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昔はボール型の消臭剤しかなかった…日本のトイレに「芳香剤」を広めた小林製薬の"会心の一撃"

プレジデントオンライン / 2022年1月31日 12時15分

小林製薬の長寿ブランド「サワデー」 - 画像提供=小林製薬

小林製薬の芳香消臭剤「サワデー」はどのように生まれたのか。商品開発を手掛けた小林一雅会長は「当時、大手メーカーはトイレという汚い場所で使う商品を避けていた。率先して新しい市場を作ったことで、長く愛されるブランドに成長した」という――。

※本稿は、小林一雅『小林製薬 アイデアをヒットさせる経営』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

■20期以上連続で増益・増配ができているワケ

2020年の当社グループの売上高は1505億円でした。売上規模だけでいえば、医薬品メーカーとしては、武田薬品工業や塩野義製薬といった大企業よりも小さく、衛生日用品も手掛ける大手メーカーとしては、花王やプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)よりも小さいです。

それでも、おかげさまで23期連続の(純利益の)増益と、上場から22期連続での増配ができている会社です。

当社がなぜ、現在のように伸展することができたのか。企業戦略上の観点から、その理由を強いて挙げるとするなら、「ニッチャー」にこだわり続けてきたからだといえるのかもしれません。

まだ市場になく、それでもお客さまが「あったらいいな」と思う。その潜在的ニーズを掘り当てるアイデアを生みだし、ニッチなマーケット向けに絞りこむための製品コンセプトを創り上げる。そのコンセプトに基づく新製品を開発し、市場に投入し、ヒット商品に育てていく――。

■「小さな池の大きな魚」を狙う経営戦略

このニッチなマーケットで闘うという小林製薬の経営の在り方を、私はいつからか、「小さな池の大きな魚」戦略と呼ぶようになっていました。

その池は、小さい。けれども、小さな池にも魚はいるものだ。魚がいそうな小さな池を探し出し、そこで、釣り糸を垂らす。ただ釣るのではなく、他の釣り人が来ないうちに、真っ先に足を運び、釣るのだ――。

そしてこの独自の戦略の確立にとって原体験となったのが、現在も市場で多くの方々に支持される3つの商品ブランド「アンメルツ」「ブルーレット」「サワデー」の開発と育成でした。いずれも、私が米国留学時代(小林製薬入社後の1965年)に想を得たものです。

■日本のトイレによい香りをもたらした「サワデー」

留学といっても、自分の会社と仕事のことが頭から離れるはずがありませんでした。ともかく「これは!」と思う商品を日本に持ち込んで、新たに製品開発し、販売しようと考えていました。

まだ若く、経験不足な私でしたが、この時期にガムシャラに仕事に取り組んだことが、結果として、一つひとつのビジネスを成功させ、現在の小林製薬の活路を見いだすことにもなったのですから、経営とは不思議なものです。

日本にはまだ消費市場が形成されていない状況下で、お客さまが「もしあったら購入したいな」と思われる商品を先んじて開発できれば、競合相手はゼロに等しいはずだ――。このシンプルな発想により、私は最初に「アンメルツ」、それから「ブルーレット」、さらに「サワデー」の開発を手掛けていきました。

3番目のサワデーの発売開始は1975年5月です。日本には、お香や線香の文化があり、日本人は香りや匂いに敏感な国民だと思うのですが、1970年代になっても、欧米と違って、トイレや部屋の芳香消臭剤という市場が未成熟な状況でした。

留学中に見た米国のトイレは、便器はピカピカで、芳香剤からはよい香りが漂っていました。それに比べ、当時の日本のトイレにはボール状の強い臭いの消臭剤がよく置かれていました。そのなかで、「爽やかな香り」「花の香り」のする芳香消臭剤というニーズを掘り起こし、「サワデー」というネーミングの新商品を上市して、大きな成功を得ることができたのです。

■大手が「やりたがらないビジネス」で会心の一撃

大ヒットの理由を私なりに分析すると、「御不浄」と呼ばれていたトイレの用品だったことにあると認識しています。

トイレの芳香消臭剤の先駆けとして大ヒットした「サワデー」
トイレの芳香消臭剤の先駆けとして大ヒットした「サワデー」(画像提供=小林製薬)

かつての日本のトイレは「汚い場所」であり、強い悪臭を放つ「不浄な場所」で使用するトイレ用品に手を出すのは二流メーカーがやることで、一流メーカーの仕事ではないと思われていました。つまり、大手が「やりたがらないビジネス」だからこそ、小林製薬の入り込む余地があったわけです。10年もすれば、日本のトイレも米国のようになるだろうというイメージが私にはありました。

考えをめぐらし、商品アイデアを創出するための仮説を練り上げ、同時に、利便性や価格なども検討していきました。社員の自宅でも試してもらうなど、さまざまなテストを繰り返して、自らの仮説を検証していくうちに、ヒットの予感は高まってきました。

そして発売から3カ月後には、当初の年間目標の30万個をはるかに超える70万個を売ることになりました。私にとって、まさに会心の一撃でした。

■「ブルーレット」はトイレ掃除から日本人を解放した

同年末には「サワデーボーナス」が出ました。従来の2倍近いその金額に驚いた社員の奥さんたちから「間違って支給されているのではないか」との電話があったほどです。

水を流すだけでトイレ掃除ができる「ブルーレット」
水を流すと便器の汚れが落とせる「ブルーレット」(画像提供=小林製薬)

