客に「ウチの会社で働いて」と誘われるスゴ腕店員…1皿3個の唐揚げを3皿頼んだ7人客に返した"神フレーズ"
プレジデントオンライン / 2022年2月8日 11時15分
※本稿は、戸田智弘『ものの見方が変わる 座右の寓話』(ディスカヴァー携書)の一部を再編集したものです。
■3人のセールスマンの中で最高の仕事をするのは誰か
香港で靴の製造会社を経営する人物がいた。
ある日、彼は、南太平洋の孤島に靴の市場が存在するかどうかを知りたくて、一人のセールスマンを派遣した。その男は、現地の様子を見てすぐに電報を打った。
「島の人間は靴を履いていません。よってここには市場は存在しません」
納得のいかない経営者は、別のセールスマンを派遣した。その男からの電報は次のような内容だった。
「島の人間は靴を履いていません。よってものすごい市場が存在します」
これにも納得のいかなかった経営者は、さらに別のセールスマンを派遣した。この男は、前に派遣された二人のセールスマンと違って、マーケティングの専門家でもあった。彼は、部族長や現地人にインタビューしたうえで、こう打電してきた。
「島の人間は靴を履いていません。そのため、彼らの足は傷つき、あざもできています。私は部族長に、靴を履くようになれば島民は足の悩みから解放されると説明しました。部族長は非常に乗り気です。彼の見積もりでは、一足10ドルなら島民の70%が購入するとのことです。おそらく初年度だけで5000足は売れるでしょう。島までの輸送経路と島内の流通経路を確立するのに要するコストを差し引いても、大きな利益が生まれる可能性のある事業だと思われます。早急に話を進めましょう」
■需要は探すのではなく、つくり出すもの
一つの物事に対するとらえ方は人それぞれである。一人目のセールスマンは「島の人間は靴を履いていない」という事実から「市場は存在しない」と判断した。二人目のセールスマンは「島の人間は靴を履いていない」という事実から、「ものすごい市場が存在する」と判断した。同じ事実を見たのに、異なった判断が生まれてくるのは興味深い。
二人の違いは、物事をネガティブにとらえるか、ポジティブにとらえるかの違いだと考えてもいい。半分だけ水の入ったコップを見て、「半分しか水が入っていない」ととらえるか、「半分も水が入っている」ととらえるかと同じである。
さて、二人目のセールスマンと三人目のセールスマンはともに「ものすごい市場があるかもしれない」という可能性を感じた点では同じである。しかし、二人目のセールスマンはそこで終わった。それに対して、三人目のセールスマンはその可能性を確かめようとした点で優れている。
三人目のセールスマンの仕事ぶりで連想されるのは、顕在需要と潜在需要という二つの需要である。顕在需要とは、はっきりと現れて存在している需要であり、商品の購入に直接結びつく需要である。潜在需要とは、商品の価格が高すぎたり、情報が不足していたりするため、現実にはまだ顕在化していない需要である。
三人目のセールスマンは、顕在需要はまだないものの潜在需要はあるのではないかという可能性を感じ、その可能性を調査によって明らかにし、潜在需要を顕在需要へと変化させていく道筋をつくったのだ。
新しい販路を開拓しようとするとき、まず大事なのはその地域や現場に需要があるかどうかを確認することだ。顕在需要がなくても、潜在需要があればいい。顕在需要があれば、すぐに商売をすることはできる。しかし、多くの場合は既にそこで商売をしている人がいるので、付加価値は小さい。一方、潜在需要を掘り起こすことは手間とお金がかかるが、上手くいけば付加価値の大きいビジネスになっていく。
■1皿3個の唐揚げを3皿頼んだ7人客に返した店員の“神フレーズ”
石田三成はある寺の童子(どうじ)(寺院で仏典の読み方などを習いながら雑役に従事する少年)をしていた。
ある日、豊臣秀吉は鷹狩りに出かけ、途中、のどが渇いたのでその寺に立ち寄った。秀吉は「誰かいるか。茶を持って参れ」と望んだ。三成は大きな茶碗に七、八分ばかり、ぬるめのお茶を持ってきた
秀吉はこれを飲んで舌を鳴らした。「うまい。もう一杯」。三成はまたお茶をたてて持ってくる。今度は前より少し熱くして、茶碗の半分に足りない量のお茶である。
秀吉はこれを飲んだ。少年の機智に感心した秀吉は、試しに「もう一杯」と望んだ。三成はまたお茶をたてた。今度は熱く煮立てた茶を、小さい茶碗に少しだけ入れて出した。
これを飲んだ秀吉は少年の気働きに感心し、住職に乞い求めて、小姓(武将や大名の側で雑用や護衛の任に就いた武士)として三成を使うことにした。才能を発揮した三成は次第にとり立てられて奉行職を授けられた。
■少しの気配りが自分の仕事を生む
哲学者の内田樹は、『日本の論点二〇一〇』(文藝春秋)の中で次のエピソードを披露している。
あるとき武術家の甲野善紀ほか七人で連れだってレストランに入った内田は、メニューに「鶏の唐揚げ」を見つけた。「三ピース」で一皿だったので、七人では分けられない。仕方なく三皿注文することにした。すると注文を聞いたウェイターが「七個でも注文できますよ」と言った。
「コックに頼んでそうしてもらいます」
![鶏の唐揚げ](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/d/670/img_2df71a26c0740fac2a1a9382cd958236285603.jpg)
彼が料理を運んできたときに甲野は彼にこう訊ねた。「あなたはこの店でよくお客さんから、『うちに来て働かないか』と誘われるでしょう」。彼はちょっとびっくりして「はい」と答えた。
「月に一度くらい、そう言われます」
内田はこのエピソードを紹介した後、人間は「放っておくと賃金以上に働いてしまう」存在だと書いている。そのウェイターが、彼のできる範囲で、彼の工夫するささやかなサービスの積み増しをしたことをそう表現したのだ。
ほとんどの仕事は代替可能な仕事である。とくにアルバイトなどはそういう面が強い。しかし、そこに自分のできる範囲で気配りや機智を加えれば、それは自分の仕事──自分だからこそできる仕事──に化ける。
![戸田智弘『ものの見方が変わる 座右の寓話』(ディスカヴァー携書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/6/200/img_569b16f1a577e910ef9474f839fd5755209784.jpg)
以上は、三成に焦点をあてた読みとり方である。これとは別の読みとり方も可能である。それは「三成という男を見いだした秀吉の逸話」という読みとり方である。
どんな才能も──とくに近代以前の社会であればなおのこと──良い目利きによって見いだされない限り、市井の中に埋もれてしまう。秀吉が二杯目の茶を所望したとき、秀吉の心の中には三成を試すという気持ちはなかったであろう。「もう少し茶が飲みたい」という単純な思いしかなかったに違いない。しかし、二杯目の茶が一杯目の茶よりも少し熱く、少なめの量だったことに感心し、三成を試そうとして三杯目の茶を所望した。
三成の機転に気づく秀吉がいたからこそ、この寓話は成り立つのである。
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キャリアカウンセラー
1960年愛知県生まれ。北海道大学工学部、法政大学社会学部卒業。著書に『働く理由』『続・働く理由』『学び続ける理由』『ものの見方が変わる 座右の寓話』(以上、ディスカヴァー)など。
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(キャリアカウンセラー 戸田 智弘)
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