2022年中学受験「学校別"良問"出題ランキング」ダントツ1位・麻布の問題で問われた"親子の技量"
プレジデントオンライン / 2022年2月11日 11時15分
■男子御三家・麻布の「難民問題」で問われた“親子の技量”とは?
2022年度の中学受験がほぼ終了した。受験者数は去年以上と、オミクロン株が蔓延する中で中学受験は過熱の様相を呈した。
注目すべきは、各校の出題問題だ。プロ家庭教師集団「名門指導会」のカリスマ家庭教師、西村則康さん、辻義夫さんによると、出題問題から各校の「来てほしい生徒」、つまり「受かる家庭」の傾向が透けてみえるという。早速問題を見てみよう。
今年もっとも話題になった問題のひとつは、都内最難関の男子御三家の一つ、麻布中学(以下、「麻布」)の社会科だ。テーマは、移民・難民問題。一部抜粋する。
<(前略)日本に逃げて来た人たちの難民審査は厳しく、問題視されています。次にあげる資料1は審査のときにきかれる質問内容の一部です。日本政府がこのような質問をすることは、難民を保護するという点から見たときにどのような問題があると考えられますか。質問3~5から1つを選び、その質問の問題点を説明しなさい>
<日本に働きに来た外国人とその家族の人権を守るためには、どのような政策や活動が必要だと考えられますか。君が考える政策や活動の内容とそれが必要である理由を、80~100字で説明しなさい。なお、句読点も1字分とします>
(※)四谷大塚の模範解答:「日本語の能力や社会生活を送るうえで必要な知識を確認する検定制度を設け、達成した者には最低賃金を保障する。さらに、家族を養えるほどの収入がある者には家族の滞在を認めるといった細かなルールを定める」
どちらも記述問題であるが、大人でも難解かつ、普段会話にのぼる機会が少ないテーマなだけに、注目を集めた。辻さんは、質問の本質をこう考える。
「難民審査を始め、移民・難民問題についてどう“考える”のか。子供を通して、ご家庭の見解もすごく見えてくる問題です。ポイントは、『難民問題について普段からご家庭で話しているか』ではありません。そもそも、問題文を読んでいけば、現在に至るまでどのようにして外国人が日本に入ってきたのかが説明されていて、ある程度の状況を理解できるように問題は作られています。その上で、受験生が問題を読んだ時、自分なりの考えや判断の仕方が、家庭ごとに偏っているのか、物事をフラットに受け止めることができるかが、回答に反映されます。そこを見ているのではないでしょうか」
■栄光の「豆苗」、早実の「時計算」など、今年の“ユニーク難問”
他にユニークだったのは、栄光学園(以下「栄光」)の理科だ。
「栄光の理科はワンテーマで出題する個性派。その題材に興味を持てなかったら合格は難しいと言われています。ある年は、スパゲティ、そして今年は野菜の豆苗を使った実験がテーマでした。豆苗をほぐしてバラバラにした際、水をあげないと乾燥して軽くなります。表やグラフなども読み解きながら、どの段階で水をあげ始めたら復活するか、といった内容です」(辻さん)
※四谷大塚の模範解答:(図やグラフの)曲線より、乾燥後の重さが乾燥前の40%くらいであれば元にもどるが、それよりも軽くなると元にもどらないことが多いとわかる。したがって、土に植えた場合は、土の中の水分が完全になくなってからおよそ12時間以内であれば、ふたたび水をやると元にもどる可能性が高く、それよりも時間が経っていると元にもどりにくいと考えられる。
実験の手順として、理科の一般的な知識を総動員させつつも、さらに実生活で料理の手伝いをするなどして野菜に触れないと解きにくい問題だ。
算数はどうか。今年は時計算を出す中間一貫校が多かったという。
「灘中学や東邦大学付属東邦中学校をはじめ、難関校で見られました。中でも面白かったのが、早稲田実業学校中等部の時計算です。長針が1分間で6度動くと短針は0.5度動くので、差は5.5度ですよね。そこで最終的に5.5で割るケースが多いわけですが、それは11分の2を掛けるのと同じ。そこで出た問いが、なぜ11分の2を掛けるのか。理由を記述式で書かせました。実は7~8年前は難問揃いだったのが、5年ほど前からそれが陰をひそめ、今年初めて理由を尋ねる記述問題を出してきた。その点で新鮮に感じました」
![時計](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/f/670/img_cf176b0212cb8a81adc5575cda3746133384742.jpg)
同じく、最近は第1問目から難問から始まっていた開成中学の算数も、今回は数年ぶりにシンプルな計算問題が出されるなど、中高一貫校全般において、難問奇問が減ってきた印象があるという。こうした傾向は、パターン演習により“丸暗記型”をふるい落とすためにあるのでは、と二人は分析している。
■「思考力のある子がほしい、丸暗記の子はいらない」
「例年、難関校の合格者の中には、知識と要領よく答えを導き出す方法は頭にあるものの、何を問われているのか、問題の本質をつかみ取れていない子が一定数います。彼らが入学すると、同じ授業を受けていても、核心を掴んでいる子とそうでない子で、差が出てきます。その差をなくすことが問題の狙いかもしれません」(辻さん)
加えて、西村さんはこう話す。
「受験生に対して『単に公式を覚え、それをただ当てはめた演習を繰り返し学習して成績を上げてきたんじゃないでしょうね? 本当の意味が分かっているんでしょうね?』という学校側からの問いかけにも見えます。“知識の丸暗記”でやり過ごそうとする生徒に手を焼いている可能性も考えられますね」(西村さん)
思考せずに問題を解こうとする“要領型”や“丸暗記型”では難関校の壁を乗り越えることはできないのだ。
■“良問”出題ランキング1位の麻布の入試は「最初の授業」
思考できる子供を伸ばす「良問」が多いのは、どこか。その観点で、学校別で「良問」偏差値ランキングを作るとなると、ダントツ1位は冒頭で紹介した麻布だと、西村さんと辻さんは口を揃える。