この嘘のような本当の話が語り継がれるほどの大ヒットを経験するなかで、ヒット商品がいかに会社を元気にしてくれるものかを会社全体で実感することができたのです。

そして現在の小林製薬において、この「サワデー」よりも大きな売上を上げるブランドが、同じトイレ用品の「ブルーレット」です。サワデー発売の6年前(1969年)に発売しました。米国留学から帰って、最初に手掛けたトイレ用品です。

すぐさま大ヒットしたサワデーと違い、ブルーレットは徐々にお客さまの支持を広げていった商品でした。

それまでにも国内でトイレ用品がなかったわけではありませんが、レバーを引くとタンクから青い水が流れ出し、よい香りが漂い、便器もきれいにするブルーレットは、日本ではまだ見たことがない、日本の家庭を、トイレ掃除という大変な家事から解放する画期的な商品でした。

■いまや芳香消臭剤は1000億円弱の市場に

ただ発売当時は、くみ取り式が大半で、水洗トイレの普及率が2割程度しかなかった時代でしたので、ブルーレット購入者のリピート率は高くても、すぐに大きな結果を出すことはできなかったのです。

ところが日本経済が急成長し、一般家庭の生活水準が日増しに向上していくなかで、1970年代に入って、水洗トイレの普及率が急速に高まりだすのにともない、売上も大きく伸びていったのです。

近年では、トイレだけでなく、さまざまな生活環境で使用される芳香消臭剤というカテゴリーは、国内だけで938億円ともいわれる市場に成長しています(出所:インテージ SRI+データ。市場名〈芳香・消臭剤〉、期間〈2020年〉)。

もはやニッチマーケットとはいえない状況ですが、この成功体験に当社の活路があることを私は確信するようになっていったのです。

■貼らずに塗る消炎鎮痛剤「アンメルツ」

まだ消費がほとんどない市場を狙い、発売した外用消炎鎮痛剤「アンメルツ」は、肩こりにともなう肩の痛みや筋肉痛を緩和する医薬品です。もともとは医薬品の卸業を本業としていた小林製薬にとって、ブルーレットやサワデーよりも親和性が高い商品であり、発売は1966年でした。

肩こりや腰痛に効く液体状の塗り薬「アンメルツ」
肩こりや腰痛に効く液体状の塗り薬「アンメルツ」(画像提供=小林製薬)

当時、肩こりや腰痛の消炎鎮痛用の薬といえば、日本では貼り薬でした。それに対して、アンメルツは液体状の塗り薬であり、既存の商品とは「どこか違う、どこか新しい」特性をしっかりと保有していました。

ただ、この種の商品がなぜか、米国ではさほど注目されていなかったように記憶しています。肩こりに悩む人が日本人ほど多くなかったからでしょうか。

それでも、日本では大きな需要が期待でき、「貼る」という需要に対して「塗る」という柵を立て、囲い込むことによって、「小さな池」をつくることを目論んでいたわけですが、当時の日本の技術では、使い勝手のよい製品にするのが難しく、開発は難航しました。

■すぐには売れない経験が次の大ヒットにつながった

アンメルツは、容器の上部に取り付けたラバーを患部に押し当て、中の液体を出しながら患部に塗っていきます。問題は液の量で、ラバーの厚みやスプリングの強さで調整しますが、なかなかひと押しで適量を出すことができませんでした。あるときは液が出過ぎ、あるときは全然出ないといった状態でした。

小林一雅『小林製薬 アイデアをヒットさせる経営』(PHP研究所)
小林一雅『小林製薬 アイデアをヒットさせる経営』(PHP研究所)

また、キャップを閉めても中から液が漏れてくるとか、温度によって出る量が変わるといった問題もありました。いずれも難題で、一時は米国のメーカーから製品を仕入れ、当社は販売だけ行う方法も考えましたが、最終的に数年の開発期間を経て、製品化にいたりました。

にもかかわらず、発売当初は、ブルーレットと同様に大ヒットといえる結果は出ませんでした。肩こりに薬を使うことの多い高齢者は、長年の習慣をなかなか変えないことも予測はしていましたが、「貼り薬」でなく「塗る薬」ということに、すぐさまピンとこなかったからでしょう。

それでも、販売を続けるうちに、次第に認知され、多くのお客さまに手にとってもらえるようになっていったのです。

今にして思えば、このアンメルツ、そしてブルーレットが、当初から好評だったとはいえ、即座に大成功をしなかったこと、それでもそこであきらめなかったこと、そしてメーカーとしての事業の成功に執念を燃やし続けたことが、サワデーの大ヒットを呼び込んだのかもしれません。

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小林 一雅(こばやし・かずまさ)
小林製薬代表取締役会長
1939年生まれ、兵庫県出身。1962年甲南大学経済学部卒業。1962年3月小林製薬入社。1966年11月取締役、70年11月常務取締役、76年12月代表取締役社長。2004年6月から現職。著書に『小林製薬 アイデアをヒットさせる経営』(PHP研究所)がある。

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(小林製薬代表取締役会長 小林 一雅)

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