「税金のムダ遣い」とは報じられない…絶対中止にできない「さっぽろ雪まつり」のカラクリ
プレジデントオンライン / 2022年2月9日 15時15分
■4億円の予算に対し「雪像はオンライン鑑賞で」
2月5日(土)「オンラインさっぽろ雪まつり」が開幕した。当初は規模を縮小して2年ぶりに大通公園で開催する方向だった「雪まつり」だが、オミクロン株の感染拡大を受けて結局、昨年に続いてオンラインでの開催となった。もっとも筆者も含めた大方の札幌市民の反応は「ふーん、まあ仕方ないよね」という淡泊なものだった。
試しに「オンライン雪まつり」のページを開いてみると、オンライン配信用に制作した雪像「雪ミク(初音ミク)Grand Voyage Ver.」の制作過程や、完成した雪像でのライトアップショーの動画が上がっている。7日午後現在での再生回数は、制作過程が約2,600回、ライトアップショーが約7,300回。ちと微妙すぎやしないか、と思っていたところ、当サイトの編集者からこんなメールが届いた。
〈雪まつりのオンライン開催が決まったと聞いて、正直にいって「そこまでしてやらなければいけないの?」と思いました〉
かつて記者として札幌市政を取材した経験がある彼女によると、令和3年度(2021年度)の札幌市一般会計予算では「雪まつり実行委員会への補助金及び雪まつり大通会場における大雪像制作」として4億1800万円が計上されており、中止なら全額を翌年度に繰越せばいいものを、オンラインという中途半端な形での開催にこだわるのは、市がこの予算を消化したいがためではないのか、というわけだ。
言われてみれば、ありそうな話だ。こうした見立てに対して、札幌市の関係者は「その通りです」とアッサリ認めた。
■「やらないなら何か代替案を考えなくては…」
「正直、オンラインで雪像を見ても面白くないでしょうね。ただ、全面中止にするとこれまでの歩みを止めてしまうので、苦肉の策だったのかなと。雪まつりのための予算はすでに決めているので、やらないなら何か代替策を考えなくては……となるのが役所の考え方です」(同前)
そこには「雪まつり」ならではの事情もあるという。地元記者が解説する。
「雪まつりは、札幌市が、札幌市内の企業・団体などから構成される『雪まつり実行委員会』に補助金を出す形で企画・運営されていますが、実行委員会の中心は大手広告代理店です。会場となる大通公園の丁目ごとに担当する代理店が決まっていて、彼らがそれぞれスポンサーを連れてきて、イベントも取り仕切る。例えば大雪像1個につきスポンサー料は約2億円で、こうしたスポンサー料などは札幌市からの補助金とは別枠扱いで、広告代理店にとってはオイシイ部分となります」
■「予算を消化できるのならやらない手はない」
大手広告代理店がここまで力を持つに至った背景には、「雪まつり」が歩んできた歴史がある。1950年に地元の中・高校生が6つの雪像を大通公園に設置したことをきっかけに始まった「雪まつり」は、陸上自衛隊が「雪中訓練」の一貫として実質無償で大雪像の制作を手掛けるようになった50年代半ばから全国的にも認知されるようになる。
さらに1972年の札幌冬季五輪のころから、大手広告代理店が企画・運営に携わるようになると一気にメジャー化する。本来であれば観光閑散期の2月の札幌に国内外から200万人以上の観光客が詰めかける一大イベントとなり、その経済効果は500億円ともいわれる。
「以降、札幌においては、広告代理店を中心とした『実行委員会方式』が完全に定着し、雪まつり以外にも、初夏のYOSAKOIソーラン祭りや真夏のさっぽろ大通ビアガーデン、秋のさっぽろオータムフェストなど大通公園を会場とするイベントはすべて同じ構図です。もはや広告代理店の協力なしに札幌市がこれらのイベントを単独で企画・運営することは不可能なので、すべて“丸投げする”しかない。
![フェスティバル](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/e/670/img_9e5e4c4d19a1087f6a6cc884b5aa044c1465181.jpg)
また広告代理店ばかりでなく地元の観光産業やイベント関係者にとっても雪まつりがあるのとないのとでは、天国と地獄ほど違う。だからオンラインでも何でも、予算を消化できるのなら、やらない手はないわけです。さらにいえば、新聞やテレビなどのメディアも軒並み雪まつりの後援に名を連ねていますから、“税金のムダ遣いでは”という報道が出ることもありません」(同前)
■昨年のオンライン開催では2億2060万円
なるほど。そのあたりの「大人の事情」については分かったが、一市民としてはやはり、その「オンライン雪まつり」に一体いくらかかるのかは気になるところだ。
札幌市が公開している事業評価調書によると、例年のフルスペックの雪まつりには、4億3000万円(2019年度)の事業費がかかっているが、昨年のオンライン開催のときには、実際にいくらかかったのだろうか。札幌市経済観光局観光推進課に電話してみた。
——昨年の「オンライン雪まつり」では、どれくらいの金額がかかったのでしょうか?
