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現地でのウリはクーポンではない…スマートニュースが「米国最強」のアプリになったワケ

プレジデントオンライン / 2022年2月18日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mlenny

日本発のニュースアプリ「スマートニュース」がアメリカ市場で存在感を高めている。日本ではクーポン機能を訴えるCMを目にする機会も多いが、米国では違った顔も見せている。企業評価額も2000億円を超えた。米国での躍進の理由とは――。

■1年間で利用者が2倍以上に

人気タレントを起用したテレビCMなどで「クーポン」機能が広く知られているニュースアプリ「スマートニュース」を運営するスマートニュース社が、2021年9月に国内外の投資家から2.3億米ドル(約251億円)の資金調達に成功したことが話題になった。

企業評価額が10億ドルに達した未上場企業を「ユニコーン企業」と呼ぶが、この資金調達により評価額が20億ドル(当時約2100億円)に達したスマートニュース社は“ダブル・ユニコーン企業”の仲間入りを果たしたことになる。

注目すべきは、複数のアメリカの投資家から投資を受けている点だ。なぜ日本発のニュースアプリがアメリカで注目を浴びているのか。スマートニュース社執行役員 経営企画担当兼ファイナンス担当の松本哲哉さんに取材した。

スマートニュースがアメリカでのサービスを開始したのは14年。当初は一部のニュース好きユーザーが利用するアプリだったが、今ではアメリカの主要ニュースアプリの一つとなり、その中でもユーザーの月間平均滞在時間が最も長いアプリに成長した(※)。さらに、コロナ禍まっただ中だった20年には、1年間で月間アクティブユーザー数が2倍以上に増えるなど、アメリカでの存在感を急速に高めている。

※出典=アメリカの調査会社App Annie社のデータから(2021年7月時点)。ユーザー数は非公表。

■アメリカ大統領選挙を機にニーズが変化

アメリカでの躍進のきっかけになった機能がある。

アメリカの報道機関は保守かリベラルかのポジションを明確に出しており、利用者も読む新聞や見るテレビのチャンネルを自分の政治的な指向に合わせて決めている人が多い。また、ニュースをSNSでシェアする習慣が日本より顕著で、SNSの普及とともに、人々はニュースや情報をそこから入手するのが当たり前になっていた。

しかし、16年に行われたアメリカ大統領選挙でトランプ氏が勝利した際、SNSにはアフィリエイト目的のフェイクニュースが大量に流され、問題になった。また、近しい価値観でつながる友人がSNSでシェアするニュースは、自分と同じ嗜好のものばかり。まるで世界には自分が好きなニュースや信じたいニュース、自分たちと同じ意見しか存在しないと錯覚してしまうほどで、他者の意見を聞く耳を持てなくなってしまった。これがアメリカ社会を分断に追いやった理由の一つと言われている。

このような状況の中で、SNSでシェアされる偏ったニュースを読むのではなく、複数の異なる視点のニュースをバランスよく見たいというニーズが有権者たちに広まっていく。

「もともとアメリカ版スマートニュースの政治チャンネルでは、保守とリベラルの多様な意見を表示するように心がけていました。社会の分断が顕在化するとともに、以前は1社の新聞やSNSだけを見ていた人たちも、スマートニュースならいろいろな意見をフラットに見られることに注目し始めました」(松本さん、以下同)

■人気の理由は「異なる視点からのニュース」

政治的な思想においてバランスの取れたニュースの閲読体験を実現するために、19年にリリースされたのが「News From All Sides」機能だ。ニュース画面下部に表示される赤と青のスライダーをユーザーが左右に動かすと、同じトピックでリベラル、中道、保守の媒体が報じたニュースを自動的に表示するというスマートな仕組みだ。異なる価値観のニュースや意見を直感的にわかりやすく表示する工夫が受けて、ユーザー増につながった。

