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「株価の動きを見てはいけない」プロ投資家が株価よりも重視する決算書の"2つの数字"

プレジデントオンライン / 2022年2月6日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

株式投資で確実に収益を上げているプロは、どうやって投資判断をしているのか。『東大生が学んでいる一生役立つ「株」の教科書』(SBクリエイティブ)を出した伊藤潤一さんは「決算書の『当期の業績についての説明』と『今後の見通し』は、必ずチェックするべきだ」という――。

■決算書を読めば企業の未来が見える

決算書というと、数字に苦手意識がある人もいるが、見るべきポイントはそう多くない。

まず、各社のホームページにIRのページがあるので、そこに出ている「有価証券報告書」には最低でも目を通そう。様々な数字が掲載されている後に「経営成績等の概況」といった文章が掲載されているので、それを読み込んでみる。

ただ、全部読めないという方は、最低限「当期の業績についての説明」と「今後の見通し」には目を通してほしい。

たとえば、ある小売業の有価証券報告書を見てみよう。

事業セグメントごとの売上高を見てみると、「新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、特に海外事業において、売上高が減少した」とある。すると、感染拡大の収束とともに、また業績が戻るのではないかと予想できるかもしれない。

あとは、「今後の見通し」に関する話を拾っていくと、撤退するブランドはあるものの「下期発生の費用は限定的と見込む」とあり、大きなマイナスにはならないと考えられる。

さらに今後の成長ビジョンなどを読めば、この会社が今、どういう状況にあり、これから何をやろうとしているのかということが、なんとなく見えてくるだろう。

■IR担当者に上手に質問しよう

それともう1つ、個人がやったほうがいいのは、IR担当者に直接話を聞くこと。

IRとは投資家向けに経営状態や財務内容、今後の見通しなどについて広報することで、上場企業はどこも必ずIRの担当者を置いている。

ただし、誰もが知っている大企業の場合、なかなか個人には時間を割いてくれないかもしれない。毎日アナリストやファンドマネジャーの訪問を受け、しょっちゅう業績説明などをさせられているので、時間がないのだ。

こういった面から考えると、個人投資家はプロの投資家が投資しているような「誰もが知っている企業」の銘柄には投資しないほうがいい、という考えもある。

さて、実際にIRに電話をかけても、何を聞いていいのかわからない、という方も多いと思う。

IRの仕事をしている人が言っていた実話だが、個人投資家から電話がかかってきて一番聞かれることと言えば、

「今日、株価が上がっているんですが、なぜ上がっているんですか」
「株価が下がっているんですが、なぜ下がっているんですか」

という話ばかりだそう。

確かに、これではIRも頭を抱えてしまう。そもそも日々の株価の値上がり、値下がりなんて株式市場の需給によって左右される部分もあるし、下手なことを言えばインサイダー取引で大変なことになるから、何か知っていたとしても言えるわけがない。

企業のIR担当者に電話をかけて聞くなら、そんなことではなくて、もっと業績や財務内容について、もう少しだけ踏み込んだ質問をしたほうがいい。

そこで「決算書」を使うわけだ。

■時間がない人は損益計算書をチェック

といっても、時間がない人は、「損益計算書」だけ見ればいい。

基本的に株価というのは、短期的には市場の需給バランスによって動くものだが、長期的には、その企業の業績を織り込んで、しかるべき株価が形成されていく。つまり、日々の売買で株価はどんどん変わっていくが、長期的には企業の業績によって、株価はしかるべきところに落ち着いてくる。

それを考えれば、長期的に大事なのは業績であることがわかるだろう。業績とは、もちろん売上高や利益、キャッシュフローのこと。だから、バランスシートよりも、業績がわかる損益計算書をチェックしよう。

タブレットでグラフを見ながら会議
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

損益計算書の構造は、次のようになっている。

売上高-売上原価=売上総利益
売上総利益-販売費及び一般管理費(販管費)=営業利益
営業利益+営業外収益-営業外費用=経常利益
経常利益+特別利益-特別損失=税引前当期純利益
税引前当期純利益-法人税等=税引後当期純利益

この流れで見ると、利益には「売上総利益」、「営業利益」、「経常利益」、「税引前当期純利益」、「税引後当期純利益」の5つがある。

たとえば、メーカーだったら、商品を作って売ったらそれがすべて利益になるわけではない。何かを作るための材料費(原価)や、営業や広告にかかったコスト(販売管理費)や、お金を借りていたらその利息も支払わなければならない(営業外費用)。

