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"妻=お母さん"に甘えたい男性増加か…「姉さん女房激増」1位長崎、2位宮崎、23位東京という地域格差の謎

プレジデントオンライン / 2022年2月10日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/enAphotographer

今、夫婦の4組に1組は妻が年上だ。統計データ分析家の本川裕さんは「姉さん妻は1985年までは10~12%でしたが、2005年にかけて一気に二十数%と2倍に拡大しました。都道府県別にみると、姉さん女房婚は長崎、宮崎、大分など九州でひときわ多いことがわかった」という――。

■芸能人、スポーツ選手…女性が年上のカップル増加の印象

身の回りの知り合いや友人に女性の方が年上のカップルが増えてきていると感じているのは私だけだろうか。女性のほうが年上の夫婦の妻は、かねてより「姉さん女房」と呼ばれている。

姉さん女房と言えば、2017年にフランス大統領選挙に勝利したエマニュエル・マクロン氏(当時39歳)の妻のブリジット夫人が高校時代の恩師で25歳年上の64歳だったことが大きな話題となって世界をかけめぐった。

わが国でも、芸能人・スポーツ選手の姉さん女房の事例として、

・俳優同士の松山ケンイチと小雪:8歳差
・俳優同士の染谷将太と菊池凛子:12歳差
・女優の田中美佐子とお笑い芸人の深沢邦之:7歳差
・イチロー選手と元アナウンサーの福島弓子:8歳差
・ドリカムの吉田美和と鎌田樹音:20歳差

などが思い浮かぶ。

スポーツ選手ではイチローさんのほかにも姉さん女房のカップルが多い。しかも、松坂大輔投手、田中将大投手、貴乃花親方、野村克也監督、落合博満監督とビッグネームが目立つ。プレーヤー・監督としての活躍ぶりの要因として、しばしば「内助の功」が引き合いに出されることもあり、こうしたスポーツ選手の動向が若者の結婚観に影響を与えた可能性もあるだろう。

はたして「姉さん女房」が増えるのは一部の芸能人、スポーツ選手だけの傾向なのだろうか、それとも日本人一般の動きの反映なのだろうか。

今回は、女性が年上の結婚が実際に増えてきているかどうか、いつごろ大きく増えたのか、また、地域的に姉さん女房が多いのはどこか、などを統計データで検証してみることにする。

■差が縮まる男女の結婚年齢

結婚した夫婦の年齢差は、厚生労働省「人口動態統計」から得られる平均初婚年齢の男女の差から判断することができる。

平均初婚年齢の男女差は、戦前はほぼ4歳で安定的に推移していたが、戦後になると3歳レベルにまで低下した。これは、家族の中で男子、特に長男を重視した戦前のイエ制度が男女平等を理念とする戦後憲法に反するものとして撤廃された影響が大きかろう。

その後、しばらくほぼ横ばいの推移を示していたが、1980年代後半から急落を始め97年には、2歳を切るに至った。その後も緩やかな低下傾向をたどり、2020年にはついに1.5歳と戦後直後の半分以下のレベルにまで低下している。夫婦の年齢差へのインパクトは、戦前から戦後にかけての制度変化より戦後を通じた長い間の社会変化のほうが大きかったとも言えよう。

■増える姉さん女房の結婚

こうした平均初婚年齢の男女差の縮小は、日本社会における男女関係や夫婦関係の変容のあらわれと考えられるが、夫婦の年齢差の変化をより具体的に理解するため、以下では、同じ人口動態統計のデータから、夫婦の年齢差区分別の婚姻数の推移をたどってみよう。

初婚夫婦の年齢差区分別の婚姻数について、図表1で1970年からの50年間(半世紀)の変化を追った。

姉さん女房の増加

1970年、1995年、2020年という四半世紀ごとの夫婦年齢差区分別の婚姻数を比較してみる。1970年には夫が3歳年上の婚姻が10万3000件と最も多かったが、1995年には夫婦同年齢が10万6000件で最多と大きく変化し、その間、妻年上の各区分と夫婦同年齢がすべて増加する一方で、夫年上の各区分はすべて減少していた。夫が妻より年上なのが当然といった状況は大きく変化したと言ってよい。

1995年(オレンジ)から2020年(紫)にかけては、すべての区分で婚姻数が減少し、団塊ジュニアの世代(1971年~1975年生まれ)が結婚適齢期を過ぎ、結婚そのものが少なくなった状況を示している。

