3期続投にも暗雲…習近平氏の進める「国進民退」では不動産バブル崩壊は止まらない
プレジデントオンライン / 2022年2月7日 17時15分
■景気減速に歯止めがかからない
中国経済の減速が鮮明だ。1月の財新/IHSマークイット製造業購買担当者景況感指数(PMI)は50を下回った。国家統計局が発表するPMIは、国有、国営企業などの大企業を中心にアンケート調査を行い、景況感を調査する。それに対して、財新PMIには相対的に事業規模の小さい企業が多く含まれる。雇用や市民生活に大きく影響する中小企業の事業運営の厳しさは増していると考えられる。
今後、共産党政権は財政支出の拡大によるインフラ投資の前倒しや、追加の金融緩和策の実施によって何とか景気の減速を食い止めようとするだろう。しかし、その効果は期待しづらい。不動産市況はさらに悪化するだろう。ゼロコロナ対策も景気にマイナスだ。それに加えて、米国の金融政策の転換も中国経済に逆風となるだろう。景気減速によって社会心理は不安定化し、習近平政権にもマイナスの影響が及ぶ展開は否定できない。
■不動産バブル崩壊、ゼロコロナ対策、物価上昇…
中国経済の減速が止まらない。1月の財新製造業PMIは景気の回復と減速の境目である50を下回り、49.1に低下した。国家統計局が発表したPMIは50を上回ったが、前月から低下した。その要因は多い。国内要因として、不動産バブル崩壊や感染再拡大とゼロコロナ対策による動線の寸断のインパクトが大きい。感染再拡大による世界のサプライチェーン寸断も財新製造業PMIが50を下回った要因だ。
それに加えて、エネルギー資源や穀物などの価格上昇によって、世界的に卸売物価が上昇している。モノを作ろうにも、資材が不足している。動線寸断によって労働者も集まらない。共産党政権による価格統制によって企業が最終価格にコストを転嫁することも難しいだろう。1月の財新製造業PMIは、複合的な要因によって事業運営体制が不安定化する中国中小企業の苦境を示唆する。
■雇用環境の悪化で消費者の買い控えが起きている
中小企業の業況悪化は、雇用・所得環境の先行き懸念を高める。すでに中国では今後の雇用環境が悪化すると警戒を強め、節約を重視する消費者が増えている。それは12月の主要経済指標から確認できる。同月の社会消費品小売総額(小売売上高)は前年同月比で1.7%増だった。増加率は前月から低下した。
また、12月の消費者物価指数(CPI)の上昇率は同1.5%上昇したが、前月比では0.3%下落した。世界的に物価上昇圧力が高まる状況下、中国のCPI上昇率の鈍さは際立っている。消費者心理の冷え込みは深刻と考えられる。
一部の地域では、ゼロコロナ対策によって医療サービスへのアクセスが難しいまでに徹底した都市封鎖が実行されていると聞く。その状況下、感染に対する人々の恐怖心理は高まる。それに加えて、中国では農村戸籍と都市戸籍の違いに起因する経済格差も拡大している。少子化問題も重なり、年金など社会保障の持続性への不安は高まっているだろう。
コロナ禍によって、先々、あるいは老後の生活に備えて貯蓄を優先せざるを得ない人が急速に増えている。不動産バブル崩壊も、将来への予備的動機を強める要因だ。12月から1月にかけて発表された一連の経済指標から、中国経済の実態の厳しさがうかがわれる。
■中小企業の救済策を相次いで打ち出すが…
経済の減速を食い止めるために、共産党政権は財政支出の拡大と金融政策の緩和を余儀なくされるだろう。ただし、経済全体で資本の効率性が低下しているため、減速の食い止めは容易ではない。コロナ禍が発生して以降、共産党政権は中小企業の資金繰りなどを支援するために積極的に対策を打った。
昨年9月、中小企業に低利での借り換えを促すために中国人民銀行が3000億元(約5兆円)の資金枠を設けたのはその一例だ。その背景には、大手銀行が、信用リスクが相対的に低い国有、国営企業への融資を優先するという構造的な問題がある。
