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「単純労働はどんどん消えていく」アメリカの高校で教えられる"本当に怖い失業の話"

プレジデントオンライン / 2022年2月19日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/baona

失業者の増加は社会にどんな影響を与えるのか。アメリカで高校生に経済学を教えるデーヴィッド・A・メイヤーさんは「失業は大きく3つに分けられる。もっとも厄介なのは不景気のときに発生する『循環的失業』だ」という――。

※本稿は、デーヴィッド・A・メイヤー『アメリカの高校生が学んでいる経済の教室』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

■失業は3つに分けられる

失業にはさまざまな種類があり、経済学者は分類の理由を定性的に定義している。「定性的」とは、数値化できない要素の「性質」に着目して分析することだ。

失業は大きく3つに分けられる。本人にとっても経済にとってもプラスになる失業、本人にとっては災難だけれど、経済にとってはプラスになる失業、そして本人も経済にもマイナスになる失業だ。それぞれ「摩擦的失業」、「構造的失業」、「循環的失業」と呼ぶ。次から、それぞれがどのようなものかを説明していく。

■「失業率0%」は経済にとって悪いこと

摩擦的失業

失業率が0%になるのは、経済にとっていいことなのだろうか? それとも悪いことなのだろうか? 答えは、ほぼ間違いなく「悪いこと」だ。

働く意思があり、すぐに働ける状態であっても、新しく労働市場に参入するときや、前の仕事を辞めて次の仕事を探しているときなどに、一時的に失業の状態になることもある。この状態が摩擦的失業だ。働き口があり、働きたい人がいるからといって、仕事と労働者が自動的にマッチングされるわけではない。摩擦的失業と呼ばれるのは、両者がマッチングするまでにさまざまなハードル(摩擦)があるからだ。

適材適所の仕事にきちんと就くまでには時間がかかる。そして仕事と労働者が正しくマッチングすると、本人にとっても社会にとっても利益になる。機械工学の仕事に適しているのはエンジニアであり、トリマーではないということだ。

摩擦的失業率は元々それほど高くない。テクノロジーの発達によって職探しの時間が短縮された結果、以前と比べてさらに低くなっている。オンラインの職探しが可能になり、さらにSNSも登場したおかげで、多くの労働者は職探しの時間を短縮することができた。

摩擦的失業率が国によって違うのは、政府によるインセンティブが原因になっている。手厚い失業保障がある国は、次の職に就くまでの時間が長くなる傾向があり、そのため摩擦的失業率も高くなる。

■新しいテクノロジーの登場で仕事を失う労働者がいる

構造的失業

構造的失業が起こるのは、求職者のスキルが労働市場で要求されていないときだ。それは地理的な理由かもしれないし、あるいはスキルが古くなったのかもしれない。たとえば国内のある地域で、ある産業が衰退する、あるいは他の地域へ移転すると、その産業で働いていた人は仕事を失うことになる。仕事を求めて他の地域へ移転することもできないかもしれない。その結果、市場で要求されなくなったスキルを持つ労働者が誕生する。それらの労働者は、再訓練を受けるか、そうでなければスキルの必要ない低賃金の仕事に就くしかない。

構造的失業は、経済学者のヨーゼフ・シュンペーターが「創造的破壊」と呼ぶものの結果であることが多い。技術革新が起こると、古いテクノロジーや産業は破壊され、浮いたリソースが新しいテクノロジーや産業に活用されて新しい創造につながるというのが、創造的破壊の考え方だ。

たとえばパソコンの誕生は、タイプライターにとっては死刑宣告に等しかった。新しいテクノロジーが進歩すると、古いテクノロジーと産業は破壊される。タイプライターを修理するスキルを持った労働者は、自分たちのスキルがもう求められていないことを悟り、自分たちの仕事が永遠に失われたという現実に直面する。

ヴィンテージタイプライター
写真=iStock.com/Rouzes
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rouzes

そして破壊の次は創造だ。新しい産業で新しい仕事が創造される。労働者にとっての問題は、自分のスキルが新しい産業で応用できないかもしれないということだ。教育と再訓練が、構造的失業を解決するカギになる。

■「効率賃金」が構造的失業率を高める

構造的失業が存在するもう1つの理由は、労働市場に「効率賃金」が存在することだ。効率賃金とは、市場の需要と供給で決まった均衡賃金よりも高い賃金のことをさす。

効率賃金の目的は、労働者の生産性を向上させることだ。効率賃金を稼いでいる労働者は、同業他社に転職したら今と同じ賃金はもらえないということを知っている。そのため、「今の会社でもっと生産性を高めよう」と考えるのだ。

効率賃金は、労働市場により多くの人を呼び込む効果もある。しかし、彼らは効率賃金に惹かれてやってきたのであり、それよりも低い均衡賃金で働く気はない。その結果、彼らの存在が構造的失業率を高めることにもなる。労働市場により多くの人が参入してきたら、スキルの低い労働者は競争相手が増え、失業率が上昇するだろう。

■景気後退期に失業率が上昇する原因

循環的失業

循環的失業は3つの失業の中でもっとも厄介だ。循環的失業の原因は景気の循環であり、不景気のときに発生する。自発的な失業でもなければ、スキルのミスマッチが原因の失業でもない。景気後退期に失業率が上昇するのは、つねに存在する摩擦的失業と構造的失業に、さらに循環的失業も加わるからだ。循環的失業の本当の問題は、悪循環を生んでしまうことだ。あるグループが循環的失業者になると、彼らは支出を切り詰める。そして支出の落ち込みが不景気に拍車をかけ、さらに循環的失業者が増えるのだ。世界恐慌の時代に失業率が25%まで上昇したのは、この悪循環が原因だとされている。

ディテールの男性のショッピングのスーパーマーケット
写真=iStock.com/Minerva Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Minerva Studio

循環的失業が起こると、政策担当者は財政政策や金融政策で対処しようとする。それに加えて、失業手当などの社会保障によって失業者の購買力を支え、悪循環を回避するという手もある。このような社会保障や累進課税制度など、景気変動を安定させるために財政自体に備わっている装置を「オートマティック・スタビライザー」(自動安定装置)と呼ぶ。究極的に、ここで政策担当者が目指すのは、循環的失業を一掃することだ。

■経済にとって最高の状態「完全雇用」

経済が最適の能力を発揮して生産し、景気が過熱することも、大きく落ち込むこともない状態なら、その経済は「完全雇用」の状態だと考えられる。完全雇用とは、ある経済に循環的失業がまったく存在しないことだ。これが経済にとって最高の状態であり、すべての政策担当者の目標でもある。

完全雇用と対をなす概念が「自然失業率」だ。これはともにノーベル賞を受賞した経済学者の、ミルトン・フリードマンとエドムンド・フェルプスが提唱した仮説であり、「長期的には、インフレ率に関係なく経済にはある一定の失業が存在する」と考える。つまり、経済は放っておけばほぼつねに完全雇用を維持し、同時に自然失業を経験するということだ。

自然失業率は一定ではない。摩擦的失業率、あるいは構造的失業率が変化すると、自然失業率も変化する。職探しの時間を永続的に短縮するテクノロジーが登場すれば、摩擦的失業率と自然失業率の両方が低下するだろう。

失業手当が永続的に変化すると、それが手当が増えて失業期間を長くする変化であっても、あるいは手当が減って失業期間を短くする変化であっても、やはり自然失業率に影響を与える。また、労働者の生産性が継続的に向上すると、自然失業率は低下する。

■失業率はGDPに影響する

失業は経済にとっても個人にとっても計測可能なコストになる。アメリカのように経済の規模が大きな国では、失業の機会費用は莫大だ。失業した労働者は生産する能力を失う。経済学者のアーサー・オーカンによると、公式の失業率が自然失業率を1%上回るごとに、実際の実質GDPと潜在的な実質GDPの間に2%の開きができるという(潜在的なGDPとは、今ある生産要素を最大限に使ったと仮定した産出量のこと)。

人的資源
写真=iStock.com/Andrii Yalanskyi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Andrii Yalanskyi

2009年の数字を見てみると、実際のGDPは14兆ドルで、失業率は10%だ。自然失業率を5%とすると、実際のGDPは潜在能力よりも1兆ドルから2兆ドルも低いと考えられる。ちなみに2兆ドルという数字は、フランスのGDPとほぼ同じだ。

■DVや育児放棄が増え、犯罪や暴動も増加する

個人が負担する失業のコストも同じように甚大だ。失業が長引くと、貯金が底をついて借金生活になってしまうかもしれない。失業は人生で大きな出来事であり、普通の生活が断たれてしまう。その状態が長引けば、影響を受けるすべての人の心身の健康も損なわれるだろう。また、DVの発生件数と失業率は明確な正の相関関係にある。さらにつけ加えると、失業率が高い期間は離婚率が上がり、育児放棄も増える。

失業が国全体に広がり、長引くと、やがて犯罪や暴動の増加につながる。失業率がつねに高い地域は、暴力犯罪や窃盗が多い地域でもある。アメリカの都市部の貧しい地域に行けば、それがよくわかるだろう。発展途上国における社会不安の多くも失業率と関係がある。仕事のある人が、休暇を取って暴動に参加したり、何かを爆破したりするようなことはめったにない。どうやら失業は、世界を悩ませる問題の多くを発生させるのに必要な条件になっているようだ。

■単純労働者が仕事を見つけるのは困難になってきた

歴史をふり返ると、アメリカ経済は大きな変化を何度か経験してきた。建国したばかりのアメリカは農業国で、ほとんどの市民が農業に従事していた。そこに産業革命が起こり、工場で働く労働者が誕生する。そして現在、ほとんどの仕事はサービス産業で生まれている。農業と製造業が中心的な産業ではなくなるにつれ、そこでの仕事もどんどん少なくなってきた。経済のグローバル化の結果、多くの単純労働は国外に移転し、アメリカ人の単純労働者は仕事を見つけるのが困難になってきている。

市場で求められているのは、生産性の高い労働者だ。持っているスキルが高いほど、あるいは多いほど、その労働者の需要は高くなる。労働市場で競争力を保つには、同じアメリカ人の労働者だけでなく、世界の労働者を相手に競争しているという自覚が必要になるかもしれない。

■男性の失業率は、女性よりも高い

デイヴィッド・A・メイヤー著、桜田直美訳『アメリカの高校生が学んでいる経済の教室』(SBクリエイティブ)
デイヴィッド・A・メイヤー『アメリカの高校生が学んでいる経済の教室』(SBクリエイティブ)

かつてのアメリカでは、高校を卒業して工場に就職すれば、それだけで高い給料をもらうことができた。しかし、そういう時代はもう終わってしまった。グローバルな労働市場で競争するには、教育や訓練で高いスキルを身につけ、転職をいとわず、労働者に対するニーズの変化に柔軟に対応しなければならない。

性別、年齢、居住地、学歴、職業、所得などの人口統計学的な属性のことを「デモグラフィック」という。失業をデモグラフィックという観点から見てみると、ある明確な傾向があることがわかる。たとえば、男性の失業率は女性よりも高い。白人の失業率はヒスパニックよりも低い。ヒスパニックの失業率はアフリカ系アメリカ人よりも低い。若い労働者は年配の労働者よりも失業しやすい。教育を受けた労働者が失業する確率は、中退者のそれよりもはるかに低い。

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デーヴィッド・A・メイヤー 高校教師
テキサス大学サンアントニオ校で教育心理学の博士号を取得。高校教師として学生に経済学を長年教える。2004年以来、教えを受けた学生の400人以上がAP経済学試験で大学の単位を取得。高校教師として指導する傍ら、アメリカ合衆国における大学入試の標準テストのひとつであるSATや、アドバンスト・プレイスメント、APプログラムと呼ばれる高等教育カリキュラム等の策定・運営を行っている非営利団体・カレッジボードにおける高校生向け経済学のカリキュラムのコンサルタントを長年務めてきたキャリアも持つ。

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(高校教師 デーヴィッド・A・メイヤー)

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