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年収800万円超のキラキラ社員が「突然メンタル休職する」就職人気トップクラス企業に潜む"ある病"

プレジデントオンライン / 2022年2月2日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/VioletaStoimenova

職場でメンタル不調になり、ある日突然休職する人、突然休職するメンタル不調者を出しやすい組織にはどんな特徴があるのでしょうか。心療内科医の鈴木裕介さんは「他者からの期待に完璧に近い形で応えられるがゆえに、高い評価を受けてきた人はメンタルヘルスリスクが高い」と言います――。

■そもそも人はストレスを自覚しにくい

ストレス分析アプリ「ANBAI」を運営するDUMSCOの調査によると、ビジネスパーソンの約20%が、高ストレス者であるにもかかわらず、本人が自覚していないために、ある日突然休職するリスクの高い「隠れストレス負債者」であることが明らかになりました。なぜこうした主観評価と客観評価で乖離(かいり)が発生するのでしょうか。

隠れストレス負債者の割合
出所=DUMSCO

「心身の疲労」という言い方をしますが、精神的な疲労が積み重なったときは、最初に身体の症状がきます。頭痛とか胃痛、吐き気のような症状が出てくるわけですが、そのときに「心のストレスがかかっているかもしれない」と自覚できる人はあまり多くないでしょう。

ストレスを感じると、そのストレス状態に対抗するために、副腎という臓器からアドレナリンやコルチゾールなどの抗ストレスホルモンと呼ばれるものを出すことで、血圧を上げたり血糖値を上げたりして、その状況に対抗しようとします。

その期間は、ストレスがかかっている状態ではありますが、自分ではストレスによる反応を実感していません。むしろ、パフォーマンスが上がったりすることもある。この「ストレス反応が自覚しづらい」ということがストレスの本質的な問題でもあります。

■ストレスは限界でも頭では「まだできる」と思っている

そして、パフォーマンスを維持するための抗ストレスホルモンが消費され続け、枯渇していくとともに、徐々に身体の症状、そして心の症状があらわれてくるわけです。

たとえば、私たちのクリニックの頭痛外来に頭痛が主訴でやってきた方のおよそ半数くらいは、心理的なストレスの指標でもかなり高い点数が出ます。

また、朝の頭痛を訴える人の3割程度が「うつ状態」を呈していたという欧州の調査結果もあるように、頭痛とストレスはとても深く関わっています。

人間は自分の疲労を頭で考えて判断しようとしますが、頭で考えていることと身体が感じていることにはしばしば乖離が生じます。たとえば、「やりがいのある」はずの仕事に行く途中、電車の中でなぜか吐き気やめまいが出てしまう、といったケースがありますが、それは、頭では「まだできる」と思っていても、ストレスが限界を超えて身体の方が先にSOSを出しているわけです。しかし、身体の症状が出ているからといって、「自分はメンタルをやられているかも?」と疑うのはなかなか難しいことだと思います。

こうした乖離が、人がストレスを自覚しづらい理由の一つであり、実施が義務付けられているストレスチェックで、時には高ストレス者が見落とされる要因でもあります。

■年収800万円を超える「ハイパフォーマー」がポッキリ折れる背景

先程示した調査結果では、前兆なく休職するリスクの高い人を「隠れストレス負債者」と分類しています。調査によると、隠れストレス負債者の約63%が年収800万円以上のビジネスパーソンであることもわかりました。こうした「ハイパフォーマーのストレス」をどう考えたらいいでしょうか。

隠れストレス負債者の年収分配
出所=DUMSCO

日本でうつになりやすい性格傾向としてよく指摘される「メランコリー親和型」の人たちです。簡単に言うと、規範意識と責任感が強い、いわゆる真面目な優等生タイプの方です。もともとドイツの精神科医が提唱したもので、本来はもう少し神経質なニュアンスが強い言葉なのですが、生真面目な日本人の気質や精神性にフィットしたのか、広く受け入れられています。

そうした「“日本的な”メランコリー親和型性格」の方によく見られる傾向として、自分の都合よりも周りを優先して、環境からの要求や他者からの期待に完璧に近い形で従おうとする、「過剰適応」があります。自分の精神的負担を無視して、周囲のニーズに応えようとしてしまう。職務上の無理な要求に応えてくれて、こちらの意図も細かく察し、飲み会にも最後までついてきてくれるような人。上司にとっては理想の部下とも言えます。

当然、職場では重宝され、パフォーマンス評価も高くなりやすいといえます。その一方で、会社や周りの人のケアばかりをしていて、自らのケアを後回しにしがちなのです。

そうした「優等生タイプ」の方が、前日まで普通に仕事をしていたのに、ある日突然職場に来ることができなくなってしまうケースは決して珍しくありません。「積み重ねた信頼」が壊れてしまうことをおそれて、自らが限界であることを表明することが心理的に難しいのです。

貼られた付箋でPCのモニタは見えない状態
写真=iStock.com/baona
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/baona

■強い企業カルチャーで社員を魅了する組織ほど、過剰適応になりやすい

過剰適応が起こりやすい企業の特徴として、大きなミッションを掲げ、やりがいもある魅力的な組織という特徴があるようです。

私の知人に、就活人気ランキングの常連企業に新卒で入社し、当時社内外から注目された事業部に配属され、エースとして活躍したのですが、心身の限界に達し「突然」休職をされた方がいます。その他にも、非常に強いカルチャーで知られた人気企業の方が受診されるケースは少なくありません。

