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「1カ月で7回」北朝鮮がどれだけ非難されてもミサイル発射を繰り返す切実な理由

プレジデントオンライン / 2022年2月10日 15時15分

2022年1月31日、韓国のソウル駅で北朝鮮による最新のミサイル発射の報道を見る人 - 写真=AA/時事通信フォト

今年1月、北朝鮮が7回にわたってミサイル発射を行った。なぜこれほど立て続けに行われたのか。ジャーナリストの宮田敦司氏は「今回のミサイル発射は軍ではなく開発担当部署が主体となっており、目的は挑発ではなく軍事力強化だ。ミサイルの開発を中止すれば体制が崩壊するので、北朝鮮は発射実験をやめられなくなっている」という――。

■2022年の優先政策は「防衛力の増強」

1月30日、北朝鮮は今年7回目となるミサイル発射を行った。度重なる弾道ミサイルの発射に対して日米韓は国連安全保障理事会の決議を完全に履行するよう求め、米インド太平洋軍は「違法な兵器開発」だと非難する声明を発表した。

国際社会を敵に回しても続けられる最近のミサイル発射の背景には、次の3点がある。

(1)2021年1月の朝鮮労働党大会で示された「国防科学発展および兵器システム開発5カ年計画」の推進。この計画には「核兵器の小型化と戦術兵器の推進」「大型核弾頭の生産」「極超音速滑空兵器や原子力潜水艦の開発」などが盛り込まれている。

(2)2021年末、金正恩総書記が朝鮮労働党中央委員会総会で、2022年の優先政策として「防衛力の増強」を掲げた。

(3)2022年1月に開かれた朝鮮労働党中央委員会政治局会議で、「一時的に中断している活動の全面再開を検討する」と発表した。

■今般のミサイル発射は軍事的挑発ではない

かつて北朝鮮は、アメリカ独立記念日(7月4日)に1日で7発の弾道ミサイルを発射したことがある。2006年と2009年のことだ。このとき発射されたのは実戦配備済のスカッドとノドンが中心で、軍事的挑発が目的だった。

それに対し、今年に入ってからのミサイル発射は、核兵器やミサイルを扱う戦略軍ではなく、ミサイルの開発を行う国防科学院や軍需を担当する第2経済委員会が主体となって行われている。この点には注意が必要だ。これは今般のミサイル発射が軍事的挑発とは性格が異なり、軍事力強化を目的としていることを示唆している。

30日に発射されたのは中距離弾道ミサイル「火星12」と目されている。朝鮮中央通信では「今後生産される火星12型兵器システムの正確性と安全性、運用の効果性を確認した」と伝えられた。火星12の発射は2017年9月以来。射程距離は5000キロメートル程度あり、グアムが射程圏内に入るとされている。

■一触即発にしても報復はされない北朝鮮の立ち回り方

北朝鮮がミサイル開発を続ける最大の理由は対米関係にある。

何も持たない小国である北朝鮮が米国と共存するためには、米国を牽制し続け、なおかつ戦争が勃発した場合に、米国が看過できないような大きなダメージを与えるだけの軍事力を常に保持しておかなければならない。

もちろん、核兵器や弾道ミサイルの性能や数を含め、すべての面で北朝鮮の軍事力は米国に遠く及ばない。しかし、北朝鮮は朝鮮戦争休戦以降、米国を相手に数々の「危機」をつくり出しては終息させてきた。例えば2003年1月、北朝鮮が核拡散防止条約からの脱退と国際原子力機関(IAEA)保障措置協定からの離脱を宣言。米朝枠組み合意が完全に崩壊した「第2次核危機」が挙げられる。

一触即発の事態を自ら意図的につくり出しながらも戦争には発展させないのが北朝鮮のやり口だ。そして米国は常に譲歩してきた。

筆者が朝鮮戦争が休戦となった1953年以降の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」と韓国の新聞をすべて調べたところ、北朝鮮軍は米軍偵察機の撃墜や米兵に対する攻撃を何度も仕掛け多くの米兵を死傷させているが、その場での銃撃戦を除き、米国が北朝鮮軍へ報復攻撃を行ったという事実はなかった。

北朝鮮の挑発的な行動に対して、米国は何度も武力行使を検討した。しかし、実行に移されることはなかった。日本と韓国が北朝鮮の“人質”になっているかぎり、米国は手を出すことができない。

■中国軍と米軍の緩衝地帯としての役割

中国、ロシア、米国という大国の狭間にある北朝鮮が、外圧による体制崩壊の危機を回避し続けられている理由は、独自の抑止力の強化とともに中国軍と米軍との緩衝地帯という立場を受け入れて利用していることが大きい。