アメリカ版の独自機能である「News From All Sides」。政治コンテンツについて、画面下部のバーを左右に動かすと、保守寄りからリベラル寄りまで、異なる視点からのニュースを表示する
提供=スマートニュース社
アメリカ版の独自機能である「News From All Sides」。政治コンテンツについて、画面下部のバーを左右に動かすと、保守寄りからリベラル寄りまで、異なる視点からのニュースを表示する - 提供=スマートニュース社

20年9月の大統領選挙では投票をサポートする機能を実装し、投開票時には開票速報機能をリリース。今年中間選挙を控えるアメリカでは、ユーザーのニュースへの高い感度が継続している。

コロナ禍での情報発信の仕方も、さらなる躍進のきっかけになった。

「コロナ禍では、どこで感染が増えているか、毎日どのぐらい感染者が出ているかなどの情報が強く求められました」

20年3月に新型コロナウイルスチャンネルを開設し、感染状況などをビジュアルで見られるようにしたところ、月間のアクティブユーザー数が2倍以上になったという。人々が求める情報をタイムリーに提供できる、それがスマートニュースの強みだ。ただニュースや情報を表示するだけでなく、世の中に求められている形で表現できることがアメリカでの巨額の資金調達成功の一因となった。

■日本で目指すのは「すべての情報を一つに」

一方で、引き続き日本でもスマートニュースの存在感が増している。

国内の調査会社であるICT総研の「2021年 モバイルニュースアプリ市場動向調査」によると、17年度末に4683万人だったモバイルニュースアプリの利用者数は、21年度末には5874万人まで増加。23年度には6183万人に達すると予測されている。スマートフォンやタブレットの普及により、ニュースはモバイルニュースアプリで見るのが当たり前になりつつある。

さらに同調査によると、モバイルニュースアプリ利用率は、1位の「Yahoo!ニュース」63.5%、2位がスマートニュースの56.2%となっており、3位で37.0%の「LINE NEWS」を引き離して、2強状態に突入したことがわかる。特に、スマートニュースの利用率は前回から34.8ポイント増と急速に浸透している。

日本で人気が広まった理由はアメリカとは異なる。アメリカでは情報の偏りによる社会の分断が大きな課題になっており、それをスマートニュースの「News From All Sides」機能が解決することで支持を得た。一方で、日本のユーザーが求めていたのは「ニュース以外の生活に密着した機能の充実」だ。

「朝起きてから寝るまで、人々はいろんな情報に接しています。例えば、朝起きたらテレビを付けて天気予報を見て、アプリで占いを見て、交通情報を調べ、新聞でニュースを読んで、昼にはランチ情報を調べるといった具合です。スマートニュースには、ユーザーが欲している情報の中で、AIベースで親和性の高いものはどんどん載せていきたいと考えています。『すべての情報がスマートニュース上にある』という世界観です」

■アイドル動画もチラシ情報も

例えば、雨が降ることを知らせてくれる「雨雲レーダー」は、天気を予報するだけではない。

「スマホ×天気予報のソリューションを提案したら、ものすごく受けて、ユーザーが増えました。位置情報を利用して、今いる場所で『10分後に雨が降ります』とわかりやすく知らせてくれることが人気の理由だと思います」

地図上で、あとどれくらいで雨が降るかを知らせる「雨雲レーダー」
提供=スマートニュース社
地図上で、あとどれくらいで雨が降るかを知らせる「雨雲レーダー」 - 提供=スマートニュース社

ニュースアプリというと、若いユーザーが多そうだが、実際には老若男女、どの層にもまんべんなく使われているという。というのも、日本のスマートニュースには、独占配信されるアイドルの動画があれば、クーポンやチラシ情報もあり、マンガさえも読める。いろんな情報が1つのアプリ上にあることで、幅広いユーザーに受け入れられるようになったのだという。

