「知らない人は手取りが減る」元国税局の専門官が教える残業を控えたほうがいい"ある期間"
プレジデントオンライン / 2022年2月7日 11時15分
※本稿は、小林義崇『絶対トクする!節税の全ワザ』(きずな出版)の一部を再編集したものです。
■住民税はどうやって計算される?
所得税の次にみなさんに関係があるのは住民税です。
所得税と住民税は、税金を納める先が国か地方自治体かという違いだけで、基本的なしくみは共通しています。所得税がたくさんかかる人には、住民税もたくさんかかります。そして所得税を節税すれば、住民税も節税できます。
ただ、所得税と住民税には、いくつか押さえておきたい違いがあります。
まずは、「税率」です。所得税の場合、所得金額に応じて税率が変わる累進(るいしん)税率というしくみがあります。つまり、「たくさん稼いだ人のほうが、税率が高くなる」というしくみです。
一方の住民税は、所得金額に10%を掛けた所得割と、年間5000円程度の固定金額の均等割から構成されています。
住んでいる(住民票のある)場所によって、所得割と均等割の設定が若干変わることはあります。ただ、税額が年間で何千円も変わるようなことは通常ありません。
ときどき、「住民税が安いところに引っ越したい」という方がいますが、引っ越しをしても住民税はほとんど節約できないのです。引っ越しを考えるなら、住民税よりも住み心地や行政サービスを優先したほうがいいでしょう。
■住民税が天引きされるのは、入社2年目から
会社員の場合、住民税をいくら払っているのかは、所得税よりもピンとこないと思います。というのも、住民税は、私たちの目に見えないところで手続きが行われているからです。
会社で年末調整をしたり、所得税の確定申告をしたりすると、その情報は税務署から地方自治体に引き継がれます。その後、地方自治体は住民税を計算して、個々人の勤務先に通知をします。
その結果に基づいて、勤務先が給料から住民税を天引きして、本人に代わって納税をしているのです。
このような住民税の納税方法を特別徴収といいます。所得税の源泉徴収と同じようなしくみと考えてください。
ただ、所得税の源泉徴収と住民税の特別徴収には、1つ大きな違いがあります。「納税のタイミング」です。所得税は、毎月の収入などに応じて源泉徴収が行われます。たとえば2021年1月から12月に源泉徴収をされるのは、2021年分の所得税です。
一方、住民税は「前年の所得金額」に基づいて、6月以降に特別徴収が行われます。たとえば「2020年分の住民税」は、「2021年6月~2022年5月の給料」から差し引かれるのです。
この違いが影響するのが、「最初に就職をした年」です。
入社をしたときは、住民税の基礎となる「前年の所得」がありません。ですから、住民税の特別徴収は行われないのです。入社した年の翌年6月から、特別徴収がスタートします。
このような理由から、多少の昇給があったとしても、多くの会社員の場合、入社2年目の6月以降は、1年目よりも手取り収入が少なくなってしまうのです。でもこれは、どうしようもないのです。
■退職するなら、住民税に要注意!
住民税の納税は、「所得を稼いだ年の翌年6月以降」です。ということは、会社を退職するときに注意が必要です。退職をすると、前年分の住民税の問題が出てくるのです。
たとえば、2021年3月末に退職したとしましょう。
この場合、2019年分の住民税の一部(2021年4月~5月に特別徴収されるはずだった分)が未納状態なので、退職時に自ら納める必要があります。
そして、2020年分の住民税は、本来であれば2021年6月~2022年5月に特別徴収されるはずでしたが、退職をしたら特別徴収ができません。そのため、退職をしたあと、自分で納めることになります。
転職や独立などで一時的に収入が減る場合、この点に気をつけなくてはいけません。十分な収入がない時期に、前職の収入に対する住民税を支払うことになるからです。
退職後の生活費や独立資金として使うつもりだったお金が、住民税でなくなってしまうこともあり得ます。退職を考えるときは、住民税の支払いがどれくらい必要なのかを確認しておくと安心です。
毎年6月ごろに届く住民税の通知書を保管して、退職後にどれくらいの住民税を納めることになるのかを把握しておきましょう。
■4~6月に残業すると損をする?
さて、ここまでで所得税と住民税の基本的なルールがわかりましたね。それでは、会社員の人が毎月手渡されている給与明細の読み方をレクチャーしていきましょう。
給与明細に書かれている情報は大きく「支給額」「勤怠実績」「控除(天引き)」の3つです。右ページにサンプルの給与明細を記載していますので、それを参照しながら読んでみてください。
さて本書のテーマは節税なのでちょっと脇道にそれますが、税金と同じように給料から天引きされる社会保険料についても理解を深めておきましょう。
会社員が負担する社会保険料のうち、おもなものが健康保険料と厚生年金保険料です。さらに40歳以上になると介護保険料も徴収されます。
これら3種類の社会保険料は、標準報酬月額という数値に基づいて算定されます。これは原則、毎年4~6月の3カ月分の給料の平均値から割り出されるものです。その年の9月以降、原則1年間の健康保険料などに影響します。
ここでポイントとなるのが、所得税や住民税が1年間の所得がベースになっているのに対し、標準報酬月額は3カ月間の収入がベースという点です。
つまり、4~6月に残業をたくさんして残業代が増えると、標準報酬月額が高くなり、社会保険料もたくさん払わなければいけなくなる、ということですね。
健康保険料などを抑えたいのであれば、この3カ月間は残業を控えるといいでしょう。
ただ、標準報酬月額が上がることは、必ずしも悪いことではありません。標準報酬月額が高いと、将来受け取る厚生年金も比例して高くなるからです。
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フリーライター
国税局の国税専門官、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所に勤務。2017年、金融関係のフリーライターに転身。著書に『すみません、金利ってなんですか?』(サンマーク出版)などがある。
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(フリーライター 小林 義崇)
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