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「考察だの伏線回収だのうっせーわ」謎解き作品ばかりになったドラマ業界に私が抱く違和感

プレジデントオンライン / 2022年2月19日 19時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MikeSleigh

各局で冬ドラマの放送が始まっている。ライターの吉田潮さんは「昨今のドラマは『真犯人フラグ』(日テレ系)のように、考察や伏線回収が話題だが、個人的にはうんざりしている。役者が演じる細やかな心情描写を味わう『おいハンサム‼』(東海テレビ制作、フジ系)のようなドラマを見逃すのは惜しい」という――。

■「考察」「伏線」で視聴者を引き付ける昨今のドラマ事情

2019年に話題を呼んだ日テレの「あなたの番です」は画期的だった。

2クールぶち抜き、執拗(しつよう)な仕掛けと展開で、マンションの住民同士の交換殺人を描いた犯人探しミステリー。

考察やら伏線回収やらでSNSは盛り上がり、ネットニュースもその手の文言が頻出するようになった。

2021年の綾瀬はるかと高橋一生の入れ替わりドラマ「天国と地獄」(TBS)も、その類いだ。そして、現在放送中の「真犯人フラグ」も、妻子の失踪で窮地に追い込また夫が同僚や仲間とともに真犯人を探す物語だ。本筋と無関係だがにおわせるシーンや、思わせぶりなラストで引っ張る。

確かに、いつまでも年寄りが好む「ドのつくベタ」を量産している場合ではない。「最初の10分で犯人がわかり、最後の10分で主人公と犯人がご丁寧に詳しく解説」という様式美では、若年層や新規顧客を呼べない。

「犯人が最後までわからないよう大所帯かつ複雑にして引っ張るだけ引っ張る」ことが話題を呼ぶ。視聴者に植え付けるのは猜疑心。肩透かしや尻すぼみも多いが、これが令和の流行だ。

■叙事的よりも叙情的作品が好み

でも、正直にいう。

考察だの伏線回収だのうっせーわ。すべての事象に裏や伏線を探しすぎ!

朝ドラまでもが考察対象ってどうよ⁉

役者が魅せる心情描写や人となり、画面に映らない機微を黙って味わえ!

低迷する日本のドラマ界に新ジャンルは大歓迎だが、改めて思った。出来事ばかりを追う叙事的作品よりも、人の心の揺らぎを描く叙情的作品のほうが好きだなぁと。

ということで、今期ドラマで良質な叙情的作品を選ぶならば、三つ。

■役者が魅せる「心情描写」を楽しめる今期ドラマ

死んだ妻が小学生に乗り移って帰ってくる「妻、小学生になる。」(堤真一主演・TBS系)、40歳の人妻が22歳青年と出会って人生を見つめ直す「シジュウカラ」(山口紗弥加主演・テレ東系)、他人に恋愛感情や性的欲求をもたないふたりが家族をめざす「恋せぬふたり」(岸井ゆきの&高橋一生主演・NHK)だ。

いずれもキャスティングが最強の布陣で、心情描写を最優先する作品になっている。切なさや歯がゆさ、いとおしさやもどかしさなど、喜怒哀楽を細分化したその先の感情を丁寧に映し出す。心の機微をこんな表情で表現するのか、としみじみ味わえる良作だ。

■今期ベストは「おいハンサム‼」

それはさておき、本題は別作品。今期ベストの「おいハンサム‼」(東海テレビ制作、フジ系)である。

伊藤理佐の漫画原作で、些末な日常のエピソードが多いのだが、複数の作品のうまみを凝縮し、ホームドラマとして編み出された。何がそんなに引き付けるのか、考えてみた。

「おいハンサム‼」公式ホームページより
「おいハンサム‼」公式サイトより ©Tokai Television Broadcasting Co.,Ltd.

■絆礼賛ではない家族モノの「低体温」が良い

吉田鋼太郎演じる令和の頑固親父・伊藤源太郎とその家族。おおらかな妻・千鶴はMEGUMIが、恋愛迷走中の長女・由香を木南晴夏、夫の不義理で帰省中の次女・里香を佐久間由衣、押しに弱くて主語がない三女・美香を武田玲奈が演じている。

3人の娘はそろいもそろって男を見る目がない。

注文の多いモラハラ男に、妻子持ちで不倫ざんまいの男、思考の破綻に気づかない漫画家志望、夢追い人のつもりがただの負け犬である路上ミュージシャン……。

次から次へとクセ強めな男たちが登場。娘たちの恋愛事情すべてを知るわけではないが、父親としては心配で仕方ない……という物語の主軸はある。あるが、頑固親父が強硬に介入するわけではないし、娘たちも激しく反発するわけでもない。

