1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 政治

「五輪選手はOKでも、ビジネス客はNG」海外から"ネオ鎖国"と批判される岸田政権の思考停止

プレジデントオンライン / 2022年2月9日 10時15分

官邸に入る岸田文雄首相=2022年2月4日、東京・永田町 - 写真=時事通信フォト

■世界の研究者たちが日本の入国制限を批判

世界中で新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」の感染拡大が続いている。日本は外国人の入国制限や蔓延防止措置といった従来の政策を繰り返しているが、筆者が住む英国を含め、多くの主要国は自主隔離やコロナ検査の類いを短縮あるいは撤廃し、「コロナ以前の暮らしの復興」へと方針転換している。

そしてそれらの国でいま、「日本は科学的根拠に基づかない外国人受け入れ停止措置を解除すべきだ」と訴える動きが着々と進行している。

ブルームバーグによると、100人を超す世界の研究者や大学教員らは1月18日、岸田文雄首相に対し、「水際対策の早期緩和を強く求める」とする書簡を送った。入国制限が「国際社会との関係に悪い影響を与えて日本の国益を毀損(きそん)している」とも訴えており、その深刻度は尋常ではない。

■「いつになったら日本は鎖国をやめるのか」

「いつになったら日本は鎖国をやめるのか? これじゃ仕事にならない」

筆者の元には、欧州在住のビジネスマンからこうした類いの質問が飛んでくる。「東京五輪の選手らは入れたのに、ビジネスだと入国できないとはどういうことなのか説明してほしい」とまで言われたこともある。

日本は2020年3月以降、コロナ禍対策によって、観光、就労、研究、学生ビザといった渡航条件のいかんにかかわらず、外国人の新規入国を大幅に制限している。日本経済新聞によると、海外で日本への上陸を求める入国希望者数は昨年10月時点で37万人超に達しているという。

同紙はさらに2月7日付一面で、厳しい水際規制による企業活動への影響について、「鎖国状態が続けば、人材やマネーの日本離れが一段と進みかねない」「主要国で外国人の新規入国を原則禁止するのは日本のみで、ビジネス環境の悪化は鮮明」と表現。経済復興への足かせになる懸念を示している。

世界保健機関(WHO)はかねて、日本政府のこうした「日本人と外国人との扱いの差」について異論を唱えてきた。1月にはWHO緊急委員会が新型コロナに関わる渡航規制を撤廃、もしくは緩和するよう加盟国に勧告も行った。多くの国々はこの勧告以前から、外国人に対しても「国民と同様の厳しい規定を守ってもらう」という条件で入国を許している。コロナ対策の厳しい中国でさえ、長期滞在可能なビザを持つ外国人の受け入れは継続的に行っている。

■日本との取引はリモート対応でいい

こうした背景もあり、海外から見た日本は「外国人泣かせの対策」の厳しさがより目立つようになっている。世界の主要都市を相手に仕事しているビジネスマンたちは「どうして日本は、“ガイコクジンだとダメ”と言い続けているのか理解に苦しむ」といった趣旨の苦言を異口同音に発している。

南部ドイツ出身の40代男性は「日本の企業さんと一緒にビジネスイベントを開く。その具体的な相談のために1日も早く訪日したい」とすでに1年以上にわたって希望しているが、「この状態では、欧州から出展者を送ってイベントを開催するどころか、準備のための打ち合わせもできない。このまま日本での計画を潰すしかない」と嘆いている。

ヒアリングを進めたところ、「日本を切った」というさらに厳しい判断もあった。

「日本とはリモートでしかやりとりしないことにした」というのは、IT系の多国籍企業に勤める50代のマネジャーだ。「日本政府の姿勢から、人の交流ができる雰囲気がまるで見えてこない」と指摘。この会社はきっと、コロナが落ち着いても日本へ出張者をほとんど送らないだろう。「例えばシンガポールは同じアジアの国だが、外国人受け入れに向けたスキームを対外向けに公表、運用している。ルールに従えば入れるという公正さ、明確さが信頼できる」と日本との決定的な違いを口にする。

■「ネオ鎖国」の日本はアジアの片田舎の国になる

日本政府による外国人入国拒否について、外国メディアの中には、江戸時代の「鎖国」をもじって、現在の状況を「ネオ鎖国(neo-sakoku)」と揶揄(やゆ)する論評が広がりつつある。筆者が目にしたものでは、

