売り上げ前年比170%"添加物で味付けをしない"ノンアルビール「龍馬1865」命名の秘密
プレジデントオンライン / 2022年2月16日 15時15分
■2007年に宝酒造から「バービカン」を譲り受けた
1979年に創業した日本ビールは、世界各国からプレミアムビールなどの輸入・販売を行っている企業だ。世界に数多く存在するビールの中から、特色豊かなものを厳選し、日本の市場で販売してきた。
![「龍馬1865」(画像提供=日本ビール)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/a/250/img_6a2bb84c8ce5609b1de75ee1c90e2a7b60131.jpg)
そんななか、ノンアルコール飲料を発売するに至った経緯について、近藤さんはこう振り返る。
「ノンアルコールビールの先駆的存在だったのは、1986年に発売された宝酒造さんの『TaKaRaバービカン』です。いわゆる“ビールテイスト飲料”として話題となり、一世を風靡(ふうび)した商品でした。転機になったのは、2006年に宝酒造さんがアルコール以外の清涼飲料事業から撤退することを発表したときになります。ちょうど当社でノンアルコールビールの取り扱いがなかったため、『バービカンを引き継がせてもらえないか』と宝酒造さんに問いかけたところ、快諾してくれました。そこで、2007年に宝酒造さんからバービカンの販売権を譲ってもらったのが、ノンアルコールビールを製造・販売するようになったきっかけです」
■輸入販売事業で得たネットワークが商品開発に役立った
バービカンの製造は、宝酒造からOEMの工場や資材の業者を紹介してもらうところから始まった。
しかし、“バービカン”という呼称を使っていることが大きな足かせになったという。
「そもそもバービカンという名前はイギリスの地名に由来するのですが、この名を冠して販売していく上ではさまざまな制約がありました。あらかじめ指定された原料を使わなければならないことや、商標権を持つインベブ社(現:アンハイザー・ブッシュ インベブ社)へロイヤルティーを払う義務があるなど、一定の縛りがあったのです。幸いにも販売数自体は堅調だったのですが、どうしても味の面が気になったり原価が高くて利益を出しづらかったりしたので、インベブ社に思い切って交渉してみたんです。
そうしたところ、『商品名を変えるなら、指定原料などの縛りを外す』という回答をいただけました。そこから、自分たちで一から原料探しを始め、新たにノンアルコールビールの商品開発に着手したんです」
日本ビールは創業以来、海外ビールの輸入販売を手がけてきたこともあり、最適な原材料を見つけるためのネットワークはすでに持っていた。
過去に築いてきた輸出会社や酒類メーカー、コーディネーターとのつながりを生かし、原材料探しに奔走したところ、麦芽100%のモルトエクストラクト(ビール醸造の原料となる麦芽抽出物)にたどり着いたそうだ。
■2010年に「龍馬1865」を発売
こうして足かけ3年、バービカン改め「龍馬1865」を2010年に発売した。
名称の由来について近藤さんは、「1996年に自社ブランドとして発売した『明治維新12人衆ビール』が元になっている」という。
「明治維新12人衆ビールは、幕末から維新にかけての有名人12人をラベルにあしらったビールです。中でも、坂本龍馬のビールが特に人気でした。近代日本の幕開けに大きな貢献を果たし、さらには全国にゆかりの地があることから、取り扱う酒販店が増えていたんです。また、当社の社長が坂本龍馬を好きだったのもあり、『龍馬ブランドとして展開していけば面白いのでは』と思ったのが商品名の由来となっています。1865という名前は、坂本龍馬が長崎の商人・グラバー氏からビールを譲り受け、初めてビールを飲んだのが1865年であると伝えられていることにちなんでいます」
龍馬1865を発売した2010年頃は、キリンビールの「キリンフリー」やアサヒビールの「アサヒ ダブルゼロ」など国産のノンアルコールビールも市場に出てきており、競争が激しさを増していた。
![「明治維新12人衆ビール」は坂本龍馬以外に土方歳三や近藤勇などのラベルも展開している](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/e/670/img_bef205f316ae962a4a11482815cfadd7229227.jpg)
■食品添加物をなるべく入れないことに注力
そんな状況のなか、龍馬1865の商品開発でこだわったのは「食品添加物を極力入れないように工夫したところにある」と近藤さんは語る。
![パッケージには「添加物ゼロ(炭酸以外)」と書かれている(画像提供=日本ビール)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/a/250/img_6a2bb84c8ce5609b1de75ee1c90e2a7b60131.jpg)
