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「管理職になりたい女性が少なすぎる」そうぼやく残念な上司ほど誤解している共働き夫婦のリアル

プレジデントオンライン / 2022年2月19日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monkeybusinessimages

なぜ日本では女性管理職がなかなか増えないのか。ある調査では、子供のいる若年夫婦のうち、男性の4割は「お互いキャリアアップを目指していく」と答えているが、女性の5割は「配偶者のキャリアを優先していく」と答えている。男女のキャリア観に決定的な差があるのだ。ジャーナリストの浜田敬子さんがその背景をリポートする――。

■主要企業の半数以上が「早期の達成は難しい」

女性管理職がなかなか増えない実態について、先日興味深い調査結果が続けて発表された。

その一つが1月末に報道されたNHKの国内主要100社に対するアンケートだ。2020年代の早期に管理職や役員における女性の割合を30%程度にできるかどうか尋ねたところ、100社中53社が「早期の達成は難しい」と回答(ちなみに「すでに達成」が4社、「早期達成可能」は9社)。中には「必ずしも達成は必要と考えていない」とした企業も6社あった。

政府は第2次安倍政権前から「2020年までには指導的立場の女性を30%に」、通称「202030(ニーマル・ニーマル・サンマル)」という目標を掲げてきたが、企業内で女性の管理職登用はなかなか進まず、2020年度時点で、課長職に占める女性の割合は10.8%、係長職では18.7%にとどまっている(雇用均等基本調査)。

女性活躍推進法が成立した2015年度はそれぞれ8.4%と14.7%だったので、増えているといえば増えてはいるが、取り組みが加速しているとは言い難い。結果として、政府は2020年末には「202030」目標の達成をあっさり諦め、「2020年代の可能な限り早い時期に達成」と修正した。その修正した目標ですら「達成困難」という企業が半数に上るということなのだ。

女性管理職登用について数値目標を設定するかどうかについては、ダイバーシティ経営を掲げている企業の中でも「数値目標は必要ない」と考える企業もあるし、「数値ありきでは実力のない女性まで登用することになり、逆差別だ」という主張もまだまだ根強い。

■管理職になりたくない女性と男性の明らかな差

そしてこの数値目標が達成困難な理由として必ず挙がるのが、「女性が管理職になりたがらない」というもの。実際NHK調査でも、達成できない理由として「管理職を目指す女性が少ない」という記述が見受けられた。

独立行政法人国立女性教育会館の調査によると、企業で働く正社員の女性の中で、管理職を「目指したいと思っている」のは1割強、「どちらかというと目指したくない」「目指したくない」という人は5割にも上る(「男女の初期キャリア形成と活躍推進に関する調査」)。

それでも入社当時は「なりたくない」のは3割強。それが入社して年数が経つほどに「なりたくない」率は増加していき、5年目で5割を超える。男性も入社当初から管理職になりたくない割合は徐々に増えるのだが、それでも同じ5年目では約2割だ。

この差はどうして生まれるのだろうか。女性たちはなぜ管理職になりたがらないのだろうか。

■管理職を目指さないのは女性の問題なのか

女性の管理職がなかなか増えない要因を、女性自身の「意欲」の問題と捉えている企業はまだ多い。だが、果たしてそれは女性側だけの問題だろうか。

私は長年、働く女性や企業の取材を通じて、女性たちが管理職を躊躇してしまうのは、躊躇せざるを得ない構造的な問題があると感じてきた。女性たちを取り巻く職場環境や家庭環境にこそ要因があるのに、そうした構造的な問題にまで踏み込んで対策を立てて、女性のキャリアへの意欲を引き出そうとしている企業は本当に少ない。

何が具体的に女性たちのキャリアへの意欲を阻害しているのか。その要因を探る上で一つのヒントとなるのが、2月に発表された21世紀職業財団による「子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究」だ。

この調査では、夫婦がただ働くだけでなく、それぞれがキャリアを自律的に考え、仕事も家庭も充実している夫婦を「デュアルキャリアカップル」と定義。26〜40歳の正社員同士で子どもがいる夫婦約30組にインタビューすると同時に、全国の約4100人の男女にアンケートをしている。

■女性総合職の4割が「キャリアの展望がない」

調査を担当した同財団の山谷真名さんは、このテーマを選んだ問題意識をこう話す。

「企業の両立支援制度の充実、女性活躍推進法などで女性が働き続けることは可能になりましたが、出産や育児でキャリアが停滞してしまうマミートラック問題はなかなか解消されていません。出産後も女性がキャリアを目指すには何が必要なのか。女性側だけでなく、職場や男性側の要因も探りたかったのです」

