習近平もお手上げ…34億人分の在庫を抱えた「中国のマンションバブル」の行き着く先
プレジデントオンライン / 2022年1月31日 15時15分
■未完成の物件=鬼城に住む人が増えている
中国で“鬼城(グェイチョン)”と呼ばれるゴーストタウンが急増している。武漢市にある“江南世家”と呼ばれる高層マンション群では、建設がストップして未完成のままマンションが放置された。そのうち3分の2程度が売約済みといわれる。
マンション購入者の増加には、家賃の支払いと住宅ローンの返済負担から逃れるため未完成のマンション=鬼城に住む人が増えている。鬼城の住人の生活環境はかなり厳しい。鬼城問題は、共産党政権の主導で膨張した不動産バブルが、現在、崩壊の真っただ中にあることを意味する。
世の東西を問わず、バブルが崩壊すると経済全体でバランスシート調整と、不良債権処理が不可避になる。今後、不動産デベロッパーの資金繰りはさらに悪化し、未完成のまま中断される不動産開発案件が増えるだろう。鬼城はこれからも増える可能性が高い。
住宅の引き渡しなどをめぐる、不動産業者と購入者のトラブルも増加するなど鬼城問題は、さらに深刻化が予想される。それは共産党政権の求心力に、無視できないマイナスの影響を与えることになるはずだ。
■100万人が住める巨大マンションを建てたが…
鬼城とは、不動産開発の行き詰まりによって未完成で放置されたり、入居者が集まらずに廃れたりしたマンション群や地域を指す。実際に必要とされる以上に供給され、買い手がつかない建物群が鬼城だ。いつから鬼城が増えたかは諸説ある。2010年ごろから鬼城問題は顕在化し始めたようだ。
有名な鬼城は、モンゴル自治区オルドス市の康巴什(カンバシ)新区だ。2000年代初め豊富な石炭埋蔵を背景に経済開発が急加速し、100万人の収容能力を持つカンバシ新区が造成された。地方政府は民間デベロッパーに土地(土地の利用権)を売却し、デベロッパーは大規模な住宅建設に乗り出した。それにより、中央政府が課した経済成長率などの目標を達成した。大規模なマンションには、転売目的の投資家が殺到した。
■マンションの供給量が全人口の2倍超に
一時、オルドス市の経済成長率は年率20%を超えた。高い成長が続くとの期待を根底に、“買うから上がる、上がるから買う”という強気心理が連鎖して、オルドス市の不動産バブルは膨張した。
転機となったのがリーマンショックの発生だ。共産党政権は4兆元(当時の邦貨換算額で57兆円程度)の経済対策を実施し、石炭生産が急増した。供給過剰によって石炭価格は急落し、オルドス市の不動産バブルははじけた。デベロッパーや不動産投機家は撤退し多くのマンションが未完成のまま放置された。2014年ごろ、100万人が住めるカンバシ新区の人口は10万人程度だった。
それは、中国で実際の需要を無視して過剰に不動産開発が増えた一つの例だ。カンバシ新区が鬼城化した後も、共産党政権は不動産投資を積み増して10%程度の高い成長率の実現を目指した。党の指揮の下で不動産価格は上昇し続けるという、根拠なき熱狂が経済全体を覆い、投資用マンションは過剰に供給された。2016年に国営新華社通信はマンション供給量が34億人分と、人口(約14億人)の2倍超に達したと報じた。
その後、2020年8月に“3つのレッドライン”が実施されて不動産デベロッパーの経営体力は急速に低下している。鬼城が増えるのは不可避の状況であり、不動産バブルは崩壊の真っただ中だ。
■内装が施されておらず、電気がつかない部屋も
懸念されるのは、鬼城に住まざるを得ない人の増加だ。鬼城の住人は経済的にも、精神的にも窮状に陥っている。インターネットで鬼城を画像検索すると、その一端が垣間見られる。部屋は内装が施されていない。窓枠にはガラスがはめられていない。住人はコンクリートむき出しの床、壁と天井に囲まれ、無機質なコンクリート上に布団を敷いたり、テントを張ったりして生活をする。
水道や電気が引かれている鬼城もあるが、未完成の物件が多いために日常の生活を送るには困難が多いようだ。
