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韓国、イスラエルに次いで大きい…「日本の男女間の賃金格差」を解消する新提言

プレジデントオンライン / 2022年2月12日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Srisakorn

働く女性が増えているものの、日本の男女の賃金格差は依然として大きいままだ。東京都立大学教授の宮本弘暁さんは「長期的に男女間の賃金格差を縮小するためには、労働市場の流動化が有益です。労働市場が流動的になれば、市場メカニズムにより、労働成果と賃金が一致するようになり、賃金格差は解消されます」という――。

※本稿は、宮本弘曉『101のデータで読む日本の未来』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

■人生100年時代に直面する3つのメガトレンド

今後、日本経済を再浮上させるためには何が必要なのでしょうか? 雇用は生産の派生需要です。つまり、雇用は生産活動があり、はじめて生まれるものです。これは、経済・社会の構造が変われば、おのずと雇用の在り方も変わらざると得ないということを意味します。

日本経済は人口構造の変化、テクノロジーの進歩、グリーン化という大きなメガトレンドの変化に直面しており、人々の働き方、雇用の在り方も変わる必要があります。

人生100年時代となり、今後、人々の職業人生は長くなることが予想されています。職業人生が長くなると、テクノロジーの進歩やグリーン化により産業構造の変化に直面する機会も多くなり、個人がキャリアを変更する可能性も高くなります。経済環境が目まぐるしく変化する中、個人がライフスタイルに合わせて最適なキャリアを実現するためには、働き方や雇用の在り方は柔軟でなくてはいけません。

■硬直的な労働市場をいかに流動化するかが課題

そこで、求められるのは流動的な労働市場です。流動的な労働市場とは、労働力の移動が単に活発というだけはありません。労働者が移動する自由が十分にある市場が流動的な労働市場です。

よく、労働市場が流動化すると、解雇が容易になり、雇用が不安定化するため、労働者にとってはよくないと懸念されますが、むしろ逆です。経済環境が変化する中、個人が最適なキャリアを実現するためには、労働者に多くの雇用機会を与える流動的な労働市場が望ましいのです。

逆に、硬直的な労働市場では、労働者が希望する仕事を選択するのは容易ではなく、その結果、雇用機会が縮小、労働者が不利益を被ることになります。実際、IMFの調査研究は、硬直的な労働市場では、雇用率や労働参加率が低くなることを示しています。また、硬直的な労働市場は衰退産業から成長産業への雇用の再配置を妨げるため、生産性や経済成長にマイナスの影響も与えます。

さらに、労働市場の流動性は経済政策の効果にも影響することがわかっています。公共投資などの財政政策は生産と雇用を増やすことが期待されますが、IMFの調査研究は、その効果は労働市場が流動的であるほど大きくなることを示しています。今後、経済のグリーン化を進めるうえで、公共投資の役割は重要になると考えられますが、その成功は労働市場の流動性に左右されうるのです。

このように、経済環境が大きく変化する中では、流動的な労働市場が求められているものの、日本の労働市場は非常に硬直的です。

では、どうすれば労働市場の流動性を高めることができるのでしょうか?

■年功序列の報酬制度が労働市場の流動化を妨げている

質の高い流動的な労働市場を構築するのに、重要なのが労働者の能力評価です。

これまで日本の企業では、勤続年数や社内派閥などをもとに社員の昇格、昇給を決めることが多く、労働者がどのような能力とスキルを持っており、どのような成果を上げているかをしっかりと見てこない傾向がありました。つまり、労働の価値をその成果で評価してきませんでした。

しかし、今後は労働内容と質を公正に評価することが求められます。海外では、担当業務や各部門で目標を設定し、労働者を客観的に絶対評価する動きが強まっています。

適切かつ公平な評価基準や項目を備えた人事評価制度により、労働者の理解と納得、そして努力を引き出す評価が求められています。客観的に透明性を持った評価が昇進や昇給につながれば、労働者のエンゲージメントは高まり、評価制度への信頼も増すと考えられます。

チームビルディングの概念。リーダーのピースをはめる
写真=iStock.com/tadamichi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tadamichi

公正に労働者の評価がなされるようになれば、テレワークも活用しやすくなると考えられます。パーソル総合研究所が実施した調査によると、労働者の多くが、テレワーク時に、上司から公平・公正に評価してもらえるのか、成長できる仕事を割り振ってもらえるかなど、会社の評価・キャリアへの不安を感じる労働者が多いことが明らかとなっています。労働内容と質を公正に評価できる人事評価制度を整備することで、労働者のこうした不安を払しょくし、テレワーク業務を進めやすくなると考えられます。

また、賃金も年功賃金ではなく、労働成果に応じた体系にする必要があります。日本企業で一般的な年功序列型の賃金体系では、労働者の生産性と賃金が一致しません。勤続年数が長くなると、賃金に見合うほど生産性が上がらなくなるため、企業は高齢者を雇うインセンティブを持たず、高齢化が進む日本では大きな問題です。

