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"本音"を隠す高野連…出場が確実視された聖隷クリストファー「センバツ落選の"本当の理由"」

プレジデントオンライン / 2022年2月12日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Drew Bloksberg

なぜ、聖隷クリストファーは選ばれなかったのか。3月に甲子園で開催するセンバツ高校野球の出場校に昨秋の東海大会の準優勝校が“落選”した件が物議をかもしている。スポーツライターの酒井政人さんは「『個人の力量が勝る』という理由でベスト4どまりの大垣日大を選出した高野連はおかしい、という批判がほとんどですが、取材をすると『聖隷の落選やむなし』という声も聞こえてきた」という――。

■「当選確実」だった聖隷クリストファーが一転、落ちたワケ

ひとつの“嘘”をつくことで、さらに“嘘”をつかないといけなくなる場合がある。作り上げたストーリーのつじつまを合わせるためだ。

1月28日に第94回選抜高校野球の出場校が決定した。「2枠」あった東海地区(静岡、愛知、岐阜、三重)では、昨秋に実施された東海大会の準優勝校である聖隷クリストファー(静岡)が選考されなかったことが波紋を広げている。

ネット上では高校野球ファンや地元静岡県民などがこの選考はありえないと怒りを表明した。背景に何があるのか。取材を進めていくと、今回の選考はある意味“妥当”ではないかと考える層がいることがわかった。

まずは東海大会の結果を振り返りたい。大会には地元の県大会を勝ち上がった2~3校が出場し、全12校がトーナメント方式で戦う。決勝は、静岡県勢の対戦となり、聖隷クリストファーは日大三島に3-6で敗れた(日大三島は選考された)。

聖隷は敗れたものの、センバツ出場は確実とみられていた。しかし、選ばれたのは準決勝で日大三島に5-10で敗れた大垣日大(岐阜)だった。

この選考理由について高野連東海地区の鬼嶋一司選抜選考委員長はこう説明している。

「聖隷クリストファーは頭とハートを使う高校生らしい野球で、東海大会の2回戦(岐阜1位の中京と対戦)、準決勝は見事な逆転劇だった。個人の力量に勝る大垣日大(岐阜2位)か、粘り強さの聖隷クリストファー(静岡2位)かで賛否が分かれたが、投打に勝る大垣日大を推薦校とした。大垣日大は前評判の高かった静岡高校(静岡3位)の吉田投手を打ち崩した連打は見事だった。2回戦では、優勝候補の一角だった愛知1位の享栄高校(愛知1位)とレベルの高い見ごたえのある戦いを見せた」

NHKの高校野球解説者としても知られた鬼嶋選考委員長は聖隷クリストファーの特徴について「頭とハートを使う高校生らしい野球」と表現した。攻守に頭脳的で気持ちのこもったプレーをするチームと評価していると読み取れるが、実は別の意味が含まれる可能性があることが取材で判明した。

この選考に東海地区の強豪校でコーチを務める人物は大変驚いたという。

「もう、たまげましたね。決勝で(聖隷が)コールド負けに近い状態なら選考から外れた可能性はありますが、今回は静岡の2校で疑いのない状況だったと思います。過去に愛知2校が選ばれたこともありますし、地域性を加味したとも思えません。ただ高野連としても、めちゃめちゃなことはしないはずなんです」

■聖隷クリストファーに落ち度はなかったのか?

夏の甲子園は都道府県をベースにした49地区大会の優勝校が文句なしに即代表となるが、春の甲子園は異なる。「選抜高校野球」という名前の通り、選考委員会によって出場校が決められる。その選考基準は以下の通りだ。

(1)大会開催年度高校野球大会参加者資格規定に適合したもの。
(2)日本学生野球憲章の精神に違反しないもの。
(3)校風、品位、技能とも高校野球にふさわしいもので、各都道府県高校野球連盟から推薦された候補校の中から地域的な面も加味して選出する。
(4)技能についてはその年度の新チーム結成後よりアウトオブシーズンに入るまでの試合成績ならびに実力などを勘案するが、勝敗のみにこだわらずその試合内容などを参考とする。
(5)本大会はあくまで予選をもたないことを特色とする。従って秋の地区大会は一つの参考資料であって本大会の予選ではない。

では、なぜ聖隷クリストファーは落選したのか。

球児たち
写真=iStock.com/gyro
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gyro

選考基準の(5)項目(=秋の地区大会は一つの参考資料であって本大会の予選ではない)を読めば、2枠の東海大会で決勝に進出したからといって、必ずしも選考基準を満たすわけではないことがわかる。

また(4)項目(=勝敗のみにこだわらずその試合内容などを参考とする)を読むと、高野連が「個人の力量、投打に勝る大垣日大」を推薦校とする余地が残されているようにも思える。ただ、この「投打に勝る個人の力量」に関しては、「高校野球は個人競技ではなく、チーム競技であるはずだ」と、ダルビッシュ有など多くのプロ選手もSNSで発言している。また、聖隷クリストファーの校長であり野球部監督である上村敏正さんも「個人の能力の差を理由に落とされたら、今後、どうやって甲子園を目指せばいいのでしょうか」とNEWSポストセブン(2月2日公開、ノンフィクションライター・柳川悠二さんの単独インタビュー)の取材に答えている。

確かに、選考基準上は、東海地区決勝進出=センバツ確定ではない。それでも、当選確率はかなり高いはずだ。しかし、さらに取材を進めていくと、意外な事実が浮上した。聖隷クリストファーは(2)と(3)項目に抵触している可能性があったのだ。例えば、それは東海大会準々決勝の中京戦での“疑惑のプレー”だ。

