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「投手1球99万円、打者1安打522万円」プロ野球選手年俸ベスト10はボロ儲けか、格安か

プレジデントオンライン / 2022年2月18日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/cosmin4000

プロ野球の12球団が宮崎や沖縄などでキャンプインして2週間。選手は球団との契約更改を完了しているが、年俸の上位10人はどれくらいの稼ぎなのか。スポーツライターの高津雅樹さんが投手の1球あたりの額、打者の1安打あたりの額を計算し、年俸の“コスパと妥当性”を検証した――。

■2022年年俸ランキング10傑でコスパと妥当性を検証

プロ野球12球団がキャンプインして2週間が経過した。選手たちは1月末までに球団との契約更改交渉を終え、2022年シーズン開幕に向けてトレーニングを始めたわけだが、12球団に所属する選手のうち、年俸上位10人の年俸の“コスパと妥当性”を検証してみよう。

まずは「2022年の年俸ランキング10傑」の表を見ていただこう〈年俸額(推定)と、21年ペナントレースでの1球あたり(投手)、1安打あたり(打者)の価格/昨年までのキャリア通算成績、赤字=打者〉

1位:田中将大(楽天・33歳)9億円 1球あたり39万円
15年、登板372試合(日米通算)181勝90敗3セーブ
2位:柳田悠岐(ソフトバンク33歳)6億2000万円 1安打あたり400万円
11年、1138試合 1259安打、打率.319、本塁打214、打点691
3位:菅野智之(巨人・32歳)6億円 1球あたり35万円
9年、登板215試合 107勝56敗0セーブ
3位:坂本勇人(巨人・33歳)6億円 1安打あたり522万円
15年、1902試合 2118安打、打率.291、本塁打261、打点911
3位:千賀滉大(ソフトバンク・28歳)6億円 1球あたり44万円
11年、登板202試合 76勝38敗20ホールド
6位:山田哲人(ヤクルト・29歳)5億円 1安打あたり373万円
11年、1195試合 1287安打、打率.291、本塁打248、打点736
6位:浅村栄斗(楽天・31歳)5億円 1安打あたり385万円
13年、1519試合 1568安打、打率.283、本塁打230、打点908
8位:森唯斗(ソフトバンク・29歳)4億6000万円 1球あたり99万円
8年、登板435試合 21勝102ホールド121セーブ
9位:丸佳浩(巨人・32歳)4億5000万円 1安打あたり433万円
14年、1470試合 1459安打、打率.280、本塁打224、打点761
10:吉田正尚(オリックス・28歳)4億円 1安打あたり303万円
6年、643試合 746安打、打率.326、本塁打112、打点379
(圏外)
11位:山本由伸(オリックス・23歳)3億7000万円 1球あたり13万円
5年、登板123試合 39勝18敗32ホールド

※出典/日刊スポーツ1月28日付(金額は推定)、NPB(成績)のデータをもとに筆者が作成

■投手は1球投げて99万円、打者は1安打すると522万円

投手から分析していこう。10傑に入った投手は4人いる。肩やヒジの故障で早めに選手生命が終わるケースも少なくなく、打者と比べて出番は少ないが、勝敗の鍵を握る投手の年俸は高めだ。

まず、日本球界の最高年俸である田中将大(楽天・33)だ。メジャー(ヤンキース)時代は7年総額155億円(推定、以下同)の契約だったので、1年平均22億円だったことになる。それが再び楽天と契約するにあたり、菅野智之(巨人・32)の8億円を超える日本最高額9億円(2年契約)となった。

投球
写真=iStock.com/joshblake
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/joshblake

3位の菅野は、20年シーズンはリーグ最多14勝で8億円だったが、昨21年はプロ9年間で最低の6勝。2億円ダウンの6億円もやむなしといったところか。

逆に、同じ3位の千賀滉大(ソフトバンク・28)は2010年に育成選手ドラフト4位で入団後、2016年から6年連続で2ケタ勝利。21年の更改で2億円アップし、6億円を勝ち取った。

8位の森唯斗(ソフトバンク・29)は4億6000万円。試合を締めくくるクローザーは基本的に9回しか投げないので、投球数は少ない。1球あたりの単価を計算すると、99万円だ。

先発投手は1週間に1度の投球で、1試合100球がメド。1球あたり30万~40万円台だ。そこで森の1球99万円をどう見るか。先発と異なり、全試合ベンチ入りしなくてはならないので単純に比較はできないが、投げる球の判定がストライクでもそうでなくても「100万円の束」というわけだ。

なお、ベスト10圏外(11位)だが、昨年に「投手5冠」パ・リーグMVPに選ばれたのが、山本由伸(オリックス・23)だ。2億2000万円アップの年俸3億7000万円で7年目のシーズンを迎えることになった。23歳にして、この額。新卒2年目の年齢でこのサラリーということになるだろうか。数年後にはメジャーに移籍して10億円台の年俸を得ているかもしれない。

次は、打者だ。

打者トップ(全体2位)の柳田悠岐(ソフトバンク・33)は2年連続で「打率3割25本80打点」を果たし、1000万円アップし6億2000万。02年の松井秀喜(巨人)を上回る日本人打者史上最高額となった。

