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末期がん患者が見せた人生最後の笑顔…「なめらかプリン」生みの親が仕事の手を抜かない深い理由

プレジデントオンライン / 2022年2月1日 11時15分

撮影=プレジデントオンライン編集部

最大年間販売数2700万個の大ヒット商品「パステルなめらかプリン」の生みの親、所浩史さんは現在、岐阜市に住み「ご当地プリン」の開発を指南している。30年以上、愚直に真面目にプリンを突き詰めてきた所さんは「私が大事にしたいのは『一つひとつの仕事に心を込める』という誠意。毎日500個プリンを作ったとして、1個が『500分の1』ではいけない。お客さまにとって1個がすべてであり、『1分の1』なのです」という――。

※本稿は、所浩史『とことん、「一点だけ」で突き抜ける』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

■「人生で最後のプリン」…その笑顔にかかわれた幸せ

自分の手がけた仕事が、誰かの人生を祝福する門出に立ち会うだけでなく、悲しいお別れに立ち会うこともあります。悲しみや痛みを、少しでも和らげる存在になれたら。そんな気持ちで私はプリンを作ってきました。

「羽田空港の構内で、パステルのなめらかプリンは買えますか?」

電話でそんな問い合わせをしてくださったのは、東京で暮らす女性でした。がんを患い、四国で療養中のお父さまをお見舞いに行く際に、お父さまの好物であるプリンを買っていきたいというご要望でした。

幸い、羽田空港にはパステルの店舗があったのでご案内し、無事にプリンを買うことができたと、後日わざわざお手紙をいただきました。お手紙には、こう綴られていました。

「末期がんが進行し、父はほとんど何も食べられなくなっていました。それでも、『なめらかプリン』だけは喉を通り、食べることができました。『おいしい』ととてもうれしそうに、食べてくれました。それが父の最後の笑顔になりました。ありがとうございました」

噛まずに飲み込めて、かつ滋養もあるプリンは、病と闘う人にとって「最後の食の楽しみ」となるケースが少なからずあるようです。岐阜にプルシック(2010年に著者が岐阜市にオープンしたお菓子店)を構えてからも、近くの病院からわざわざお礼を伝えに来てくださる方が何人もいたのです。

なかには、「今日、明日までの命かと医師からは言われていたのに、1週間生き延びました」とおっしゃった方もいました。やはり、口から食べ物を入れて消化することが体に与えるパワーというのは、私たちの想像以上のものなのかもしれません。

■新幹線の駅のホームで手渡しできたプリン

また、ある地方にお住まいの男性からいただいたご相談も切実でした。

所浩史『とことん、「一点だけ」で突き抜ける』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
所浩史『とことん、「一点だけ」で突き抜ける』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

「病気の妻にプリンを食べさせたいのだけれど、近くにお店がない。どうしても食べさせたいから、受け取れる方法はないでしょうか?」

たしかに、ご夫婦がお住まいのエリアには、パステルの店舗がなく、崩れるリスクもあるので配送も難しかったのです。

私たちは知恵を絞り、ある“作戦”に出ました。ちょうど予定されていた九州での催事に合わせて連絡を取り、「催事で販売する分のプリンをお分けします。新幹線が停車したときにホームで受け渡しますので、◯月◯日◯時◯分頃に、◯◯駅のホームで待っていてください。◯号車に乗ります」とお伝えしたのです。

作戦は見事、成功!

無事にプリンをお渡しでき、事前にお伝えしていた代金をホームで受け取って会計も終了。プリンの箱を手にした紳士が「ありがとうございます。妻が喜びます」と涙を流さんばかりに喜んでくださったと聞き、私も胸が熱くなりました。

そこまでするのか、と思われるかもしれません。たしかに、すべてのご要望にお応えすることは不可能でしょう。私が大事にしたいのは、シンプルに「一つひとつの仕事に心を込める」という誠意です。毎日500個のプリンを作っていたとして、1個のプリンが「500分の1」になってはいけない。

