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「だから」「ですから」はまだマシ…相手に不快感を抱かせる最悪の「Dことば」とは何か

プレジデントオンライン / 2022年2月9日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

仕事のできる人は、言葉の端々にも気を遣っている。元防衛事務次官の黒江哲郎さんは「『だから』と『ですから』、そして『だったら』という『Dことば』は、相手に不快感を与えやすいので注意が必要だ」という――。

※本稿は、黒江哲郎『防衛事務次官 冷や汗日記』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

■防衛省全体の総合調整や各所との折衝に追われた官房業務

私は、自らのキャリアの半分に近い16年ほどを官房で勤務しました。

特に、文書法令業務、国会対応業務、情報公開業務、陳情対応業務、行事関係業務などが集中している官房文書課には、係員、先任部員及び課長として勤務する機会がありました。

防衛省は秋の自衛隊記念日を中心として様々な行事を開催しています。特に、陸海空の各自衛隊が毎年回り持ちで主催する観閲式、観艦式、航空観閲式はよく知られています。

官房文書課は、これらの行事において総理や防衛大臣、来賓の国会議員や民間招待者などのVIPヘの対応を担当します。当日までの間に開催部隊などとの間で綿密な調整を行い、細心の注意を払って準備をし、予行を経て本番に臨むのですが、それでも予期せぬトラブルが発生する場合があります。

官房業務は、「うまくいって当たり前で誰からも褒められず、少しでも失敗や不具合があると各方面から厳しく叱られる」という割に合わない仕事です。

■苦労の結果に得た実用的なコミュニケーション技術

ネガティブな意味ではありません。天邪鬼な性格も手伝って、私はこういう仕事が決して嫌いではありません。むしろ大好きです。

組織を支える「縁の下の力持ち」的な仕事は苦労が多いけれど、やりがいも大いにあるからです。実際、仕事をこなすのには大いに苦労しましたが、それを通じてコミュニケーション技術を始めとして様々な実用的なスキルを身につけることができたのは思いがけない収穫でした。

■相手に不快感を抱かせる「Dことば」

簡潔な説明を心がけるだけでなく、説明の際に使うべきでない言葉、使った方が良い言葉、相手に良い印象を与える言葉遣いなども意識しました。

政策案を説明する相手は、必ずしもこちらの案に賛成している人たちばかりではありません。

案に興味のない人、懸念している人、反対の人など様々な相手に説明して、出来るだけ多くの人たちの理解と共感を得て賛成に回ってもらわなければならないのです。

そのためには、相手の疑問点や懸念をも含めて率直なやり取りをする必要があります。その際、ちょっとしたことで不必要に不快感を抱かせたり、相手を怒らせたりしないように注意すべきことは当然です。

望ましいのは、相手に肯定感や安心感、親近感を抱かせ、話しやすい雰囲気を作ることです。

ポジティブで友好的な雰囲気の下では自然に会話が弾み、率直なやり取りもしやすくなります。

私は「相手の気持ちや相手との会話の雰囲気を前向き、肯定的なものにするためのコミュニケーションの仕方」をポジティブ・コミュニケーションと呼んでいます。

ポジティブ・コミュニケーションは、部外者に政策を説明する場合だけでなく、上司として組織を管理する場面でも、私生活で円満な人間関係を作る上でも役に立ちます。

ポジティブ・コミュニケーションの中で、相手に不快感を抱かせないための代表的な技が「Dことばのタブー」です。

■会議の雰囲気を冷やすフレーズ

国会担当審議官は、防衛省関係の与党の部会にはほとんど全て出席します。そうした場で原局原課の説明ぶりや応答ぶりを聞いていてとても気になることがありました。

質疑応答の中で役所側が「ですから」と「だからですね」という言葉を使うたびに、確実に会議の雰囲気が冷えていくのです。

そんなことが気になっていたある日の夕方、たまたまつけていたテレビのニュース番組に目が釘付けになりました。

タクシーのドライバーが客に暴行される事案が多発していることから、ドライブレコーダーの記録を分析してその原因を究明しようとしたというニュース特集でした。

それによると、運転手さんのある言葉が客をイラつかせ、怒りをエスカレートさせるのだそうです。それがまさに「だから」と「ですから」でした。

専用タクシーの運転手は、彼の仕事をしています
写真=iStock.com/Brostock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Brostock

特に、酔客は認識力が低下しているので、道順を繰り返し確認しがちです。

そういう客に対して運転手さんがうかつに「だから」「ですから」を使って答えると、「これだけ言ってもわからないのか」というニュアンスが伝わり、客を怒らせてしまうのだそうです。

そのタクシー会社は、暴行事件を減らすためにこれらの言葉を使わないように乗務員に指導しているということでした。

偶然見た番組だったのですが、目からうろこが落ちたような気がしました。

■「だから」、「ですから」より最悪なのは…

政党の部会などの場で「だから」「ですから」を多用すると、質問者に対して「さっきから説明しているじゃないですか」「まだわかりませんか」と言っているのと同じだということなのです。

この二つの言葉よりもさらに悪い印象を与えるのが「だったら」です。さすがに部会で役所側から出ることはありませんが、「だったら、どうしろと言うのですか?」という開き直りのニュアンスを伝える言葉です。

このことに気づいてから、説明の際にはできるだけ「だから」「ですから」などの言葉を使わないように意識するようになりました。

政策の中身は素晴らしいのに、些細な言葉遣いで相手を怒らせたりするのは愚の骨頂ですから、「Dことばのタブー」は十分に意識しておくべき技だと思います。

■確実に相手の気分が上がる「さしすせそ」

これはあるテレビ局の記者さんの受け売りですが、「Dことば」とは対照的に、サ行の言葉には相手の気分を上向かせる効果があります。

例えば、「さ」=「さすがですね」、「し」=「知りませんでした」、「す」=「凄いですね、素晴らしいですね」、「せ」はやや苦しいのですが「センスありますね」、そして「そ」=「そうなんですか」といったところです。

これらの言葉を連発されて気分が良くならない人は稀だと思います。

さらに、「失礼しました」「承知しました」あるいは「すみません」の一言から会話を始めると、こちらの謙譲の気持ちが伝わって相手の気持ちを和らげる効果があるとの指摘もあります。

ネット上では、「Dことば」の対極に位置する「Sことば」として積極的に使用すべきだという記事を見つけることができます。

■ヨイショやお世辞は恥ずかしいことではない

「なんだ、お世辞じゃないか」「そんなのは単なるヨイショじゃないか」と思われる方もおられるでしょう。でも、私はお世辞やヨイショが恥ずかしいことだとは全く考えていません。

理由は二つあります。

第1の理由は、お世辞やヨイショの本質は相手と問題意識を共有していることを伝える点にあるからです。

私が言うお世辞やヨイショは、心にもないお追従を言ったり相手を過剰におだてたりするような卑屈なことではありません。

自分の考えと相手の考えの共通点や親和性のある点を見つけ出して、自分もその問題意識を共有しているということを伝え、肯定感を持ってもらうということなのです。

だから、私にとってお世辞とヨイショの対象は先輩や目上の人間だけではありませんでした。部下や後輩に対しても、仕事や組織管理の上で必要があればためらいなく同じように接していました。

手を叩く幸せな多様なビジネスマン
写真=iStock.com/fizkes
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

第2の理由は、効果的に場を和ませることができるからです。

言葉遣いの工夫一つで相手の気持ちが和らいで会話が弾み、相手が自らの考えを話してくれたり、こちらの説明をよく聞いてくれたりするのなら、こんな簡単で安上がりな手段はありません。

お世辞やヨイショと決めつけず、実際に使ってみれば必ず効果を実感できるものと思います。

■相手の警戒心を一瞬にして説く秘技

相手に肯定感を与えて会話の雰囲気を好転させるポジティブ・コミュニケーションの技には、「オウム返し」というものもあります。

これは、会話の中で相手の言葉を捉えて「まさに今おっしゃった点がポイントなんですよ」「まさにそこが難しいところなんですよ」とオウム返しに引用しながら話をさらに展開していくという技です。

「合いの手上手」と言ってもよいかも知れません。説明の際、相手方はわれわれのことを防衛や安全保障の実務専門家だと受け止めて、多かれ少なかれ身構えています。

そんな中で相手の言葉を引用して話すと、こちらが問題意識を共有していることが伝わり、相手の顔も立ち、警戒心が解かれ安心感が醸成されていきます。こうして打ち解けた雰囲気が出来上がれば、人は自分の考えを話しやすくなります。

これに似た手法はカウンセリングでも使われているそうです。

カウンセラーが相談者の言葉を引用しながら会話すると、相談者は自らの話を肯定されたという印象を受け、安心して心を開いていくのだそうです。

最近あるホテルのウェディングプランナーの人たちにこのエピソードを紹介したところ、「同じ経験があります」「会話の中でお客様のおっしゃることを引用すると話が弾むんです」と言われました。

プロのプランナーに自分の発言を引用しながら話されると、迷いや遠慮、ためらいなどが緩和されて安心感、肯定感がもたらされる結果、雰囲気が和むということだと思われます。

■「オウム返し」は使う方にも効用がある

黒江哲郎『防衛事務次官 冷や汗日記』(朝日新書)
黒江哲郎『防衛事務次官 冷や汗日記』(朝日新書)

また、経験上、この技は笑いを見せずにできるだけ真剣な顔で発動するとより大きな効果があります。

さらに、「オウム返し」を使う場合には、どのタイミングで発動するか、どの話題に対して合いの手を入れるのかをよく考えなければならないので、自然に注意深く相手の話を聞くこととなります。高い注意力と集中力をもって会話をすれば、その内容は濃密なものとなり、結果も実り多いものとなります。

ここに挙げた技は、基本的に私自身が細かな失敗と手直しを繰り返しながら身につけてきたものですが、今回改めて調べてみたところ、同様の手法が他の場でも紹介されているのを見つけ意を強くしました。

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黒江 哲郎(くろえ・てつろう)
元防衛事務次官
1958年山形県生まれ。東京大学法学部卒業。1981年、防衛庁(当時)入庁。防衛政策局次長、運用企画局長、大臣官房長、防衛政策局長などを経て、2015年、防衛事務次官に就任。2017年7月、辞職。同年10月、国家安全保障局国家安全保障参与に就任。2018年1月より三井住友海上火災保険顧問

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(元防衛事務次官 黒江 哲郎)

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