調査からはいくつか興味深いデータが読み取れる。まず4割の女性が総合職でも「難易度や責任の度合いが低く、キャリアの展望もない」、いわゆるマミートラックの状態にあると答えている。

「マミートラック」の状態にある女性は全体で46.6%、総合職でも39.0%を占める(出所=21世紀職業財団「子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究」)
「マミートラック」の状態にある女性は全体で46.6%、総合職でも39.0%を占める(出所=21世紀職業財団「子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究」)

2009年に改正された育児・介護休業法によって短時間勤務制度が企業に義務化されて以降、約2割の職場でこの制度は利用されているが、利用者の内訳を見るとほぼ女性だ(雇用均等基本調査)。育児休業から復職した女性社員がこの制度を利用することにより、職場で期待されない存在となり、重要なプロジェクトから外され、結果として昇進や昇級を望めなくなったという事例は事欠かない。

■男性のキャリアを優先する女性は5割強

結果的に同じ年数働いても、男性の方がより高いポジションに就いている。財団の調査では、勤続年数6〜10年で比較すると、男性は半数以上が「係長・主任及びそれ相当職」についているのに対し、女性は7割以上が一般社員のままだ。これが勤続11年以上になると、さらにその差は拡大する。男性で一般社員のままなのは2割弱に対し、女性は6割以上にも上る。

そうすると何が起きるか。比較的ジェンダーにおいては男女平等意識が強いとされるミレニアル世代でも、夫婦内でキャリア観格差が生まれてくる。男性は約4割が「お互いキャリアアップを目指していく」と答えているが、女性は「お互い」は3割弱にとどまる。その一方で、女性では「配偶者のキャリアを優先していく」と答えた人が5割強にも上る。

55.2%の女性が、自分のキャリアより配偶者のキャリアを優先すると答えた(出所=21世紀職業財団「子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究」)
55.2%の女性が、自分のキャリアより配偶者のキャリアを優先すると答えた(出所=21世紀職業財団「子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究」)

■「キレイなキャリア」の夫と、そうではない私

調査を担当した山谷さんたちは、この結果に正直驚いたという。

「もう少しお互いがキャリアを尊重するデュアルカップル志向が高いと思っていましたが、想像以上に女性が自身のキャリアより配偶者を優先する人が多かった。同じ大卒、大学院卒という学歴で総合職同士であっても、その傾向は強い。男性のほうが給料が高い、昇進しやすいからという理由もあるが、女性は出産前から挑戦的な仕事をしていないとキャリアを諦めてしまう傾向があります」

山谷さんらがインタビューした中には、夫婦ともに大学院を修了し、社内結婚している夫婦もいた。子育てとの両立支援制度は整った企業なので、仕事を続けることのハードルは高くない。印象的だったのが、妻が言った「夫はキレイなキャリアに乗っている」という言葉だった。

この企業では、男性は入社後から管理職になるまでの道筋、経験すべき職場のジョブローテーションが決まっていて、夫はそうした「キレイなキャリア」に乗っていたが、妻側は「乗れていない」と感じていた。そうしたキャリア格差、経験の差は出産によって、というよりむしろその前から存在していたという。

■出産前の「経験格差」が女性の意識を左右する

今回の財団調査でも、26〜40歳まで職場において男女の仕事上での経験について聞いたところ、「一皮むける経験」や「部門を横断するような大きな異動」「昇進・昇格による権限の拡大」で男性に比べ女性が経験が少ない「経験格差」が明らかになっている。

女性が管理職を目指さない理由としてよく指摘されるのが「仕事と家庭の両立の困難」だ。男性の家庭進出が進まない現状では、まだまだ女性に家事育児負担が偏っているので、家庭と管理職の仕事の両立を躊躇する気持ちは確かにあるだろう。だが、もし出産前にやりがいのある仕事を体験できていたら、もう少し女性たちは管理職・リーダーを目指そうと思うのではないだろうか。

男性と比べて、女性は「昇進・昇格」や「部門横断の異動」の経験が少ない(出所=21世紀職業財団「子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究」)
男性と比べて、女性は「昇進・昇格」や「部門横断の異動」の経験が少ない(出所=21世紀職業財団「子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究」)

実際に調査では、職場の上司が高い目標、少し困難な仕事を与えている女性ではキャリア志向が高いという結果が出ている。「夫婦お互いがそれぞれのキャリアアップを目指す」と答えているのだ。