なぜ「魅力的な企業」がメンタル不調者を出しやすいのか。その要因の一つは、強いカルチャーを持つ魅力的な企業ほど、その企業と自らのアイデンティティーとの同一化が起こりやすいという点があるように思います。

■企業カルチャーと宗教の類似性

「組織のため」「地域のため」「祖国のため」というように、自分よりも大きな存在や共同体とのつながりに身を投じるのは、人間としてクラシカルな幸せの一つだと思います。前述の突然休職した知人との談話の中で、強いカルチャーと宗教の類似性が話題に上がりました。

もちろん、宗教や信仰そのものを否定するものではありません。私自身も仏教の考え方に大きく影響を受けていますし、信仰心と幸福感の相関を示す論文なども枚挙にいとまがありません。しかしながら、善く生きることにつながる「良い宗教」と、そうではない「カルト的宗教」の違いは明確にあると思います。

宗教との良き関わりは、「信仰者自身が地に足がついていて、ある程度合理的な判断ができる状態であること」が前提にあります。そして、自我がおぼつかない状態の人を狙ったり、合理的な判断を失わせるような関わり方をしたりするようなものが「カルト」であると言っていいでしょう。

自我(アイデンティティー)を確立する以前の未熟な心の状態のことを「プレパーソナル」な状態と呼びますが、この状態で関わると、カルト的な関わりになる危険性が高くなります。

新卒社員というのは、社会人としてのアイデンティティーが確立しておらず、いわば「社会的プレパーソナル」な状態であることが多いため、強いカルチャーをもった共同体との同一化によってアイデンティティーの埋め合わせを図るというのは、自然なことのように思います。

そこで企業との利害が一致してしまって、「殉職」のよう働き方になってしまうことがあるのです。非常に大きな充実感がある一方で、どうしてもわが身を省みない働き方になってしまいやすく、長続きさせるのは難しいでしょう。

■「不調」を安心して語れるカルチャーが、突然の休職を防ぐ

では、マネジャーとしてどう対応したらいいのでしょうか。産業医として関わるマネジメント研修でもよく「部下や同僚の不調にどう気づいたらいいのか」と質問されます。

もちろん、普段の観察が重要であることは言うまでもないのですが、過剰適応傾向のある人は、心配をさせまいという気持ちが強く、演技もうまいため、周りも簡単には気づけません。冒頭の調査でも、「隠れストレス負債者」とされる方の95%が、口癖のように「大丈夫です」と言ってしまうという結果が出ていますが、このような傾向を象徴するものだと思います。とにかく見つけるのが難しいのです。

隠れストレス負債者は「大丈夫です」が口癖
出所=DUMSCO

さらに、実施が義務付けられているストレスチェックなどでも、30%のビジネスパーソンが過去に“忖度回答”した経験があることが明らかになっており、うまく「かわされて」しまうことも多いのです。

そういう点では、声や自律神経など生体情報を活用したストレスチェックのアプリなどは、開発者によって精度にばらつきはあるものの、回答を自由に操作できないため、発見可能性や介入の接点が増えるという意味でも有効打だと思います。

■上司は部下に「疲れた」と言おう

それに加えて、「上司であるマネジャーの皆さんから、『疲れた』『調子悪い』といった言葉をどんどん使ってください。その方が、部下が安心するんです」と伝えるようにしています。

部下にとって、不調であることを伝えることはリスクです。評価が下がったり、仕事をもらえなったりするかもしれない。馬力のある完全無欠の超スーパーマンのもとでは、部下はなおさら「しんどい」を共有しづらくなります。しかし、マネジメントの視点からすると、部下の本当の「HP」が把握できていないこともまた大きなリスクだと思います。

精神科医の松本俊彦先生は「誰かにつらい気持ちを告白することは、清水の舞台から飛び降りるほど勇気の必要なことである」と言います。もし上述のタイプの方が、不調であることを明かしてくれたとしたら、それは非常に勇気のある援助希求行動です。

そのことを理解した上で、「つらい中で相談してくれて、ありがとう」とまずは援助を求めてくれたことそのものを承認する態度をとることができれば、相談者は大きな安心を得られるでしょう。

人間であれば、好調不調の波があって当然だと思います。ビジネスの世界では、馬力がある人や失敗しない人が評価されがちですが、こうしたある意味での「弱さ」に対するリテラシーをもっていたり、弱さを開示できることといった、少し違った種類の「強さ」が評価されてもいいのかもしれません。

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鈴木 裕介(すずき・ゆうすけ)
内科医・心療内科医・産業医
2008年高知大学卒。内科医として高知県内の病院に勤務後、一般社団法人高知医療再生機構にて医療広報や若手医療職のメンタルヘルス支援などに従事。2015年よりハイズ株式会社に参画、コンサルタントとして経営視点から医療現場の環境改善に従事。2018年、「セーブポイント(安心の拠点)」をコンセプトとした秋葉原内科saveクリニックを高知時代の仲間と共に開業、院長に就任。著書に『我慢して生きるほど人生は長くない』(アスコム)などがある。

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(内科医・心療内科医・産業医 鈴木 裕介)

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