■世界では成果に基づく報酬制度がスタンダード

労働成果に見合う賃金体系ならば、企業は年齢にかかわらず労働者を雇うインセンティブを持ち、結果としてすべての世代が雇用機会に恵まれます。特に、高齢者人材の活用は単に日本経済の活力を維持・発展させるだけでなく、社会保障費の抑制など国の財政問題を改善することにもつながります。また、生産プロセスにおいて、経験や技能、世代が異なる人々が補完することになるので、経済成長にもプラスの影響を与えると考えられます。

労働成果に基づく報酬は労働者の生産性を高める可能性も指摘されています。『人事と組織の経済学』の著者として知られるスタンフォード大学のエドワード・ラジア教授の研究は、成果に基づく給与が労働者の勤労意欲を高めることで、企業の生産性を大きく上昇させることをアメリカのデータを用いて示しています。

また、ドイツの労働経済研究機関IZAの研究報告でも、その効果は賃金設計に依存するものの、成果に基づく給与は生産性を高める効果があるとしています。労働時間をベースとした報酬システムは国際的にみても、決して一般的ではありません。例えば、アメリカではホワイトカラーを労働時間規制の適用から外す制度「ホワイトカラーエグゼンプション」が普及しています。報酬は労働時間ではなく、成果に基づく年俸制です。グローバル化が進む中、優秀な人材の確保は海外企業との競争になることが予想されます。海外ではスタンダードな成果に基づく賃金体系を整えることが喫緊の課題です。

■流動化した労働市場では個人のスキルアップが必須

流動的な労働市場では労働者は自ら能力を磨き続ける必要があります。

労働市場が流動化すると、企業は優れた人材を採用、確保し続けるためには、待遇を良くし、高い賃金を支払う必要があります。これは、労働市場の流動化により優秀な人材の労働条件が向上するということです。労働市場の流動化により、これまで企業側にあった交渉力や決定権が労働者側に移ることになります。

しかし、この恩恵を受けるためには、個人はスキルを磨き、よりよい条件で職場を選べるようにならなくてはいけません。また、長寿化が進む社会では、生涯現役で仕事をするためにも、雇用環境の変化に対応するため、個人は自らの能力を磨き続ける必要があります。

これまで労働者のスキルアップは企業を起点としたもので、教育、訓練は企業が提供するのが一般的でしたが、今後は、労働者個人を起点とするキャリア形成を行っていく必要があります。そこで重要となるのが、リスキリングやリカレント教育です。

■日本企業の人材育成投資は主要国で最低

海外ではリスキリングの重要性が広く認識されています。世界経済フォーラムでは、AIなどの普及に対応するためにリスキリングの必要性が提言されています。また、テレワークの浸透などもリスキリングの重要性を強めています。これに対し、日本では若手社員向けの職場内訓練(OJT)が中心で、ベテラン社員への再教育の機会は多くありません。企業の人材育成投資(対GDP比)も主要国で最低となっています。

また、OECDによると、日本では25~64歳人口の半数以上が高等教育を修了しており、他のOECD諸国と比べて、高等教育が十分に普及しています。しかしながら、他のOECD諸国と比較して、日本は全学生に占める成人の割合が低く、生涯学習が普及していません。変化のスピードが速い世の中では、学生時代に学んだ知識や技術は時代遅れになりやすく、学校卒業後も労働者は学習を継続する必要があります。成人教育を推進するためには経済的支援のみならず、産業界やその他の関係者との連携により、より柔軟で実践的な高等教育を提供することが重要でしょう。

■「自己開発優遇税制」の導入で転職しやすい環境を

政府は需要の高いスキルに人々の投資を促すべきです。特に、技術進歩の恩恵を受ける準備が整っていない労働者に対しては、学習機会を提供する必要があります。すでに労働者に訓練補助金を支援する国もあります。シンガポールでは労働者が職業人生のどの段階においても訓練が受けられるように、25歳以上に給付金を提供しています。また、フランスも、全労働者を対象に、あらゆる分野の職業訓練に対して給付金を支給しています。

これからは、個々人がそれぞれの選好にしたがい、多様な仕事の可能性のなかで、自分は何をしたいのかを考え、どこに一番意欲があるのかを自ら発見し、キャリア設計していくようになります。そして、そのためには必要となるスキルや能力を身につける必要があります。つまり、労働者それぞれで必要な訓練や教育が異なるということです。

そうした中、労働者の自己開発投資を促すための支援として、自らの意思で教育訓練投資を行う個人の投資経費を課税対象所得から控除する「自己開発優遇税制」の導入を政府は検討すべきでしょう。

労働力が円滑に移動できる流動的な労働市場を構築するために政府ができることは他にも沢山あります。まず重要なのは、日本的雇用慣行を支えてきた税制や労働に関する政策・制度の見直しと改革です。政府は労働移動が不利になるような制度・政策を撤廃し、市場メカニズムを機能させる必要があります。社会保障や税制度は転職に中立となるように改革すべきです。また、雇用調整助成金も見直す必要があります。雇用調整助成金はコロナ禍で失業を抑えるのに一定の役割を果たしたものの、企業に事業構造改革を先送りさせたことも事実です。今後は、労働移動を妨げない雇用安定策へのシフトが求められます。職業紹介や情報提供システムの強化など、マッチング機能の拡充も欠かせません。入社後の活躍、定着を見据えたオンボーディングの活用も有益だと考えられます。