調査ではマミートラックを脱出できた理由(複数回答)も尋ねているが、ここでも上司の役割が大きい。5割弱の女性が「上司に要望を伝えた」「上司からの働きかけ」がきっかけだったと答えている。前出の大学院卒夫婦の妻も、もう少し広がりのある仕事をしたいと上司に働きかけたという。

他にもインタビューでは、入社数年目で出産し、キャリアのローテーションから外れ、やりがいを喪失した女性が、上司に願い出て異動した部署で試行錯誤したことで自身の成長を実感できたと答えている。

■意識は高くても平等に家事分担できる夫婦は少ない

脱マミートラックの手段としてもう1つ有効なのが、家事育児負担をいかに軽減させるかだ。調査でも「夫に働きかけて夫の家事・育児時間を増やした」という回答が目立ったが、山谷さんたち調査チームが実感したのは、ミレニアル世代の男性たちは、自身も子育てにかかわりたいという気持ちは強いということ。

男性の7割近くが、子どもの生まれる前は夫婦で同じように育児にかかわるべきだと考えているが、そう答えた人ですら実際子どもが生まれたあと、平等に分担できている人は少ない。

そして夫たちの家事育児参加を阻んでいるのもまた上司なのだ。調査では「子どもがいる男性にも躊躇なく急な残業を命じている」上司がいる職場ほど、男性が毎日のように2〜5時間の残業をしている姿が浮かび上がってくる。

それでも例えば夫が保育園などへの「お迎え」を週に1日でも担当すると、妻側が「キャリアアップできている」と感じる割合が高くなり、夫が育休を取得すると妻のキャリアを優先する志向も高まる。

キャリア志向に変われた理由には、上司の存在や働き方の変化、家事育児の負担軽減が挙がった(出所=21世紀職業財団「子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究」)
キャリア志向に変われた理由には、上司の存在や働き方の変化、家事育児の負担軽減が挙がった(出所=21世紀職業財団「子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究」)

■男女のキャリア格差を解消するポイント

新型コロナウイルスの感染拡大で、特に都心部の企業ではリモートワークが定着した。これまでリモートワークの制度はあっても、なかなか利用が進まなかった企業で、新しい働き方が定着したことが、夫婦のキャリアを考える上でも大きな転機になるのではないか、と山谷さんは指摘している。

「男性は妻にも好きなように仕事をしてほしい、そのためにもっと家事育児を負担したいとという思いはあるのですが、現実には職場の上司の働き方がそれを阻害しています。今回のインタビューでも在宅勤務の継続を望むのは男性のほうが多かった。女性がよりキャリア志向になるためにも、男性の働き方を変えるためにも、ポイントは上司。企業は今後中間管理職向けの研修をより充実させていくことが必要だと思います」

職場を変化させるには、「制度より風土、風土より上司」がポイントだと言われる。経営トップがまずダイバーシティ経営を目指すことは大事だが、どれだけトップがダイバーシティ経営を掲げても中高年の男性を中心とした中間管理職が「岩盤層」となって改革を阻む、という実態もよく知られていることだ。

■中間管理職は何を変えればいいのか

だが、実際の管理職たちの中には、自分たちのどんな言動が若手や女性たちの意欲を減退させ、職場の変革を阻害しているのか、また何から変えていけばいいのかわからない、と戸惑っている人たちも多いのではないか。

こうした具体的な調査結果が出ることはそういった意味でも重要だ。女性のキャリアへの意欲を高めるにも、働き方を変えてもっと「家庭進出」したいと思っている若手男性を支援するにも上司の言動の影響は大きいことが証明され、「何を」変えればいいかのポイントが可視化されるからだ。中間管理職に向けた研修だけですべてが解決するわけではないが、こうした調査も含めて実態を知り、具体的に行動を変えるヒントを得ることは女性管理職を増やす一歩にもなる。

先日知り合った、ダイバーシティ経営に熱心に取り組んでいる愛知県の中小企業の経営者はこう話していた。「意識を高めるためには知識を高めることが必要だ」と。ぜひ一人でも多くの人にこの調査データを知ってほしいと思う。

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浜田 敬子(はまだ・けいこ)
ジャーナリスト
1966年生まれ。上智大学法学部国際関係法学科卒業後、朝日新聞社に入社。前橋支局、仙台支局、週刊朝日編集部を経て、99年からAERA編集部へ。2014年に女性初のAERA編集長に就任した。17年に退社し、「Business Insider Japan」統括編集長に就任。20年末に退任。現在はテレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」などのコメンテーターのほか、ダイバーシティーや働き方改革についての講演なども行う。著書に『働く女子と罪悪感』(集英社)。

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(ジャーナリスト 浜田 敬子)

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