えれば、いくらでもできますよね。

これはいま思い付いた単純な例えですけれど、そんなことは考えればいくらでも出てきます。じゃあ、なぜそれが世の中にないのか。ただ、やらないだけでしょう。

自分のアイデアが絶対に受け入れられる自信があるということではなくて、「こういうものがあったら便利だ」とか、「こういうふうにしたほうがいいんじゃないか」という単純な考えを、真っ直ぐ追求するということだけです。

■道に木が倒れていたら、自分で取り除きたい

道に木が倒れていたら、通行の邪魔になるでしょう。その木を自分で動かせるんだったら、端に寄せる。またいで通ってもいいけれども、私の場合は、やっぱり戻って自分で木を取り除くと思う。

自分が不便だと思ったことは、ほかの人だって不便と感じるわけです。一つずつ「こうしたら便利だろう」と考えてやっていれば、自分が思ったほどではないにしても、いまよりは便利になるはずです。それを続けていたら、世の中が不便になるということはないでしょう。

それがお客様にとって、悪いことなわけがありません。

■「お客様のために」ではなく「お客様の立場で」考える

私はいつも、「お客様のために考えるのではなく、お客様の立場で考えろ」と言ってきました。

「お客様のために」は商品やサービスを供給する側からの目線です。それでは押し付けになってしまう危険がある。

自宅に来客があったとします。もてなそうと頑張って料理をする。しかし、相手は食事を済ませてから来た。そのときに「せっかくあの人のために作ったのに」と考えるのは、作り手の勝手な都合です。お客様が空腹なのかどうか、お客様の立場で考えなければいけないんです。

■セブン‐イレブンに無人店は作らない

あるいは、われわれがつくるものも、ただ便利であればいいというものでもありません。例えば、最近コンビニに自動レジが導入され始めています。もっと進んで、商品にICチップを付けて、店の外に出るだけで自動的に会計される無人コンビニなんていうのも開発が進んでいます。

ある意味では非常に便利ですけれど、本当に普及させるべきものかと言われれば、そうは思いません。

セブン‐イレブンでは、基本的にはこれまで通り対面で、会計だけをセルフでするレジを導入しています。より省力化した店舗も考えていますが、それも無人コンビニではなく店員が常駐するかたちを考えています。

やっぱりみんな、「人と接したい」という本能を持っていると思うんです。新しい商品のことなどについて、店員に聞きたいということもある。それをなぜ遮断しなくてはいけないのか。そこにある種の不便さを感じるわけです。

「お客様のために」では、お客様が何を感じているのかはわからない。

「お客様の立場」というのは、「お客様がどう感じるか」を考えるということです。その姿勢でしか見えてこないものがある。お客様の立場に立ちながら自分で発想するということを、忘れてはいけないんです。

セブンイレブン
写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

■アメリカのセブン‐イレブンは全然便利じゃなかった

セブン‐イレブンは、アメリカから持ち込んだものと思われている人が多い。もちろん間違っているわけではなくて、私がアメリカを訪れたときにセブン‐イレブンを見たのが始まりです。

ただ、アメリカからノウハウを持ち込んだということではありません。アメリカのセブン‐イレブンと日本のセブン‐イレブンとでは、本質的に全然違うんです。

アメリカのセブン‐イレブンを最初に見たとき、これはいわゆる「便利店」なんだなと思いました。ただ、サービスも商品も非常に限られていた。24時間やっている便利店だけれど、並べられている商品の質やラインナップは十分とは言えなかった。便利店と言いながら、全然便利じゃなかったということですね。

だったら、日本のセブン‐イレブンでは、いろいろな商品を扱えばいいじゃないかと考えました。アメリカでセブン‐イレブンを展開するサウスランド社(現・セブン‐イレブン・インク)とライセンス契約をしたけれど、実際の経営ノウハウはあまり参考にならなかった。あとは全部、こちらで思い付くことをやってきたんです。

2005年には、われわれがセブン‐イレブン・インクを完全子会社化しました。いまではアメリカのセブン‐イレブンが、日本のセブン‐イレブンの仕組みをいろいろと学んだり、協力したりしています。

■プロほど間違えやすい“ある考え”

われわれのやり方と同じように、という点では日本のコンビニ各社も同じです。例えばおにぎりなんかでも、ほかのコンビニでも「セブンで売れているんだから」と売り出すわけです。ちょっと見たところでは、どのお店も同じように見えるでしょう。

ただし、見た目が同じでも、お客様が選ぶとなると全然違う。

食べるものだったら、まず味です。セブン‐イレブンでは味の悪いものは絶対に販売しちゃいけない。そういういくつかの基本を徹底しています。

特に最初は相当こだわってやりました。おにぎり一つ作るといっても、妥協はなし。「日本でいちばんおいしいお米はどこにある?」「この米じゃ駄目だ。もっとおいしいものを」「この米にはどこの海苔がいちばん合うんだ?」と追及しました。

