「このままでは維新にこてんぱんにやられる」菅直人元首相、突如の"ヒトラー投稿"の真相
プレジデントオンライン / 2022年2月6日 11時15分
■最初はそれほど話題になっていなかった
始まりは、1月21日午前11時45分、菅直人元総理(以下敬称略)がツイッターにこう書いたことである(以下、ツイートは正確を期すため、それぞれ全文をそのまま引用する)。
21日時点では、それほど話題になっていなかった。
だが、維新側が過剰な反応を示したために、多くの人が知ることになった。
松井一郎代表のツイッター上でのこの問題への最初の投稿は22日午後6時03分で
立憲は敵と思えばなんでもありという事ですか?
正式に抗議致します。】
一方、名前を出された橋下徹は、23日午後0時57分に
と、問題にはするが、撤回や謝罪を求めることはしていない。この問題を大きくしたくない様子だった。
■「謝罪するつもりはない」大騒動へ…
これらを受けて、ツイッター上では、維新も民主党政権を「ヒトラー以上」と言ったことなどが指摘される。
菅直人の発言は国際的にも問題はないとの声も多く寄せられた。
菅直人はそこまで計算していたわけではなさそうだが、「維新」を問題のある政党だと可視化することになった。菅直人はこの要求に対し、「謝罪するつもりはない」「維新と闘う」と書いて、大騒動となっていく。
24日夜には「#菅直人元首相を支持します」のハッシュタグが登場し、これを付けたツイートは25日昼には3万を超え、トレンドのトップになっていた。
菅直人はこれを受けて、25日午後0時55分に、
とツイートした。たちまち、これへの激励のツイートが寄せられた。
■なぜ維新批判を始めたのか
維新も黙っていない。26日には馬場伸幸共同代表名義の、立憲民主党の泉健太宛ての抗議文が党本部に届けられた。これに対し、菅直人は同日17時58分に
さらに27日午後8時11分には
維新との闘いで、リベラル派は軟弱と見られていると痛感。私は改めて「闘う(たたかう)リベラル」であることを宣言する。私は学生時代からのリベラル派。ゲバ棒を持った対立グループに取り囲まれたが、要求された自己批判は断固拒否した。今回の維新の脅しは私には通用しない。】
菅直人は、なぜ、維新批判を始め、維新と闘う姿勢を明確にしたのだろうか。
昨年10月の総選挙で、菅直人は東京18区で勝ち、14回目の当選を果たした。
12月に支持者へ向けた報告会が開かれ、その場で菅は、次の総選挙には立候補しないことを明らかにした。75歳という後期高齢者になったことが最大の理由だろう。
今期限りとなれば、誰もが「後継者は?」と思う。現在、菅直人の長男・源太郎は政策秘書を務めている。彼はこれまでに2回、岡山の選挙区から立候補して落選しているので、「議員になる気」はありそうだと思われても仕方がない。
普通なら、いよいよ息子に譲ろうとなるが、「世襲」批判をしてきたので、そういうわけにはいかない。
その報告会の場で、源太郎が後継者として東京18区から立候補することもないと、明言した。
政治家が引退を決めて表明するのは、ほとんどの場合、選挙の直前である。当選した直後に、「もう次は出ない」と宣言するのは珍しい。
![国会議事堂](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/c/670/img_0c0e565ef4e334847d2bd0cdbc19e55a416936.jpg)
■怖いものがなくなった
「今期限り」と決めたことで、菅直人は「怖いもの」がなくなった。政治家にとって最も怖いのは「落選」だ。もう選挙に出ないのだから、落選しようがない。
ふっきれたように、「残り2年か3年かわからないが、完全燃焼しよう」と、そういう気分に満ちていた。
2011年に総理を辞めたときも、そうだった。「何年かたてば、また、菅さんに総理を、となる時がきますよ」という半ば社交辞令的なことを言われても、「もう総理大臣はやりません」と明言していた。
そして、「総理を目指さないと決めたからこそ、『原発ゼロ』を堂々と言える」とも言っていた。この先、総理大臣になれるかもしれない若い政治家は、さまざまなところから圧力がかかると思うと、なかなか言えないものらしい。
それは原発に限らない。本当に若い時はずけずけと言いたいことを言っていた政治家が、ベテランになり、内閣や党の要職に就いて総理大臣の椅子が見えてくると、慎重になる例をいくつも見ている。
だが、菅直人はそういう未来を放棄したので、「原発ゼロ」を堂々と言えた。電力会社の労働組合から支援できないと言われても、臆さなかった。
今回は、もう選挙に出ないと決めたので、さらに自由になったのだ。
■立憲民主党の敗因を分析した結果…
当選報告会では、やり遂げたい政治課題として、脱原発・再生可能エネルギーの普及と、大学生の奨学金問題を挙げていた。選挙中もこの2点を訴えていた。
だが、年が明けると、「維新との対決」が浮上した。
昨年の総選挙で、菅直人は小選挙区で勝てたが、立憲民主党全体は負けた。なかでも、大阪の辻元清美の落選は菅直人にとってもショックだったようだ。
菅直人は、自分の勝因と辻元の敗因、そして党全体の敗因を分析した。
その結果、「闘う」姿勢の有無が勝敗を分けたのではないかと思い当たったのだ。
