「もう白物家電じゃない」日立が冷蔵庫の10色展開に踏み切った深い理由
プレジデントオンライン / 2022年2月9日 11時15分
■冷凍食品を食べる人が急増
「わが家の冷凍庫がいっぱいで、もう入らない」……。新型コロナウイルスの感染がいまだ終息しないなか、外食にも行けず、買い貯めした「冷凍食品(冷食)」の保存場所に悩む人も多いでしょう。
コロナ禍(2021年)で行われたある調査でも、「夕食時に冷食の利用が増えた」との回答が、3割(日本冷凍食品協会調べ)。また。同年秋にマルハニチロが実施した調査では、冷食を「週1日以上」利用する男女が約6割(57.5%)いて、コロナ前の2年前の調査(45.8%)を、1割以上も上回りました。
冷食利用が増えるなか、入れ物である冷蔵庫の「買い替え」も目立っています。とくに20年度は、「特別定額給付金」(国民1人当たり10万円支給)の影響もあり、冷蔵庫の出荷額も4525億円と、19年度対比で3.1%伸びました(21年日本電機工業会調べ)。
■セカンド冷凍庫が注目されはじめる
一方で、冷蔵庫を買い替えても、冷やせるモノの容量が劇的に増えるとは限りません。とくに日本の場合、わが家も含め、キッチンやダイニングのスペースがさほど広くない家庭が多く、超大型の冷蔵庫を置けるケースは稀でしょう。
そこで、21年夏ごろから注目され始めたのが「セカンド冷凍庫」。その名の通り、2台目の冷凍庫として購入、利用する人が多いとされ、家電量販店でも注目される存在に。
その一つが、日立グローバルライフソリューションズ(以下、日立GLS)の冷凍庫「R-K11R」です。
■冷蔵・冷凍が切り替え可能
高さは1mちょっと(約1.11m)、幅50cm弱(約46cm)という、片開きのコンパクトでスタイリッシュな冷凍庫で、21年3月に販売を開始。おうち時間の増加に伴う“2代目”の冷凍庫(冷蔵庫)需要の高まりを受け、着実に販売台数を伸ばしているといいます。
実はこの冷凍庫に、日立GLSならではの、ユニークな機能が備わっているのです。
それが、「ぴったりセレクト」。19年2月、先行して大容量の冷蔵庫(R-KX57Kほか)に搭載された機能で、利用シーンに合わせて「冷蔵」「冷凍」を簡単に切り替えられ、それぞれの冷却レベルをさらに「強め」「標準」「弱め」の3段階に設定できます。
「コロナ以前から、消費者のライフスタイルの多様化を実感していました。そんななか、メーカーとしてなにが提供できるのか、との視点で発想したシステムです」と話すのは、同・国内商品企画部の小川真申さん。
■微妙なさじ加減を何度もシミュレーション
私が消費者にインタビューしても、増え続ける共働き世帯(子あり)ではとくに、お弁当や「時差食(家族が時間差で食事をとる)」などに冷食を利用する家庭が多く、以前から「冷蔵庫の冷凍スペースを広げて欲しい」とのニーズが高い傾向にありました。
一方、健康志向もあるせいか「一般的にシニア世帯では、野菜(室)の購入量が多くなるようです」と小川さん。
つまり同じ家庭でも、出産や加齢などによる「ライフステージ」の変化によって、冷蔵庫や冷凍庫の利用ニーズが変わることは十分考えられます。使い手が、冷やす温度帯を「選べる(切り替えられる)」機能があれば、確かに便利でしょう。
もっとも、言うは易く行なうは難し。実現に当たっては、冷凍と冷蔵で風の出口を分けたり、野菜など乾燥しやすい食材に直接強い冷気が当たらないよう、風量を微妙にコントロールしたりといった“さじ加減”を、何度も何度もシミュレーションしながら数値解析し続けたといいます。
■リビングや書斎に配置
コロナ禍では、ステイホームやテレワークの影響から、自宅で過ごす時間が増えたり、ペットを飼ったりするようになった人も多い。冷食だけでなく、仕事の合間に「ちょい飲み」「ちょい食べ」する飲料やスイーツ(含・アイスクリーム)を手軽に出し入れしたい、あるいはペットフードを保存したい、などのニーズも高まったと考えられます。
つまり、冷蔵庫(冷凍庫)の利用シーンは、コロナ前よりさらに多様化したはず。
そんななかで発売されたR-K11Rは、「セカンド冷凍庫」でありながら、冷蔵機能も含めてより幅広いニーズに応える商品にしたい、との小川さんたちの思いがありました。ゆえに保存したい食品に合わせて、温度を「冷凍(約-18℃)」だけでなく「冷蔵(約2℃)」や「常温(約15℃)」にも切り替えられる機能を搭載。
冷蔵に設定してリビングや書斎に置けば、「ちょい飲み」「ちょい食べ」したい飲料やスイーツ、おつまみなども取り出しやすくなるでしょう。常温に設定すれば、カップ麺やペットフードのストック用にも使えるはずです。
![リビングや書斎にもなじむデザイン。](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/5/670/img_35b31f81b5873a4d94a023ba1eb75cda274505.jpg)
こうしたR-K11Rの成功もあり、日立GLSは22年春、さらに新たなコンセプトの冷蔵庫の発売を決めました。その名は、「Chiiil(以下、チール)」。
「chilled(チルド/冷やす)」や、最近若者がよく使う「chill(チル/寛ぐ)」を想起させる名前で、冷凍機能はないものの、「冷蔵」と「セラー」の温度帯が選べ、それぞれ3段階の冷却レベルで設定できる点は、R-K11Rと同じ。
そのうえ、大手家電メーカーとしては画期的な考えを、新たに2つ取り入れたのです。
■「白物」の枠を超えた新しい発想の冷蔵庫
1つは、多彩なカラーバリエーション。冷蔵庫は通常、「白物家電」の呼称に象徴される通り、白、またはベージュやメタリックが圧倒的に多い。採用色が多ければ、それだけコスト高になりやすく、大手メーカーの多くは色を増やしたがりませんでした。
![10色展開のChiiil](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/4/670/img_8408f593d087ec2228cf1969a42e28b7256918.jpg)