「令和2年度の収支決算が出ておりまして、決算額でいいますと、2億2060万円ですね。(フルスペックよりは)少しかかってないということになっていますね」
——その2億円の内訳というのは、どこかで見れるようになっていますか?
「細かい内容になりますと、決算書をつくっているのが、雪まつり実行委員会になるんですよね。実行委員会であれば、何にどれくらい使ったかを細かく把握しているはずです。われわれのほうではざっくりとした予算感と大きな項目でしか把握していないもので。(実行委員会なら)可能な範囲で教えてくれるはずです」
というわけで、今度は雪まつり実行員会に訊いてみる。
■補助金を出す市が細かい使途を把握していない?
——今年のオンライン雪まつりの予算はどれくらい?
「雪まつり自体が『さっぽろ雪まつり実行委員会』という任意団体でやっておりまして、その中に札幌市さんの補助金とか協賛金が集まって事業をやっています。例年ですと5億円とかそれぐらいの規模でやっているんですが、今年は恐らく2億とか3億の事業規模になるかと思います」
——その内訳、例えば昨年は何にいくら使ったというのはどこで見れるんですか。
「どうだろう……札幌市さんのほうでもし出ていなければ、実行委員会で収支決算をやっていて、年2回会議をやっているんですね。そのなかで、報告というか議案として諮っているということになっています」
——そこで報告されている内訳を見るには、「開示請求」するしかない?
「恐らくそういうことになると思います。札幌市さんのほうに開示請求していただいて、札幌市さんのほうから実行委員会に開示を求めるという流れになるんじゃないか、と」
「オンライン雪まつり」で何にいくら税金が使われたのかを知りたいだけだったのだが、思いのほかガードが固いことに少し驚いた。そもそも補助金の出し手である札幌市が、その細かい使途を把握していないというのは、かなり不思議な話だと思う。
■札幌市は「昨年度のオンライン開催が好評だったので」
このコロナ禍で全国的に「オンライン祭り」は定着しつつあるのも確かだが、花火大会や盆踊りなど動きのあるものならともかく、動かぬ雪像をオンラインで見る意味があるのだろうか――。
「雪まつり」を担当する札幌市経済観光局観光・MICE推進課の辻本係長はこう語る。
「今年度は元々雪像の設置によるリアル展開とオンライン展開のハイブリット形式により、国内外に雪まつりの魅力を発信していく計画でした。コロナ(オミクロン株)の急拡大により、リアル部分は断念したが、昨年度、国外からも多くのアクセスがあり好評だったので、オンラインについては引き続き開催することにしました」
ちなみに、前述した「雪ミク」の動画配信以外の今年の「オンライン雪まつり」の主な内容は、以下のようになっている。
・世界的DJによる雪まつりトリビュートライブ中継
・さっぽろ雪まつり大歴史展
・Online さっぽろ雪まつり2022 CRAFT FES(期間限定商品の販売やワークショップをオンラインで開催)
■「雪まつりより、除排雪何とかしてくれよ」が本音
こうしたイベントの金額として「2億円から3億円」が適正なのか、筆者には判断する術がない。だが、他に使いみちがあったんじゃないかな、とは思わないではない。
![札幌市街地の様子。左側は車道だが除排雪が追いつかず、雪壁で視界がほとんど遮られている(写真=筆者撮影)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/b/250/img_9bbef05f6fe2f0f8660e9ab767923f9a255187.jpg)
例えば目下、札幌市においては「除排雪の遅れ」が大きな問題となっている。
今年の札幌は例年になく雪が多く、7日には観測史上1位となる24時間で60センチの降雪量を記録したほどだが、札幌市が業者に委託している除排雪の動きが鈍いのだ。そのせいで街中でも歩道と車道の間に雪壁がそびえ立ち、道が狭くなっているため至るところで渋滞が起き、何より見通しが悪く危険でさえある。
「雪まつりより、除排雪何とかしてくれよ」が札幌市民の本音なのだ。ちなみに令和3年度の札幌市の予算によれば、「歩道除雪費」は7億4000万円の予算規模となっている。
「雪ミク」像は高さ3m×横6mだそうだが、場所によっては3m近い歩道の雪壁を見上げながら、胸中に釈然としない思いが降り積もる。
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1975年生まれ。東京大学文学部卒。1998年文藝春秋入社。「Sports Graphic Number」「文藝春秋」「週刊文春」編集部などを経て、2019年フリーに。さらに勢いあまって札幌に移住。
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(伊藤 秀倫)
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