撮影=プレジデントオンライン編集部

お客さまにとっては、1個がすべてであり、「1分の1」なのです。手を抜くことなど、どうしてできるでしょうか。

▶視点を変えるヒント
お客さまにとっては一期一会。商品のクオリティに胸を張れるか、自問する。

■出会った人から何を吸収するか。学び多き師の教え

人生を磨き、深めるのは出会い。出会った人から何を学び、何を吸収し、活かし続けるかによって、成長の度合いは変わってくるものだと思います。

私が師と仰ぐ方は何人もいますが、リーダーとしての姿勢を教えてくださったのは、吉野家ホールディングスの社長、会長を歴任した安部修仁さんです。

吉野家
写真=iStock.com/kokkai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokkai

ミュージシャンを目指して九州から上京し、アルバイトとして吉野家で働いたことを出発点に、叩き上げでトップに昇りつめ、いいときも悪いときも逃げずに組織を率いてきた安部さんの言葉には重みがあります(社長在任中には、米国産牛肉の輸入がストップするBSE問題にも直面しています)。

それでいて、決して偉ぶることはなく、屈託のない笑顔でおつき合いをしてくださる。パステル時代にチタカ(※)の人事本部長からご縁を頂き、たくさんの教訓を授けてくださいました。

※パステルのほか、とんかつ知多家、ケンタッキーフライドチキンやミスタードーナツなどのFC店舗も展開する東海地方の外食産業大手企業

安部さんから教わったことの中で、特に強く胸に刻まれているのは「成功する3つのポイント」は努力すること、協力を得ること、神のご加護、という教えです。いわく、成功するには、まず自ら努力することが欠かせない。

かつ、周りの協力も集めないといけないが、「協力させる」という気持ちではうまくいかない。なぜそれをやってほしいのか、真意を相手に理解してもらい、納得して行動してもらわないと、ものごとはうまくいかない。

「協力を得る」ためには、どう伝えるべきかを真剣に考えないといけない。では、協力を得る近道は何かというと、やはり自ら率先して動き、努力することである。

3つめの「神のご加護」に関しては、安部さんはくわしく説明はされなかったのですが、私はこのように理解しています。どんなに努力しても、どんなに協力を得られても、成功するかどうかは最後までわからない。成功しないことだってある。

だから、「こんなに努力したのに」「こんなに協力してもらったのに」と悔やむことはない。

くよくよ落ち込む暇があったら、前を向いていきなさい。

■「学びの力」を身につけるために

安部さんは「勝者が歴史をつくる」という言葉も繰り返しおっしゃっていました。

「世の中の常識をつくっていくのは勝者だ。だからこそ、正しい人物が勝っていかないといけない」のだと。自分の信念を貫く行動の意味を教えていただきました。

人生は、学び多き出会いにあふれています。私は毎日成長し続けていたいから、スポンジのように学びを吸収できる感性を保ちたいと願っています。同じとき、同じ人に出会っても、一しか学べない人もいれば、百学べる人もいます。

「学びの力」というのでしょうか。少しでも吸収して自分を成長させていけるように、意識を持ち続けるための習慣として続けているのが「10年日記」です。同じ日付で10年分の記入欄がある連用日記で、ほんの数行、その日に得た気づきや学びを書くだけのシンプルな記録ですが、「3年前はこんなことを考えていたんだな」と振り返るきっかけになっています。自分の成長を確認する機会にもなるので、おすすめです。

▶行動を変えるヒント
毎日、その日に感じたこと、気づいたことを書き留める習慣を持つ。

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所 浩史(ところ・ひろし)
株式会社 菓子道代表取締役 クレーム カラメリエ 岐阜の小さなお菓子屋さん「プルシック」オーナーシェフ
1960年生まれ。東京や欧州で修業した後、チタカ・インターナショナル・フーズ(愛知県北名古屋市)に入社。「パステルなめらかプリン」を開発し、年間最大販売数2700万個という大ヒットを記録した。2008年退社し、プリンを専門にネットで販売する「スイーツマジック」を共同出資で設立、1個600円の高級プリンが話題に。09年に退社し、出身地である岐阜市に株式会社「菓子道」を設立。洋菓子店「プルシック」を10年9月、同市に開店した。「シンプル&ベーシック」をとことん追求した「TOKOROプリン」が人気を博し、テレビや雑誌などでたびたび紹介されるなど話題に。現在は、全国30か所以上の「ご当地プリン」もプロデュースしている。本書『とことん、「一点だけ」で突き抜ける』が初の著書となる。

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(株式会社 菓子道代表取締役 クレーム カラメリエ 岐阜の小さなお菓子屋さん「プルシック」オーナーシェフ 所 浩史)

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