家族の間に秘密はあっても嘘はなく、風通しはいい関係。適度な大人の距離が保たれているので、暑苦しくない。家族モノとうたってはいるが、「愛と絆の礼賛」ではない低体温なところが特長のひとつだ。

■“食”に意外な「人生訓」

また、「食」にまつわる、正直どうでもいいこだわりも、さりげない共感と説得力を生んでいる。

納豆に何を加えるか、目玉焼きの焼き加減、食パンは何枚切りが好きか、冷やし中華の具材、余った薬味をどう食べるかなど。

好みやこだわりを貫く人もいれば、自分の好みを人にも強要する人もいる。

場の空気を読んで合わせる人もいれば、人の好みに無理して合わせた揚げ句、あとでねちねち文句を言う人もいる。そうそう些末な日常茶飯事にこそ、意外と「人となり」が表れるんだよねぇ。

といっても、グルメとうたうほどの料理は出てこない。ハレとケでいえば、ケがほとんど。登場する料理や食材は、まったく別のエピソードと重ね合わせ、仕事の矜持や人生訓に例えられたりもする。

冷蔵庫内に残った7センチのネギ(決して思い通りにはいかない人生)、ジャンボプリンのハーフサイズ(存在の矛盾。おいしいとこだけ少しずつというわけにはいかない)など。

■些末だけど印象的だったシーン

個人的には、第2話で母・千鶴が作るオムライスに親近感を覚えた。

「できないと思っても、ぐちゃぐちゃになっても、結構どうにかなるもんなのよ。最後はだいたい笑顔で大丈夫」とケチャップで顔を描く。

ところどころ茶色く焦げかけた超適当なオムライスだったが、そこにリアリティと人生の真理があった。良質なドラマには、こういう些末だけど記憶に残るシーンが必ずあるんだよな。

■吉田鋼太郎の「微妙な説法」が耳の奥に残る

犯罪も事故も大事件も起きない。病気や死など、いかにもお涙頂戴な悲劇要素もない。

恋人と別れ話でとっくみあいとか、不倫相手の家に押しかけて大暴れなど、娘たちの色恋沙汰は起こるが、描いているのはほぼ日常茶飯事。

これがテンポよく展開し、よきところで収れんされていく。鋼太郎がバリトンボイスで説法するシーンも多めなのに、娘たちや妻が「ハンサムな顔して何言ってんの」と聞き流すおかげでちっとも説教臭くない。

むしろ、微妙な説法だからこそ耳の奥に残る。時間がたってからふと思い出す人生訓なんて、だいたいそんなものだ。

■「想定外」のライフハックもあるっちゃある

実は、案外有効だと思うアイデアもいくつかあった。自己嫌悪で落ち込む長女に対して、父がかけた言葉は「貝、買いなさい」である。

「仕事の合間にでも自分のために貝、買いなさい。1日、その貝と一緒にいて、仕事が終わったらその命に感謝して、食べなさい。分量は悩みの大きさに合わせるべき。悩みが大きいならたくさん買ってたくさん食べなさい」

仕事中に貝、鞄の中に貝。気になって仕方がないし、早く帰りたいと思うだろう。

でも、どうでもいいタスクがあると見えてくるモノがある。取捨選択や決断が迅速になる。

生のアワビ
写真=iStock.com/flyingv43
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/flyingv43

長女は結局アワビを買って食べた。そんなシーンがあって、一理あるなと思ってしまった。悩みを貝にたとえ、大切に持ち運び、最後はおいしく食べて殻を捨てる。悩みも捨てる。いやこれ、心理療法として使えるんじゃなかろうか。

他にも「働く意義がわかっていない新人は働き者が営む店へ連れていく」「誘いを断るときは『朝から決めていたことがある』」「白紙のビンゴカードの空欄にありきたりな文言を書いておく。会議中に出た文言をチェックし、ビンゴがそろったらその会議は無意味」など。

ライフハックというほどではないかもしれないが、日常の憂さとモヤモヤを晴らすアイデアが豊富。他のドラマにはない要素でもある。

恋と仕事と家族と食。そこから生まれる意外な人生訓。

非日常や絵空事を仰々しく勇ましく、あるいは綺麗事しか描かないドラマが多いけれど、情けないやら恥ずかしいやら、でもいとおしい日常の積み重ねを描く作品も必要。

「ふりむけばそこにある」ドラマの醍醐味を再確認したのが「おいハンサム‼」である。

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吉田 潮(よしだ・うしお)
ライター
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News イット!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。

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(ライター 吉田 潮)

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