「情報量を削って要約する」はNG…説明下手な人たちが根本的に勘違いしていること
プレジデントオンライン / 2022年2月19日 10時15分
※本稿は、犬塚壮志『説明組み立て図鑑』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■「端的にわかりやすく伝える」ためのシンプルな方法
「短く話そうとしても、そんな簡単にできないよ……」
「“端的に話せ”って言われても、要約するのが苦手で……」
多くの情報が溢れている今、ビジネスシーンだけでなく、プライベートの場面でも「短く話す」「端的に伝える」といったことが求められています。情報過多の時代だからこそ、TikTokをはじめとするショートコンテンツも流行っているのでしょう。
そういった情報を短く端的に伝えることの重要性は増している一方で、冒頭にあるように、それがなかなかできず苦労している人も多いのではないでしょうか。
私自身は、予備校講師として長年、生徒たちに「端的にわかりやすく伝える」ことを実践してきました。科目の知識を説明したり、問題を解くスキルを教えたりするのは、実際に多くの時間を要します。
その一方で、予備校で科目ごとに割り当てられている講義時間はとてもタイトです。
学校のカリキュラムに比べとてもタイトに設定されているため、ある意味で予備校の講義は時間との戦いになります。
限られた時間の中で、いかに相手にわかりやすく伝えることができるか、そこが腕の見せどころとなるのです。
ただ、そんな私も、はじめから端的に話ができる人間ではありませんでした。
■「全部を伝えよう」として失敗した過去
私自身、実は極度の心配症で、授業で説明する際、「生徒のためにも、ありったけの情報を全部、話さないといけない」といった、ある種の強迫観念のようなものをずっともっていました。
ただ、当然のことながら、自分の持っている知識や情報を授業中にすべて話そうとしたら、時間が足りなくなってしまいます。
そのため、講師になりたての頃は、授業を延長することもしばしば……。もちろん授業を延長する、つまり長く話すことで生徒たちから不満が出てきていました。授業アンケートにも「延長するな!」という辛辣(しんらつ)なコメントも……。
当時の自分としては、知識や情報を提供することが目的の予備校で、「できるだけたくさんの知識や情報を話してあげたほうが、生徒は喜ぶのでは?」と思ったりしたこともあったのですが、生徒からのリアクションを鑑みると、その考えは大間違いだったのです。
ただ、実際にどうしたらいいのかわからず悩んでいたときに、こんな言葉に出会ったのです。
「何を話すかよりも、何を話さないかを決めることのほうが重要だよ」
この言葉は、駿台予備学校講師の三國均先生の生前の言葉です。三國先生は、私が予備校講師を目指したきっかけとなった伝説の講師です。
この言葉をきっかけに、私は限られた時間の中で「いかに話さないか?」を常に考えるようになったのです。
そして、この言葉を実行に移すために、思い切った方法をとることにしたのです。
それが、「抜粋」という方法です。
通常、伝える情報を削減するための手っ取り早い方法は「要約」でしょう。ただ、「要約」が苦手だった私は、思い切ってバッサリと情報をカットしてしまう「抜粋」という方法を選択したのです。
「抜粋」は、情報を圧縮して伝える「要約」と異なり、抜き出した情報以外、すべて切り捨ててしまいます。そのため、相手に伝える際にちょっとしたコツが必要となります。
■要約よりも簡単…「抜粋」を効果的に見せる3つのステップ
そのコツというのは、その抜き出した情報を伝える際の冒頭で、以下の3つのステップで伝える言葉を組み立てていくことです。
Step2 その中から1つ抜き出すことを宣言する
Step3 その1つを抜き出した理由を伝える
1つずつ説明していきます。
Step1(図表1)では、まず、本当は伝えたい情報量が膨大であることを、正直に相手に伝えます。
たとえば、「本当は、話すと2時間かかってしまうのですが、……」、「実際には本1冊分の情報量なのですが、……」、「全部で20個すべきことがあるのですが、……」などのように、情報のボリュームの多さをあえて暴露してしまうのです。
Step2(図表2)では、物理的制約(時間や文字量)のために、1つに絞ることを相手に伝えます。膨大な情報の中から1つに絞って抜き出す、つまり抜粋して伝えることを宣言するのです。
「時間の都合上、●●だけに絞ってお伝えします」、「ページ数が多くなってしまうので、1点のみ抜き出してお伝えします」のようなフレーズを使うとわかりやすいでしょう。
Step3(図表3)では、「なぜ、その1つに絞ったのか?」、その理由を伝えます。
