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「最初のひと口が劇的に変わる」こだわりのラーメン通が考える"一番おいしい麺の引き上げ方"

プレジデントオンライン / 2022年1月30日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hiromi Kudo

ラーメンをより美味しく食べるにはどうすればいいのか。50店以上のラーメン店のロゴを手がけたデザイナーの青木健さんは「どんな料理にも、より美味しく味わう食べ方がある。ラーメンの場合、丼のどこから麺を抜くかによって味わいが変わる」という――。(第2回/全2回)

※本稿は、青木健『教養としてのラーメン ジャンル、お店の系譜、進化、ビジネス 50の麺論』(光文社)の一部を再編集したものです。

■やたらと麺硬めを頼みたがる人たち

若い頃、先輩や上司とラーメン屋さんに行くと、「この店は麺硬めが旨いんだぞ」なんて、したり顔で言われたものでした。これは好みの問題ですので、個人の自由というのを大前提として、以下を書いておきます。

麺硬めというのは、味濃いめや油多めなどと同じく「刺激の強さ」です。ですから、特に若い人にとって魅力的であるのは、肉体的に自然なこと。ただ、ラーメンの麺は、そもそも小麦粉の品種やブレンド、水分量、太さ、長さ、形状など、店によってまったく違うものです。必然的に適正な茹で時間も異なります。

麺は、茹でること(加熱)によって小麦粉のデンプンが水を吸って糊化し、独特の質感やコシが生まれる。つまりご飯と同じです。極端な話、茹できっていない麺は、炊きあがる前の米を食べるようなもの。なんでもかんでも麺硬め、という人が増えすぎたせいでしょうか、近年は「麺硬めお断り」という店も目立ってきました。

これは意固地なのではなく、水分量まで調整し、状態を確認しながら茹でている麺を、お客様により良い品質で召し上がってほしい……という、店主の気持ちでしょう。初めての店ではそのまま食べて、もし違和感があれば次回から頼んでみればいい。

私自身も、麺に少し硬さが残っていると感じたら、再度伺ったときに「少し長めに茹でてもらうことはできますか?」とお願いしてみたり。どのお店も気持ちよく応じてくれました。

■どの店でも麺硬めを頼むのは大間違い

味のバランスにより、硬め、やわらかめ、それぞれ似合うラーメンがあります。九州の豚骨ラーメンには、バリカタやハリガネ、粉落としといった硬さの指定がありますね。私も何度か現地で食べ歩いていますが「バリカタ」という注文を1度も聞いたことがありません。なにも言わないか、せいぜい「カタ」。

私が20年以上通う近所の店では、麺の硬さに慣れた頃、よく粉落としで頼んでいました。昔、それを知っていた知り合いの店に行き、普通の硬さで頼んだのに、粉落としで出してくれたんです。

ところが食べてみるとニチャニチャとして美味しくない。どの店でも麺硬めなどと言うのは大間違いだと痛感しました。ちなみに、替玉は同じ硬さで頼んでも、より硬く感じるもの。それを好む人のため、はじめに具入りのスープだけ出して、麺を替玉のように入れてくれる、「麺あと入れ」が可能なお店もあるのです。

■「まずはスープを飲んだほうがいい」と言われているのはなぜか

レンゲの正式名称は「散り蓮華」。蓮の花びら1枚に見立てられているのです。スープを飲む際、このレンゲでと丼からダイレクトでは、感じ方が変わってきます。舌は、先、両サイド、奥など、場所により感知する味覚が違います。レンゲで飲むと舌の奥へ運ばれやすく、味わいが偏る傾向があると言われます。ただ近年はこの舌の場所説にも否定論があります。

ラーメンのスープとレンゲ
写真=iStock.com/karinsasaki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/karinsasaki

では必ず丼から味わうべきかというと、これもそうとは言えない。ラーメンによっては、表層に油脂が多く浮いているので、出てきてすぐの状態で丼から飲んでしまうと、背脂や香味油ばかりが口に入ってしまいかねません。ただ、やはりレンゲと丼では、口にした感覚は違います。