■独自のAIと豊富なコンテンツできめ細かなレコメンドを実現

スマートニュースの最大の強みはAIだ。スマートニュースで表示される情報は、提携する3000以上の媒体から入手している。大手ニュースアプリでも提携媒体は500~1100程度と言われているから、スマートニュースはその3倍以上の媒体から情報の提供を受けていることになる。その豊富な情報から、独自のAI(アルゴリズム)でユーザー個々人に最適な情報を選択して表示する。

「スポーツが好きな人に有名なスポーツ雑誌の記事を表示するだけではダメ。個人の趣味嗜好はもっと深いからです。AIと豊富な情報源を組み合わせることで、そのユーザーにビビっと刺さるコンテンツを出すことができます。例えば、スポーツの中で野球が好き、パリーグが好きで、日本ハムのファンで、二軍にお気に入りの選手がいるというユーザーがいたら、日本ハムの二軍の選手の情報を持っている媒体の情報を表示するという具合に、ユーザーの嗜好にきめ細やかに対応しているのです」という。

■新しいジャンルとの出合いも

スマートニュースの強みは独自のレコメンデーションにある。AIによる“発見”を促すアルゴリズム「パーソナライズドディスカバリー」だ。

「ニュースアプリで自分が見たことがある記事や似たような記事ばかり表示されると、ただのレコメンデーションになって飽きてしまう上に、情報が偏ってしまいます。そこで、スマートニュースではAIが『こういうものも見てみませんか』『世の中の人はこういうのも見ていますよ』などと情報の発見体験をどんどん投げかけているのです」

例えば、ロックミュージックが好きな人はロック関連の情報をよく見るものだ。しかし同じような情報ばかりを表示していても飽きられてしまう。そこでAIは別のジャンルの音楽、例えばクロスオーバーな現代ジャズに関するニュースを表示する。もしユーザーがその記事を読んだら、AIが別の現代ジャズのニュースを表示するといった具合に世界を広げていけるというわけだ。

前述したアメリカ版の「News From All Sides」も多様な意見や価値観に触れ得る機会をもたらす機能の1つだ。

これらの機能がハマって、ユーザーを熱狂させるアプリに仕上がっており、日米とも使用時間が長くなる傾向にあるという。松本さんは「1日使ってもらえば、その人に合った情報をどんどん表示するようになる。ほかにはないような体験ができるはずだ」と自信を見せる。

■日本のIT業界としてはまだ少ない世界進出

なぜスマートニュースはAIに強くなったのか。

スマートニュース社では、採用時に「ミッションに共感できるか」を非常に大切にしている。

「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」という当社のミッションに共感し、『情報にまつわる社会課題を解決したい』という意志を持つエンジニアが多く集まったことで、優れたAIが開発されました。引き続き、新機能の開発を積極的に行っていく予定です。

また、人々は身の回りのことや、安全情報を欲しがっています。アメリカ版では、リアルタイムのハリケーン情報や、山火事情報の提供を開始しました。今後も生活を充実させるというコンセプトで、ユーザーが欲している情報をどんどんスマートニュース上に取り込んでいきたいと考えています」

自動車や電子機器、ゲームなどにおいては、世界に進出した日本企業が多数あった。しかし、IT関連ではほとんど見かけないのが現実だ。松本さんは「スマートニュース社が目指すのは、GoogleやFacebookのように世界中で10億人以上が使う日本発のインターネットサービス」だと意気込む。

国内ではスマートニュースには「クーポン」というイメージを抱く人が多いだろう。だが、アメリカでは、大統領選挙を通じて、バランスのいいメディアの不在が際立ち、その状況を解決し得るテクノロジーはユーザーに評価されるようになった。種類は違うが「必要な情報を届ける」というテクノロジーは、国内外で存在感を高めつつある。

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根本 佳子(ねもと・かこ)
ライター
総合電機メーカーで研究職やSEなどを経験した後、出版業界へ転身。Windows95の発売やインターネットブームのタイミングとも重なり、「日経ネットナビ」の立ち上げにも参加。「日経クロストレンド」などで取材記事を執筆する。

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(ライター 根本 佳子)

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