コンビニエンスストアでおにぎり
写真=iStock.com/Ljiljana Pavkov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ljiljana Pavkov

発売が決定していたある商品を、「これは販売できるレベルではない」と判断して、回収したこともあります。その商品が仮に店舗に並んで、買った人が「あまりおいしくないな」と感じたとする。

もちろんある程度の味だから、クレームが出るようなことはないと思います。だったら些細なことだと思うかもしれないけれど、それだけのことを理由に、セブン‐イレブンを選んでもらえなくなるかもしれないんです。

こうした基準を、プロほど間違いやすい。最大限の努力をして作ったものであれば、「そこそこ」の品質であっても、これでいいと思ってしまう。

■信じるべきは自分の基準

それでは駄目です。信じるべきは自分の基準。自分がおいしいと思わないなら、売ってはいけない。そして、その基準がお客様と同じでなければいけない。だからこそ、お客様の立場で考える。ここだけは、絶対に外してはいけません。

セブン‐イレブンの1店舗当たりの1日の平均売上額は、ほかのコンビニチェーンと比べて、約15万円高くなっています(2020年度決算の比較)。隣に並んでいたとしても、売り上げが全然違う。この差は簡単には縮まらないと思います。

■人間はないものねだりをする生き物

人間は、常に「新しいもの」や「良いもの」を求めます。

今回の東京オリンピックを見ていても、「こんなのがあったのか」というような、新しい競技をやっている。ルーツをひも解けば、もともとは子どもの遊びのようなものだったのかもしれませんね。それが競技ということになると、一生懸命努力する。見ているほうも熱中しますよね。

もっと言えば、100メートルを0.1秒速く走ったって、遅く走ったって、どうってことないじゃないですか。だけど、少しでも速い選手にみんなが憧れる。みんなそういうことを求めているんです。

商品やサービスも同じ。より新しいもの、より良いものが求められるようになります。

どんなものでも、いまあるものに対しては必ず飽きが来ます。

人間というものは、総じてないものねだりをする。それに対してわれわれは、「もっとおいしくしよう」「そのためにはどうしたらいいか」と挑戦するんです。

■「これまでと同じ」ではお客様に満足してもらえない

良いものであれば、お客様は値段が高くても買ってくれます。セブン‐イレブンには「セブンプレミアム ゴールド」というブランドがあります。「金の食パン」や「金の直火焼きハンバーグ」といった商品。少し高いけれど、とことん味を追求しています。

よほど高ければ別ですが、パンでもハンバーグでも、おいしいものが出てくれば、いままで食べているものより高くても買うという人のほうが多いでしょう。

私が育ったのはモノが不足していた時代で、やはり値段で選んでいました。

だけど、それなりにお金を持つようになって、モノも豊富に出てくると、値段はあまり気にならなくなる。世の中が豊かになればなるほど、食べるものがたくさん出てくれば出てくるほど、よりおいしいものを求めるというのが人間なんです。

人間は、無意識であっても、常により新しいもの、より良いものを求めている。それに応えるためには、提供側も「これまで」に囚われていてはいけません。過去と同じものでは、お客様に満足していただくことはできないんです。

■「経営者には発想のジャンプが必要だ」

みんな、「これはこういうもの」っていうところから外れられないんですね。

セブン銀行をつくったとき、銀行は平日朝の9時に開いて午後3時で終わってしまうものでした。時間の自由が利く人であれば行けますが、大体の人は仕事を抜けなくてはいけない。当時ATMはあったけれど、その営業時間も限られていました。

セブンイレブン
写真=iStock.com/GCShutter
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/GCShutter

人の生活のサイクルはどんどん変わっていて、深夜まで働いている人もいる。近くに銀行がある人ばかりでもありません。それだったら、24時間、家の近くにあるコンビニでお金の出し入れができれば、そのほうが便利じゃないかと。だけど、みんな銀行というものは午後3時に閉めちゃうものだと決めてかかっているんですね。

私は「経営者には発想のジャンプが必要だ」と言っています。常に未来に焦点を当てて、向こう側から現在というものを見る。そうして「10年先にこうありたい」と思うのなら、そのためにいまはどういう判断をすればいいかを考える。

