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「椅子取りゲームの椅子が減っていく」大学受験がどんどん過酷になる2つの意外な理由

プレジデントオンライン / 2022年2月13日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/smolaw11

■大学経営の安定度を測る重要なバロメーター

2月に入り、私立大学の一般入試がいよいよ本番を迎えた。近年、受験の傾向や大学のランキング動向を取り上げる記事が一年を通じてネット上に氾濫する。その理由は様々だが、大学経営に金融のインフラである債券格付けを組み込んだことも中長期的に影響している。海外から受験競争が輸出されてきている面も無視できなくなってきた。

まずは金融面から見てみよう。

日本の学校法人として最初に債券格付けを取得したのは2003年の法政大学で、AA-(格付投資情報センター)とかなりの高水準だった。言うまでもなく、債券格付けは企業(ここでは大学)が債券を発行した場合、元利払いの確実性を記号で表したものである。経営の安定度を測るバロメーターとして、株式市場や資本市場では欠かせないインフラになっている。

法政大の格付け取得後、早稲田大学や慶應義塾大学、明治大学、青山学院大学、同志社大学、東洋大学、近畿大学などが相次いで格付けを取得・発表し、大学経営に格付けが浸透していった。

■高い格付けを得た大学に証券会社が囁いたこと

2003年当時、少子高齢化はすでにはっきり表れている。金融機関は大学に対して、少子化時代を生き抜くために格付けを活用せよとセールストークを展開した。

金融は本質的に資金をため込むばかりでなく、資金を動かすことを求める。金融機関によっては、大学に余剰資金を運用に回すよう助言(格付け取得後にデリバティブと呼ばれる金融派生商品への投資を始めて大きな損失を出した大学が少なからずあった)、その一方でこんな営業をかけた証券会社もあった。

「せっかく高い格付けを取得したのです。低利で債券を発行し、その資金で難易度が一定水準に達している地方の高校を買収しませんか? 今後も少子高齢化は続き、地方の優秀な学生を掘り起こすのは大学にとって経営上の大きな課題になるはずです」

これら難関私大は当時からソニーやホンダ並み、あるいはそれ以上の高い格付けであり、証券会社はこれをテコに地方の優秀な生徒を囲い込んではどうかと提案したのである。

■有名私大は次々と系属校・提携校を確保

証券会社はさらに踏み込んだ提案もした。

「難易度の面でつり合いのとれる高校が見つからなければ、どこか高校を買収して在校生を卒業させたうえでいったん廃校とし、看板を架け替えて新しい付属校として再スタートしてもいいでしょう」

格付けを取得した大学は、債券こそ発行していない(財務的に余裕があり、手元資金だけでも高校の買収くらいはできるのだろう)が、格付けの取得がひとつの刺激になったようだ。

早稲田大では2010年、佐賀県の県立高校跡地に「系属校」が開校し、大阪府にも系属校を置いた。青山学院大でも、系属校や「教育提携校」を設けるようになった。ミッション系の高校と提携して募集枠を設け、レベルの高い高校生を吸い上げているのだ。

高校を運営する学校法人との合併を選んだ大学もある。中央大学は2010年に横浜山手女子学園を附属校とし、男女共学化するとともに名称を中央大学附属横浜中学校・高等学校に改めた。上智大学を運営する上智学院も2016年、高校を運営する栄光学園、六甲学院、広島学院、泰星学院と合併した。上智学院が合併したのはいずれも、設立母体が上智大と同じイエズス会系の学校法人である。

■エスカレーターが増える分、狭まる一般入試の門

受験生の目に附属校や系属校からエスカレーター式で進学していく生徒がうらやましく思えるのは、その分だけ一般入試での入学が狭き門になるように映るからだろう。

私立大学に続いて近年は国立大学法人にも格付けが広がり、東京大学や東北大学、九州大学、名古屋大学と岐阜大学を運営する東海国立大学機構などが取得済みだ。国から支給される運営交付金が先細りになるのが見えており、今後は地方の国立大学でも格付けの取得と債券発行による資金調達がさかんになる可能性がある。

地方では電力会社やガス会社、電鉄会社、地銀などが地元の国立大学に対して採用枠を設け、優秀な学生を採用してきたが、実力本位、競争本位が浸透するにつれ、そうした枠がなくなったという。地方の国立大学は調達した資金で看板学部をテコ入れし、少子化の中で埋没を避けなければならない。

■ゴミ出しの仕方も教える中国人向けの受験予備校

大学受験が激化しそうな理由は金融だけではない。「現代の科挙」と呼ばれるほど受験競争が苛烈な中国から、競争が輸出されている面も無視できなくなってきた。

近年、東京・高田馬場駅周辺には見慣れない大きな看板がいくつも掲げられるようになっている。かつて高田馬場駅の周辺は、受験予備校の看板が林立していたが、それらが大きく数を減らすのと対照的に、大学への進学を目指す中国人子弟向けの受験予備校が目立ち始めたのだ。彼らが目指すのは、もちろん日本の難関大学である。

ある国立大学の教授が言う。

「こうした中国人向けの予備校の取り組みは相当なもので、予備校生には日本での暮らしに馴染めるようにゴミ出しの仕方から教えている」

これらの予備校ではすでに東大や早慶などへの合格実績を積み上げており、就労目的の中国人が、隠れ蓑の代わりに経営難の大学に籍を置くのとは明らかに異なる。大学関係者の話によれば、「10年ほど前から日本が国を挙げて留学生を増やそうと取り組み始めたことが影響している」のだという。

学校の校門
写真=iStock.com/wnmkm
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/wnmkm

■大学受験も大学経営も国際競争にさらされるように

中国で最も優秀な学生は米国の大学に留学し、それに次ぐ一群が日本の大学を目指すようになったのだ。それはちょうど卓球で中国代表になれなかった選手が、オリンピックの出場機会を求めて欧州などに渡って帰化し、その国で代表選手になるケースが目立っているのと似た構図なのだろう。

筆者も大学や大学院のゲスト講師として学生や大学関係者に接する機会があるが、学生の中には当たり前のように中国人学生が交じっているし、彼らに対する大学関係者の評価は極めて高い。大学にとって学生のレベルの維持・向上は、それ自体が有形・無形の資産であり、ある難関大学では近くカリキュラム改革を実施し、よりアカデミックな内容にレベルアップする方針だという。

日本人受験生や留学生のレベルアップが大学教育の水準にまで直結する時代になったのだ。大学経営が国際競争にさらされるようになったと言い換えることもできるだろう。

優秀な中国人予備校生は一般入試を受験するだろうから、うかうかしていると日本人の受験生ははじき出されてしまうだろう。米ハーバード大学の入学審査でアジア系の受験生に対してハードルが高くなっていることが発覚し、「差別的だ」として議論を呼んだのと同じことが日本でも起きるかもしれない。

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山口 義正(やまぐち・よしまさ)
ジャーナリスト
1967年生まれ。 愛知県出身。法政大学法学部卒。日本公社債研究所(現格付投資情報センター)アナリスト、日本経済新聞社証券部記者などを経て、現在は経済ジャーナリスト。月刊誌『FACTA』でオリンパスの不透明な買収案件を暴き、第18回「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」の大賞を受賞。 著書に『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』(講談社)などがある。

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(ジャーナリスト 山口 義正)

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