まきや簡易コンロで暖をとって生活をする人もいる。照明は日光、もしくは懐中電灯というケースもある。衛星写真を見ると、団地と近隣の町をつなぐ道路など社会インフラが未整備な鬼城も多い。消防設備が整備されていない鬼城も多いようだ。余裕があれば家を借りて安心・安全な生活環境を確保することはできるだろう。しかし、実際には景気減速によって雇用・所得環境が悪化し、鬼城に住まざるを得ない人が増えているようだ。
■借り入れができず、未完成で売却もできない
鬼城に住む人と不動産業者間のトラブルも増えている。住人の中には、不動産業者や地方政府にだまされたと考える者がいる。途中で建設がストップしたまま放置され、契約通りのマイホームを手に入れることができなかった。それにもかかわらず、ローンは返済しなければならない。マイホームを手に入れることは、多くの人にとって夢だ。だまされたという心理が強まるのは無理もない。建設から30年近く経過した鬼城もある。
住人は高齢化し、新しい物件購入の資金を追加で借りることは難しい。建設が終了していないため、その物件が自分の所有物であることを証明できず、売却を行うことも難しいようだ。断熱も、換気も、上下水道も未整備な住居での生活は過酷だが、家計の支出の抑制や風雨をしのぐために鬼城に住むしかないというのが彼らの本音だろう。倒壊が懸念されるほどに老朽化する鬼城も増えているようだ。
鬼城に住む人の窮状に共産党政権は危機感を強めている。鬼城問題の解決に向けて、共産党政権はオルドス市に有名進学校を強制的に移転させてマンション需要を喚起した。一部では鬼城に買い手がついたようだ。しかし、それは中国全体でのマンション供給過剰の是正には程遠い。
![林立している中国の建設現場](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/4/670/img_94701d73c835c5e9823552050bd94e4a495022.jpg)
■不動産バブルがいよいよ本格化する
今後、鬼城問題は深刻化する可能性が高い。伸び率は鈍化しているが、2021年12月の中国70都市の住宅価格は前年同月比で2.6%上昇した。中国全土で住宅価格の下落が鮮明化すれば、不動産市場では投げ売りが急増するはずだ。“売るから下がる、下がるから売る”という弱気心理が連鎖し、景況感は急速に悪化するだろう。
共産党政権は一部の融資規制を緩和したり追加利下げを行ったりして不動産市況の悪化を食い止めようと必死だ。習政権は地方政府に住宅購入や建設を支援するよう指示も出している。しかし、土地売却収入の減少によって財政状況の悪化や財政破綻に陥る地方政府は増えるだろう。不動産バブルの崩壊は本格化し、経済全体でのバランスシート調整と不良債権処理の推進は不可避になるだろう。
■中国共産党政権の失策の象徴である
その結果、鬼城はこれまでを上回るペースで増加する恐れがある。不動産市況の悪化は中国の雇用・所得環境の悪化に直結する。鬼城に住まざるを得なくなる人が急速に増える展開は否定できない。不動産業者や地方政府と鬼城化した物件の購入者のトラブルも増えるだろう。
すでに中国では、不動産業者が資金をかき集めるために重複販売を行ったり、販売用の物件を担保として銀行やシャドーバンクに差し入れたりしていたことが発覚している。鬼城の住民が不動産業者などにだまされたとして訴訟を起こすケースは増えるだろう。
鬼城問題の深刻化は、社会心理を悪化させ共産党の求心力低下につながる。窮状に陥る鬼城の住人や購入者の増加を食い止めるために、共産党政権はこれまで以上に民間企業への締めつけを強め、不動産業者は資産の切り売りを急ぐだろう。それは不動産市場の悪化に拍車をかけ、鬼城のさらなる増加につながる恐れがある。
共産党政権がセメントや鉄鋼生産、雇用を増やすために不動産投資を頼り、それによって経済成長率を人為的にかさ上げした代償は大きい。鬼城問題はその象徴だ。
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法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)
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