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年1000人以上と面談する産業医が証言「やってくる社員が打ち明ける"職場以外の悩み"」

プレジデントオンライン / 2022年2月4日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yue_

コロナ禍で転職する人にはどんな事情があるのか。2021年に1233人の社員と面談をした産業医の武神健之さんは「コロナ前と比べてストレス内容が変化している。ワークライフバランスについて考え直す人や、プライベートに関する問題で悩む人が増えた」という――。

■働く人たちのストレス内容が変化している

ウィズコロナの生活となり、もうすぐ2年がたとうとしています。

2020年からコロナ禍のため従来の職場ではない場所で仕事をし始め、手探りのリモートワークだった人たちも、2021年は、職場以外でも仕事ができることを確認・確信した年になったと思います。私は産業医として、2021年は1233人の働く人と面談をしてきました。従来のような対面での産業医面談は少なく、9割はZoomやTeams、電話等での実際には職場にいない社員との面談でした。

そのような中、働く人たちが感じるストレス内容も変わってきたと産業医の私は感じました。

今日は、働く人たちの感じる転職したくなるようなストレスについて、3人の産業医面談の事例からお話ししたいと思います。

■在宅勤務で「家族との時間を大事にしたい」と実感

1人目はIT会社に勤めるAさんです。勤続10年になる30代後半の中堅社員でした。

Aさんは平日の家事育児は専業主婦の妻に任せ、毎日20~21時頃まで働き、その後、通勤時間1時間の自宅に帰る生活でした。帰宅し、幼稚園に通う2人の子供の寝顔を見るのが毎日の癒やしと語っていました。前の会社ではもっと長時間働いていたこと、今の仕事にやりがいを感じていることなどから、自分の労働時間やワークライフバランスに何も疑問を感じていなかったそうです。

しかし、コロナ禍で在宅勤務をしてみると、家族(特に子供たち)と接する時間が増え、いろいろ思うところが出てきたようです。毎日午後、子供たちは幼稚園から帰宅すると在宅勤務をするAさんのところにその日の話をしにくるそうです。Aさんにとってこれはとても楽しいうれしい時間なのですが、話の止まらない子供たちをいさめて仕事に戻ることや、その時間にミーティングが入っていると「しっ!」と子供たちに向かって怖い顔をしてしまうことがあり、そのような自分が嫌に感じるようになりました。

産業医面談に来られた頃、Aさんは、在宅勤務のおかげで夕食を一家団欒で食べることができるのはうれしいが、夕食後に子供たちからの遊びのお誘いを断り、また仕事に戻らなければならないことに、ストレスと疑問を感じ始めていました。

そのような生活をする中で、今の会社は好きだけど、子供が小さい今こそ、働く時間よりも家族との時間を大切にしたいと感じている自分がいる」ことに気付き、Aさんは現在、職場には黙って転職活動を始めています。

■「ワークライフバランス」が転職先を選ぶ理由になる

ヤフーは、2014年より月5回まで働く場所を自由に選択できるリモートワーク制度「どこでもオフィス」を導入していましたが、2020年10月には新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴いこの回数制限を無くしました。それだけでなく、今年4月からは、居住地や交通費の制限を撤廃し、社員は日本全国どこからでも勤務できる上、好きな移動手段で通勤できるようになります。

このレベルのリモート勤務を可能とする企業はまだ多くはありませんが、社員一人一人がそれぞれの仕事とライフイベントを両立しながら、ワークライフバランスを大切にした働き方を実現しようという企業が増えてきていることは事実です。今後はこのようなことが会社を辞める理由、転職先を選ぶ理由になるのが普通になってくることを感じさせられる一例でした。

テレワーク
写真=iStock.com/show999
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/show999

■プライベートに関する相談が増えている

新型コロナ感染症という未曾有の出来事と、緊急事態宣言等に伴うリモート勤務や自粛的生活の中、多くの人が、自分の価値観やワークライフバランスについて考え直す機会を得たことは想像に難くありません。そして、職場よりも家で過ごす時間が長くなった結果、家(プライベート)に関する理由で相談に来る人が従来よりも増えました。

前向きな方向性が見える人ばかりではなく、中には、不安や悩みが増えてしまうケースもありました。

■高齢の母親が骨折、家事の負担割合が増えた

50代の女性社員Bさんは高齢の母親と二人で暮らしていました。都内のオフィスに片道2時間近くかけて通う娘のために、コロナ前はお母様が、家事(食事や掃除)のほとんどをしてくれていたとのことでした。

しかし、一昨年、母親が転倒骨折してしまいました。コロナ禍で緊急事態宣言下であったものの治療は大きな問題なく進みました。手術や入退院時だけでなく、その後のリハビリ通院においても、Bさんが在宅勤務だったため、いろいろな融通がきいてお母様をサポートできたことがとても幸いした、とうれしそうに話すBさんが印象的でした。

