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「このままでは日本車は消滅する」和製EVが海外では検討すらされないという現実を見よ

プレジデントオンライン / 2022年2月7日 10時15分

日産の「リーフ」(日産自動車HPより)

電気自動車(EV)を世界に先駆けて発売したのは、三菱や日産という日本の自動車メーカーだった。ところが、現在のEV市場で日本勢の存在感はほとんどない。元東京大学特任教授の村沢義久さんは「このままでは日本車は消滅してしまう」という――。

※本稿は、村沢義久『日本車敗北 「EV戦争」の衝撃』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■「i-MiEV」と「リーフ」で世界をリードした勢いはどこへ

日本市場における電動車の新車販売比率は、PHVを入れても1%にも満たない状況だ。

2009年に三菱が「i-MiEV」を、2010年に日産が「リーフ」を発売して一時は世界をリードしながら、日本は今やEV後進国になりつつある。

一方、世界の自動車メーカーはEVシフトを進めている。2020年におけるヨーロッパと中国における電動車(EV+PHV)の新車販売シェアはそれぞれ7%と5%に達した。

世界全体でも3%を超え、EVはいよいよ本格普及期に入った。その中で日本メーカーだけが置き去りにされつつある。

■「恐竜企業」の進化が続々と始まった

テスラが「ロードスター」を発売してEV時代の幕開けを宣言したのが2008年。それから現在までの12年間、日本メーカーに限らず、既存の大手自動車メーカーの動きは鈍かった。

一時は、日産「リーフ」がトップグループに入り健闘したが、2020年には年間販売台数が前年比で20%も低下した。世界ランキングでも2019年の3位から、2020年には7位まで下がっている。他の大手メーカーはもっと消極的で、EVをほとんど無視したままだった。

潮目が変わったのは2020年秋のことだ。急成長するテスラ、NIO等に対抗して、フォルクスワーゲン(VW)が9月に純粋EV「ID.3」を発売。VWは、わずか3カ月で5万7000台の「ID.3」を売り、メーカー別ランキングでテスラに次ぐ2位の座にまで上がった。

既存の大手自動車メーカーがEV化に本腰を入れ始めた。いわば「恐竜企業の哺乳類化」が始まったのである。

VWから続いて発売された「ID.4」も出足好調だ。アメリカ市場には2021年3月半ばに第1便が到着。さっそく早期購入者からの高評価が聞こえ始めている。

革命の火は大西洋を越えてアメリカにも広がった。一時は衰退企業の代表のように見られていたGM(ゼネラルモーターズ)だが、2021年1月末に内燃機関車廃止に向けた野心的な方針を発表し、評価が急上昇している。GMは、2020年代の半ばまでにEVを30車種投入し、ガソリン車、ディーゼル車を2035年までに廃止するというからただごとではない。

■「日本で売れるかわからない」は間違っている

日本では、いまだに「EVだけが電動車ではない」「HVの方が現実的だ」などと言われることがある。

だが、そんなのんきな議論が交わされているのは、日本が電動車(EV+PHV)の普及率わずか1%程度の「ガラパゴス」であり、外の世界を知らないからだ。

「世界で受け入れられても、日本で売れるかどうかわからない」という意見もあるかもしれない。だが、それは間違っている。

日系メーカーの年間総生産台数は国内、海外合わせて2千数百万台だが、そのうち国内販売台数は500万台程度。世界で売れなくなれば日本車は滅びる。

むしろ、EVが日本で売れなくても、世界で売れるなら、日本車メーカーはEVに舵を切るしかない。

躊躇(ちゅうちょ)する日本メーカーを尻目に、素早く変身しようとしているのが、VW、GM、フォードなど世界の自動車メーカーだ。

VWのEV
『日本車敗北 「EV戦争」の衝撃』より

中でもVWの動きはGM、フォードを凌ぐ激しさだ。

まずは、2021年3月15日、オンラインで開催した「Power Day」の会見の場で、バッテリーへの注力と製造工場の大増設計画を発表した。

続いて6月28日には、2033年から2035年までにヨーロッパで内燃機関車から撤退し、しばらく遅れて米国と中国でも撤退するという目標を発表している。

VWの意気込みは、矢継ぎ早にEVを投入していることからも明らかだ。

■欧州圏で「テスラ超え」したVWの快進撃

コンパクトSUVタイプの「ID.3」は、EV専用に開発されたMEB(Modularer E-Antriebs-Baukasten)と呼ばれる共通プラットフォームを使った「ID」シリーズ第1弾だ(ID=Intelligent Design)。

「ID.3」は2019年9月のフランクフルト・モーターショーで発表され、1年後の2020年9月からドイツ国内で販売開始。人気は上々で、前述のようにわずか3カ月で約5万7000台を販売し、世界電動車年間販売台数ランキング第6位に入った。

ヨーロッパだけなら、テスラ「モデル3」を3割以上引き離し、2020年12月の月間販売台数トップに立った。

バッテリー容量は、「Pro S」バージョンで77kWh(ネット)、航続距離はWLTP基準で550kmという。最も厳しいEPA基準だと490kmぐらいのはずだ。

VWは続いて「ID」シリーズ第2弾となるSUVタイプの「ID.4」を発表。こちらも「ID.3」と同じくMEBプラットフォームを採用している。

「ID.3」は主としてヨーロッパ市場向けだが、「ID.4」はアメリカと中国市場も重視しており、両国での現地生産も計画されている。

こちらも動きは素早く、ヨーロッパでは2020年末から納車開始。アメリカには、2021年3月に第1便が到着した。

「ID.4」にはいくつかのバージョンが用意されているが、最初に発売されたRWDタイプのヨーロッパ向けは、モーター出力146馬力と、168馬力でバッテリー容量52kWh、201馬力で77kWhの合計3バージョンがある。

