「やられても、やりかえすな」リアル半沢直樹で退社した会社員を待ち受ける残念な結末
プレジデントオンライン / 2022年2月8日 18時15分
■退職には3パターンある
こんにちは。僕はフミコフミオ、食品会社で働く営業職の中間管理職だ。
今回は退職の話をしたい。
退職の話題は、転職を通じたステップアップといったポジティブなものと、上司への怨念や過酷なノルマといった現職への不満が原因のネガティブなものの2種類があって、そのほとんどが辞めていく側の人間が語るものだ。
そのため退職の話題では、辞めていく人間が主で(例外もあるが)、残される人たちが従になりがちだ。
だが、実際に退職というイベントにおいては会社を辞めていく人間と会社に残る人間はイーブンの関係である。
見方によっては、残る人間のほうが主となる。当たり前だ。
社員ひとりが退職しても、職場や仕事は続いていくのだから。だからあえて今回の退職の話は、退職していく人間が残る人間に対して何ができるか。そしてそれが退職する人間自身にとってどれだけ有益なのか、そういう視点でお話しする。
僕は新卒で社会に出てから25年ほど会社員生活を続けている。数えきれないくらい多くの上司や同僚の退職に立ち会ってきた。そのなかで退職には3パターンあることに気付いた。
■なぜ営業職は引き継ぎがおろそかなのか
➀きれいな退職
②汚い退職
③普通の退職
この3パターンだ。
➀きれいな退職とは後任のために引き継ぎを完璧にやって去っていく退職。
②汚い退職とは、在職中に受けた仕打ち等と原因とする怨念によって会社にダメージを残す意図をもって、「引き継ぎをしない」、あるいは人間性を疑うような「あえてまちがった引き継ぎをする」ような退職を指す。
③普通の退職とはダメージを残さないが「引き継ぎ」もなされない退職である。
営業職だったからかもしれないが、②汚い退職や③普通の退職が実に多かった。引き継ぎがされている➀きれいな退職は数えるほどだ。
引き継ぎといっても、担当していた企業の担当者を紹介するとか、そのレベルで終わっていて、例えば業務引き継ぎ書というカタチで残した人は皆無である。
営業職の特性で、特に同業他社へ転職する場合は、それまで築き上げてきた顧客や見込み客を「お土産」として持っていくケースが多かったのだ。
![退職願](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/1/670/img_91a756dbff9be0b6d82eeb8ad5141d16346114.jpg)
■退職する人の意識はすでに次の職場にある
②の汚い退職については論外だろう。僕の個人的な意見ではあるが、残していく人に爆弾を置いていく人は、そういう考え方に至る人格・性格も、職場でうまくいかなかったことの一因であると思われる。
イヤな思いをさせられたからムカつく。仕返ししたいという感情は正しい。だが、その感情にとらわれてイヤな思いをさせられた相手と同じレベルのことをしているようでは同じ穴のむじななのだ。
数年前に「やられたらやり返す」の『半沢直樹』がヒットしたのは、やられてもやり返せない現実、つまり、やられてもやりかえさない自尊心ゆえのはがゆさが背景にあったからだ。
やりかえしたくてもやりかえさない、その裏で蓄積された、働いている人間なら誰でも蓄積しているであろう鬱屈を爽快なドラマで爆発させたから、半沢直樹はヒットしたのである。
③の普通の退職。引き継ぎと呼べる行為をともなわない退職が僕の経験では圧倒的に多い。厄介なのは退職する当人は引き継ぎ済みと考えていること。
そういう人いませんか?
「A社の担当者は余裕だから」「引き継ぐまでもないよね」という軽い言葉で引き継いだつもりになって、いざ、A社とコンタクトを取ろうとしても取れなかったり、引き継ぐまでもないことがふたを開けたらとんでもない状況になったりしていたことが。
一から十まで引き継ぎをする必要はない。だが、後任が大混乱しない程度の引き継ぎはしてほしい。
このような事態が起こるのは、退職する人間の意識がすでに次のステージに移っているからである。
■「感情」が引き継ぎのモチベーションを下げる
明るい未来を重点的に考えていれば、去っていく場所のことはおろそかになってしまう。うまくいっていた職場や関係良好であった同僚たちが相手でもおろそかになる。ハラスメントを受けた職場や顔を見るのも嫌な上司が相手ならなおさらである。目を背けたくなる。
僕らには感情がある。ポジティブなものであれ、ネガティブなものであれ、強い感情に行動は影響を受ける。
キャリアアップを考えてウキウキになっているのに踏み台にする元の職場に配慮できるか?
出社するのも嫌だったハラスメント職場から、やっとの思いで脱出できるのに、その職場が円滑に動くように詳細な引き継ぎ書を作れる?
