90分でも60分でもなく…「10分間のカセットテープ」が今一番売れているワケ
プレジデントオンライン / 2022年3月6日 15時15分
■1989年には年間5億本以上の需要があった
カセットテープが全盛期を迎えたのは、1980年代だ。背景には、1970年代にラジオ受信機とカセットテープレコーダーが一体となった「ラジオカセットレコーダー(ラジカセ)」が、一般家庭に普及したことがある。
ラジオ番組から流れてくるお気に入りの音楽を録音する「エアチェック」や、屋外にラジカセを持ち出して環境音を録音する「生録」など、カセットテープはさまざまな用途で使われるようになっていった。
その後も売り上げを伸ばし、バブル経済が絶頂を迎えていた1989年には国内で年間約5億本以上の需要があったという。
その後、CDやMDなどのデジタル録音ができる記録媒体が主流となったことで、カセットテープ人気は徐々に陰りを見せていった。
2000年代以降は、iPodに代表されるMP3音楽プレーヤーの登場に続き、インターネットを介した音楽のダウンロードやストリーミングといったデジタル音源が浸透してきたことで、カセットテープの需要は全盛期と比べると大きく減少してしまった。
■コアなファンとシニア世代に根強い人気
しかし、スマホやPCで音楽を聴くのが一般化した現在でも、「カセットテープはコアなファンに愛され続けている」とマクセル ライフソリューション事業本部で事業企画部長を務める三浦健吾さんは話す。
「カセットテープは、深みのある音やアナログ特有の音質が特徴で、今のデジタル音源のように『0』と『1』の信号で統一された音質では味わえない独特の良さがあります。1970年代以降のカセットテープ全盛期を過ごしたオールドファンやシニア世代の方には、今でもカセットテープの存在はなじみ深く、根強い人気があると感じています」
マクセルは1966年にカセットテープ生産を始めた。市場の成長を牽引してきたことから、特に50~60代以降のシニア層には「マクセル=カセットテープ」のイメージが強く残っているという。
いち早く日本にカセットテープの需要を作り、時代とともに移り変わるニーズに合わせて「ハイポジション」や「メタルポジション」といった技術を発展させるなど、マクセルブランドを着実に築き上げてきたわけだ。
■一番売れているのは「10分テープ」
現在は、全盛期に比べ需要が減っていることもあり、同社が販売しているカセットテープは「UR」シリーズのみとなっている。
それも、カセットテープ全盛期に見られた150分や120分のテープは取り扱っておらず、90分から10分までの4種類のタイムバリエーションで展開しているそうだ。
「全盛期に比べてカセットテープの需要が見込めなくなったことで、品質の高いテープ原反の入手も難しくなっており、現在は90分、60分、20分、10分と4種類のタイムバリエーションに絞っています」
そんななか、4種類の長さのうち「10分テープ」が意外なニーズにはまって一番人気を誇っているという。
それがシニア世代を中心としたカラオケ需要だ。
「カセットテープが登場した頃は、60分や90分が主流でしたが、1980年代にカラオケブームが盛り上がりを見せ、その需要に応えるために10分のカセットテープを発売しました。歌を練習するのに、10分という長さはちょうど良く、さらには巻き直しも楽なのでカラオケの練習に都合がいい。その名残が今でもあるため、シニア世代を中心に10分テープが最も多く売れているんです。また、テープレコーダーも再生ボタンを押すだけのシンプルな操作で手間いらずなので、スマホなどの最新機器に慣れていないシニア世代でも使いやすいというのが、支持されている理由だと考えています」
■「ニッチな需要」に応え続けたい
そのほか、英会話の勉強やカラオケ大会へ提出する際のデモ音源など、シニア世代の勉強や娯楽目的に10分テープは有効活用されているという。
しかし、コロナ禍の影響でカラオケの需要が減っていることもあり、苦しい状況に立たされているのは否めない。
三浦さんは「新型コロナウイルスの影響で生活様式も変化し、直近では復調の兆しが見えてきているので、これからもできるだけニッチな需要に応えられるようにビジネスを継続していきたい」と話す。
カセットテープ自体は全盛期ほどの勢いにはないものの、近年の「昭和レトロ」ブームや70~80年代に流行した「シティ・ポップ」が再評価されていることで、若年層にもカセットテープの“真新しさ”が注目されてきている。
■若年層にもカセットテープの魅力を訴求する
マクセルもカセットテープの需要を喚起すべく、マーケティング手法を変えている。昔のように大々的にテレビCMを打つのではなく、若者に受け入れられるような工夫を凝らして、カセットテープが根絶しないように企業努力をしているそうだ。
「最近では、音楽アーティストがカセットテープで楽曲を出すなど、アナログへの回帰が注目されていると思っています。デジタル音源やストリーミングにはない味のある音や、カセットテープならではの懐かしさを楽しむコアな音楽ファンにも見直されてきていると感じています。こうした状況を踏まえて、2020年には若年層に手に取ってもらえるようなパッケージのデザインに刷新し、試行錯誤しながらカセットテープの魅力を絶やさないように努力しています」
■アナログもデジタルも、顧客満足度の高い製品開発を続けたい
インターネット環境が急速に広まり、テクノロジーが進化したことで、情報の記録はクラウドサーバーでの管理が当たり前になった。
それでも、カセットテープやCD、MD、DVDといったハードウェアの記録媒体もしばらくは残り続けることだろう。
全国の量販店のPOSデータをもとに、パソコンやデジタル家電関連製品の年間販売数No.1を決める「BCN AWARD」という賞(※)がある。マクセルはCDメディア部門、DVDメディア部門、BDメディア部門の3部門で5年連続年間販売台数シェアのトップを誇っている。
※BCNが全国の量販店のPOSデータを日次で収集・集計した「BCNランキング」に基づき、パソコン関連・デジタル家電関連製品の年間(1月~12月)販売台数第1位のベンダーを表彰するもの。
いわば記録媒体のリーディングカンパニーとして、今後も記録メディア事業をライフソリューション事業部のひとつの顔として据えながら、コンシューマー事業を展開していくという。
「記録メディア事業はマクセルにとってルーツであり、今後もお客様のニーズに合わせて顧客満足度、価値の高い製品を提供していければと思っています。それが長年トップでやってきている会社の使命であり、市場の牽引役としてこれからも尽くしていきたい。また、弊社としては除菌消臭器やシェーバーなどの健康・理美容製品が新しい事業の柱にもなっているので、お客様のライフスタイルや志向が多様化するなか、お客様の声に真摯に向き合い、柔軟に対応をしていきながら、アナログからデジタルまで顧客満足度の高い製品開発を行っていきたいと考えています」
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フリーライター
1986年生まれ。ビジネス、ライフスタイル、エンタメ、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている。
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(フリーライター 古田島 大介)
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