米朝関係のカギを握っているのは中国だ。近年の分かりやすい例としては、2018年の米朝首脳会談や南北首脳会談前後に金正恩が1年間で4度も訪中し、習近平主席と会見していることが挙げられる。これは、現在も北朝鮮が中国の強い影響下に置かれていることを意味する。

中国にとっては、金正恩が最高指導者である必要も、国号が「朝鮮民主主義人民共和国」である必要もない。前述した緩衝地帯として中国の安全保障に寄与する都合のいい国家であればいいのだ。中国と北朝鮮は友好国だが、中国にとって利用価値がある国家だから友好関係を結んでいるにすぎない。

金日成広場、平壌・北朝鮮
写真=iStock.com/alexkuehni
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/alexkuehni

■北朝鮮への攻撃は中国との全面対決を意味する

だがそうであっても、米国が北朝鮮を攻撃することは、中国と対決することを意味してしまう。中朝友好協力相互援助条約には「自動介入条項」があるからだ。

同条約第二条には「両締約国は、共同ですべての措置を執りいずれの一方の締約国に対するいかなる国の侵略をも防止する。いずれか一方の締約国がいずれかの国又は同盟国家群から武力攻撃を受けて、それによって戦争状態に陥つたときは他方の締約国は、直ちに全力をあげて軍事上その他の援助を与える」と定められている。

このため米国が北朝鮮への武力行使に踏み切ろうと考える場合、事前に中国から「どのような事態になっても介入しない」という確約を得ておく必要がある。さらに、金正恩政権後の新体制について合意しておくことも必要だろう。だがもちろん一筋縄ではいかないはずだ。

もしこの条件が達成できたとしても、さらに米国は日本政府と韓国政府に対して、北朝鮮の弾道ミサイルで攻撃を受けることを承認させなければならない。どちらの国もおよそ承服しかねる事柄であり、現実味は薄い。

■ピンポイント攻撃でも日本は報復を受ける

こうした背景から、朝鮮戦争休戦後、米国は北朝鮮に対して複数の空母の朝鮮半島近海への派遣、戦略爆撃機・戦闘機の韓国上空への派遣といったレベルの干渉にとどまってきた。

北朝鮮の核関連施設などに対する限定的な攻撃を行うべきだという意見もある。2017年に米朝関係が緊張した際、一部の専門家たちはピンポイント攻撃を意味する「サージカルストライク」の可能性に言及していた。

しかし、たとえピンポイント攻撃であっても北朝鮮は黙ってはいないだろう。日本の領海内へのミサイル発射に踏み切るかもしれない。北朝鮮を攻撃する手段を持たず、なおかつ何があっても「遺憾」としか言えない日本が相手なら、さらなる報復攻撃を受けることはないからだ。

■ミサイルと核兵器は体制維持のために存在している

北朝鮮軍は兵員の士気が低く、装備の更新もままならない軍隊だ。だが、核開発と弾道ミサイル開発に予算を重点的に配分して、実際に新型ミサイルを完成させてきた。

北朝鮮の核兵器とミサイルは、究極的には体制維持のために存在するのであり、米国との戦争を抑止するための手段なのだ。北朝鮮は弱気な姿勢を米国に見せない。強気の姿勢を崩すことは米国の圧力に屈することになり、体制の崩壊を招くことになるからだ。

一方で、大陸間弾道ミサイルを太平洋に向けて発射しても、実際に米国本土を攻撃することはない。日本や米国へのミサイル攻撃は米国からの大規模な反撃を招き、これもまた体制の崩壊につながる。

北朝鮮との交渉で突くべきはこの「弱み」だ。中国の反発は承知の上で、非核化に向けて、交渉と同時に北朝鮮が音を上げるほどの軍事的圧力を加えることが最終的には必要になるだろう。

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宮田 敦司(みやた・あつし)
元航空自衛官、ジャーナリスト
1969年、愛知県生まれ。1987年航空自衛隊入隊。陸上自衛隊調査学校(現・情報学校)修了。北朝鮮を担当。2008年、日本大学大学院総合社会情報研究科博士後期課程修了。博士(総合社会文化)。著書に『北朝鮮恐るべき特殊機関 金正恩が最も信頼するテロ組織』(潮書房光人新社)、『中国の海洋戦略』(批評社)などがある。

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(元航空自衛官、ジャーナリスト 宮田 敦司)

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