ところがチールは、ホワイトやダークグレーのほか、カスタムカラーとしてオークやモス(グリーン系)など、全10色から選べる仕組み。具体的な色味は、「インテリアショップ『ACTUS(アクタス)』とのコラボレーションによって、家具などとの相性を考えて展開を決めました」と小川さんはいいます。
■他社との協業で発売前からユーザーの意見を取り入れる
そしてもう1つの画期的な試みは、発売前からユーザーのリアルな声を取り入れようとしたこと。
22年春に発売予定のチールを、まず21年12月にクラウドファンディングのサイト(CCCグループ運営の「GREEN FUNDING」)で先行予約してもらうことに。同時に期間中、CCC系列の「蔦屋家電+」(東京・二子玉川)で、チールの外観を先行展示しようと考えたのです。
CCCは、7000万人分とも言われる膨大な顧客のライフスタイルデータを所有し、データマーケティングに長けた企業。
先のアクタスやCCCなど、他社と発売前から闊達なアイデア交換を行なう理由について、「お客さまのニーズやラフスタイルの多様化、そして『QoL(Quality of Life/生活の質)』の向上に貢献するために、オープンな『協創』の視点が重要だと考えたから」だと、日立GLS・経営戦略本部の米山卓美さん。
■発売してからもアップデート
実はこの「共創(協創)」こそが、大きなキーワードの一つ。ベースにあるのは、「アジャイル型」、すなわち走りながら考え、改良を加えていくような商品開発・マーケティングの手法です。
以前紹介した「おやつのサブスク」など、毎月なんらかの商品やサービスを提供するサブスクリプションサービスでは、初期の顧客にβ版を見たり試したりしてもらうことで、顧客の反応をみながら、その後のPRや提供内容に「改良」を加えていくことができます。正式発売の前にも、アップデートが可能です。
これに対して家電は、いったん世に出した商品そのものをアップデートするのは難しかった。ところが近年、ロボット掃除機に代表されるように、AIやIoTなどを活かした「デジタル家電」が普及。発売後もスマホアプリのように、ソフトの部分を少しずつアップデートできるようになったのです。
■飲物のストックをスマホで管理、自動再注文が可能に
実は、先の「R-K11R(セカンド冷凍庫)」とほぼ同型の「R-KC11R(スマートストッカー)」には、庫内に2段、棚の重さを検知するセンサーが付いています。
これにより、常にストックしたいペットボトルや缶ビールなどの残量が分かり、その情報をスマートフォンで確認できる。さらにAmazonの自動再注文サービス(Amazonスマートリオーダー)と連動すれば、残りわずかとなった分を自動で再注文することも可能です。
![スマホでストック状況を把握し、自動発注につなげる仕組み。](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/c/300/img_4c0fae88ceaf077c1abc6f46977709ca96213.jpg)
これらの便利なデジタル家電は、開発や改良に際し、顧客の利用データや「もっとこうして欲しい」といったナマの声が欠かせません。自社単独でなく他社と、あるいは顧客と共に切磋していくほうが、よりよい価値創造に繋がりやすいのです。
そのことを従業員が深く理解する必要があります。
日立GLSでは、あらゆる角度から顧客の幸せ(ハピネス)に貢献しよう、そしてさらなる「協創(共創)」に向けて社内の思いを一つにしようと、従業員主導で「360°ハピネス~ひとりひとりに、笑顔のある暮らしを」とのフレーズを創出しました。
そして21年4月、これを企業の「パーパス(社会における企業の存在意義)」として一般に公開。先の米山さんは、このパーパスを「たとえ方向性に迷っても、揺るがない『北極星』のような存在」だといいます。
■パーパス経営は新商品開発のうえでも重要になってくる
パーパスを重視する「パーパス経営」では、ネスレ(「Good food, Good life」)やファーストリテイリング(「LifeWear(生活に寄り添う服)」、オイシックス・ラ・大地(「これからの食卓、これからの畑」)などが、よく知られています。
16年、米国のLinkedIn(ビジネス特化型SNSの運営企業)がビジネスパーソンに行なった調査では、約3000人の調査対象のうち半数(49%)が「人々の生活や社会に対し、ポジティブなパーパスを掲げる企業で働くなら、“給与”が下がってもいい」と回答。
日本でも若い世代を中心に、「企業理念やパーパスに『社会貢献』を掲げる企業で働きたい」との声が高まっているのは、周知の通りです。
企業経営だけでなく新商品開発でも、これからはデジタルや「共創」によるイノベーションが欠かせません。ただその根底に「何のために、誰のために共創を図るのか」といった指針が存在するか否か。それが、イノベーションの成否を左右するのではないでしょうか。
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マーケティングライター
マーケティング会社インフィニティ代表取締役。修士(経営管理学/MBA)。2020年4月より、立教大学大学院・客員教授。同志社大学・ビッグデータ解析研究会メンバー。財務省・財政制度等審議会専門委員、内閣府・経済財政諮問会議 政策コメンテーター。著書に『男が知らない「おひとりさま」マーケット』『独身王子に聞け!』(ともに日本経済新聞出版社)、『草食系男子「お嬢マン」が日本を変える』(講談社)、『恋愛しない若者たち』(ディスカヴァー21)ほか、著書を機に流行語を広める。テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。
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(マーケティングライター 牛窪 恵)
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