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「会社の窓口は信用してはいけない」パワハラ相談の5割がもみ消されているという驚きの事実

プレジデントオンライン / 2022年2月11日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/erhui1979

職場でパワハラを受けたらどうすればいいのか。労働問題に取り組むNPO法人POSSEの坂倉昇平さんは「会社の窓口に相談した場合、残念ながら5割は『無視』『放置』されている。被害についての録音や録画を残したうえで、社外の相談窓口に頼ったほうがいい」という――。

■企業のハラスメント対策は信用できるのか

いじめ・パワハラ被害が深刻化している。厚労省が職場のいじめ・パワハラによって精神障害が発生したと認定した件数を見ても、この11年間で10倍に膨れ上がっている。そんな中、2022年4月から中小企業にもパワハラ防止法の本格的な適用が始まる(大企業は2020年6月から適用されている)。しかし、このパワハラ防止は、本当にうまくいくのだろうか?

筆者はNPOや労働組合の活動を通じて膨大な労働相談を受ける中で、このいじめやハラスメントが横行する深刻な労働現場の実態に向き合い、そこから見えてきた背景について、昨年『大人のいじめ』(講談社現代新書)にまとめた。

この記事では、同書の内容を踏まえつつ、昨年発表された日本経団連と厚生労働省による2つのハラスメント調査を参考にしながら、企業のハラスメント対策がどこまで信用できるのか、本当に有効なハラスメント対策とは何なのかを考えていきたい。

■パワハラ防止法で可視化された被害者たち

2021年12月、経団連が職場のハラスメント防止に関するアンケート結果を発表した。会員企業に対して9~10月に実施したものだ。この結果、回答した企業の44%において、5年前と比較してパワハラの相談が増加していたことがわかった。

坂倉昇平『大人のいじめ』(講談社現代新書)
坂倉昇平『大人のいじめ』(講談社現代新書)

この数字は、ざっくり2つの観点から考えることができる。まずは、パワハラ行為そのものが、実際に以前より増加したという可能性である。これは厚労省のいじめ・パワハラ相談が一貫して増え続けていることから、明らかであると考えられる。

もう1つは、2019年にパワハラ防止法が成立し、翌年から大企業に対して適用されたことで、この1、2年で労働者に対して啓発的な効果があり、相談が増加したというものだ。特にパワハラに対する取り組みの数が多い企業に絞ると61.1%で、相談数が増えており、その影響は少なくないといえよう。

パワハラ防止法によって、これまで泣き寝入りするしかなかった被害者たちが、受けた被害が問題のある行為であることに自信を持ち、対応してくれる窓口があると知った意義は大きい。

しかし、問題はその後である。企業の相談窓口に相談したら、どうなるのだろうか。経団連の調査では、肝心のその後は調査されていないようだ。その先の実態がうかがい知れるのが、2020年に労働者に対して調査が行われ、2021年に発表された厚労省のハラスメント調査である。

■企業は相談の半数を「放置」「無視」している

この調査によれば、労働者がパワハラを受けている(またはパワハラがあった可能性がある)ことを知ったあとの勤務先の対応について、なんと「特に何もしなかった」が47.1%に上っており、1位を占めている。ほとんど半分だ。

ちなみにほかの回答項目(複数回答あり)は「あなたの要望を聞いたり、問題を解決するために相談に乗ってくれた」(28.0%)、「あなたに事実確認のためのヒアリングを行った」(21.4%)、「行為者に事実確認を行った」(9.7%)などである。

事例によっては、被害内容がグレーゾーンに当たり、パワハラとまでは判断されないこともあるだろう(もちろん、企業側が被害を過小評価することは十分にあり得る)。しかし、相談者、行為者にヒアリングをするという、いずれも被害事実がパワハラであったかどうかを判断する手前のプロセスですら、それぞれ2割、1割程度しか行われていない。あろうことか相談者の要望を聞くという、ごく最低限の対応すら3割に満たない。約5割は「放置」や「無視」をされ、初歩的な段階で闇に葬られてしまうのだ。

筆者も相談で経験したことがあるが、加害者や関係者、会社で事実関係について口裏合わせをされてしまったり、証拠を改ざん・隠蔽(いんぺい)されたりというパターンも少なくない。

このように厚労省の調査を見る限り、企業の相談窓口の実態は、信頼して利用できるとは到底言えないのが現状だ。

会社がパワハラ相談を無視する実態については、私の著書『大人のいじめ』の一部を紹介した記事「たった1年で30人が離職…「黒字転換」した介護施設で起きていた“陰湿ないじめ”の手口」も読んでみてほしい。

■コミュニケーション強化でパワハラは解決するか

ハラスメント「発生後」の相談窓口の対応に不安がある一方で、企業のハラスメント「防止」にはどのような課題があるのだろうか。

前述の経団連のハラスメント調査では、ハラスメント防止・対応の課題についても加盟企業に尋ねている。1位は63.8%が「コミュニケーション不足」だった。ついで、「世代間ギャップ、価値観の違い」(55.8%)、「ハラスメントへの理解不足(管理職)」(45.3%)と続く。大まかには、もっと社内のコミュニケーションや考え方、周知啓発を増やすことで、パワハラが減ると認識されているようだ。