■経済の成長と安定には女性のエンパワーメントが重要

また、女性が活躍する機会を拡大することが重要です。今や、女性のエンパワーメントは世界が取り組むべき大きな課題となっています。女性が活躍する機会を広げることは、社会的公平性の観点や倫理的な配慮から大切だからというだけはありません。経済の成長と安定の観点からも女性のエンパワーメントは重要です。

IMFによる調査研究は、女性の労働参加を促進すると、これまでの想定以上に経済成長に大きく寄与することを明らかにしています。データは、女性と男性とが生産プロセスにおいて補完しあうことで経済的利益が生み出されることを示しています。この結果は、女性の労働参加は単に労働者数の増加を通じて経済成長を促進するだけにとどまらないことを意味しています。

効果を生み出す最大の理由は、男女で職場で発揮する能力やもたらす視点が異なるからです。例えば、リスクに対する姿勢は、男性が積極的なのに対して、女性は回避しようとする傾向にあります。また、女性の存在は、ピリピリした職場の雰囲気を和らげる効果があり、生産活動にプラスの効果をもたらすとされます。

■男女ペアで仕事をすることが多くの付加価値を生み出す

生産活動における男女の補完関係には、同性2人で仕事をする場合よりも、男女ペアで仕事をした方がより多くの付加価値を生み出すことができる機能があります。つまり、男性の就業者が女性よりも多い状況では、男性の労働者を増やすよりも同数の女性労働者を増やす方が経済全体にとって大きなプラスの効果がえられるということです。

また、働く女性の増加は男性にもメリットがあることがわかっています。女性の補完的な能力によって生産性が高まれば、男性の賃金上昇にもつながるからです。IMFは女性の就労促進が所得格差の解消や経済の多様化につながると報告しています。

少子高齢化により生産年齢人口(15~64歳)の減少が進む日本では、女性の労働参加を拡大することで、労働力減少の影響を緩和し、経済成長を押し上げることが重要です。

しかしながら、他の先進国と比較すると、日本では女性の労働参加が進んでいません。日本の生産年齢人口の就業率をみると、2020年では男性83.9%に対して、女性は70.7%と、その差は約13ポイントとなっています。これは、G7の就業率の男女差の平均(約9.5ポイント)を大きく上回っています。

さらに就業していても、派遣労働やパートなど非正規雇用という女性が多いのが現実です。総務省「労働力調査」によると、2020年の非正規雇用労働者のうち、約7割が女性です。また、ILOによると、日本の管理職に占める女性の割合は、2018年に12%で、世界平均の27.1%と比べてはるかに低くなっています。

■EUは男女間の賃金格差の開示を企業に義務付け

男女間の賃金格差も大きな問題となっています。男性所得の中央値に対する男性と女性の所得中央値の差をみると、2020年に日本では22.5%となっており、これはOECD平均の12.5%を大きく上回り、韓国、イスラエルに次ぐ高さとなっています。

宮本弘曉『101のデータで読む日本の未来』(PHP新書)
宮本弘曉『101のデータで読む日本の未来 』(PHP新書)

なぜ、日本では男女間の賃金格差がこのように大きいのでしょうか。理由のひとつは、雇用形態です。非正規雇用の約7割は女性です。非正規雇用は正規雇用に比べてその賃金が低いため、非正規雇用の割合が多い女性の平均賃金は男性よりも低くなります。ただし、男女間の賃金格差のうち、正規・非正規という雇用形態の差で説明できるのは4割弱にすぎないと指摘されています。男女間の賃金格差の大半は正規雇用における男女間賃金格差によって説明されるのです。

企業において女性幹部や管理職のシェアを高めるためには、単に女性枠を設けるという発想ではなく、女性幹部が企業にメリットをもたらすという実績を示し、その考えを定着させることが大切です。

男女間の賃金格差解消にむけて、2021年3月、EUは企業に男女間の賃金格差の情報を開示するように義務付け、違反企業には罰金を科す賃金の透明性を強化する法案を発表しました。ESG投資が高まる中、こうした取り組みは男女間の賃金格差を解消するのに一定の効果があると考えられます。長期的に男女間の賃金格差を縮小するためには、労働市場の流動化が有益です。労働市場が流動的になれば、市場メカニズムにより、労働成果と賃金が一致するようになり、賃金格差は解消されます。

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宮本 弘曉(みやもと・ひろあき)
東京都立大学 経済経営学部 教授
1977年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、米国ウィスコンシン大学マディソン校にて経済学博士号取得(Ph.D. in Economics)。国際大学学長特別補佐・教授、東京大学公共政策大学院特任准教授、国際通貨基金(IMF)エコノミストを経て現職。専門は労働経済学、マクロ経済学、日本経済論。日本経済、特に労働市場に関する意見はWall Street Journal、Bloomberg、日本経済新聞等の国内外のメディアでも紹介されている国際派エコノミスト。著書に『労働経済学』(新世社)、『101のデータで読む日本の未来』(PHP新書)がある。

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(東京都立大学 経済経営学部 教授 宮本 弘曉)

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