菅直人の選挙区、東京18区での対立候補は自民党の長島昭久だったが、もとは民主党にいて、しかも菅の中選挙区時代の選挙区から、菅の全面支援のもと当選した人だ。
選対内では、長島批判はすべきではないとの声もあった。「元総理なんだから、どっしりと構えていればいい」「ネガティブキャンペーンは日本では効果がない」などの意見もあった。
しかし、菅は長島と闘う姿勢を見せることでしか選挙には勝てないと判断し、演説の1割くらいは長島の政治姿勢を問うた。
それだけが勝因ではないだろうが、小選挙区で勝った。
■次の総選挙でこてんぱんにやられる
一般に、「リベラル」な人びとは闘いを好まない。相手の意見も聞こうとする。なんとか対話で一致点を見いだそうとする。まして暴力は使わない。
それはそれでいい。だが、そのために、右翼的な人びとからの攻撃に対しては沈黙するしかなくなる。沈黙は美徳ではあるが、政治の場では負けてしまう。
相手を罵詈(ばり)雑言して勝った人たちは、敗者に容赦なく罵詈雑言を浴びせる。立ち直れなくするために。
民主党政権が終わってから、どうもそういう風潮が強まっていた。
今回の選挙での維新の躍進を見て、菅直人はこのままでは次の総選挙で、立憲民主党はこてんぱんにやられると直感した。自民党を倒す前に、立憲民主党が維新に倒される。
もちろん、大きな敵として自民党は存在するが、与党なのか野党なのか曖昧な、維新の会こそが当面の敵ではないかと考えた。
次の選挙に出ないと決めたことで怖いものはなくなったが、一方で、残された時間は短い。悔いのない議員生活としなければならない。
立憲民主党の他の議員がやりにくい、維新との闘いを決断した。それが自分の役割ではないかと考えた。
■戦後、最も重い決断を迫られた総理
1月19日、菅直人はツイッターで
と書いた。いわゆる「ヒトラー投稿」はこの2日後だ。
菅直人はいわゆる「団塊の世代」「全共闘世代」である。自身はセクトには入らなかったが、学生運動はしていたので、セクトとは対峙(たいじ)した。万一、襲撃された時に備え、
けがや、場合によっては死が、リアルに身近にあったのだ。
さらに3.11では、首都圏を含めた東日本が放射能に汚染される事態を想定し、決断を迫られている。
口では「国のために命をかける覚悟」などと勇ましいことを言う政治家がいるが、戦後、自衛隊や警察・消防をはじめとする公務員に対し、命の危険があると分かっていて現地へ行くよう指示したのは、菅直人だけだ。自衛隊の海外派遣は、建前上は安全な所にいくことになっているが、菅直人は暴走している原発へ行けと指示せざるをえない事態に向き合い、最も重い決断をした。
しかし、それを自慢することはない。
■維新とは「討論」にならない
27日の「闘うリベラル宣言」の翌日、菅直人に会う機会があったが、「宣戦布告をしたからな」と意気軒昂であった。
維新とは、「公開討論」をしても「討論」にならないと判断している。質問してもはぐらかし、切り返し、まともな議論にならないと踏んでいる。
実際、菅直人が維新の政策にある100兆円規模のベーシックインカムについて財政的に実現可能なのか問うと、音喜多駿議員は説明せず、「公開討論会をやりましょう」と言うだけだ。菅直人はそれに応じる気はない。
いまのところ、維新に対する研究をして、そこでの疑問をツイッターに書き、可視化していく戦術をとるようだ。
また今回の騒動で、菅直人の維新に対する姿勢に賛同している議員も出ているので、連携をとっていくだろう。
2月1日に維新の会共同代表の馬場伸幸が抗議文を持ってやって来ると、同日15時04分、菅直人はこう報告する。
敵を知らなければ闘えない。
まだ研究不足・認識不足なのは否定できず、1月19日のツイートでは、大阪都構想についても細かい点では間違った内容を書き、大阪市長と大阪府知事を間違えたこともあった。
馬場共同代表からも「大阪のことを勉強してくれ」と指摘され、「いま一生懸命勉強してます」と答えていたように、本を読んだり詳しい人から聞いたりして、勉強し、その過程もツイッターに書いている。
「俺は何でも知っている」と威張らないのも、いかにも菅直人らしい。
ツイッターでは揶揄するコメントもあるが、元総理でありながらまったく偉ぶらないのが、菅直人なのだ。
馬場代表が帰った後、維新について詳しい、れいわ新選組の大石あきこ議員と会い、情報交換をしている。
大石は同日19時59分にツイッターに
と書いている。
闘いは始まったばかりだ。
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作家
1960年東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。出版社勤務の後、アルファベータを設立し、2014年まで代表取締役編集長として雑誌『クラシックジャーナル』ほか、音楽家や文学者の評伝や写真集の編集・出版を手掛ける。クラシック音楽はもとより、歌舞伎、映画、歌謡曲、マンガなどにも精通。膨大な資料から埋もれていた史実を掘り起こし、歴史に新しい光を当てる執筆スタイルで人気を博している。
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(作家 中川 右介)
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