スープの温度、量、唇に当たる感触も異なるし、レンゲだって陶器、木、プラスチックと材質もさまざま。どちらから飲むのが正解というのではなく、ラーメンによって臨機応変に両方から試したい。女性が丼から飲むなら、量が減って軽くなってからでも。

食べはじめはスープから飲むのがセオリーとされています。その理由としては、麺から啜ると、麺に残る茹で湯がスープと混ざってしまうから。少しでも純粋なスープを味わうための工夫ですね。また、スープから飲むにしても、麺に残った茹で湯が混ざらないうちに、端のほうから味わうなど。

これらも絶対ではなく、あきらかにそうしたほうがいい店と、特に気にしなくていい店とあります。ある店主曰く「はじめにスープから飲んだら、それはスープ(だけ)ですよね。でも麺から啜れば、スープも一緒に口に運ばれる。それでこそ『ラーメン』じゃないですか」。これには虚を衝かれました。一理ありますよね。

■味のマンネリ化を防ぐ「卓上調味料」

またある店では麺から食べることを推奨しています。ここのラーメンは、豚骨スープの表面にニンニクを揚げてつくったマー油が浮いており、麺から食べ進めることでスープが攪拌(かくはん)され、苦味のあるマー油がなじむというわけです。

つけ麺では、はじめに麺をつけ汁に浸さず、そのまま麺自体の風味を味わったりします。以前はバカにされたものですが、今は多くの人がそれを楽しんでいる。蕎麦と同じように、麺と汁の味、つけ汁の塩分や濃度を確認しておけば、どれくらい麺を浸せば自分の好みになるか……がわかります。どんなラーメンも型にとらわれず、自分にとって、できるだけ良い状態で接したいですね。

ラーメンが苦手、という人はあまりいないですが、まれに遭遇したときは、それとなく理由を伺っています。ラーメンは早く食べなきゃいけない、啜るのが苦手、などですが、中でも多い答えが「ずっと同じ味だから」。

ラーメン好きとしては「そうかな?」と感じますが、その理由から何十年も食べていない人も。そこで、ラーメンの人気ジャンルのお店を見てみると……。博多豚骨は、麺の硬さをヤワ~粉落としまで、かなり細かく指定でき、卓上には辛子高菜、胡麻、紅生姜などがある。家系は、麺の硬さ、味の濃さ、油の量を指定できるうえ、卓上には豆板醬、ニンニク、おろし生姜、酢などが並びます。

豆板醤・ニンニクなどをトッピングしたラーメン
写真=iStock.com/JianGang Wang
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JianGang Wang

■最終的に食べ方を決めるのはお客さん

二郎は、野菜の増量、ニンニクの有無、味の濃さ、アブラ(背脂)の有無などがサービスで変えられる。油そばや汁なしはトッピングメニューが豊富だし、ラー油、酢、マヨネーズなどを加えるのが前提のような食べもの。つまり、こうした人気のジャンルや店は、味を変えられるアイテムが揃っているのです。

飴やミント菓子をなめていて、最後のほうで噛んで割ってしまったりしますね。あれも同じ味に口が慣れるため。割って表面積を増やし、味を濃く感じさせる、無意識の味変効果です。そういう意味ではつけ麺も、つけ汁の浸し方によって味を調整できますね。

以前「ダブルテイスト」なる味変ラーメンが流行りました。スープの中に仕込んだタレが溶け出したり、別添えのジュレで味を変化させ、口を飽きさせないメニュー。ただこれは店のやり方であって、客の自由さとは違います。

都内にある博多豚骨ラーメン店「田中商店」では、替玉を何度かしてスープが減ると、スープを足してくれます。かなり行き届いたサービスです。あるとき、田中店主が何度めかの替玉をした客にスープを足しましょうかと声をかけたところ、「いらねえ。俺はスープが少なくなったところに高菜を入れて、まぜそばみたいにして食うのが好きなんだ」と言われてしまった。