「ネオ鎖国を黙認し続けていると、日本は外国との交流から断ち切られ、アジアの片田舎の国になる危険性がある」(Nikkei Asia、1月27日付)
「コロナ禍以前から『外国人には入ってきてほしくない』と考える人々や、『日本はガラパゴス的な鎖国をしていたほうが快適に進化するかも』と信じる人たちにとって、『ネオ鎖国』の政策はきっと喜ばしいものなのだろう……」(Financial Times、1月29日付)

こうした言葉を連ねるジャーナリストらは、「コロナと対峙(たいじ)する日本国民の意識」をよく調べている。例えば、「潜在的な外国人嫌いの傾向」だったり、「ゼロコロナを死守するためには、ヨソモノを遠ざけたいとする考え」だったりといった、一部の日本人が持つ「気持ち」に対し、敏感にアンテナを張っている。

■各国の日本大使館前では「開国要求デモ」が

さらにこんな動きもある。各国にある日本大使館や領事館の前に多くの外国人が集まり、日本政府が続ける水際措置の緩和を訴えるデモが増加しているのだ。

出入国在留管理庁によると、日本留学への道が閉ざされてしまっている人は2021年10月1日時点で約14万7800人にのぼる(NHK、1月29日)。日本の入国ビザを取得したにもかかわらず、政府の水際対策で無効となっているためだ。ツイッターでは「OFFICIAL STOP JAPAN'S BAN」というアカウントがこの状況を受け、「日本の非科学的な水際対策に対する世界的な抗議」を掲げて留学予定者たちの窮状を発信している。

外国人による国内支出は、経済統計の上では「輸出」と同じく、外貨が得られる形となるが、目下のところ留学生を含む約37万人分のチャンスも失っているわけだ。なお、日本政府は1月下旬以降、(わずかに)87人の国費留学生の入国を認めている。

京都・清水寺へと続く参道(2015年)
写真=iStock.com/YiuCheung
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/YiuCheung

米国セントラルフロリダ大学でホスピタリティ産業経営学を教える原忠之教授は、「日本に留学する予定だった米国人大学生が数名いました。しかし、2年も『鎖国』状態が続いたので、これじゃあ全員日本に行けないまま卒業を迎えることになってしまった」と嘆く。

■日本の博士課程を志望していたが…

原教授によると、こんなことも起こっているという。

日本のある大学の修士課程に合格、しかも文部科学省の奨学金を得て博士課程への進学も予定していた米国人女学生がいた。しかし、この学生も渡航できず「彼女は日本そのものについて考えることも避け、とうとう大きく方向転換して欧州の国で高給をもらって就職しました」(原教授)

彼女が仮に日本に留学していたら、優秀な人材として今後50年間にわたって日本に貢献してくれる可能性がとても高かっただろう。人材の海外流出が止まらない日本にとって、大きな損失といえようか。

海外では「オミクロン株での重症者は少ない」と見込んで、すでに経済回復に大きく舵を切った国も存在する。

例えば英国政府は「オミクロンは重症化率が低い、重篤化する患者の多くはワクチン未接種者」と見なしており、医療資源の適正化を図りながら、ブースター接種済みの市民を「コロナ以前の暮らし」に近づけるような方策をとっている。すでに6割を超える国民がブースター接種を終えたという背景もある。

さらに、海外からの入国者に対しては、自主隔離はもとより、コロナ検査の類いを全廃した。「もうオミクロンは市中に蔓延しているので、水際対策に意味を見いださない」という理由による。現在の感染者数はオミクロン株による感染のピークと比べ、3分の1程度まで減ったこともあり、強気の姿勢で臨んでいる。

■東京五輪後の国際大会が次々と消滅

日本人からすれば、蔓延防止措置で外食や旅行もしづらいのに、外国から人を呼ぶなんてもってのほかと思うかもしれない。しかし、隣国の中国では北京冬季五輪が始まり、欧州各国ではオミクロン株の感染状況をにらみながら、ほぼ満員の観客を入れてプロサッカーリーグの試合をはじめ、各種のスポーツイベントが実施されている。