無理である。感情を持っている僕らには、なかなか難易度が高い。
僕の最初の転職は、まったく異なる業界への転職だった。運輸系から食品系。苦戦も予想したが、思いの外スムーズな転職になった。営業職の中途入社で、期待された数字は出せたと自負している。
スムーズな転職ができた要因は、いろいろな要因が思いつくけれども、退職がうまくいったことが大きかった。うまくいったのは、もめるような辞め方にならなかったとか、引き継ぎが万全だったとか、そういうレベルではなく、次の仕事(僕の場合は違う業界だった)で働くことを想定した退職「活動」ができたからだ。
■書くことで感情といったん距離を置いた
僕のアイデアではない。僕より前に退職した先輩が、退職していく際に次のステージを考えた退職活動をしていたのを参考にしたのだ。
引き継ぎを過不足なくやりきったうえで、世話になった取引先や見込み客、一緒に仕事をしてきた同僚たちへの挨拶に加えて、在籍時に一度だけ取引した業者の担当者や一度だけ一緒にプロジェクトをやっただけの社内の関係者といった、顔と名前が一致するかどうか怪しい人物まで、退職にかこつけて挨拶をしていったのだ。
丁寧な退職活動であった。その先輩が過去の手帳をチェックして、退職面会リストを作成し、それに忠実に履行していたのが強く印象に残っていた。その先輩が別の業界でも営業マンとして活躍できた理由は、丁寧な退職活動にあったのは間違いないだろう。
とはいえ辞めていった先輩が、職場に対する不満がゼロだったわけでも、次のステージのことを考えてふわふわしなかったわけでもない。
彼は感情を切り離すのではなく、感情といったん距離を置いたのだ。その方法が書くこと、手帳への書き出しであった。挨拶すべき人のリストアップに加えて、在職中に関わった仕事をすべてリストアップしていた。退職転職時は、実績になるような「うまくいった仕事」に注目しがちだ。だが、あえて、うまくいかなかった仕事もリストアップして、当時のエピソードを抽出しておくと、失敗を糧にできるようになる。
■実績にならなかった仕事も書き出してみる
さらに僕は、退職時に挨拶をする前に、一緒に仕事をした際のエピソードを交えた「退職挨拶ストーリー」を簡単に作っておいた。次につなげるために、「お世話になりました」のひとことで済ませる挨拶を回避したのだ。送り出す側に立つと「お世話になりました」だけで終わってしまうとまったく印象に残らないものだし、人によっては「たったひと言かよ」と面白く思わない人もいる。僕がそういう人間だった。ストーリーを作ることで、自分を客観視して、うまくいかなかった仕事や関係も消化できる。
僕は退職を決めたときから、在籍時からの活動を振り返って、一緒に働いた人物と、関わったプロジェクトを書き出していった。リストアップとストーリーを書き出すことによって、退職に至るまでの感情的なしこりは制御できるレベルまで抑えることができた。
転職の際に在職時の実績や成果をまとめる人は多い。ネットにアップされる「退職エントリー」は人気のコンテンツである。そこから一歩進めて、実績にならなかった仕事、記憶から抜け落ちていた業務に関連したものを書き出して整理することをお勧めしたい。
■別業界に転職しても活躍できたワケ
僕の場合、退職の時点で次の職場が決まっていなかった。ぼんやりと別の業界で働きたいと思っていただけだ。ツテもコネも展望もなかった。だが、社内社外問わず、一度仕事を一緒にしたことのある人たちまで、退職をきっかけに挨拶をしたことで、つながるきっかけができた。
そのきっかけをもとに食品業界というまったく別の業界に移っても、見込み客を増やすことに成功した。働く場所や業界が変わってしまえば、前職時に濃い関係ではなかった人たちと違う立場で接する可能性がある。見込み客にも満たなかった人が、最重要見込み客になることだってある。
このように僕は別業界へ転職したあとも、スムーズに仕事ができたのは、退職の際に丁寧な退職活動をおこなったからである。その際にあらためて確認した人間関係や仕事を掘り起こしておいたので、転職後にその掘り起こしをきっかけに、新規開発をすすめることができたのだ。
僕は運輸から食品業界へ転職した。業界が変わると営業をかける対象が変わる。最初に任されたターゲットが社員食堂だった。コネはなかった。社員食堂は福利厚生カテゴリーだったので切り崩し方もわからなかった。担当者も営業担当から総務人事になるので、前職で積み上げたコネは役に立たなかった。最初の1年での成約は難しいと同僚に言われた。
■前職の人脈が現職で生きた
中途入社で成約ゼロは絶対に避けたい。途方に暮れた僕は、退職活動の際に掘り起こしていた運送センター、物流センターの責任者に連絡を取り、出入りするドライバーをつてに新規開発を行った。名刺とパンフを総務人事に渡すようにお願いしたのだ。物流拠点はさまざまな会社が出入りするので、移動することなく効率的に新規開発をすることができた。その結果、転職3カ月で製薬会社の子会社(物流)の契約を勝ち取ることができ、食品業界でやっていく基礎と自信を得られた。もし、退職時に掘り起こしていなかったら、運送センター、物流センターに入りこむことは許されなかっただろう。
![フミコフミオ『神・文章術 圧倒的な世界観で多くの人を魅了する』(KADOKAWA)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/7/200/img_f725614147c51d2e8c91a2ec51c125f2357768.jpg)
結局のところ、未来を切り開くヒントは、それまで歩いてきた自分の時間のなかにある。
退職というイベントでは、感情が高ぶってしまうなどして、ヒントが見えなくなっている。落ち着いて書くことによって僕らは感情をいったん落ち着かせて丁寧さを得られるようになる。
今、退職を考えている人は、引き継ぎをしっかりやる、世話になった人に挨拶をする、といった通常の引き継ぎに加えて、一見さん的な付き合いしかない人にも退職をきっかけに挨拶をしておくことや、関わったプロジェクトで没にしたアイデアなどを見つけておくことが、未来を切り開くことにつながるのだ。その際に障害になるのは、僕らが持つ感情である。
「こんな会社に!」「世話になっていない人に挨拶しても」という感情を切り離すためには、書くことで冷静さを取り戻すことが有効なのだと僕は考える。
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ブロガー
1990年代末からネット上に文章を発表し始め、食品会社に勤務する普通の会社員でありながら、著名人をおさえてブログの読者登録数はトップクラスを誇る。「書くことで平凡な日常を特別なものに変えられる」を信条にネットに文章を書き続けている。目標は、誰もが他人の目を気にせず自分の言葉で語れるような真の自由があるネット社会の実現と、普通の人がブログやSNSに書くだけで充実した人生を送れるようになる土壌をつくること。
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(ブロガー フミコ フミオ)
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