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「学校の金融教育だけでは危ない」18歳になるまでに親が子に授けられる"本当に役立つお金教育"

プレジデントオンライン / 2022年2月22日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ferrantraite

今年4月から高校で金融教育が始まる。成人年齢の引き下げにあたって、親は子にお金について何を教えたらいいのか。米国公認会計士の午堂登紀雄さんは「学校で金融知識を学ぶだけでは不十分。自ら稼ぐ経験こそ生きる力の土台になる」という――。

■4月から始まる高校の金融教育

2022年4月から高校で金融教育が導入されるそうです。

その背景としては、同じタイミングの2022年4月から成人年齢が20歳から18歳に引き下げられることがあります。

成人になれば、自分でクレジットカードを申し込んだり、賃貸物件やローンの契約をしたりすることができます。すると社会での経験やお金の知識が少ない若者が、詐欺等の被害や契約を巡るトラブルなど、金銭に関するトラブルの増加が予想されるため、高校卒業までに一定の金融教育は待ったなしということのようです。

さらには年金制度による老後の生活保障が難しくなっていることもあり、老後資金を含めた生活資金を個々人の責任において確保していく必要性が増していることも一因としてあるようです。

■授業の内容は…

なるほど、理由としてはもっともでしょう。

では高校生は授業でどのようなことを学ぶのか、2022年度からの「高等学校学習指導要領」では次のように紹介されています。

家計の構造や生活における経済と社会との関わり、家計管理について理解すること。

家計管理については収支バランスの重要性とともに、リスク管理も踏まえた家計管理の基本について理解できるようにする。

その際、生涯を見通した経済計画を立てるには、教育資金、住宅取得、老後の備えの他にも、事故や病気、失業などリスクへの対応が必要であることを取り上げ、預貯金、民間保険、株式、債券、投資信託等の基本的な金融商品の特徴(メリット・デメリット)、資産形成の視点にも触れるようにする。

生涯を見通した生活における経済の管理や計画の重要性について、ライフステージや社会保障制度などと関連付けて考察すること。

各ライフステージの特徴と課題、家族構成や収入・支出の変化、生涯の賃金や働き方、社会保障制度などと関連付けながら考えることができるようにする。

また、将来を見通して、事故や病気、失業、災害などの不可避的なリスクや、年金生活へのリスクに備えた経済的準備としての資金計画を具体的な事例を通して考察できるようにする。

出典=文部科学省「【家庭編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説」より抜粋

■固定観念の上塗りにならないか

実際の授業では、例えば給与明細を教材にして、可処分所得や非消費支出など、家計の構造や収支のバランスについても扱った上で、高校卒業後の進路や職業も含めた生活設計に基づいて、具体的にシミュレーションすることも想定されているそうです。

ライフステージに応じた住居の計画を立てるための学習では、住宅ローンに関する費用と家計管理を関連付けるなど、多くの人がいずれ経験するライフイベントに備えた知識も学ぶようです。

給与明細書
写真=iStock.com/laymul
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/laymul

ただし金融教育の方法はまだ標準化されていないため、実際の教育現場では内容に差が生じてしまうという課題があります。このあたりは教員の慣れや授業の組み立て方の蓄積といった時間が解決してくれる可能性はあります。

とはいえ、ちょっと薄気味悪い感じがしないでしょうか。上記の設定はほぼ「サラリーマン家庭」を前提としていて、「貯蓄が大切だ」「資産形成は投資信託で」などという固定観念を助長しかねない印象です。

あるいはもし「借金は良くない」という考えを先生が言ったとしたら、奨学金や教育ローンを使った自分への投資や、不動産投資といった借金の活用方法があることを否定しかねないな、とも感じます。

また、教師は知識としては教えられても、その教師本人が起業の経験も投資の経験もなく、さらに家計の中から自己投資として自分の価値を高める支出を継続的にやっていなければ、既存の常識や固定観念の上塗りにすぎない教育になりそうな懸念があります。

■踏み込んだ議論ができるなら意義がある

それで思い出したのが、私が高校の時に受けた保健体育での性教育の授業。高校生での性行為の是非をグループごとに議論し結論を発表するというもので、確か私たちの班は「しっかり避妊をしていれば問題ない」みたいな内容だったと記憶しています。