各区分のパターンはあまり変化しておらず、婚姻数の多い順番が、1995年の「①夫婦同年齢、②夫1歳年上、③夫2歳年上」から、2020年の「①夫婦同年齢、②夫1歳年上、③妻1歳年上」へとやや姉さん女房よりにシフトした点が目立つ程度である。

■「年上妻」1985年までは10~12%、2005年にかけ一気に二十数%へ拡大

次に、5年おきのデータを使い、これより大くくりの区分の婚姻数構成比の変化を追ってみよう(図表2)。

5年毎の夫婦年齢差の推移

当初、妻年上は約10%、夫婦同一年齢も約10%、合わせて約20%であったが、2020年には、妻年上が24.5%、夫婦同一年齢が21.6%、合わせて46.1%と半数近くに達しており、この50年間に大きな構成比の変化があったことがうかがわれる。

変化が大きかった時期を見てみると、妻年上は1985年までは10~12%だったのが、2005年にかけて一気に二十数%と2倍に拡大しており、1980年代後半からバブルとその崩壊、および失われた10年の時期を挟んで2000年代前半までの20年間の変化が非常に大きかったということが分かる。

こうした変化の背景には、見合い結婚が減って、恋愛結婚が多くなり、男女交際の中心が学校の同級生、職場の同期、友人の知り合いなどになってきているからであろう。実際、同年齢の夫婦の割合は増え続けている。

妻が年上の場合、妻が1歳年上のケースまでは早生まれ、遅生まれで解釈できるが、妻が3歳年上の件数も増えており、これについては、いわゆる「草食男子」化の要因を想定せざるを得ないであろう。

■草食男子化(肉食女子化)の影響?

姉さん女房が増えた時期を「妻年上」の婚姻件数割合の毎年の推移(青線)を示した図表3で見てみよう。1990年代に入って姉さん女房が急増したことが分かる。

肉食女子はいつごろ現れたか

同図表には肉食女子化の指標の推移(オレンジ線)も同時に掲げた。用語として、草食化は、異性関係に淡白になることを指しており、肉食化はその逆であるとしよう。

筆者は、前著『なぜ、男子は突然、草食化したのか』(日本経済新聞出版社)の中で、日本生産性本部の新入社員に対する意識調査の結果を使って草食男子の出現について論じた。草食化は、実は、男女ともに進行している変化である。データによれば、実は、女性も草食化している。

従って、草食男子、肉食女子という用語は、男性との対比で、女性のほうが異性関係に積極的になってきているという相対的な状況変化を指している場合が多いという点に留意が必要である。図表3には、異性関係に積極的な割合の男女差(女性超過)を肉食女子化の指標として、姉さん女房比率の推移とともに示した。

姉さん女房比率の上昇と新入社員の意識調査結果の肉食女子化の時期が一致している点が興味深い。職場以外での生きがいとして異性関係を挙げる女性が男性を上回るようになったのは、姉さん女房婚の割合と同じように1990年代に「突如」なのである。サンプル数の関係もあって、意識調査結果のほうは毎年の変動が大きいが、目でならして頭の中で傾向線を描いてみれば、婚姻届に基づく人口動態統計のデータの動きと、ほぼ一致しているのである。

昭和が終わり平成に入った1990年代は「バブル残照期」とでも呼ぶべき時期であり、経済的にはバブルが崩壊したにもかかわらず精神的にはなおバブルのさなかにあった。ジュリアナ東京の狂騒は実は1991~94年のことだったのである。この時期に、肉食女子が現れ、戦前からの「男は積極的、女は控えめ」の気風は180度ひっくり返されたといえよう。

男女の精神年齢は、同一年齢であれば女性のほうが上という社会通念が正しければ、妻年上(姉さん女房)、あるいは夫婦同一年齢が半数近くになったということは、日本人の夫婦関係は、全体として、精神的には女性優位となったと考えることができる。

夫婦関係の変容と草食系男子の果たす役割について小説家の金原ひとみは次のようにコメントしていた。

「最近、若い夫婦を見ていると、仲の良い夫婦と仲の悪い夫婦、両極端に分かれているように感じる。仲の良い夫婦を観察していると、女性のタイプに一貫性はないのだが、男性は総じて草食系である事が分かる。(中略)細やかな気配りで配偶者を思いやるのは、かつては女性の役割だったが、会社でも家庭でも女性の支持がなければ生き残れない中、男にも思いやりや気遣いが求められるのだろう。今や草食男子は一つのモテジャンルのように語られているが、実際はこの世の中を生き抜く術として作られたスタイルなのかもしれない」(東京新聞2010年10月14日本音のコラム「夫婦」)。