それに不動産を売ったりしたら、その年だけの特別な利益(特別利益)も入ってくる。そういうのを全部鑑みて、どの段階でどれだけ利益が残ったのかを見る。

■必ず押さえてほしい“2つの数字”――売上高と営業利益

この中でも、売上高と営業利益は特に見ておいてほしい。

プロの投資家が投資するかどうかを判断するにあたっては、営業利益をベースにすることが多い。

営業利益は「売上高-コスト(売上原価+販管費)」。つまり、「売上高」から製品を作るのに必要な原材料費、商品の仕入れ代金の総額、サービスを提供するための費用の総額などの原価を差し引いた売上総利益を計算し、そこから販管費を控除したものが「営業利益」になる。

セクターによっては、経常利益で判断する場合もあるけど、プロの投資家は営業利益を軸にすることが多い。

ちなみに、「なぜ経常利益ではないのか」と考える方もいるだろう。

経常利益は旧ドイツ型会計基準に準ずる概念であり、アングロサクソン型会計基準が主流となった現在では、注目度が低下しているためだと思っている。

IFRS(国際財務報告基準)にも米国会計基準にも経常利益という概念はない。債権者への利払い及び元本返済に重きを置く概念から、株主を含むより広いステークホルダーを配慮した状況となったとも言えると思う。

計算機を使うビジネスマン
写真=iStock.com/Jirapong Manustrong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jirapong Manustrong

■プロは数字をどう使っているのか

ちょっとした裏話をすると、ファンドマネジャーが企業訪問をして、経営者や財務担当役員にいろいろ話を聞き、工場や店舗を見学して……、なんて話をすることがあるけど、あれには半分作り話が入っている。正直なところ、そんなに細かく聞いていない。

実際には、15分もあれば企業取材が終わってしまうケースもある。

長期投資になると話は違ってくるのだけれども、比較的短期の売買で、決算を見てトレードする時は、いちいち「御社のビジネスモデルの特徴は?」、「同業他社との差別化要因は?」なんてことは聞かない。

聞くとすれば「足元(の業績)はどうですか?」くらいのものだ。

それで、とにかく前述した売上高の進捗率をベースにして、予想以上に進捗率の高い企業を中心に、第3四半期での決算が公表されたあたりのタイミングを見計らって、第4四半期にかけて原価や販管費に大きな変動がないかどうかを各社の担当者に聞く。

もし原価や販管費が抑えられそうだということになったら、おそらく第4四半期にかけて業績が上方修正される可能性が高まってくる。そういう銘柄をどんどん見つけて、どんどんポートフォリオに組み入れていく。

そして、第4四半期の業績発表を待つ。もし、これで第4四半期の業績が好調で通期の決算が上方修正されることになれば、それを好感して株式は買われる。株価は上がる。そして、それ以前にその銘柄を仕込んでおいた僕たちは、静かに売り抜けて利益を確定させる、というわけだ。

情報に関してはプロの投資家のほうが強いところはあるが、プロの投資家が見ていない企業はたくさんある。丹念に拾っていけば、個人でも株式投資で十分なリターンを狙えるはずだ。

■株の値動きだけを見て買ってはいけない

個人投資家の悪いところは、株価の動きしか見ていないということだ。株価が上がったからこの会社は良い状態にある、株価が下がったから悪い状態にあるという程度のことしか考えていない。

伊藤潤一『東大生が学んでいる一生役立つ「株」の教科書』(SBクリエイティブ)
伊藤潤一『東大生が学んでいる一生役立つ「株」の教科書』(SBクリエイティブ)

この程度の理解だけで投資しては、うまくいかないことも多いと思う。

競馬にたとえれば、馬の情報をまったく持たない状態でダービーに賭けているのと同じことだ。決算説明書は、少なくとも競馬新聞に載っている馬の情報よりは詳しく、その企業が今、置かれている経営環境などに関する情報が載っているので、最初に必ず目を通すことが大切だ。

業績が良いと思って買ったのに実際はイマイチだったという銘柄を買わないためにも、決算書に目を通すこと。そして、「ファンダメンタルズ分析」を使うのが有効だと思う。

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伊藤 潤一(いとう・じゅんいち)
クラウドワークス執行役員・CHRO(最高人事責任者)、東大金融研究会主宰
1993年東京大学卒業、旧三和銀行(三菱UFJ銀行)入行。その後、モルガン・スタンレー・アセット・マネジメント、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントを経て、2002年にヘッジファンドの世界へ。グローバル大手のミレニアム・キャピタル・マネジメントなどを経て現在はダイモン・キャピタル・マネジメント。一貫して日本株のロング/ショートのポートフォリオ・マネージャー。約20年間ヘッジファンド在籍は日本人では稀有。同時に、2019年12月に東大金融研究会というサークルを作り、この1年間で在籍数は900名を超える。2021年9月からクラウドワークス執行役員・CHRO(最高人事責任者)。著書に『東大生が学んでいる一生役立つ「株」の教科書』がある。

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(クラウドワークス執行役員・CHRO(最高人事責任者)、東大金融研究会主宰 伊藤 潤一)

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