「ホームレスの人から大きなものもらったから…」日本一の女子校・桜蔭OGが持ち続ける街づくりの夢
プレジデントオンライン / 2022年2月21日 14時15分
■日本一の女子校・桜蔭生…大学受験“失敗”が人生の転機になった
「私にとって桜蔭は、楽しすぎる学校でした!」
第一声、そう話しだしたのは、プレジデントファミリー2006年発行のvol.2に、桜蔭中学の合格者として登場してくれた片田梨奈さん(28)だ。
梨奈さんは桜蔭中学・高校から芝浦工業大学に進み、その後、東京工業大学の大学院で都市・環境学を学んだ。卒業後は食品工場専門の建設会社に就職し、食品プラントの設計・施工を担当している。
プライベートでは、大学院時代に知り合った増田知久さんと結婚。昨年、第1子となる長男を授かり、現在育休中だ。
梨奈さんが今、桜蔭の良さとして感じていることは、議論し合える仲間、議論し合える環境が豊かだったことだという。
「恋愛の話から孤独死の問題まで、本当にいろいろなことが話題になりました。みんな自分の考えをもっているし、反論を恐れて口をつぐむなんていうこともない。もちろん、意見が違うからといってあとから人間関係がギクシャクするようなこともない。互いに互いを認め合う、本当の意味での議論ができました」
とはいえ、真面目に議論ばかりしていたわけでもない。学校帰りに延々と散歩をしたり、制服のままジェットコースターに乗りに行ったりしたこともある。学校から見える東京ドームからコンサートの音が聞こえ、「あのアーティストがあそこにいるんだ」とワクワクしたこともあるという。まさに青春を謳歌(おうか)した中学・高校時代だった。
「そのせいで……というわけではありませんが、大学受験に身が入りませんでした。実は、芝浦工大は第1志望ではなかったんです」
第1志望の不合格がわかったとき、梨奈さんは号泣した。芝浦工大には合格していたものの、夢が断たれ、自分の人生が終わったかのような絶望を感じたのだ。
そのとき、言葉をかけてくれたのが、父親だった。
「梨奈は建築の勉強がしたいと言っていたじゃないか。たとえ第1志望じゃなくても、それができる場所を与えてもらえただけありがたいことじゃないか。おめでとう!」
父のその言葉に梨奈さんは再び前を向き、歩きだす勇気をもらった。
■「ホームレスの人から大きなものをもらった」
芝浦工大では大好きなフィールドワークにも取り組んだ。街を歩いていると、桜蔭時代、放課後に散歩していたことを思い出した。卒業論文のテーマは「豪雪地帯における高齢者の冬季移住」。さらに深く研究するために東工大の大学院に進むことも決めた。
しかし……。
「私が大学院に進んだちょうどその頃、父は病でこの世を去りました。本当に突然でした」
梨奈さんが建築に興味をもつきっかけをつくってくれたのも、父だった。医師として多忙な毎日を送っていた父は、たまの休暇には家族と共に各地を旅行した。時には、海外で開催される学会に、梨奈さんたちを同行させてくれることもあった。
梨奈さんは見知らぬ街の珍しい建築物に目を奪われた。
早すぎる父の死に、梨奈さんは大きな喪失感にとらわれた。まるで自分だけが社会から疎外されているような、自分の気持ちをわかってくれる人が誰もいないかのような……。
一種の孤独感をもったまま、梨奈さんの大学院生活が始まった。所属した研究室で出合ったのが「ホームレスの人々に関する調査と政策提言活動を行う市民団体」だった。
大学時代から、社会制度からこぼれてしまっている人々も穏やかに暮らしていける街づくりに関心をもっていた梨奈さん。同団体の活動に携わる中で、ホームレスの人々の中にも、「どうせ誰にもわかってもらえない」という孤独感を抱えている人がいるのではないかと思った。
誰しもが、社会との関係性をうまく築けないことがあるのではないかとも感じた。そして、苦しんでいるのが自分だけではないと知った。
「ホームレスの人々から、大きなものをもらった気がします」
![ハートマーク](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/b/670/img_6b3926cd26699d34f7287d38eb4d52e1451093.jpg)
まもなく1歳になる長男を抱っこしながら、梨奈さんは笑顔でそう振り返る。
■「父や母に体を拭いてもらったことを思い出した」
現在、梨奈さんは28歳。
「高校を卒業して10年ほどの間に、大学に行って大学院に進み、就職。父を見送り、結婚して、子供まで生まれて! 自分の人生がこんなに目まぐるしく進んでいくなんて、桜蔭に通っていた頃には想像もつきませんでした」
夫・知久さんも、「とにかく根が明るい人だから、毎日が楽しいですよ」と、笑顔を見せる。
最近、梨奈さんは、忙しい育児の合間を縫って、いわゆる社会的マイノリティーの人々と街づくりについての勉強を始めた。
「出産直後、ずっと家で子育てをしていると、何だか自分が社会から切り離されてしまったかのような感覚があったんです。そんなふうに感じている人も安心して暮らせる居心地のいい街づくりってどんなものだろうと、興味がわいてきました」
子育てをしていると、今まではあまり思い出さなかった、小さな頃の記憶がよみがえることがよくあるという。
「父や母に、体を拭いてもらったり、食事の世話をしてもらったりといった、本当に些細なことなんですが、ものすごく濃密な時間だったな、愛してもらっていたんだなと、今になって気づきます」
(プレジデントFamily編集部)
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