「ノンアルコールビールは、本来のビールとは異なる製法で作る以上、どうしてもビールならではの味の深みや麦芽の香りが出しづらくなります。でも、ビールのような味にするために添加物をたくさん入れることだけは避けたかったんです」
背景には、販路拡大のために営業担当者がオーガニック系の宅配業者や生協へ売り込みにいく際、「添加物はどうにかならないのか」と言われていたことがあった。
「日本初のプリン体ゼロ、添加物ゼロをうたっていましたが、食品衛生法上、ph値が4を超えると清涼飲料水として販売できなくなるため、酸味料だけは外せませんでした。ただ、酸味料が添加されているままでは、販売業者によっては取り扱いしてもらえないところもあったんです。そこでもう一度、原料となるモルトエクストラクトの見直しを図りました。試行錯誤しながらも、ph値が4以下になる原料をドイツで見つけることができ、2013年に正真正銘の『添加物ゼロ』と呼べるノンアルコールビールにリニューアルすることができたんです」
■「添加物ゼロ(炭酸以外)」と書いている理由
だが、またしても龍馬1865にとって試練が訪れる。
2020年4月に食品表示法が改正されたことで、原材料と添加物を「/(スラッシュ)」で分けて表示しなければならなくなったのだ。
龍馬1865の原料に使用している炭酸は添加物に該当するため、このままだと缶のラベルに無添加と記載できなくなる問題が生じたのである。
対応策を考えた末に出た答えが「添加物ゼロ(炭酸以外)」という記載だった。
「無添加と表示できなくなるのは痛手だったので、消費者庁とやりとりしながら案を巡らせていました。そんななかで『無添加』ではなく『添加物ゼロ(炭酸以外)』という記載の仕方はどうかと消費者庁の担当者へ聞いたところ、無事に認めてもらえました」
■2020年は前年比150%、21年は170%の売り上げ
紆余(うよ)曲折がありながらも、龍馬1865は“まさにビールを飲むが如し”という本格派の味わいが支持され、着実に裾野を広げることに成功した。
特に近年では、消費者の中でノンアルコールビールの立ち位置や飲まれ方が変わってきているのも追い風になっているという。
「一般消費者の中でも、ノンアルコールビールの立ち位置というか、飲まれ方が大きく変わってきていると思っています。バービカンを引き継いだ頃は『(お酒を飲むことへの)ドクターストップがかかった人の逃げ道』のようなネガティブな印象を持たれており、あくまでビールの代替飲料という捉え方をされていました。それがアルコール分0.00%の商品が出始めた頃から消費者志向が変化しはじめ、今では妊娠中や授乳中の女性、甘くない炭酸飲料を求める方に好まれるなど、ノンアルコールビールがポジティブに飲まれるようになったと感じています」
コロナ禍でも、龍馬1865の売り上げは2020年が前年比150%、2021年は170%と順調に伸長しているそうだ。オーケーストアなどでの店頭販売やECサイトで伸びているという。
■消費者の健康意識の高まりに応えていきたい
最後に近藤さんへ今後の展開について聞いた。
![写真左から「龍馬レモン」、「龍馬 Bloom IPA」、「龍馬 POWER SODA」](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/1/670/img_21c9477ec868773337bd5b11d26b4ad2283617.jpg)
「これまで時間や手間をかけ、龍馬ブランドを育ててきました。おかげで利益も確保できるようになってきているので、これからは消費者の多様なニーズに応えられるよう、さらなるラインナップの拡充ができればと考えています。現在、龍馬1865のほかノンアルコールのビアーカクテル『龍馬レモン』、IPAビール『龍馬ブルームIPA』、強炭酸水『龍馬 POWER SODA』」などさまざまな商品展開を行っております。近年は『添加物を体内に取り入れたくない』というニーズも顕在化しているので、そこの需要も取り込めるようにしていきたいですし、それとは別に、ヘルシー志向に合わせた機能性表示食品なども検討したいと思っています」
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フリーライター
1986年生まれ。ビジネス、ライフスタイル、エンタメ、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている。
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(フリーライター 古田島 大介)
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