■「低馬力」こそEVの実力が発揮される

モーター・ジャーナリスト達からは、「201馬力では物足りない」という声も聞こえてくる。だが、筆者の考えは全く逆で、むしろ、146馬力、168馬力くらいの比較的安価なラインにEVを投入する点に、VWの意気込みを感じている。

EVでは400~500馬力の車は珍しくないし、今後は1000馬力のEVも複数モデル発売される予定だ。

しかし、それは、EVの魅力をアピールするための行き過ぎた馬力競争であり、必要性に基づくものではない。

実際、146馬力、168馬力と言えば、このクラスのガソリン車としても普通の馬力であり、実用上は問題ないはずだ。

むしろこの程度の比較的低馬力の車でこそEVは実力を発揮する。モーターは低回転域で強いトルクを発揮するので、数字上は低馬力でもキビキビとした走りを実現できる。おそらく日常の足としては十分なはずだ。

■自前のバッテリー生産工場も建てる本気ぶり

もちろん、低馬力の車は価格も安い。この比較的安く手に入る「普段着感覚のEV」でこそ、名車「ビートル」以来の、VWの強みが発揮されるだろう。

「ID.4」の出足は予想通り順調だ。2021年1月~5月までに2万6000台余りを売り上げ、世界の電動車販売ランキングで4位につけている。

6位には「ID.3」が入っているので、VWのEV戦略は的中したと言える。VWは今後一番小さい「ID.1」から最大型の「ID.9」までラインナップすると見られている。

VWの本気度はバッテリーへの注力ぶりからも感じ取れる。

VWは全固体電池を開発するアメリカのベンチャー、クアンタムスケープ(QS)に300億円を出資。経営幹部も、「30年までにVWグループの車両の80%にソリッドステートバッテリー(全固体電池)を使う予定」などと発表している。

加えて、2030年までにVW独自の6つのバッテリー生産用ギガファクトリーを建設するという。

「6工場合わせて年産240GWhを目指す」とのことだが、EV1台当たり100kWhずつ搭載したとしても240万台分、50kWh搭載なら480万台分にも相当する。

自前で電池工場を持ち、バッテリーの技術や生産規模を管理しようというVWの強い意気込みが感じられる。

■火力発電で走るEVはエコではない?

「EV化で車のCO2排出をゼロにしても、火力発電の電力で走っていればCO2削減にならない」という意見があるが、これはその通りだ。

国内のCO2全排出量のなかで、自動車が占める割合は約16%。一方、最も排出量が多いのは発電部門で、40%以上を占めている。

したがって、自動車と並行して発電のゼロエミッション化も同時に進めねばならない。

日本の総発電量に占める比率を見ると、原子力発電は福島第一原発事故の影響で約3%に落ちている。その分火力発電が増え、80%を超えている。一方、水力を含む再エネは10%を少し超える程度だ。

しかも、日本は火力発電に占める石炭の比率が大きく、世界から非難を浴びている。2021年11月に開催されたCOP26で、日本は化石賞(Fossil Award)を受賞した。

■「電源の問題は政府の仕事」という姿勢はダメ

化石賞とは、温暖化対策に後ろ向きな国に皮肉を込めて与えられる不名誉な賞であり、日本は前回(COP25)に続く2大会連続の受賞となった。

EVの普及だけでCO2の削減は達成されない。EV化は再エネ発電の増加とセットで考える必要がある。

村沢義久『日本車敗北 「EV戦争」の衝撃』(プレジデント社)
村沢義久『日本車敗北 「EV戦争」の衝撃』(プレジデント社)

日本において再エネ活用の中心になりうるのは太陽光だ。幸い、太陽光発電は2012年のFIT導入以来順調に伸びてきている。そのお陰で、2030年には水力を加えた再エネ比率は30%を超えそうだが、今我々はこれを何とか40%まで引き上げようと努力しているところだ。

自動車メーカーも、この動きと連動する必要がある。ガソリン車やHVにこだわり続けるのは、経営戦略上不利である以上に、温暖化対策に後ろ向きだと、世界から批判されかねない。

「我々は自動車メーカーであり、電源の問題は政府が考えること」という姿勢ではなく、自ら再エネ発電に乗り出すぐらいの気概を見せてほしい。われわれが彼らから聞きたいのは「EV用の電力は任せてくれ」という強い決意だ。

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村沢 義久(むらさわ・よしひさ)
元東京大学特任教授、環境経営コンサルタント
1948年徳島県生まれ。東京大学工学部卒業、東京大学大学院工学系研究科修了(情報工学専攻)。スタンフォード大学経営大学院にてMBAを取得。その後、米コンサルタント大手、ベイン・アンド・カンパニーに入社。ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン日本代表を経て、ゴールドマン・サックス証券バイスプレジデント(M&A担当)、モニター・カンパニー日本代表などを歴任。2005年から2010年まで東京大学特任教授。2010年から2013年まで東京大学総長室アドバイザー。2013年から2016年3月まで立命館大学大学院客員教授を務める。著書に『図解EV革命』(毎日新聞出版)、『日本経済の勝ち方 太陽エネルギー革命』(文春新書)、『電気自動車』(ちくまプリマー新書)、『手に取るように地球温暖化がわかる本』(かんき出版)など多数。

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(元東京大学特任教授、環境経営コンサルタント 村沢 義久)

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