「骨は燃えるゴミとして捨てた」座間事件の残虐死刑囚が獄中で語った"出会いと殺し"の手口
プレジデントオンライン / 2022年2月18日 18時15分
※本稿は、渋井哲也『ルポ 座間9人殺害事件 被害者はなぜ引き寄せられたのか』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
■なぜ見知らぬ人との自殺を考えるのか
面会後、私は立川拘置所を出て、約250メートル離れた立川市役所内にあるコンビニまで歩いた。白石は「3万円」を提示していたので、とりあえずATMで同額を下ろす。拘置所に戻るまで、よくよく考えた。本当に現金を渡すべきなのだろうか。
私は原則として、金銭の授受を取材条件にしていない。ただ、白石の場合は拘置所内にいて、話を聞けるための関係づくりは難しい。さらに、事件内容は私がライフワークにしているテーマそのものだった。インターネットは居場所になりえるのか。若者はなぜ自殺するのか。インターネット上のコミュニケーションの結果、なぜ見知らぬ人との自殺を考えるのか――。白石と拘置所内で面会した記者たちの記事を読んでも、この点は不明だった。
窓口に向かい、受付の担当者を目の前にするまで迷ったが、熟慮の末、例外的ではあるものの、今回は現金を支払うことにした。現金は、封筒に入れずにそのまま担当者に手渡した。
2回目の面会は4月11日。日程は、最初の面会のときに白石が指定しており、電報で連絡を入れた。白石は手紙の返事を基本的にしない。そのため、今回も当日にならないと、面会できるかどうかは分からない。幸いにもこの日は先に面会をした人はおらず、2度目の面会もすることができた。
■高校2年生のときからネットナンパを開始
待合室で30分ほど待たされた後、面会室「3番」に通される。このとき、白石は緑色の作業服のような服装をしていた。
白石が席に着くと、私は早速、関心事の1つであった「ネットナンパで出会えた人数」について質問した。
「正直、学生時代には全然会えていなかったんです。月に1人会えればいいほう。社会人になってからは1、2週に1人ですね」
前述の通り、白石はネットナンパを17歳、高校2年生のときから始めている。一方で、ナンパで女性と出会えるようになったのは、高校卒業後、就職をして1人暮らしになってからのようだった。出会う頻度が高くなったのは、やはり「コツが分かった」からということなのだろうか。
「そうです。それに、スマホの普及でアプリが出てきたからです」
■スカウト時代はTwitterを利用
白石がナンパ用に使っていたのは、SNSとチャットアプリだ。そして、最も使っていたのは、位置情報を利用した「ぎゃるる」というアプリだった(2020年にサービス終了)。「安心・安全に対する取り組み」を掲げており、24時間365日のチェック体制、18歳未満は利用できないとされていた。一方、「ぎゃるる」は当初、異性交際を目的にしていなかったこともあり、出会い系サイト規制法の適用外。年齢認証はなく、事実上、中高生も利用していた。
私も取材の一環として「ぎゃるる」をダウンロードしたことがある。アプリを起動すると、GPSを活用して、自身の近くにいる女性ユーザーが表示される。男性のユーザーからは、女性の写真が閲覧可能だ。アプリ内のメッセージでやりとりができると、実際に会いやすい。もちろん、サクラも多く、別のサイトやアプリに誘導されることもある。
白石が学生時代に利用していたSNSは分かった。ではスカウト時代はどうしていたのか。
「Twitterを使いましたが、そのときは出会い目的ではないです」
Twitterは比較的、若年層に利用されている。アライドアーキテクツ株式会社の2020年12月の企業公式アカウント利用実態調査(調査対象4409人)によれば、年代別の利用率は、15~19歳が76.9%、20代が65.0%、30代が50.6%、40代が45.6%、50代が38.5%で、40代より若い層は半数以上が利用している。ナンパやスカウトをするとしたら、Twitterが最適なのだろう。
こうしてTwitterも利用し始めた白石。それでは、実際に犯行に使用したアカウントはいくつあるのだろうか。それまでは、《死にたい》と《首吊り士》の2つが主に報道されていたが、複数のアカウントを持っていたということは、報道されている数以上のアカウントを利用していた可能性もある。
■複数のアカウントを使い分け、9人を殺害
「5つです。《_》《sleep》《さみしい》《死にたい》《首吊り士》です。それぞれコンセプトが違います。日常生活の話をつぶやくもの、死にたいとつぶやくもの、自殺の情報や幇助をしているとつぶやくもの、です」