■「聖隷クリストファーの逆転劇は精緻な走塁練習のたまもの」は本当か

この試合のイニングスコアはこうだ。

聖隷 000 001 003=4
中京 002 100 000=3

2点差を追いかける9回表、聖隷クリストファーは1死2塁の場面で、投手悪送球と走塁妨害から1点を奪ったのをきっかけにこの回に一気に3点を入れ逆転に成功。4-3で岐阜大会の優勝チームを下した。

この試合、センバツ高校野球の主催者である毎日新聞は「聖隷クリストファーの逆転劇は、精緻な走塁練習のたまものだ」というタイトルで以下のように伝えている。

2点を追う九回1死二塁。代走に送られたA選手(2年)は、中京の投手のけん制ミスに乗じて三塁へ。さらに次の打者がゴロを打ったと同時に飛び出した。打球は投手の前に転がり、時既に遅し。三本間(三塁とホームベースの間)で挟まれた。

「打者走者が三塁に到達するまでは粘ろう」とA選手は逃げ回った。ただ、追って来る相手投手が味方へボールを投げた瞬間、三塁線上にいたままなのを見逃さなかった。A選手はすぐに走って相手のグラブに接触。走路をブロックされたと審判にアピールし、走塁妨害が成立した。生還が認められ、なおも1死二塁の好機。二つの押し出し四球も出て、逆転に成功した。

走者を置いたノックで何度も挟撃を想定し、練習してきた。A選手は「追って来る選手の体やグラブの位置をよく見るようになった」と話す。上村敏正監督は「積み重ねてきたことが大事な場面でポンと出た。そういうことじゃないですかね」と、まんざらでもない表情でつぶやいた。

※プレジデントオンライン編集部註:毎日新聞の記事ではA選手は実名。

公式戦で審判が走塁妨害と判定した以上、それは守備側のミスなのだろう。ただ、記事を読む限り、日々の練習から相手の守備体型のスキを見て「走塁妨害」を狙っていた、とも考えられる。

野球は9イニングで相手チームより多く得点を入れたほうが勝ちというゲームだ。失点を最少に抑える一方、得点をたくさんあげる。練習で、打撃や守備のスキルをあげるのではなく、仮に走塁妨害を狙うことに時間を割いていたとすると……高校野球の本質とは違うのではと、首を傾げる人もいるに違いない。

野球のホームプレート
写真=iStock.com/KS BioGeo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KS BioGeo

■「故意に走塁妨害を狙うようなアンフェアなプレーが多い」という印象

日本学生野球憲章の第2条(学生野球の基本原理)の②には「学生野球は、友情、連帯そしてフェアプレーの精神を理念とする」と記されている。

ある高校野球関係者に話を聞くと、聖隷クリストファーは「故意に走塁妨害を狙うようなアンフェアなプレーが多い」という印象を持っている学校が少なくなかったという。そうした報告を受けた高野連がセンバツ代表校を選ぶ際の材料のひとつにした可能性はゼロではないだろう。とりわけ公明正大をよしとする高野連のことである。走塁妨害を意図的に狙うような行為をするチームは「東海地区の代表にふさわしくないのではないか」と考えても不思議ではない。

1999年のセンバツから、走者やランナーコーチが、捕手のサインを盗んで打者に伝える行為は禁じられているが、その後も「サイン盗み」は何度も問題になっている。しかし、疑わしい行為があったとしても白黒ハッキリつくことはほとんどない。故意の走塁妨害も同様だ。だからこそ高野連は「別の理由」を全面に押し出さないといけなかったのかもしれない。

阪神甲子園球場
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

そこで高校野球を中心に取材をしているスポーツライターに尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「問題行為があるとボーダーラインよりやや上くらいのチームなら落とされる材料になってもおかしくありません。過去にはラフプレーやサイン盗み疑惑で落とされたチームもありました。その時は堂々と言っていたのですが、近年は落選校に配慮して表立って言わない方向に変わったと聞いています。オブラートに包んで、(高野連東海地区の鬼嶋一司選抜選考委員長が)『頭とハートを使った野球』と表現したのが逆効果でしたね」

高野連は世間体を気にしたのかもしれないが、今回の選考理由はやや強引だったような気がしている。球児たちに“本気”で説明すべきではないだろうか。

■選考するのではなく「選考の仕組み」を作るべき

高野連の「選考理由」に納得できないと感じている人は多い。やはり選考基準を明確化する必要があるだろう。

代表選考でいうと、マラソンの五輪選考は過去に何度ももめてきた。その理由は「3枠」に対して、代表選考レースが4~5つもあったからだ。しかし、東京五輪2020ではMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)という選考システムを確立。以下のような優先順位をつけた。

①MGC優勝者
②2位、3位のうち、「MGC設定記録」(男子2時間5分30秒)を突破した最上位者
③上記2を充たす競技者が居ない場合「MGC2位の競技者」と、MGCのMGCファイナルチャレンジ3大会で「MGCファイナルチャレンジ派遣設定記録」(男子2時間5分49秒)を上回り、最も早いタイムを出した選手
④上記の条件を誰もクリアできなかった場合、MGC3位の競技者

この結果、男子は①で中村匠吾が選ばれた。②の該当者はなく、③の「MGC2位の競技者」として服部勇馬を選出。さらに大迫傑が東京マラソンで「MGCファイナルチャレンジ派遣設定記録」を突破したことで3人目の代表を決めた。

センバツ高校野球の選考委員会も「選考する」のではなく、「選考の仕組みを作る」というかたちに変えた方がいいのではないだろうか。

たとえば東海地区なら準決勝に進出した4校がリーグ戦を行い、上位2校を選ぶという方式でもいいかもしれない。

聖隷クリストファーは代表から漏れて、選手たちは夢舞台を奪われたかたちになる。このような悲劇が二度と起こらないことを祈るばかりだ。

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)

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