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「ウクライナも北方領土もロシアが正しい」公然とロシアを擁護する中国に日本が打つ手はあるか

プレジデントオンライン / 2022年2月17日 12時15分

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席 - 写真=SPUTNIK/時事通信フォト

■ロシアの「ウクライナ侵攻」を止めない中国

2月4日の北京冬季五輪開会式前に行われた中露首脳会談は、北大西洋条約機構(NATO)の拡大に反対する共同声明を発表するなど、両国の結束を誇示した。欧米は中国がウクライナ情勢でロシアに自制を求めることを期待したが、発表内容をみる限り、そうした表現はなかった。

中国は欧米諸国や日本が開会式を政治的にボイコットしたことに反発し、中露の連携を優先したかにみえる。

理念で対立する主要7カ国(G7)と中露の外交的角逐が深まるのは必至で、中露は今後、G7の「弱い環」である日本への外交・軍事圧力を強める恐れがある。「中露準同盟」を抑止する外交努力が必要になる。

■微妙な問題には中立の立場だったが…

ロシアがウクライナ国境に10万以上の兵力を増強し、侵攻の動きを示す中、米側は中国の仲介を期待していた。

ヌーランド米国務次官は「中国もウクライナ紛争を望まないはずだ。モスクワへの圧力を行使してほしい」と述べていた。ブリンケン国務長官は1月末、王毅外相と電話会談し、この旨要請した模様だ。

2008年の北京夏季五輪でも、並行してロシア・ジョージア戦争が発生したが、中国外務省は五輪期間中、2度にわたって即時停戦を両国に要求する声明を発表。国威を賭けた五輪が戦争で台無しになることを憂慮した。当時、中国指導部で五輪を担当したのが習近平国家副主席だった。

しかし、習主席は4日の首脳会談で「中露関係は世界の結束のための支柱」「中露の根本的利益を断固擁護する」と述べ、中露の結束を優先する姿勢を示した。

共同声明が「ウクライナ」に言及しなかったことは、一定の対立をうかがわせたが、中国はロシアの欧州安保再編提案を支持しており、中露離間を望んだ西側の思惑は実らなかった。

ロシアの外交評論家、ダニル・ボチコフ氏は、「中国は緊迫した国際環境の中で、公然とロシアの側に立った。これは、従来の微妙な問題に対する中国の中立的アプローチとは異なり、中露の準同盟構造を優先したものだ」と論評した。

■中ロ共同声明には「日本関連」が5つも

首脳会談後に発表された中露共同声明には、「日本」にかかわる部分が多く、今後中露が共同で日本に圧力をかける可能性をうかがわせる。

それは第1に、福島第一原発の処理水の海洋放出に懸念を表明したことだ。声明は、「日本は汚染水を責任を持って処理し、近隣諸国や関係国際機関と協調して行うべきだ」と主張した。

処理水放出には、韓国が最も強硬に反対しており、3国が連携して日本に圧力をかけそうだ。

第2に、共同声明は「第二次世界大戦の結果尊重と戦後秩序維持」を強調し、北方領土問題で中露が共同歩調をとる方針を示唆した。

実は中国外務省報道官は昨年7月末、北方領土問題について、「2国間で適切に解決すべき問題」としながら、「反ファシズム戦争勝利の成果は適切に尊重され、順守されるべきだ」と語った。この発言は、「4島は第二次世界大戦の結果、ロシア領になった」とするロシアの主張を擁護するものだ。

北方領土問題で中国は、1970~80年代は日本の主張を支持していたが、その後中立姿勢に転換した。中国がロシア擁護に回ったのは初めて。中国報道官は2月11日にも、「4島は日本領」とするエマニュエル駐日米大使の表明を受けて、同様のロシア擁護発言を行った。

ロシアは昨年来、北方領土で頻繁に軍事演習を行い、歴史問題で日本批判の声明を次々に発表している。中露が「反日」で結束を強める構図だ。

共同声明は「核心的利益と領土保全の強力な相互支援」もうたっており、今後はロシアが日中間の尖閣諸島問題で、中立姿勢から中国支持に転換する可能性がある。

北方領土
写真=iStock.com/Tatsuo115
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tatsuo115

■ミサイル配備、インド争奪、台湾有事…

第3に、共同声明が、米国の中距離ミサイル・短距離ミサイル開発と欧州・アジアの同盟諸国への配備中止を要求したことも、日本の安全保障に影響する。

2019年に米ソ中距離核戦力(INF)全廃条約が失効した後、米国は中国が大量に保有するINFに対抗するため、新型中距離ミサイルの開発・製造に着手し、アジア配備を計画している。