しかし、共産党政権の景気下支え策は中小企業の景況感の改善につながらなかった。そのため昨年12月の中央経済工作会議では中小企業を念頭に置いたとみられる減税措置が発表された。同月に中国人民銀行は想定外に利下げを実施した。1月には追加利下げが実施された。それにもかかわらず財新の製造業PMIが50を下回った。共産党政権は想定を上回る景気減速の鮮明化にかなりの危機感を強めているだろう。
■負のスパイラルにはまる危険が高まっている
景気下支えのために、習政権はなりふり構ってはいられない状況を迎えたと考えられる。財政面では国債の発行や地方債の発行を増やさなければならない。債務に依存した経済運営を支えるために、中国人民銀行は追加的な利下げや流動性の供給を行う可能性が高い。
その結果として想定されるのが、ゾンビ企業の延命だ。“灰色のサイ”と呼ばれる債務問題は深刻化するだろう。本来なら共産党政権は債務返済が困難になった不動産デベロッパーなどに資本を注入し、不良債権処理を進めなければならない。
しかし、それが難しい。債務問題を抱える民間企業の救済は、貧富の格差拡大に直面する民衆の不満を膨張させるだろう。不動産バブルが崩壊する中で不良債権処理が遅れれば、景況感悪化は避けられない。やや長めの目線で考えると、拡張的な財政政策と緩和的な金融政策は債務残高を膨張させるだろう。信用リスクは上昇し、経済成長率の低下傾向が鮮明になるという負のスパイラルに中国経済は向かう可能性が高まっている。
■“国進民退”で破綻する民間企業はさらに増える
中国経済の減速傾向は強まり、習政権の経済運営は一段と難しい状況を迎えるだろう。今後の展開によっては、習氏の求心力にマイナスの影響が及ぶ可能性がある。主要先進国は感染再拡大のリスクに留意しつつ“ウィズコロナ”の社会と経済運営を目指している。それとは対照的に、中国のゼロコロナ姿勢は非常に強い。動線寸断は長期化するだろう。それは中国経済の成長にマイナスだ。
また、不動産バブル崩壊は本格化する恐れがある。一部で“国進民退”と呼ばれるように、共産党政権は国有、国営企業に恒大集団など民間デベロッパーの資産を買い取らせようとしているようだ。
懸念されるのが、住宅価格が下落する中で民間企業が資産を売却すれは、不動産市況の悪化に拍車がかかることだ。民間企業が返済資金を確保することは一段と難航し、本格的なデフォルト、あるいは経営破綻は増加する。計算の方法にもよるが中国の国内総生産(GDP)の30%近くを占める不動産関連分野で景況感の悪化は避けられないだろう。
■習氏が目指す「3期続投」にも暗雲
海外に起因するリスクも高まっている。特に、米国の金融政策の転換のインパクトは大きい。3月以降、米連邦準備制度理事会(FRB)は利上げとバランスシート縮小による流動性の吸収を開始し、米金利は上昇する可能性が高い。その一方で、主要国の中央銀行の中で中国の金融緩和姿勢は鮮明だ。米金利の上昇によって中国から流出する投資資金が増えるだろう。
中国経済の専門家の間では、2022年の実質GDP成長率が4%台前半に低下するとの予想が増えている。経済成長率の低下は社会心理を不安定化させ、習氏の政権運営にもマイナスの影響が及ぶ恐れがある。中国の政治や経済の専門家の一部からは、共産党内部で景気減速を食い止められない習政権への不満や批判が増えているとの見方が出始めた。
秋の党大会で3期続投を目指しているとみられる習氏が、毛沢東に並ぶ地位に上がれないのではないかと不安視する専門家もいるようだ。景気減速によって、習政権への不満は増える可能性がある。その展開が現実のものとなれば中国経済の先行き不透明感は一段と高まる。
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法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)
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