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「中学受験は虐待行為だ」白い目に晒された地方在住の母子が難関合格で心の中で見せた"ドヤ顔"

プレジデントオンライン / 2022年2月6日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/key05

首都圏では5人に1人以上が中学受験するといわれるが、地方ではほとんどの小6生が地元の公立中学に進む。作家で教育アドバイザーの鳥居りんこさんは「地方で中高一貫校を受験する家庭は、周囲の好奇や嫉妬の目に晒され、『子供らしい生活を犠牲にする中学受験は虐待』と批判されることもある」という――。

コロナ禍で行われた2022年度の中学受験も大きな混乱を招くことなく終えようとしている。1都3県の私立・国立中学校の受験者総数は2020、2021年度の2年連続で5万人の大台を突破。今回もその数は減らず、微増したとみられている。

首都圏(1都3県)では公立中高一貫校の受検者を加えると、ここ数年は6年生の「5人に1人以上」が中学受験に挑戦している数字になるといわれる。

もちろん、首都圏であっても地域によって“受験熱”はさまざまで、中学受験がスタンダードな地域もあれば、熱量が低い地域もある。ましてや、ほとんどの地方在住の人たちにとって中学受験はレア中のレアだろう。そこで今回、そうした地域で中学受験2022に挑んだ家庭の奮闘ぶりをレポートしよう。

■【中学受験しない派多数エリアで受験する人々の悩み】

1.モチベーションキープが難しい

中学受験では、長い受験準備期間中(小学4年生からの3年間の塾通いが主流)、親子で「受験を諦めかける」シーンが訪れる。思うように成績が上がらない時に受験をしないクラスメイトが遊んでいるのを見ると、たちまち子供のモチベーションは下がる。大多数が中学受験する都心の小学校ならいいが、そうでなければ、子供らしい生活を犠牲にして親子で走り切ろうとするのは想像以上に大変だ。親も子も「何のために中学受験をするのか?」という動機付けがより一層、必要となる。

今年、関西で娘の中学受験を終了した母親A子さん(42)は、こう語る。

「同じ学年(約100人)で受験をしたのは5人だけです。娘は『塾友がいるから大丈夫』とは言っていましたが、明らかに小学校の友だちとは距離が離れていくようで、いじめに遭わないかをかなり心配しました」

受験せず、地元の公立中学に行く大多数の友だちが見て盛り上がっているドラマを見ることができず距離ができるといった悩みは、しばしば耳にする。だが、将来を見据え受験をすると誓ったのだからと、A子さんの娘のように「塾が居場所」と割り切り、同じ目標を持つ子たちとの切磋琢磨(せっさたくま)を優先することになる。

■【中学受験しない派多数エリアで受験する人々の悩み】

2.周囲から興味本位で見られがち

中学受験の世界を全く知らない人たちから、興味本位でいろいろと探られるのが、ストレスになるという話もよく聞く話だ。少数派ゆえだろうか、なぜか学校でも近所でも「受験をする」ことが漏れてしまうことが多い。どこからか情報入手した人々はひそひそ声でこう詮索してくる。

「お宅、中学受験するんですって? ご優秀で羨ましいわ」
「○○中学を受けるの?」

おそらく悪気はないのだろう。しかし、監視されているようで居心地が悪い。「そっとしといて」と訴える母親は多い。対処法は「買い物はネット」だ。コロナ禍ということもり、極力、外に出る機会を減らし、スーパーなどで顔見知りに偶然ばったりというリスクをゼロに近づけたいのだ。

九州地方に住む母親B美さん(37)もそのひとり。「顔を合わせなければ、聞かれることもない」と周囲の“雑音”を封じたそうだ。そのかいもあって、息子は1月、無事に第1志望校に合格。だが、その事実をご近所やママ友に言うつもりはなく、このまま、そっと卒業式に臨むそうだ。

教科書を読んでいる少年
写真=iStock.com/kyonntra
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kyonntra
3.経験則が使えないために、余計に迷子になる

自分も配偶者も中学受験の経験がない。周囲にも経験者がいない場合、1から10まで「はじめまして」となり、悩みも増える。頼みの綱である塾でさえも悩みの種になることがある。指導法がわが子に合っていない場合、疑心暗鬼に陥ることも少なくないのだ。

近畿圏の受験熱が少ないという町に住む母親C代さん(39)はターミナル駅近くにある大手塾に息子を通わせていたそうだが、席順まで成績順で、毎週、席替えという決まりに慣れず、塾に相談したところ「このやり方がベスト」と叱責(しっせき)されたという。「そういうものか」と親子で頑張ったが、息子のアトピーが悪化し、不眠の症状も出始めたため再び、相談。

「これを(気力で)乗り越えなければ、合格はない」という室長の一言で5年生の冬に退塾を決意したという。

鳥居りんこ『わが子を合格させる父親道』(学研プラス)
鳥居りんこ『わが子を合格させる父親道』(学研プラス)