さまざまなリスクを負いながらも昨夏に東京五輪をやりきった日本だが、実はその後に予定されていた世界的な競技イベントはキャンセル・日程変更される例が後を絶たない。

五輪後に延期・中止となった世界的スポーツイベントの例
(日程は当初の実施予定日)
21年10月8~10日 F1日本グランプリ(三重県鈴鹿サーキット、中止)
22年3月4~6日 JAPAN MOUNTAIN BIKE CUP(伊豆市、延期)
22年3月25~27日 FISE HIROSHIMA 2022(旧広島市民球場跡地、中止)
22年5月13~29日 世界水泳2022福岡大会(福岡市内の複数カ所、延期)
50メートルプール
写真=iStock.com/Evgenii Mitroshin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Evgenii Mitroshin

■開催する準備ができても入国ビザが下りない

F1(フォーミュラワン)は言うまでもなく世界最高峰のモータースポーツの祭典だ。鈴鹿での実施見送りは20年、21年と2年連続となった。21年は特に、鈴鹿サーキットにもゆかりがあるHondaのF1参戦が最終年度となったことから、日本のファンだけでなく、世界からも注目が注がれていた。

鈴鹿サーキットは当時の声明で「F1日本GPを開催するために設定された期日までに、F1海外関係者の日本入国が確実な状況に至らなかったために、やむなく開催中止の決断をした」と述べている。つまり、日本政府が外国人関係者に対する入国ビザを発給する姿勢が見えなかったためとも読み取れる。

福岡市で今年5月に開催予定だった水泳の世界選手権(世界水泳)は23年7月に延期が決まった。ロシアの国営イタルタス通信は、福岡大会の延期是非を話し合ったFINA理事会に参加した役員の話として、「パンデミックやコロナ環境下での、参加者の到着や宿泊の手配に関する問題から、世界選手権の2023年への延期を決議した」と伝えている。

中国で、より大会規模が大きい冬季五輪が行われている中、「日本で水泳の選手権ひとつさえできないのはおかしい」と考える人もいるだろう。これはひとえに、日本政府が「外国人へのビザ発給作業を止めて入国させない」という姿勢をとっている理由に尽きる。

■国際大会もビジネスも「日本切り」が増えていく

このままでは、スポーツの国際大会のように、準備作業からの道のりを考えると相当な予算と人力が掛かるイベントの実施について、「日本は『ネオ鎖国』を平気でやるような国だから投資するのが危険だ」とプロモーターたちが二の足を踏む可能性も出てくる。「日本開催に向けて投資しても、いつ、どんな理由でひっくり返されるか分からない」と判断されてしまったら、それこそ国益を損なう事態となる。多国籍企業で「日本切り」が現実に行われているとするなら、そうした事態への対策も考えるべきだ。

昨年12月、政府が「日本人帰国者を含む、外国からの入国者の受け入れ中止」を打ち出した際には、とても多くの国民から喝采を浴びた。岸田政権はこうした世論を意識してか、外国人に対する入国要件の緩和に手をつけたくないというのが本音だろう。

ただ、2月に入って、政府が重い腰を上げる姿勢をみせている。山際大志郎新型コロナ対策相は4日、「柔軟に対応していく」と述べ、3月以降の緩和へ前向きに検討していくとの考えを示した。早ければ2月中旬までに、外国人の入国に向けた緩和措置について方針が示される可能性が高まっている。

■コロナ対策は今や思考停止に陥っている

オミクロン株が世界に広まった当初、日本の水際対策は一定の成果を上げていた。しかし、世界の主要国におけるコロナ政策は「緩和の方向」にあり、明らかに経済復興へと舵を切っている。今すぐに「開国せよ」とは言わないが、外国人入国を含む出口戦略に道筋をつけるタイミングにあるのではないだろうか。

訪日が不可能となっている海外のビジネスマンらをはじめ、研究者や留学生、技能実習生の人々が持つ日本という国への不信感は膨らみ続けるだろう。仮に受け入れが困難であるなら、しかるべき合理的な理由を説明するべきであって、間違っても「外国人排斥」と思われるような施策はとってはならない。

今や、思考停止に陥っている水際対策への合理性ある見直しを期待したい。

----------

さかい もとみ(さかい・もとみ)
ジャーナリスト
1965年名古屋生まれ。日大国際関係学部卒。香港で15年余り暮らしたのち、2008年8月からロンドン在住、日本人の妻と2人暮らし。在英ジャーナリストとして、日本国内の媒体向けに記事を執筆。旅行業にも従事し、英国訪問の日本人らのアテンド役も担う。■Facebook ■Twitter

----------

(ジャーナリスト さかい もとみ)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください