1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

氷の上は「普段の10倍」滑りやすい…日産「ノートe-POWER」が氷上試乗で見せた実力

プレジデントオンライン / 2022年2月19日 10時15分

日産の電動車を中心とした氷上試乗が行われた - 画像提供=日産

日産は1月、長野県にある人造湖「女神湖」で電動車を中心とした氷上試乗会を行った。取材した交通コメンテーターの西村直人さんは「試乗した自動車のなかで、『ノート e-POWER 4WD』が特に安定した車両挙動を見せていた。それには理由がある」という――。

■都心の雪は、交通網の弱さを露呈した

2022年は年初から東京都心部でも雪に見舞われた。降雪量は予報よりもかなり少なめであったが、それでも都市部の交通網は弱さを露呈する。たとえば首都高速道路での一部区間では、長時間にわたり道路上で足止めを余儀なくされた車両も多かった。

その日の最低気温が7度を下回る場合、スタッドレスタイヤの装着が推奨されている。ノーマルタイヤのゴムは7度付近から寒さにより一時的な硬化が進み、路面を捉えるグリップ力が低下してくるからだ。

スタッドレスタイヤはそうした寒さの中でも路面を捉え、さらに雪や凍結路でも路面と接地するトレッド面のパターンやゴムの成分に工夫を凝らし、ノーマルタイヤ以上のグリップ力でクルマの「走る・曲がる・止まる」を支える。

とはいえ過信はできず、やはりタイヤそのもののグリップ力(摩擦円)を超えると仕事はできない。先の首都高速道路ではスタッドレスタイヤの装着車も多かったと思われるが、緩やかな登り坂を登り切れない車両が重なったこと、さらには坂道であることから再発進ができなかったことなど、これらが足止めの要因であったとの報道もある。

■「走る・曲がる」を大きく支える4WD

4つのタイヤに駆動力が掛けられる4輪駆動車(以下、4WD)は、前述した「走る・曲がる・止まる」のうち、主に「走る・曲がる」を大きく支える。

さらに4WDでは物理的な限界はあるものの、状況により「止まる」も支えられる。雪道や凍結路などでは装着しているタイヤの性能が大いに関係するが、4WDの方式や走行状況によってはアクセルペダルを戻した際に発するエンジンブレーキが4つのタイヤに掛かるため、FF(前輪駆動車)やFR(後輪駆動車)と比較すると安定した制動力(ブレーキ力)を発揮しやすいからだ。

昨今、耳にすることの多い電動車でも、内燃機関を搭載したHV(ハイブリッド車など)であればシステム上はエンジンブレーキが掛けられる。

電動車とは前述したHVのほか、PHV(プラグインハイブリッド車)BEV(電気自動車)、FCEV(燃料電池車)のことで、軽自動車や輸入車などに多いMHV(マイルドハイブリッド車)も、現時点では電動車の枠組みだ。つまりエンジン(内燃機関)を搭載しているPHEVやMHVでもエンジンブレーキが働くのだ。

■MHV以外の電動車には「回生ブレーキ」の効果が期待できる

電動車では、電動駆動モーターを減速時の抵抗、つまり発電機として活用し回生ブレーキとしても機能させている。自転車のライト機能であるダイナモ(磁石式の発電機)を使うとペダルが少し重くなるが、回生ブレーキの大まかな原理はこれと同じだ。

アクセルペダルを戻せば回生ブレーキは単独で、またはエンジンブレーキとともに機能したり、ブレーキペダルを踏んだ際にはそれと協調したり、上乗せされたりして働き制動力を生み出す。ちなみにバッテリーの充電状態を示すSOCが上限、つまり満充電に近い場合、回生したエネルギーの蓄え先がないため回生ブレーキはほとんど機能しない。

こうした電動車における回生ブレーキのうち、雪道や凍結路で効果的に、具体的には車両を安定させる効果が期待できる回生ブレーキを発するのは、MHV以外の電動車だ。MHVは組み合わせる電動モーター容量が小さく、発電し抵抗値を発するものの、効果的な制動力には及ばない。

■電動モーターのみで加減速する「e-POWER」

今回、日産の電動車のうち、BEVである「リーフ」、「e-POWER」ことHVの「ノート」「ノートオーラ」、そして比較対象車としてガソリンエンジンの「スカイライン」とスポーツカー「GT-R」を氷上(氷路面)で試乗した。

このうち中心に試乗したのはノート/ノートオーラで、FF(前輪駆動)と4WDの両方を試した。

筆者が試乗したノートオーラ e-POWER 4WD
画像提供=日産
筆者が試乗したノートオーラ e-POWER 4WD - 画像提供=日産

おさらいだが、日産が誇るe-POWERは数あるハイブリッドシステムのうちシリーズ方式と呼ばれる機構。エンジンを発電機として活用して電気を生み出し、その電気を使ってタイヤに直結した電動モーターがタイヤの駆動力を生み出している。

つまり、一般的な内燃機関車両のようにエンジンの力がそのままタイヤを駆動することはないのだ。加速だけでなく、減速時も電動モーターが活躍し、止まるためには一般的な油圧ブレーキとも連動する(電子的な協調制御はしない)。

もっともHVやPHEVのうち、たとえばホンダの「e:HEV」もシリーズ方式だし、三菱自動車の「PHEV system」もシリーズ方式を持つ。世界最多のHVを世に送り出したトヨタのTHS II方式はシリーズ・パラレル方式と呼ばれ、ここに挙げたHVにはいずれも電動モーターだけでタイヤを駆動するモードがある。

「ならばe-POWERと同じじゃないか」と思われるだろう。しかし、ホンダ、三菱自動車、トヨタのHVにはいずれもエンジンを主動力源とする「内燃機関が駆動力を発するモード」がある。対してe-POWERには、「内燃機関が駆動力を発するモード」はなく、前述のように電動モーターのみが加速、減速すべてを受け持つ。電気を示す「e」を冠にしたe-POWERの由来はここにもあるのだ。

ノートオーラが搭載するe-POWER。直列3気筒1.2lエンジンによって発電する。ノートe-POWERも同じ仕組み
画像提供=日産
ノートオーラが搭載するe-POWER。直列3気筒1.2lエンジンによって発電する。ノートe-POWERも同じ仕組み - 画像提供=日産

■コンパクトカーにしては力強い最高出力

さらに、ノート/ノートオーラに搭載される「e-POWER 4WD」は、前輪を駆動する電動モーターに加えて後輪にも電動モーターを備えた前後ツインモーター方式を採用する。

ここは「アウトランダー」や「エクリプスクロス」が搭載するPHEV systemとも同じだが、e-POWERの後輪モーターは三菱とのアライアンスにより、アウトランダーPHEVとの共通部品も多く、最高出力は68PS/100N・mと車両重量1340kgのコンパクトカーにしては力強い。

ちなみにアウトランダーPHEV(最軽量モデルで2050kg)の後輪モーターは136PS/195N・m、型式こそ違うがエクリプスクロスPHEV(最軽量モデルで1900kg)の後輪モーターは95PS/195N・mだ。

ところで、容易に想像がつくように氷上は極端に滑りやすい。乾燥したアスファルト路の摩擦係数(グリップ力を示す目安のひとつ)を最大で1とした場合、ジャリ道が0.5程度、雪道が0.35程度、そして氷上である氷路面は0.1程度。つまり氷上は、普段走らせている路面の10倍も滑りやすい。さらに日光を受け路面の氷が溶け出しうっすら水がのってくると、スノーシューズを履いていたとしても、まともに歩けない。

■安定した車両挙動で氷上路を突き進めた

こうした状況を踏まえ、ノート/ノートオーラに設定された新しいe-POWER 4WDで女神湖(長野県にある人造湖)に設けられた氷上路コースを試乗した。氷上路コースは一見すると雪が乗っていてグリップしそうだが、手で雪をさらうと氷が顔を出すシビアなコンディション。日産渾身のe-POWER 4WDは「走る・曲がる・止まる」でどんな走行性能をみせてくれるのか?

女神湖の氷上は一面雪に覆われていた
画像提供=日産
女神湖の氷上は一面雪に覆われていた - 画像提供=日産

まずはノート e-POWER 4WDの「走る・曲がる」を試した。タイヤのグリップ力を最適に保つ車両挙動安定装置「VDC」をはじめ、カーブ走行時の安定性を向上させる「インテリジェント トレースコントロール」など、電子サポート機能をすべてオンにしてアクセルをじんわりと踏み込んでみる。

すると、一瞬の前輪スリップのあと後輪がグッと車体を押し出し、安定した姿勢のまま力強く発進する。そこからペダルの踏み込み量を深くすれば加速度も高まっていく。

カーブではインテリジェント トレースコントロールがステアリングの切り込み具合に応じて制御を強弱させ、外側にふくらみやすくなる滑りやすい路面でもほぼイメージ通りにカーブを通過する。

このとき、メーターには電子サポート機能の介入を示すオレンジ色のランプが点滅して滑りやすい路面であることを実感するが、それでもアスファルトの10倍滑りやすい氷上路を走らせているとは思えない安定した車両挙動で突き進む。

■緻密な電動モーター制御が走行を支える

「4WDならどれも同じでは?」と思われるだろう。確かに、内燃機関の4WD車両も力強く発進できるし、加速して、カーブ走行もこなす。ただ、駆動力のコントロールに関しては内燃機関特有の遅れがある。これはシリンダーの内部で燃焼行程を経てから駆動力がタイヤに伝わるという、物理的なタイムラグによるものだ。よって、滑りやすい路面では、ドライバーがこの遅れを意識して、それらと協調した運転操作をすることが求められる。

一方の電動化車両、とりわけ駆動力を電動モーターが100%受け持つe-POWERではトラクション(駆動力)の掛かり方が非常にきめ細かい。電動モーターの強みは通電にすぐさま反応できることで、その逆もしかりだ。つまりアクセルペダルのオン/オフ操作を行う足の動きに対して、クルマが瞬間的に加/減速力として反応できるのだ。

日産の場合、BEVであるリーフで培った電動モーター制御技術と高応答インバーターにより、1万分の1(人の瞬きの1000倍)の時間軸で駆動トルクを制御する。

前述した氷上路での発進、加速、カーブ走行はこうした緻密な電動モーター制御などに支えられ、ドライバーは「急」のつかない丁寧な運転操作を心がけるだけでだれもが安心して走れる。

電子サポート機能を意図的にオフにすればe-POWER 4WDの強力な後輪モーターによってダイナミックな走りもできる
画像提供=日産
電子サポート機能を意図的にオフにすればe-POWER 4WDの強力な後輪モーターによってダイナミックな走りもできる - 画像提供=日産

■カーブ前では回生ブレーキを少し緩める必要がある

「止まる」領域での回生ブレーキも緻密だ。e-POWER 4WDでは前後のモーターそれぞれで回生ブレーキを発生させる。その際、減速度が強くなりすぎるとタイヤがロック気味になることから、前後のモーターを連携させて独立して制御し、雪道や氷上路であってもタイヤがロックしない減速度を上手い具合に生み出しているのがわかる。試しに、減速時に運転席の窓を開けてみると、「きゅ、きゅ、ぎゅ」と、前後モーターの回生ブレーキによりスタッドレスタイヤが氷の上をかみしめている音が聞こえてきた。

ただし、前述したようにタイヤのグリップ力は摩擦円だ。止まる方向に能力を使い切ってしまうと、曲がる方向への余力がなくなる。よってe-POWER 4WDでの強い回生ブレーキはカーブに入る前に少し緩める必要がある。

ノート/ノートオーラe-POWERシリーズの場合、回生ブレーキはドライブモードとシフトモードで強弱の変更が可能で、スポーツモードやBモードでは強い回生ブレーキが働く。

筆者が試乗した氷上路コースでは、強めの回生ブレーキを働かせつつ、カーブに入る際、つまりステアリングを切り始める時にはそれまで緩めていた、もしくは踏んでいなかったアクセルペダルにそっと踏み込んで回生ブレーキを緩めると、曲がる方向に必要な分だけグリップ力が振り分けられ、じつに走りやすかった。

日産では画像のe-POWER 4WDとは別に、前後ツインモーターによる「e-4ORCE」を開発。発表済みで発売間近の新型BEV「アリア」に搭載する
画像提供=日産
日産では画像のe-POWER 4WDとは別に、前後ツインモーターによる「e-4ORCE」を開発。発表済みで発売間近の新型BEV「アリア」に搭載する - 画像提供=日産

■後輪モーターを搭載するe-POWER 4WDの強みを実感した

e-POWER 4WDでの試乗後、同じくノートのe-POWERやリーフ(ともにFF)に乗り換えたが、発進/加速時こそ緻密な制御による恩恵を受けたものの、やはりツルツルの路面では4WDよりも早めに限界を迎える。よって改めて、後輪モーターを搭載するe-POWER 4WDの強みを実感することとなった。

スポーツモデルでFFの「ノートオーラNISMO」。ボディには補強が施されe-POWERのモーター特性がボタン操作で変更できる
画像提供=日産
スポーツモデルでFFの「ノートオーラNISMO」。ボディには補強が施されe-POWERのモーター特性がボタン操作で変更できる - 画像提供=日産
こちらは4WDの「ノートAUTECH CROSSOVER FOUR」。ノートから最低地上高が25mm高められ走破性能を向上させた
画像提供=日産
こちらは4WDの「ノートAUTECH CROSSOVER FOUR」。ノートから最低地上高が25mm高められ走破性能を向上させた - 画像提供=日産

また、内燃機関でガソリンエンジンを搭載するスカイライン(FR)やGT-R(4WD)では、車体を真横に向けたダイナミックな走りが堪能できる一方で、内燃機関特有のタイムラグを見越した運転操作はやはり難しかった。ただ、そこはドライバーが行うべき運転操作が残っているとも解釈でき、「これこそ走る楽しみだな~」と、思わず笑みがこぼれた。

スカイライン「400R」試乗の様子。V型6気筒3.0lツインターボは405PSを発生。これを後輪のみで路面に伝える
画像提供=日産
スカイライン「400R」試乗の様子。V型6気筒3.0lツインターボは405PSを発生。これを後輪のみで路面に伝える - 画像提供=日産
「GT-R Premium edition T-spec」試乗の様子。抽選販売を行った100台の限定車ですでに完売。V型3.8lツインターボは570PSを発生。ATTESA E-TSと呼ぶ、電子制御式の前後輪トルク配分式4WDを備える
画像提供=日産
「GT-R Premium edition T-spec」試乗の様子。抽選販売を行った100台の限定車ですでに完売。V型3.8lツインターボは570PSを発生。ATTESA E-TSと呼ぶ、電子制御式の前後輪トルク配分式4WDを備える - 画像提供=日産

雪道を走らないという都市部のドライバーからすれば4WDによる走行性能は過剰かもしれない。今回のような緻密な駆動/回生制御を行うe-POWER 4WDであればなおさらだ。

ただ、冒頭のように都市部であっても突然の雪に見舞われる。また、雨天時は晴天時の約5倍も交通事故が増える(1時間当たりに換算した交通事故件数/出典:首都高速道路)というデータもある。要因は滑りやすくなった路面だ。雨の降り始めは路面のゴミやほこりが雨水と混ざり、とくに滑りやすい。

こうした雨天時であっても4WDは、走る・曲がる・止まるを支えてくれる。ただし、繰り返しになるが過信は禁物だ。また、最新の4WD車両といえどもスタッドレスタイヤ、もしくはチェーンは走行する地域によらず冬の必携アイテムであることに変わりはない。

----------

西村 直人(にしむら・なおと)
交通コメンテーター
1972年1月東京生まれ。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつために「WRカー」や「F1」、二輪界のF1と言われる「MotoGPマシン」でのサーキット走行をこなしつつ、四&二輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行い、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。著書には『2020年、人工知能は車を運転するのか』(インプレス刊)などがある。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)理事、2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

----------

(交通コメンテーター 西村 直人)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください