「結論から話す」は絶対ではない…わかりやすく伝えるために必要不可欠な「たった1つ」のこと
プレジデントオンライン / 2022年2月27日 9時15分
※本稿は、犬塚壮志『説明組み立て図鑑』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■「結論ファースト」一辺倒では上手くいかない
自分「(心の声:上手く話すには“結論”からだったな!)結論としては、●●です」
相手「……それ、何の話?」
せっかく結論から話したにも関わらず、相手に上手く伝わらなかった経験はないでしょうか?
ビジネスの世界では「結論から話せ」はよく聞くフレーズでしょう。私自身もさまざまな書籍でそれを目にしていたので、社会人になってから数年間は深く考えることなく結論から話すようにしていました。
しかし、結論から話して上手くいくときといかないときが度々あったのも事実です。
例えば、入社5年目に、新規企画を上司に提案しようと、「●●をやらせてください」と結論から伝えた際に、「そもそも、それ、何の話だっけ?」「いつ、そんな話になったんだっけ?」と返されました。
相手の知りたい結論から話す重要性はある程度理解はしていたものの、「結論から話す」が常に正しいとは言えないのではないかという疑問が、年を重ねるごとに強くなっていきました。
そこで、「結論ファースト」一辺倒では上手くいかない理由を、ヒトが物事を理解するメカニズムに関する専門書や学術論文を読み漁り、徹底的に調べ上げました。そして、相手にわかりやすく伝えるためには必要不可欠な、「ある1つ」のファクターを見つけました。
■わかりやすく伝えるために必要不可欠な「たった1つ」のこと
その「ある1つ」のファクターとは、専門的に「共通の基盤」と呼ばれるものです。
そもそも、自分が話したり書いたりしたことがすべて正確に相手に伝わることは稀です。なぜなら、自分と相手が持っている知識や特定の分野に対する理解度がまったく同じであることはあり得ないからです。そして、自分が言葉にしていない部分を相手は頭の中でそれとなく補っています。
その補うときに使っている知識や考え方を「共通の基盤」といいます(※)。つまり、相手に正確に理解してもらうには、この「共通の基盤」が必要不可欠なのです。
※Clark,H.H.(1996). Using language. Cambridge: Cambridge University Press
この「共通の基盤」がないと、自分が説明している内容が相手に正しく伝わらなかったり、認識のズレが生じたりします。
たとえば、商談の際、セールスする側の自分としてはその日の打ち合わせで決裁の判断をもらうことを考えていたのに、相手は顔合わせ程度にしか考えていなかったら、それ以降の話は噛み合わないでしょう。
前提のすり合わせがないとミスコミュニケーションが起こりやすくなるのです。
この「共通の基盤」の重要性に気づいた私は、結論をいきなり伝えても理解してもらえなさそうなシチュエーションでは、必ず前提の共有を行い、「共通の基盤」をつくるようにしたのです。
次の課題は、「共通の基盤」を伝えた上で、スムーズに結論につなげることでした。さまざまな文献から調べ上げた裏づけのある知見を、自分なりに現場で試していったところ、ミスコミュニケーションが最も起こりにくい話の組み立て方をパターン化することができました。
■「共通の基盤」をスムーズにつくる3ステップ
そのパターン化した組み立て方というのが、以下の3ステップで行っていくものです。
Step2 その前提に基づいた、以降の説明の合意をとる
Step3 本題のテーマや結論を伝える
各ステップを1つずつ説明します。
Step1では、前提となる知識や条件などを相手に伝え、「共通の基盤」をつくりやすくします。「前回は、●●まで話が進んでいたかと思います」のようなフレーズです。
このステップを省略してしまうことで最も危険なのは、相手が勘違いしたままに何らかのアクションを起こしてトラブルが勃発することです。
たとえば、上司である自分が「あの金額でA社に見積書を出しておいて」と部下に指示した場合を考えてみます。
「あの金額」というものを自分としては「自社が提案した値引き前の金額」で、部下としては「クライアントが提示した値引き後の金額」と想定していた場合、請求書の金額はズレてしまうため、大惨事になりかねません。