■既成概念は、選択肢を狭める

新しいものを考えるとき、みんな過去のことを勉強しますよね。

そして、これまでにうまくいったやり方に頼る。あるいは、データを調べる。最近だったらコンピューターやITの進化で、簡単にビッグデータも手に入ります。

もちろん、何かしらの理由があるから、正攻法というのはつくられる。しかしこれらは、「既成概念」と言ってもいい。既成概念は、選択肢を狭めるんです。

私は富士山に登ったことはないけれども、登るとしたら、丹念に調べて、どこからどう行けばいちばん楽に、あるいは楽しく登れるかを考えます。一方で、「富士山とは吉田口登山道から登るものだ」と決め付けている人もいる。その結果は、相当違うものになるのではないでしょうか。

過去のやり方やデータに頼るような発想の狭さでは、お客様に新しいものを見せられないんです。

われわれは、自分たちが未来から考えることで、お客様にも未来を見せなくてはなりません。

日本初のコンビニエンスストア、そこで売られるおにぎり、24時間お金を下ろせるATM。すべて、「いま、ここにないもの」をつくったわけです。

そうでなければ、お客様は喜ばない。さっき言った通り、必ず飽きるんです、人は。仮にいま満足していたとしても、その先を見せなければいけない。

■人が「無理だ」という場所には可能性がある

「これまでのやり方」を抜きに考えれば、突破口は必ず見つかります。少なくとも私は、「やっぱりこれはやめとこう」という判断をしたことがありません。

セブン銀行をつくるとき、ある銀行の頭取さんがいらして、「鈴木さん、銀行ってそんな簡単にできるもんじゃない」と親切に忠告してくれました。私は「そんなに難しいことは考えていないんです。ありがとうございます」と言って帰っていただいた。専門家からすれば、「素人が何を言っているんだ」と思われたのでしょう。

これまで、そんなことはたくさんありました。「無理だよ」と言ってくれる人が多いほど、その声が大きいほど、そこには多くの可能性があります。みんなが反対するということは、大抵成功するんですよ。

誰もやっていないことだから、先駆者になれる。だから、やる価値があるんです。

■借り物の発想はつまらない

何かを成すためには、すべて自分のアイデアでやらなければ駄目。借り物の発想では駄目です。

「この人はこう言った」「あの人はこう書いている」と勉強して、それを人に聞かせても、同じようなことを言っている人はたくさんいる。当然、知っている人もたくさんいます。それは大抵、つまらないものなんです。何の説得力もない。相手を飽きさせるだけです。

一方で、自分が発想したことというのは、こうしてみなさんに聞いていただけるものです。

自分の発想が正しいかどうかなんて、考えても仕方ない。

■新しいものは自分の発想からしか生まれない

世の中にあるものはすべて、最初は誰かの発想から出来ています。名著とされている本も、スタンダードになっているビジネス理論も、大きなシェアを占めるビジネスモデルも。

齊木由香『トップの意思決定 日本のビジネス界を牽引する15人に聞く』(イースト・プレス)
齊木由香『トップの意思決定 日本のビジネス界を牽引する15人に聞く』(イースト・プレス)

それが後にどう評価されるかで、正しさのようなものが決まる。

つまり、新しいものは自分の発想からしか生まれないんです。

小学校低学年の頃、私はあがり症でした。学校で朗読をさせられると、緊張しちゃって。家では平気で読めたものが、いざ先生や同級生の前で読もうとすると、うまくいきませんでした。

それで、あがり症を治さなければいけないと考えた。どうすれば治るのかとずっと考えて、そのためには自分の考え方を持つことが大事だと気が付きました。

自分の考え方で、言えばいいんだと。別に論理的に導き出したわけではないけれども、なんとなく、自分の考えを発信するということの大切さを知ったわけです。

■だから、事前に準備しない

私は、人から話を聞いて勉強することも得意ではありません。物事は自分の直感で考えるほうが楽ですよね。何度も言うように、全部思い付きでやってきました。自分で考えれば、いろいろな発想が出てきます。

冒頭に申し上げたように、私はこういうお話をするときにも、事前に準備しません。そうすることで、自分の言葉で話すことができます。準備するということは、「正しくあろう」とすることです。間違えないようにしようとしてしまう。そのときに人が頼るのは何か。そう、過去のやり方なんですよ。

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鈴木 敏文(すずき・としふみ)
セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問
1932年長野県生まれ。中央大学経済学部卒業後、東京出版販売(現トーハン)を経て63年イトーヨーカ堂入社。73年セブン-イレブン・ジャパンを創設し78年社長に就任。92年イトーヨーカ堂社長、2003年イトーヨーカ堂およびセブン-イレブン・ジャパン会長兼CEOに就任。05年セブン&アイ・ホールディングスを設立し、会長兼CEOに就任。16年から現職。著書『わがセブン秘録』『挑戦 我がロマン』など多数。

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(セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問 鈴木 敏文)

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