自分は在宅勤務だしお母様は骨折後ということで、Bさんは自分が家事を担う割合が多くなることも、何の疑問もなく過ごしていました。しかし、昨年11月、会社が社員たちに再び出社勤務を求めると、状況が変わりました。

■出社勤務に戻ったことで、家事の両立が困難に

Bさんにとって、出社勤務と家事の両立は大変だったので、コロナ前のように母親に家事を任せようとしたら、お母様が骨折前ほどは家事をできなくなってしまっていたのです。毎日、出勤と往復3~4時間の通勤をこなした後に家事をこなし、疲れているはずなのに眠れないと産業医面談にBさんが来られたのは昨年末でした。聞いてみると、このままの生活では自分の体が持たないのではないかという不安や悩みがいつも頭の中を占めているとのことでした。

東京のラッシュアワー
写真=iStock.com/ooyoo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ooyoo

Bさんにとって幸運なことに、年が明けてみるとオミクロン株の流行もあり、会社が再び在宅勤務になりました。今のところBさんは疲労も回復し睡眠も戻ってきましたが、コロナ後はどうするのか、自分の退職(転職)の可能性も含め、悩みに悩み中です。

高齢の親の介護の相談は10年ほど前から、たまに産業医面談でもありました。

そして、実際に親の介護のために退職を選ぶ、退職せざるを得ないという選択肢を取る人がここ3~4年の間に出てくるようになりましたが、コロナ禍での在宅勤務もあり、この2年間は退職の理由としての介護は少なくなった印象です。しかし、コロナ後の世の中では、この流れが加速しそうな気がします。

■同僚たちの顔を見るとストレスを感じる

産業医の私は、全ての不安やストレスや悩みの相談に、上手に対処できているわけではありません。

3人目のCさんは40代の男性で、ストレスチェックテストで高ストレス判定になったことで産業医面談にいらっしゃいました。過去のストレスチェックテストの結果を聞いてみると、コロナ前は高ストレス判定だったが、一昨年のコロナ禍では非該当、昨年(今回)11月のストレスチェックテストは高ストレスだったとのことです。原因も自分で分かっており、出社勤務をしていると、自分は真面目に仕事に取り組みチーム内で一番多くの仕事をこなしているのに、周囲の人たちは無駄話をしたりのんびりしていて、ちゃんと働いていないことがストレス原因だと断定していました。

聞いてみると、Cさんの私生活も仕事量もこの3年間変わっていないので、ストレスの原因は同僚たちであり、同僚たちの顔を見る(出社)か見ない(在宅勤務)か、が問題なんだとのことでした。会社の出社要請は法的には従うべきことも知っており、ストレスがたまる一方だとのこと。

私は、私生活や仕事量などの環境要因が同じ中で、ストレス量が増減しているのは、Cさん自身の受け取り方に起因する可能性が高いとお伝えし、定期的なカウンセラーとの面談をお勧めしましたが、すでにカウンセリングを受けたことがあり有益ではなかったと断られてしまいました。

■「普通の社員たち」がプライベートの理由でストレスを抱えている

自分は変わるつもりはなく、異動希望もなく、原因は同僚たちで現職場環境が嫌であれば、もう転職しかないのではないかと思われ、「何も力になれなくてごめんなさい」としか面談では言えませんでした。

コロナ禍で普及したリモートワークですが、多くの社員、特に若い社員ほど、リモートワークを前向きに捉えているようです。苦手な人(上司や先輩)に顔を合わせなくて済む、自分の仕事に集中できる、上司や先輩からの指示がメールだと口頭よりも明確で分かりやすいなどが大きい理由です。

時間や場所にとらわれない新しい働き方を一度経験した結果、優秀な人ほど転職先が見つかるので古い体制の会社からどんどん退職していく……。コロナ禍の産業医面談で感じたこのことは、予想されたことであり、驚くことではありませんでした。

しかし、実際は、普通の社員たちも、職場よりも家で過ごす時間が長くなる中、家(プライベート)に関する不安やストレスや悩みを持ち、それが転職(退職)理由になってきている……。この流れは、2022年も止まりそうもないと感じる今日この頃です。

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武神 健之(たけがみ・けんじ)
医師
医学博士、日本医師会認定産業医。一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。ドイツ銀行グループ、BNPパリバ、ムーディーズ、ソシエテジェネラル、アウディジャパン、BMWジャパン、テンプル大学日本校、アプラス、アドビージャパン、Wework Japanといった大手外資系企業を中心に、年間1000件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を実施。働く人の「こころとからだ」の健康管理を手伝う。2014年6月には、一般社団法人日本ストレスチェック協会を設立し、「不安とストレスに上手に対処するための技術」、「落ち込まないための手法」などを説いている。著書に、『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書』や『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣』『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』などがある。公式サイト

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(医師 武神 健之)

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