本当に、パワハラ対策の課題はそこにあるのだろうか。そこで参考になるのが、前述の厚労省ハラスメント調査だ。この調査の質問の1つでは、現在の職場でパワハラを受けている労働者と、過去3年間にパワハラを経験していない労働者に、職場で起きている、ハラスメント以外の問題について聞いている。この回答から、パワハラの背景を推測できるのではないだろうか。

実はこの質問でも、パワハラを経験している労働者のほうが、上司とのコミュニケーション不足があったと回答する割合が2.5倍ほど高く、コミュニケーション不足との相関関係があるといえよう。ただ、パワハラの結果としてコミュニケーションがなくなるというケースも多いだろう。

むしろ、ここで注目されるのは、「残業が多い/休暇を取りづらい」という項目だ。パワハラを経験した職場とそうでない職場とで、約2.3倍の差がついているのだ。

ここから、長時間労働や休みを取れないなど、過酷な労働環境がパワハラをもたらしているという構造が浮かび上がってくる。実際、記事「先輩に顔面を10発殴られて転倒…それでも若手社員が“血で汚れたシャツ”で仕事を続けたワケ」ではわかりやすく、長時間労働や膨大な業務量によるストレスから、暴力を含むパワハラが横行していた。

■日本社会に蔓延する「経営服従型いじめ」

筆者は著書『大人のいじめ』を通じて、いま日本中を覆い尽くしている、労働者をひたすら使いつぶすことで利益を上げる労務管理や経済の在り方が、パワハラを積極的に必要としてきたことを論じてきた。職場のストレスによる不満の矛先を経営者に向けさせないために、あるいは経営の論理を優先する働き方についていけない労働者を「矯正」「排除」するために、ハラスメントが「役立って」いるのだ。いわば、労働者を沈黙させ、「支配」するためのシステムである。筆者はこれを「経営服従型いじめ」と呼んでいる。

ワーククラスピラミッド
写真=iStock.com/rudall30
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/rudall30

このような職場が蔓延する社会では、コミュニケーションや啓発によるパワハラ対策では、焼け石に水だろう。ちなみに、前述の経団連のハラスメント調査で、ハラスメント防止・対応の課題について「長時間労働」を挙げたのは、回答した企業のうち、わずか5%であった。

多くの大企業のトップたちは、自分たちが依存してきた低賃金・長時間労働からの転換には目もくれず、表面的な「対策」に問題を矮小(わいしょう)化しようとしている。それは、労働者を使いつぶすことで経済成長を目指してきた、これまでの資本主義の在り方に、これからも頼り続けたいからだろう。逆に言えば、ハラスメントを根本から減らしていくことは、職場の在り方を、経済の在り方を変えることにつながるのだ。

■「会社が助けてくれる」幻想は一旦捨てよう

「会社が助けてくれるはず」という幻想は、一旦捨てたほうがいい。もちろん、真面目に対策に取り組もうという会社の存在は否定しないが、そんな「ガチャ」には期待できない。上からの「ハラスメント対策」は、まず疑ってかかるべきだ。

ハラスメント被害に対抗するためには、労働者としての権利を行使することだ。労働者からの強力な突き上げがあって初めて、ハラスメント対策や職場環境の改善に、企業も重い腰を上げるようになる。たしかに、「大ごとにしたくない」という被害者もいるだろう。そういう人でも、少なくとも権利行使のための準備はしておくべきだ。

■ハラスメントの連鎖を断ち切れるのは労働者自身

具体的には、可能な限り被害の証拠を残すことだ。スマートフォンの録音アプリやICレコーダーで、加害者の言動の録音を取っておこう。メールやSNSによるハラスメントは、そのままデータやスクリーンショットを保存しておいてほしい。動画を撮影できるのなら、それもかなり大きな証拠になる。一方で証拠がなければ、パワハラの事実が認められることは、残念ながらかなり困難になってしまう。

ポケットボイスレコーダーの録音ボタン
写真=iStock.com/Tomasz Śmigla
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tomasz Śmigla

そして、早めに会社以外の相談窓口に相談してみてほしい。たとえ、あとから会社に相談することになったとしても、その前に専門家の意見を仰いでおくに越したことはない。労働者側の立場で労働問題を専門とする弁護士たちもいる。あるいは、筆者が役員を務めている、NPO法人POSSEや総合サポートユニオンのような、職場の理不尽に対して声を上げる労働者をサポートする支援団体や労働組合もある。

ハラスメントの連鎖を断ち切ることができるのは、労働者自身の力だ。その行動は、会社に対する幻想を捨て去り、ハラスメントと労働者使いつぶしの資本主義で荒廃していく日本社会を変えていく一歩にもなるはずだ。

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坂倉 昇平(さかくら・しょうへい)
NPO法人POSSE理事
1983年生まれ、静岡県出身。ハラスメント対策専門家。京都大学大学院文学研究科修士課程修了。2006年、労働問題に取り組むNPO法人POSSEを設立。08年、雇用問題総合誌『POSSE』を創刊し、同誌編集長を務める。現在はPOSSE理事として、年間約5000件の労働相談に関わっている。共著に『18歳からの民主主義』(岩波新書)、『ブラック企業vsモンスター消費者』(ポプラ新書)。

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(NPO法人POSSE理事 坂倉 昇平)

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