「あの金額」というのが値引き前の金額なのか、値引き後の金額なのか、しっかりとすり合わせる説明をしておけば、こういったリスクを回避することができます。トラブルを防ぐためにも、このステップは常に念頭に置いておくとよいでしょう。
■相手との認識のズレが生じる恐れを忘れてはいけない
Step2では、Step1で確認した前提に基づいた説明を行っていくことへの合意(コンセンサス)をとります。前提を共有しながら相手と「共通の基盤」をつくっていくことを「基盤化」といいます(※)。
※Clark,H.H.(1996). Using language. Cambridge: Cambridge University Press
「この前提に則って説明していきますね」のようなフレーズです。この基盤化を行わないと、相手との認識のズレが生じる可能性が出てきます。
たとえば、「例のA社についての続報だけど」と説明を始めるとき、自分としては「例の案件」を値引きする前の金額を前提にして話していたのに対し、部下は値引きした前提で聞いてしまっていたら、以降の説明は確実に相手にわかってもらえません。
そのため、「値引きをまだしていないという前提で話すと、……」のような伝え方をします。
Step3では、説明したい本題のテーマや自分の考え、意見(結論)を伝えます。「それではまず、私の考え(結論)ですが、……」のようなフレーズがお勧めです。
このStep1~3の組み立て方のイメージがより湧くように、実際にこのステップで組み立てた具体例を紹介します。
■組み立て方一つでミスコミュニケーションは防げる
あるクライアント企業の担当者に、自社サービスの提案を持ち込んだ再訪の場面を想定します。
Step2 「本日は、その資料にありますサービスプランについて、契約のご判断ができるような内容をお話しさせていただきたく思っているのですが、よろしいでしょうか?」
Step3 「弊社のA~Cの3つのプランのうち、御社に最適なBのプランについて詳しく説明してまいります」
ポイントとしては、Step1,2は、一言二言でさっと済ませることです。
共有する前提の説明が長くなりすぎると、相手は「で、結局、何が言いたいの?」となってしまうからです。「基盤化」は手短に行うことが重要です。
そのためにも、相手と共有すべき前提を一言二言で伝える準備をしておく必要があります。共有すべき前提は自分が当たり前だと思っている中にあります。
だからこそ、「この情報がもしかしたら欠けているかも」と相手の知識や状況に想像を働かせることが何よりも大事なのです。
重要なことなので繰り返しますが、あらゆるシチュエーションで必ず「結論ファースト」がベストになるわけではありません。そのため、結論から話してもなかなか上手く行かないと思った場合は、結論を伝えることばかり考えるのではなく、まずは「基盤化」をしっかり行ってみてください。
そうすれば、自分の伝えたいことが相手にしっかり伝わり、ミスコミュニケーションを激減させることができるはずです。ぜひ、この話の組み立て方を試してみてください。
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教育コンテンツプロデューサー/士教育代表
福岡県久留米市生まれ。元駿台予備学校化学科講師。大学在学中から受験指導に従事し、駿台予備学校の採用試験に25歳の若さで合格(当時、最年少)。駿台予備学校時代に開発した講座は、超人気講座となり、季節講習会の化学受講者数は予備校業界で日本一となる。2017年、駿台予備学校を退職。独立後は、講座開発コンサルティング・教材作成サポート・講師養成・営業代行をワンオペで請け負う「士教育」を経営する。著書に『あてはめるだけで“すぐ”伝わる 説明組み立て図鑑』(SBクリエイティブ)、『理系読書 読書効率を最大化する超合理化サイクル』(ダイヤモンド社)がある。
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(教育コンテンツプロデューサー/士教育代表 犬塚 壮志)
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