それですべてのグループの発表が終わった後、最後に先生がまとめたのは「責任が取れない高校生は性行為をしてはいけない」というものでした。

それで私はガックリきて、「何だよ、出来レースかよ! 最初から結論が決まってるなら、さっきの議論は意味ないじゃん! 時間の無駄じゃん!」とブーブー文句を言ったのを覚えています。

昨今の性教育はかつてとは違うと思いますが、妊娠のメカニズムや避妊方法を教えないで一律に「ダメ」というのは教師の逃げのように当時は感じました。

それに、仮に高校生で妊娠・出産したら具体的にどういう状況が想定できるのか? そして学業を諦めることなく育児と両立するには、両親の理解と配偶者の協力を前提として(10代の結婚では離婚率が高いですが)、こういう行政の支援があり、こういう制度を利用することで、ある程度は解決可能になる(想像できないほど大変なことだけれど)、という選択肢や可能性を議論することだって意味のあることでしょう。10代に限らずシングルになる可能性は誰にでもありますし。

でも現実の授業ではこういう考え方は否定されやすい。

■金融知識以前に大切なことがある

かように教師の価値観やファシリテーション能力の差により、洗脳的な教育になりかねないという側面をはらんでいます。

むろん、たとえば保証人と連帯保証人の違いやクーリングオフ制度など、契約の当事者になるからこそのリスクとその回避方法などを教えるのは、一定の役に立つとは思います。確かに「知っているか知らないか」で差がつくことはたくさんありますし。

しかし疑問があります。私たちはほぼ全員がこれまで金融教育などは受けることなく社会に出ました。

なのに、教わらなくても着実にキャリアを形成し計画的に支出・貯蓄するなどお金に困らない人がいる一方で、毎月給料日前にお金を使い果たしてキャッシングする人や、「ラクして簡単に儲かる」系の悪質な商材を買ってしまったり、詐欺的案件にお金をだまし取られる人がいるのはなぜなのだろうかと。

家計管理なんて単純な引き算の話であり、小学生でマスターしているはずなのに、社会人になってもできない人がいるのはなぜなのかと。

私は、家計管理とか住宅ローンとか株とか投資信託などという知識以前の、たとえば論理的思考力や想像力、予測・推測能力、クリティカルシンキング、問題解決能力、状況変化に応じて都度必要な学習ができる力、自己統制能力などといった、根源的な思考力とメンタルコントロールの問題ではないかと感じます。

■基礎教科の土台があれば、詐欺は見抜ける

株や投資信託なんて別に高校生で知る必要性は高くなく、知ったところですぐに受験があり大学生活があり、社会に出れば投資よりもまず仕事の実力をつける方が重要になります。もちろん知らないよりは知っていた方が良いとは思いますが、興味を持った人が個々人で調べて投資すればいい分野のように思います。

それよりも前回の記事ではありませんが、数学や国語、物理といった基本教科の学習と深い理解、勉強方法の工夫や自身の課題分析に基づいた軌道修正、あるいは疑問に思ったことを探求する作業を通じ、強靭な頭脳を獲得する方が優先度が高いのではないでしょうか。

そうした土台があれば、わざわざ教わらなくても詐欺的な話は見抜けるし、カードのリボルビング払いがいかに不利かは計算しなくてもわかるし、住宅ローンの返済なども加味した家計管理ができるはずです。

たとえばアダルトサイトや出会い系サイトなどにアクセスできないように、子どものPCやスマホをフィルタリングソフトで制限するという方法がありますが、もっと重要なことは、そうした情報に触れたとしても、それで判断が揺らがない思考軸の獲得、安易に流されない価値判断基準の獲得の方が重要なのに似ています。

金融教育が無駄とは言いませんが(ディスカッションやディベート形式であれば大いに意味があると思います)、教員にも生徒にも、あまり負担にならない範囲でよいように感じています。

■お小遣いは定額制ではなく申告制に

私自身は、自分の子には特別に金融教育をしようなどという考えはなく、日常の会話の中で、あるいは親のお金の使い方を見せながら、自分の考え方を伝えていけばいいと思っています。

親がやっていれば子は自然に興味を持って質問してくるし、こういうのは教わるよりも、自身で経験したほうが身に付くでしょうから。

昨年の夏も、子どもたちと一緒に所有する太陽光発電所の草刈りに行きましたが、その中で自然に売電や電力の仕組みなどの話になりました。

お小遣いも定額制ではなく都度申告制にして、何にいくらかかるのか説明させるとか、高額なものは必要性をプレゼンさせる予定です(これは多くの家庭でもやっていることだと思います)。