報道の内容以外に3つのアカウントを所持していたと話す白石。ただ、のちの公判で明らかにされるが、《終わりにしたい》というアカウントもあり、6つを利用していたようである。それもアカウントごとに使い分けており、かなり緻密にTwitterを活用していたようだ。中でも《死にたい》を最も使用していたようで、私が取材した限りでは、《首吊り士》でやりとりしたのが5人に対して、《死にたい》でやりとりしていたのは24人だった。白石自身も面会で「《死にたい》ですね。繋がった人の半分以上はこのアカウントです」と答えている。
これらのアカウントを使って9人を殺害した白石。前述のように、取材した限りでは最低でも29人とTwitter上でやりとりしていた。すると、そのうち直接会ったのは何人だったのだろうか。白石に聞くと、「13人です」との答えが返ってきた。つまり、直接会った人のうち4人は無事だったことになる。なぜ彼らはターゲットから外れたのだろうか。
「4人のうち1人は男性です。お金もなさそうだった。もう1人は、事件を起こした8月から10月まで付き合っていました。部屋にクーラーボックスがあったのを見て逃げ出した女性もいました。残りの1人は10日間だけ一緒に住んでいました」
ここで、最初の面会と話が食い違う。前回は「ネットからの出会いでは恋愛はしたことはない」と言っていた。はたしてどちらが正しいのか。本当のところは白石にしか分からない。
■「捨てられるかもしれないから、殺すしかないと思った」
さらに、無事だった4人のうち1人は、男性でお金もなさそうだったから、犯行に至らなかったと説明したが、殺害された9人のうち1人は男性(Cさん)だ。彼も裕福だったわけではなく、白石が奪ったのは数千円ほどである。似たような境遇にもかかわらず、殺害に至ることもあったわけだが、その違いはなんなのか。ほかの被害者の殺害動機も含めて質問する。
「1人目の女性(Aさん)は早く口説けました。そして、お金を持っていることが分かったのです。だからヒモになろうと思ったんです。アパートの契約のお金を出してくれました。しかし、ほかにも男がいることが分かりました。ということは(自分を捨てて)その男を選ぶかもしれない。Aさんは、相性のいい男性を探していましたから。出て行けと言われるかもしれない。殺すしかないと思ったんです」
■殺害動機は性的な理由が占めるように…
白石の話を少し整理すると、ここでいう「ほかの男」とは3人目に殺害されたCさんであろう。つまり白石は、Aさんが自分の代わりにCさんを選ぶかもしれないと思い、そうなる前にAさんを殺害。Aさん殺害がバレるのを恐れ、Cさんも手にかけたようである。
ただ白石は、CさんがAさんの彼氏なのか、もしくは恋愛感情を抱いているかを確認していない。ということは、Aさんは白石の思い込みで殺害されたことになる。もし白石が2人の関係を確認していたら……。その後の展開も変わっていただろうと、私は想像した。
続けて白石は、ほかの殺害動機についても話した。
「昏睡状態(失神状態を指すと思われる)のままでのセックスに目覚めたんです。でも、そのまま帰らせると通報されるかもしれない。執行猶予中だったので、見つかれば、今度は一発で実刑になるかもしれない」
白石が、失神状態で性的な行為を初めてしたのはAさんだ。面会ではいつの時点で目覚めたのかはっきりしない(公判で明らかになる)。が、連続して殺害に至る動機自体は、Aさんを殺害したときから、性的な理由が占めるようになったようだった。
■「死にたい」というつぶやきにはそれぞれの理由があった
白石がターゲットにしたのは「死にたい」などと自殺願望をつぶやく女性たちであった。一方で、逮捕後の報道では「本当に死にたい人はいなかった」と白石が供述しているとの情報も流れていた。この発言の真意はなんなのか。私の取材テーマと重なることもあり、白石にはどうしても聞いてみたかった。
「(『死にたい』とつぶやく女性たちと)DMなどで悩み相談になることがありました、それぞれに理由があるということです。学校に行きたくないとか、家にいたくないとか、彼氏に振られたとか。ある女性はよくよく聞くと、『家出をしたい』と言っていた。『なぜ?』と聞くと、『母親の管理がきついため』ということだった。そこで『うちに来る? 養うよ?』と誘うと、簡単についてきたんです。こんな風に理由があったんです」
白石自身の自殺願望についてはどうだろうか。最初の面会では、ネットナンパの延長線上で白石が被害者とコミュニケーションをとっていた様子が垣間見えたが、そのやりとりで白石は自殺の心情を的確にとらえていた。自殺願望は別にしても、少なくとも白石が自殺願望のある人とのコミュニケーションを学んでいる可能性は捨てきれなかった。