ここで店主は気づいたそうです。店のエゴを押し付けても仕方がないのだと。店主は著書に「お客様が手に持った瞬間、そのラーメンはお客様のもの。その人が美味しいと思う食べ方をしてもらうのが一番」と書いています。とはいえ客側としては、失礼のない範囲にすべきでしょう。卓上にあるからといって常識外れな量を入れたり、食べきれない量と知っていて注文するような行為は慎まねばなりません。

■「お客さん、ラーメン食べるの上手ですね」

「食べる者は最後の料理人」。それが私の信条です。せっかくの素材の良さや、料理人の腕を、自分の食べ方で台無しにしたくない。満喫して食べきりたい。自分のことで恐縮ながら、若い頃から幾度となくこんなことがありました。

お店でラーメンを食べていると、顔見知りでもない店主から「お客さん、ラーメン食べるの上手ですね」とか「美味しそうに食べてくれますね」と声をかけられるのです(もちろん、ほかに客のいないときに)。それで「なにを見てそう感じたんだろう?」「美味しそうってなんだろう?」と考え始めたのでした。

青木健『教養としてのラーメン ジャンル、お店の系譜、進化、ビジネス 50の麺論』(光文社)
青木健『教養としてのラーメン ジャンル、お店の系譜、進化、ビジネス 50の麺論』(光文社)

どんな料理にも、より美味しく味わう食べ方があります。難しいことではありません。誰だって、揚げたての天ぷらを放置したり、寿司飯が染まるほど醬油に浸したり、アイスを1時間かけて食べたりはしませんよね(私はコンビニのおにぎりだって、できるだけ美味しく味わいたい)。けれどラーメンは「どう食べようが自分の勝手だ!」になりがち。

よくわかります。ラーメンが強く愛されているからです。誰だって、我が子の愛し方に口を出されたくはないですもんね。ただ、少なくとも店側やほかの客への迷惑は避けたい。マナーやルールというより、想像力や思いやり。

一例としては、店内で「まずい」と口にすると、それが別の店の話でも、他人の耳は「まずい」という音だけを拾ってしまう……など。ラーメンと対峙すると、いつも私は「このラーメンはどう食べたら一番美味しくなるだろう」と考えます。それは小料理屋で、黒板の品書きを眺めながら、注文の順番を組み立てるような楽しさ。何十年も続けており、今ではほぼ無意識です。

■麺を「丼のどこから抜くか」で味が変わる

私は麺を持ち上げることを「抜く」と呼びます。麺は、ただ垂直に持ち上げるのではなく、必ず「引き抜く」ことになるため。これを意識したのは「丼のどこから抜くか」で味が変わるからです。

メンマに胡椒が効いている場合、その近くから抜くと、いきなり胡椒の香りがしたり。仕上げにかけられた香味油や鶏油(チーゆ)の位置にムラがあれば、抜く場所で味は大きく違います。ある店主と食事中に「青木君、ピザを裏返して食べてごらん」と言われました。半信半疑でやってみると、チーズやトマトの味と熱さがダイレクトに舌に当たり、より鮮烈な味わいに。

食べ方なんて自由だと言いながら、誰もが個人的な先入観や常識に縛られがち。そこから解き放たれれば、楽しみは無限になるのです。

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青木 健(あおき・けん)
デザイナー、イラストレーター
1969年生まれ。埼玉県出身。日本大学藝術学部卒。ラーメン業界を専門に、デザイナー、イラストレーター、漫画家、エッセイストなどとして活躍中。有名ラーメン店のロゴデザインを、これまでに50店舗以上手がける。今や国内外に数十店舗を展開する「ラーメン凪」グループの創業を皮切りに、ミシュランガイドで世界初の一つ星を獲得したラーメン店「Japanese Soba Noodles 蔦」など、繁盛店となった店も数多くある。著書に『教養としてのラーメン ジャンル、お店の系譜、進化、ビジネス 50の麺論』がある。

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(デザイナー、イラストレーター 青木 健)

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