定額制だと「収入の範囲内でいかにやりくりするか」というこじんまりとした発想が定着しそうな懸念があるし(考え過ぎかもしれません)、プレゼン制は本人がメリットデメリットを理解し、本人にとっての重要度や期待リターンを考えるきっかけになると思うからです。

あるいは小学校高学年ぐらいになったら家族旅行のプランニングを任せることで、計画性や段取りの経験、トラブルを乗り越える経験をさせたいと思っています。

■自ら「稼ぐ」経験は尊い

今はまだ私の子どもたちは小さいので詳細な理解は難しいのですが、私が意識しているのは「あなたはどう思う?」「なんでだと思う?」と本人が自分の頭で考えるよう促し、「そうするとどうなると思う?」と因果を想像させ、「自分で決めなさい」と本人に決断させるようにしています。

金融教育以前の、論理的な思考力や、自分の頭で考え抜くことができる力、自己責任で切り開こうとする意志を育んでほしいと思っているからです。

ただし、私が子どもたちに教えたいと思っていることがひとつあり、それは「起業」です。

世の中のニーズや課題を汲み取り、自分で商品・サービスを作り、自分で値段を付けてそれを世に問うという行為は、究極の自己表現手段であり、「生きる力」の土台になると考えているからです。

「自ら稼ぐ」という自発的な働き方を経験することで、雇われるだけが生き方ではないとわかる。そしてお金を稼ぐということは、顧客からの感謝の言葉との交換であり、尊い行為であると実感してもらいたいと思っているからです。

「AIの普及で消滅する仕事」などとメディアで騒がれていますが、起業を通じてクリエイティブな商品づくりとマーケティングを考えることは、そうした近未来社会への対応力を高めることにも貢献すると思っています。

■小学校高学年対象の起業スクールの中身

ちなみにコロナで中止になってしまいましたが、地元で小学5、6年生を対象にした子ども起業スクールを開催する計画を立てたことがあり、その概要をご紹介します。

テーマ 「地元ならではのお土産(お菓子)を作って売ろう」

※モノづくりは難易度が高いが、お菓子であれば小学生でも作りやすい。また、お菓子なら実際に販売することもできるし、食中毒といったリスクもほとんどない。調理にあたっては経験者がサポートする。


内容
1.会社名を考え、役割分担を決める(チームづくり)
2.商品を考える(地元の特産品や歴史などから商品を考える)
3.事業計画をつくる(1個いくらで何個作るか、材料費、どんな売り方をするか)
4.お金を借りる(事業計画をプレゼンし運転資金をもらう、1チーム5000円)
5.材料を仕入れ、商品をつくる(自分たちでスーパーなどに買い物へ)
6.広告宣伝ツールを作る(100円ショップなどで買い、包装やポスターを作る)
7.販売する(行政の許可を取り駅前広場などで一般販売)
8.決算をする(売り上げから経費を引いて利益を計算)
9.銀行にお金を返す(あるいは残りは給与としてメンバーに配分してもよい)
10.反省会(ここに問題があった、次はこうしようといった振り返りとその発表)

これは小学生向けですが、高校生ならもっと高度に踏み込んだ内容でも可能だと思います。利益を多く残そうと考えることは家計管理にそのまま応用できます。

そうやって子どもたちが挑戦する楽しさを知り、チームで協働すればもっといいアイデアが出てくることや、工夫すればもっと売れることを経験すれば、将来の職業選択の幅も広がり、新しい可能性が見えてくると(勝手に)思っています。

そしてこれは、金融教育よりも重要かつ血肉になるだろうというのが私の考えです。

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午堂 登紀雄(ごどう・ときお)
米国公認会計士
1971年岡山県生まれ。中央大学経済学部卒。大学卒業後、東京都内の会計事務所にて企業の税務・会計支援業務に従事。大手流通企業のマーケティング部門を経て、世界的な戦略系経営コンサルティングファームであるアーサー・D・リトルで経営コンサルタントとして活躍。2006年、株式会社プレミアム・インベストメント&パートナーズを設立。現在は不動産投資コンサルティングを手がけるかたわら、資産運用やビジネススキルに関するセミナー、講演で活躍。『捨てるべき40の「悪い」習慣』『「いい人」をやめれば、人生はうまくいく』(ともに日本実業出版社)など著書多数。「ユアFX」の監修を務める。

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(米国公認会計士 午堂 登紀雄)

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