麻布では過去、理科でこんな“ユニーク難問”が出された。
<99年後に誕生する予定のネコ型ロボット「ドラえもん」。この「ドラえもん」がすぐれた技術で作られていても、生物として認められることはありません。それはなぜですか>(2013年・記述式)
他には、同じく理科で「コーヒー」をテーマに、焙煎やミル、ドリッパーなど、美味しいコーヒーの淹れ方を探求する問題が出された年もあれば、ウランの半減期といった、小学生には難解なテーマが投げかけられた年もある。設問の多くが字数指定のない記述問題で知識や選択肢のテクニックだけでは、点数を伸ばしにくいとされている。
「麻布の出題ポリシーはここ30年間ずっと変わっていません。試験中でありながら、まるで授業を受けているような雰囲気で、『なるほどね』と思いながら、時々ドキッとするような質問が飛んでくる。それを楽しみながら解いていける子供こそ、麻布には向いている。
つまり、先生方が『こういう子に入ってきてほしい』ということを念頭に置いた問題作りなのでしょう。そしてその傾向はますます強くなっていますね」(西村さん)
いわば、麻布の入試は、教員から生徒への「最初の授業」というわけだ。
![「麻布中学校 麻布高等学校」HPより](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/5/670/img_a507609b6524a0b74c76b41803cefd86708220.jpg)
「授業は、積み重ね。教員が話し始めた時に興味を持って取り組んでくれないと、次に進めない。その予行演習をテストで行っているイメージの最たる例が麻布なのです。例えば原子をテーマにした設問なら、リード文に原子の性質について詳しい説明があり、それを見ながら学習する。そこに答えのヒントもあるので、興味深く読んで理解しないと答えを導き出せません」(辻さん)
「Aを勉強したからAが出る」という入試ではない。受験生にとって初見の問題に、どう対応するか。これまで取り組んできた学びへの姿勢が問われているのだ。
2人の分析を、前出のドラえもん問題に当てはめると、生物として認められない理由の回答は単に「ロボットだから」ではない(問題文の内容を言い換えたにすぎないから不正解)。「漫画やキャラクターで、世の中にはもともと存在しないから」という解答も科学者視点に欠ける。
やはり設問をじっくり読めば、ヒントが書かれている。それが読み取れるか。「(ドラえもんは)生殖行為をしないから生物ではない」は正解の一例だが、「好奇心や理科的な視点を持って楽しんで授業に取り組む子に来てほしい」という思いが込められているのだろう。
麻布の理科は40点満点。多くは1問1点だが、記述の場合は、○か×かという採点ではなく、得点に0.1点~1.0点まで幅があるのではないかと見る塾関係者もいる。
そんな麻布の校風は自由闊達な雰囲気で知られている。校則もゆるく、生徒は教員に対しため口で聞いたり、新任教員にわざと議論を吹っかけて論破しようとしたり。先生と生徒が“フランクで対等”な関係だと多くの卒業生は口にする。もちろん、その根本には、生徒が教員室に頻繁に出入りするなど教員との間に信頼関係がしっかりあり、卒業しても、学校に遊びに行くOBが多いという。
■子供が難関校に受かる家庭の親が過ごしている“生活と会話”
麻布OBには、政財界に数多い。先日、日本テレビ退社を発表し、新年度から同志社大学ハリス理化学研究所の助教に就任することになった人気アナウンサー、桝太一さん(東京大学理科II類を経て東京大学大学院農学生命科学研究科修了)も麻布出身だ。在学時は生物部に所属した。
では、麻布に受かる子の親はどんな人物なのか。
親子で『大科学実験』(NHK)といったEテレの実験番組を見るのも有効だが、その大前提として、日常生活の過ごし方が大事だと西村さんは強調する。
「子供が工作をしたり、料理の手伝いをしたりと、実際自分の手を動かして作業する機会を大切にしているご家庭ですね。また、遊びの経験。昔だったら遊びの中で、当然のこととして学習していった事柄が、特にコロナ禍の今はほとんどできていません。自然体験や日常の中で不思議に思った数々の“点”が、学んできた知識とつながって“線”となる。その大本となる“点”の体験を常に取り入れているご家庭は強いと思います」(西村さん)
日常会話も重要だ。
「遊びや日常生活の中で、親は子供にどんどん問いかけること。例えば同じモノの色でも、時間や光の当たり方によって見え方が違うのはなぜか。生卵をゆでるとなぜ固くなるのか。なぜゆでる時間によって固さが違うのか。ちょっとしたことに『何でなんだろうね』と問いかけ続けること。そのとき自分の考えは言わずに子供に答えさせたり、調べさせたり、説明させたりすると、どんな“ユニーク難問”にも対峙できる思考力が育っていきます」(西村さん)
どれも今日から始められることばかりだ。まずは今晩の料理の手伝いから始めてみてはどうだろうか。
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プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
日本初の「塾ソムリエ」として、活躍中。40年以上中学・高校受験指導一筋に行う。コーチングの手法を取り入れ、親を巻き込んで子供が心底やる気になる付加価値の高い指導に定評がある。
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(プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康、中学受験塾SS-1副代表 辻 義夫)
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