「(自殺を)考えたことはないですね。ただ、逮捕後、警察の取り調べが厳しい時期があったので、自殺が頭をよぎったことはあります。でも、立川(拘置所)に移ってからは、環境が改善されました。ご飯も美味しいので、今は(自殺を考えたことはなく)大丈夫です」
白石の話を聞く限り、やはり犯行時に自殺願望はなかった。被害者たちとのやりとりは、ひたすら寄り添うというネットナンパの手口を使っただけのようだった。
■なぜ遺体をバラバラにしたのか
ここまでの話を整理する。報道と面会での話によれば、白石は失神状態でのセックスを繰り返し、発覚を恐れて被害者たちを殺害。バラバラにして遺棄した。改めて凄惨な犯行である。なぜ被害者たちをバラバラにまでする必要があったのか。
「外に遺体を捨てるとなると、埋めないといけない。遺体の全身があると、車で運んで埋められないですよね。バラバラにして、骨やバラせるものは燃えるごみとして捨てたんです。バラせないものはクーラーボックスに入れました」
さらに話を聞くと、犯行の計画性も徐々に見えてきた。
「1人目の女性を殺害する前に、過去のバラバラ事件がなぜ発覚したのかをネットで調べたんです。すると、山の中へ遺体が入ったクーラーボックスを運んでいる途中に職質された、などが書いてあった。それぞれの事件発覚に該当しない方法で実行しようと思ったんです。“携帯電話は長い間、放置しないと警察は位置情報を特定できない”と、前回(職業安定法違反容疑で)逮捕されたとき、刑事に教わったんです。だから殺害後、(被害者の)携帯を破壊しました」
実際に白石は3人目まで隠蔽工作のために、被害者のスマホを別の場所に捨てるよう指示した。一方で、4人目以降は捜査を撹乱させる工作をしていない。その理由はなんなのか。面会では聞くことができず、公判で明らかになるのを待つしかなかった。
■「最初は同居人が自殺をしたことにしようと…」
それにしても、それまで人を殺したことのない白石が、2カ月という短期間で男女9人を殺害するとは。通常は「殺したい」という欲求があったとしても、実際に殺害するまでにはハードルがあるはずだ。躊躇はなかったのだろうか?
「それはかなりありますよ。それに殺害しても入手できたのは、結果として60万円(実際は約50万円)ほど。割に合いません。ただ、一度、売春(斡旋)で捕まっているので、再び同じスカウトはできないだろうと思いました。きちんとした仕事にも就けそうにないし、詐欺や窃盗のスキルもありません。だったら、ヒモになって女性に貢いでもらうしかないと思ったんです。そんな風に考えて、(いろんなリスクを)天秤にかけたんです。もちろん、殺害するのは勇気がいりました。1人目の殺害後は頭痛や吐き気がありました。しかし、1人目を殺害することで、それを乗り越えたんです」
9人を殺害したとなると、死刑になる可能性は高い。白石も薄々その可能性に気づいていただろう。発覚すれば、死刑。犯行に及んだ2カ月間、白石はそのことをどのように考えていたのだろうか。
「1人目を殺害した時点で、どのくらいの罪になるのかをネットで調べました。私がしたのは、強盗、強姦、殺人となるので、死刑を意識しました。最初は、死刑を回避することを考えたんです。殺人ではなく、同居人が自殺をしたことにして、遺棄しただけにしようと……」
その後もいくつか質問をする。まだまだ白石には聞きたいことがある。一方で、面会の時間は終わりが迫っているようだった。刑務官が時計に目を向け始める。最後に私は、「家族や被害者にこの時点で言いたいことはありますか?」と聞いた。
「家族には『ごめんなさい』かな? いや、違うな。『もう忘れてください』だな。(被害者の)遺族にも『忘れてください』と言いたいです」
ゆっくり、言葉を弱めに話す。すると、刑務官が「時間です」と会話を制止した。席を立つ白石。再び3本指を立てて、面会室のドアの向こうに消えた。
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ジャーナリスト
1969年、栃木県生まれ。長野県の地方紙「長野日報」の記者を経て、フリーに。子どもや若者を中心に、自殺や自傷、依存症などのメンタルヘルスをはじめ、インターネットでのコミュニケーション、インターネット規制問題、青少年健全育成条例問題、子どもの権利、教育問題、性の問題に関心を持っている。東日本大震災でも、岩手、宮城、福島、茨城、千葉県の被災地を取材している。中央大学非常勤講師。
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(ジャーナリスト 渋井 哲也)
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