全情報の中からその部分を抜き出した理由を、相手が納得するように伝えます。抜き出したのには何か理由があるはずです。「他の情報は忘れてもらって構わないから、最低限この部分だけは相手に覚えておいてほしい」、そういった絞った正当性をしっかりアピールします。前置きとして、「最も」をつけると効果的です。
たとえば、「この●●は、全テーマの中でも最も重要なトピックだからです」、「なぜなら、この●●は最も使用頻度が高いためです」、「この●●だけは知っておかないとリスクが高まります」のようなフレーズです。
抜き出したものの正当性を強調するのです。Step2の後にこのようなフレーズを入れることで、情報をカットされたことに対して相手が抱くかもしれない不満を防ぐことができます。
それと同時に、抜き出したその1つの価値を高めることにもつながります。結果的に相手は、「情報を絞ってもらえて得した!」、「情報過多にならずに済みそう!」と思ってくれるのです。
話を組み立てていくこのステップを、私は「抜粋の型」と呼んでいます。
実際に、この「抜粋」の型を使った具体例を紹介します。
■なぜ「要約」より「抜粋」が簡単なのか
自分が読んだWeb記事の内容を、誰か他の人に紹介することを想定します。そのときには以下のように話していくのはどうでしょうか。
Step2 今、忙しいだろうから、その中で一番面白かったところに絞って話すね。
Step3 その部分って、■■さんにすぐに役立ちそうだからさ!
このような前置きを入れた後に、「その絞った1つというのが、……」のように展開していくことで、相手にとっては非常に価値のある話となっていきます。
この「抜粋の型」は、情報量があまりにも多いけれど、伝える時間が短かったり、文章での文字数が限られてしまっていたりするときに用いると非常に効果的です。
「要約」は、情報の全体像を伝えることが目的であるために、情報のつなぎ合わせや抽象化など高度なスキルが必要となってきます。しかし、「抜粋」は、ちょっとしたコツと、情報を切り捨てる勇気さえあればすぐに使えるようになります。
最後にこの「抜粋の型」をより効果的に使いこなすテクニックを1つお伝えします。
■「抜粋」を効果的に行うコツ
そのテクニックとは、「本来伝えたい情報量に対して相対的に小さくする」ことです。
この型を使う際は、抜き出す数を必ずしも1つにする必要はありません。抜き出す数を2つや3つにしても効果を発揮します。
ただ、本来の伝えたい情報量にもよりますが、抜粋した数が増えすぎると、時間が足りなくなるどころか、相手の「抜粋してもらえた感」が薄まる可能性があります。たとえば、「全部で10個やるべきトレーニングがありますが、7つに絞りました」と説明されても、「なんだ、7つもあるんだ……」と思われてしまう可能性があるというわけです。
一方、「100ページにわたる資料の中から抜粋して、最も重要な7ページに絞りました」であれば、相手の「抜粋してもらえた感」は高くなります。つまり、この「抜粋の型」は、絞った数量が、本来伝えたい情報量に対して相対的に小さければ、抜き出す数が1つでなくても高い効果を発揮するのです。
相手に何かを伝える際に、短くする事は手段であり目的ではありません。相手にとってわかりやすいかどうか、メリットがあるかどうかのほうが重要です。
情報過多を避けることができ、さらに、大事なポイントに絞ることが出来たのなら、それは相手にとって大きなメリットになります。
伝える情報を減らす際、「要約」が難しいと感じたら、ぜひ「抜粋の型」とセットで「抜粋」を試してみてください。
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教育コンテンツプロデューサー/士教育代表
福岡県久留米市生まれ。元駿台予備学校化学科講師。大学在学中から受験指導に従事し、駿台予備学校の採用試験に25歳の若さで合格(当時、最年少)。駿台予備学校時代に開発した講座は、超人気講座となり、季節講習会の化学受講者数は予備校業界で日本一となる。2017年、駿台予備学校を退職。独立後は、講座開発コンサルティング・教材作成サポート・講師養成・営業代行をワンオペで請け負う「士教育」を経営する。著書に『あてはめるだけで“すぐ”伝わる 説明組み立て図鑑』(SBクリエイティブ)、『理系読書 読書効率を最大化する超合理化サイクル』(ダイヤモンド社)がある。
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(教育コンテンツプロデューサー/士教育代表 犬塚 壮志)
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