ロシアはアジアと欧州への配備凍結を米国に求めており、中国の優位を温存しようとしている。仮に米国が在日米軍基地へのミサイル配備を進めるなら、中露が猛反発しそうだ。

第4に、共同声明は米英豪の軍事同盟である「AUKUS」に強い懸念を表明。「アジア太平洋での敵対的なブロックの構築」という表現で、日米豪印4カ国の「QUAD(クアッド)」も非難した。

声明は、「ロシア-インド-中国の協力形態を発展させる」としており、インドの「争奪戦」が激化しそうだ。

次回のQUAD首脳会議は5月後半に日本で開かれる予定で、ここでも中露の対日圧力が予想される。ロシアのラブロフ外相は2、3カ月内の訪日を表明しており、QUADを牽制する狙いがあろう。

第5に、中露は台湾問題で結束し、「台湾は中国の不可分の一部であり、いかなる形の独立にも反対する」と強調した。「台湾有事は日本の有事」といった日本側の主張には共同で対抗しそうだ。

■「冷戦期の軍事・政治同盟を超えている」

プーチン大統領と習主席は昨年6月に行ったオンライン首脳会談で、期限20年の中露善隣友好協力条約を5年間自動延長することを決めた。条約は2月28日に期限切れとなり、その後5年間延長される。

中露の「戦略パートナー関係」を明記した同条約は、軍事同盟条約ではないが、今回の共同声明は、「中露の新型国際関係は、冷戦期の軍事・政治同盟を超えている」と規定している。「新型国際関係」の意味は不明ながら、軍事協力を一段と強化する意向を示したものだ。

5年後の2027年に失効する同条約は、再度の延長を認めていないだけに、中露は新しい条約作りに着手するとみられる。

この点で、ロシア極東研究所のアレクセイ・マスロフ所長は「中露は先端部門の軍事技術協力を含め、すでに準軍事同盟関係に入っている。今後4、5年かけてより広範な新条約の策定を協議する」としながら、冷戦期のような軍事同盟はあり得ないと指摘した。

新中国成立直後の1950年に締結された中ソ同盟条約(1980年に失効)は、「日本軍国主義は中ソ共同の敵」と明記した経緯があり、大陸国家・中露の連携は地政学的に日本に脅威を与える。

■中ロの軍艦が日本をぐるっと一周する

中露の対日軍事圧力は毎年拡大しており、昨年10月、両国海軍の艦船計10隻が日本海で演習を行った後、津軽海峡を通過して日本列島をほぼ一周した。

領海侵犯や目立った軍事行動はなかったものの、中露軍艦の日本一周航海は初めて。中国共産党に近い『環球時報』紙(21年10月22日)は、「日本の東海岸には、横須賀海軍基地など重要な軍事施設があり、台湾海峡や南シナ海での米国の対中挑発は、これらの基地から発進した」と書いていた。

中露はおそらく、今年も日本一周共同航海を実施するとみられる。両国は2019年から3年連続で、日本や韓国周辺上空で爆撃機の共同空中哨戒飛行を実施しており、空と海での対日威嚇を定例化させる可能性がある。

本来なら、合同演習は最大の敵である米国周辺で行うべきだが、米国と対峙するのは厄介で、手っ取り早く同盟国の日本を脅かそうとするようだ。

こうして、日本外務省が冷戦期の1970~80年代に夢想した「永遠の日中友好」「永遠の中ソ対立」は最終的に破綻した。30年前のソ連邦崩壊直後の絶好機に日露平和条約締結に動かなかったことと併せ、日本政府の対中・対露外交は失敗続きだ。

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名越 健郎(なごし・けんろう)
拓殖大学海外事情研究所教授
1953年、岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒。時事通信社に入社。バンコク、モスクワ、ワシントン各支局、外信部長、仙台支社長などを経て退社。2012年から拓殖大学海外事情研究所教授。国際教養大学特任教授。著書に、『秘密資金の戦後政党史』(新潮選書)、『北方領土はなぜ還ってこないのか』、『北方領土の謎』(以上、海竜社)、『ジョークで読む世界ウラ事情』(日経プレミア新書)などがある。

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(拓殖大学海外事情研究所教授 名越 健郎)

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