男女共同参画社会では、「夫唱婦随」だけでなく「婦唱夫随」の夫婦も当然出てくるという見解であり、社会の変化に対応して、いずれは夫婦の年齢差も男女のどちらが上という決まりはなくなっていることを示唆している。

■姉さん女房:長崎・宮崎で多く、岐阜・愛知で少ないという謎

次に、姉さん女房が多い地域はどこかについて見てみよう。

図表4には、女性が年上の婚姻比率についての全国マップを掲げた。年次は最新の都道府県別データが得られる2015年である。

西日本で多く、中部日本で少ない姉さん女房

全国マップで明らかなように、姉さん女房比率は、九州・中四国(西部)と北海道・東北という日本の東西両極で高く、中部日本で低くなっている。

全国一多いのは長崎の27.4%であり、宮崎の26.5%、島根の26.4%がこれに次いでいる。逆に全国一少ないのは岐阜の21.9%であり、愛知の22.5%がこれに次いでいる。

境界地域では隣接県でも大きく姉さん女房比率が異なる。高知県では26.1%と多いのに、隣の徳島県では22.6%とかなり少なくなる。同様に、新潟県と長野県では25.1%と22.9%という落差が生じている。文化的な境界がここらにあるとも言えよう。

時代の先端を行く場合が多い大都市では、姉さん女房も多いのではと予想したが、実際は、東京や大阪など関東や関西の人口集中地域では中間的な比率となっており、さらに、中部圏の大都市である愛知は逆に全国2番目に姉さん女房が少なくなっている。大都市圏で姉さん女房が特に多いという傾向は認められないのである。

西日本で出生率が高いという傾向が最近顕著となってきていることも考え合わせると現実の変化に即応した西日本型の夫婦関係が子どもをもうけやすいかに影響している可能性もある。

■姉さん女房の地域分布は全国平準化の傾向

最後に、こうした姉さん女房の地域差は、広がっているのか、縮まっているのかを確認しておこう。

姉さん女房の全国平準化

図表5は、姉さん女房比率の1995年から2015年にかけての20年間の変化を見るため、X軸に当初1995年の比率、Y軸に1995~2015年の比率の上昇幅をとって描いた散布図である。Y軸方向は、すべての都道府県でプラスであり、全国的に姉さん女房は増えていることが確認できる。

そして、散布図のパターンとしては、X軸の小さい県ほど上昇幅が大きく、X軸の大きい県ほど上昇幅が小さい右下がりの傾向が認められる。

もともと姉さん女房比率の低かった滋賀では8%ポイント以上の比率の上昇を見ている一方で、もともと姉さん女房比率の高かった岩手では比率の上昇は4.4%ポイントにとどまっている。すなわち、姉さん女房比率の地域分布には、全国平準化の傾向が認められるのである。

また、東京と大阪の位置を探すと全国平均の位置とあまり離れていないことが分かる。このことからも姉さん女房の動きは流行の先進地から発したものではないことが確認されるのである。

冒頭で、姉さん女房をもらうスポーツ選手の多さについて触れた。10歳年上の女性と結婚したあるプロ野球選手は、あるテレビのドキュメンタリー番組内で、自分にとって妻は「お母さん」のような存在でもあると語った。一方の妻は、夫がまだ2軍選手だったにもかかわらず「この子ならやれると思った」と述べている(その後、1軍で長年活躍した)。妻を「お母さん」のように慕い、夫を「子供」のようにかわいがって、一流選手に育てる。

すべての姉さん女房婚の夫婦がこういう関係ではないだろう。しかし、年上妻率が日本一高い九州地方を筆頭に、全国的に「妻=お母さん」に甘えたい男性が増えているということなのかもしれない。

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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
東京大学農学部卒。国民経済研究協会研究部長、常務理事を経て現在、アルファ社会科学主席研究員。暮らしから国際問題まで幅広いデータ満載のサイト「社会実情データ図録」を運営しながらネット連載や書籍を執筆。近著は『なぜ、男子は突然、草食化したのか』(日本経済新聞出版社)。

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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)

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