幸い、コロナ禍で大学の講義が対面からオンラインになったため、実家に帰郷していた学生(中学受験経験者)に巡り合い家庭教師を務めてもらえたそうだ。

その家庭教師の学生に「自分に合った学習方法で、自分のペースに合ったやり方でないと伸びない」と言われて目が覚めたという。

「塾の方針や塾の先生の言うことが絶対、正しいわけではないという当たり前のことに気付くことができました。わが家にはわが家のペースがあるってことですよね……」

息子は第2志望校に滑り込むことに成功した。あのまま塾にいたら、全落ちのリスクがあったばかりか、身体を壊していたかもしれず、家庭教師に心底感謝しているという。

■【中学受験しない派多数エリアで受験する人々の悩み】

4.「子供らしさを奪う虐待行為」と親族が反対する

典型的な「地方受験あるある」だが、周囲に中学受験体験者が少ないこともあり、親族が中学受験に良いイメージを持っていないケースが少なくない。よって、夫婦の受験への意見が一致しているものの、祖父母などから強硬に反対されることは多々ある。

今年、中部の地方都市で受験を経験したD君の母親であるE子さん(41)はこう言う。

「受験生活で何が一番つらかったかと聞かれたら、親族の反対です。主人や義母は賛成でしたが、私の親や姉がすごく反対したんです。普通の塾から中学受験塾に転塾させる際には、母や姉から何時間も電話で『行くな! そんなかわいそうなことをさせるな! 1カ月は塾を休んでD君の本当の気持ちを聞くべきだ!』と言われました。

私は『受験や転塾はDの希望でもあること。親が無理やりやらせているわけではない』と何度も言いましたが、信じてもらえず……。母に息子の塾の送りを頼んだ際は『おばあちゃんにだけは本当のことを言ってごらん。本当は嫌なんでしょう?』と聞かれたと息子が教えてくれて、涙が出るほど悲しかったです」

結局、E子さんは「絶対、中学受験させるから!」と母と姉の反対を押し切った。D君は見事、先月、その県で1番の難関中学に合格。心の中でドヤ顔をして、「受かりました」と報告すると、祖母は「途中あんなに反対してごめんね」と平謝りだったそうだ。

中学受験を「子供らしさを奪う虐待行為」と捉える人は、直接の体験がないために「子供にとって勉強は嫌なものに違いない」という思い込みで言っているケースが多い。

通常、中学受験に歩を進める親はわが子への教育方針を熟慮の上で決定している。自分の中でハムレット並に「やるべきか、やらざるべきか」という問いに答えを出した上での参戦のはずであるから、一家が出した答えには自信を持つべきだろう。

しかし、「やめたほうがいい」と強硬に訴える人の考え方を変えるのは至難の業だ。この場合、理解を得ることは潔く断念する。そこにエネルギーと時間を費やしてもムダだからだ。

ただし、親は、わが子にとって中学受験が過剰な負担とプレッシャーになっていないか、という自問自答を常にする必要があることは言うまでもない。

はなまるのイメージ
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu
5.金銭的負担と体力的問題が膨大

そもそも、通える範囲に中高一貫校がないという土地もある。そうなると、遠方の学校も視野に入れることになる。コロナ禍で最近はさすがに少なくなってきたが、コロナ前は「逆単身赴任」とも呼べる方法で意中の中学を目指す家庭も決して珍しくはなかった。

つまり、父親を地元に残して母子で上京。学校近くに住まいを借りるという方法だ。これ以外にも、寮完備の学校に入学させるという家庭もある。

この場合、入学後は、自宅通学ではないので、子供の寮費+食費という金額が上乗せとなる。

入試日も気苦労は絶えない。多くの場合、受験校は遠方にあるので、入試日にはその学校が指定する会場に出向かなければならないのだ。

今年、福岡会場で行われた地方トップ校の入試に向かった母親F子さん(45)はコロナ禍ゆえの苦労をしていた。母子でホテル前泊した際、感染を恐れるあまり、卓上電気コンロとフライパン、携帯炊飯器、食材を持参。朝の5時からホテルの部屋でお弁当を作ったそうだ。あまりの荷物の重さに疲労困憊(こんぱい)。しかも、結果は不合格で疲れが倍増したという。

入試当日の交通費、宿泊代もバカにはならないが、その前に学校説明会に参加をして、わが子に合うかどうかの確認をしに、何カ所かの学校見学には出向くので、県境を大幅に越えた移動は必須になろう。自宅通学予定者と比べると、お金も体力も必要になる。

全国的に見れば中学受験をしない家庭が圧倒的多数だ。そのため、少数派はなにかと詮索されたり、批判の的にされたりする。「中学受験」に舵を切っても、そうした圧力や合格のプレッシャーに押しつぶされ、孤立し、受験という航海で方向を見失ってしまう残念なケースもある。

しかし、受験勉強中にわが子が身に付けた知識は誰にも奪われない宝物になることも、また事実だ。大事なのは、親子で決めた「この道!」を一歩ずつ進むこと。

今年もそれぞれの家庭で山あり谷ありの「中学受験物語」が完結した頃だ。その有形無形の苦労をねぎらいつつ、中学受験生全員の新たなる門出を祝したいと思っている。

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鳥居 りんこ(とりい・りんこ)
作家
執筆、講演活動を軸に悩める女性たちを応援している。「偏差値30からの中学受験シリーズ」(学研)の著者。近著に『親の介護をはじめる人へ伝えておきたい10のこと』(ダイヤモンド社)、近刊に『神社で出逢う私だけの守り神』(企画・構成 祥伝社)、『1日誰とも話さなくても大丈夫 精神科医がやっている猫みたいに楽に生きる5つのステップ』『たった10秒で心をほどく 逃げヨガ』(取材・文 いずれも双葉社)など。

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(作家 鳥居 りんこ)

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