3位の坂本勇人(巨人・33)は打率.271、19本塁打、打点46と、やや物足りない数字だったが、33歳にしてすでに通算2000安打を達成し、5度目のゴールデングラブ賞を受賞。歴代NO.1遊撃手の評価もあって、21年の更改で1億円アップをゲットした。

21年シーズンに20年ぶりのヤクルト日本一に貢献した主将の山田哲人(ヤクルト・29)の成績は、2年ぶりの30本90打点。5億円(7年契約)の2年目となる。

10位は前出オリックス・山本投手のチームメイトで、3番打者として2年連続首位打者になった吉田正尚(28)は、1億2000万円アップの4億円ジャスト。

では、これら超一流打者は1安打につきいくら稼ぐのか。計算すると、303万円(吉田)~522万円(坂本)と少し幅があったが400万円前後。日本人の2021年平均年収403万円(doda調べ)を1安打でまかなってしまうことになる。

プロ選手の中でも、これだけの年俸を得るのはごく一部のスターのみ。成果が出せなければ、年俸は上がらず、下がるのみで、さっさとお払い箱になるという超格差社会だ。

■「背番号が38なので、中間の3800万円にしていただけませんか」

ところで、年俸の「アップ・ダウン」はどのように決められるのか。契約更改交渉における球団サイドの出席者は球団代表・査定担当・経理部長の3人のことが多い。額決定までのプロセスはやぶの中だが、ある選手からこんな話を聞いたことがある。

ベースボールチーム
写真=iStock.com/RBFried
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RBFried

「自分の背番号が38なので、中間の3800万円にしていただけませんか。来季頑張るモチベーションが上がりますからと言ったら、その通りになったよ」

希望額が4000万円なのに対し、提示額が3500万円だったのだ。

また「同じレベルの他球団選手の契約更改が終わってから、それを参考に交渉に臨む。1度保留すれば、200万円上がるのなら、交渉はあとのほうがいい」と言った選手もいた。

筆者はかつて「このポイントをアピールすれば年俸が上がるよ」という資料を作って、親しい選手にプレゼントして喜ばれたことがある。打者なら「同点打の回数」、投手なら「僅差での登板数」。打者にとって敗戦を回避する同点打は貴重だし、投手は打たれた抑えたの結果も大事だが、その僅差の場面を任されたことに意義があるからだ。

メジャーでは代理人交渉は常識だが、日本でも00年シーズンオフから運用された。それは1992年オフに古田敦也(ヤクルト)が「代理人交渉」を希望したことが契機になった。現在、代理人は、「選手1人につき、1代理人」。契約更改を仕事にするブローカー的な人間が現れないよう、代理人は弁護士資格を持つ者に限られる。

契約更改交渉を担当していた某球団職員は、年俸額決定の難しさをこう話す。

「例えば、年俸2000万円の若手選手と、(もともと本塁打・打点が多かった)年俸1億円のベテラン選手が初めて打率3割をマークしたとき、2000万円の選手を100%アップさせると4000万円。1億円の選手を20%アップさせると1億2000万円。年俸に応じて一見、公平のように感じますが、そもそも何を基準に100%と20%アップするのか。アップ率のフォーマットを作ろうと思ったが、各選手ともそれまでの実績や打順が違うので、一律にあてはめるのは難しい」

現在、球団が年俸ダウンしていいのは「年俸1億円以上の選手の場合は40%まで」「年俸1億円以下の選手は25%まで」という規定になっている。それと同じようにアップ率に関しても「年俸1億円以上は25%まで」「年俸1億円以下は100%まで」とすればいいのかもしれないが、それでは夢がなく、メジャー選手との差はますます広がるばかりだろう。

■なぜ、メジャー選手の年俸は日本選手の10倍もあるのか

日本プロ野球選手会によれば、日本人選手の2021年平均年俸は4174万円(選手の平均寿命は9.5年30歳=NPB調べ)。一般会社員の約10倍だ。12球団ごとの平均で最も高かったのはソフトバンクの6932万円、最低はオリックスの2640万円。2021年シーズンでパ・リーグを制したオリックスはコスパ、費用対効果が極めてよかったと言える。

他方、メジャー選手の2021年平均年俸は4億5000万円(日経新聞2021年4月17日付)だから、日本選手の約10倍だ。ちなみにダルビッシュ有(パドレス・35)は23億円。大谷翔平(エンゼルス・27)の22年年俸は6億3000万円だ(米データサイト「スポトラック」)。ダルビッシュはメジャーの一流投手の平均的な年俸と言えるが、昨年MVPに輝いた大谷は21年2月にそのような契約をすでに結んでいた。今後、巨額な長期契約も噂されている。

エンジェルスタジアムオブアナハイム
写真=iStock.com/Wolterk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wolterk

日米でなぜこんなに差があるのか。MLBは、NFL、NBA、NHLと並ぶ北米4大スポーツの一つで、球団は巧みなマーケティングにより「チケット代」「スポンサー代」「テレビ放映権」「グッズ・飲食代」といった収入をあげるノウハウに長けている。

一方、日本はどうか。国内で「野球はビジネス」と考え始めたのは「球界再編」の2004年以降。それまでは1954(昭和29)年の国税庁長官の通達「職業野球団に対して支出した広告宣伝費等の取扱い」により、球団経営で生じた赤字を親会社の広告宣伝費として損金扱いすることが認められた。

しかし、2004年に赤字の近鉄バファローズがオリックスブルーウェーブに吸収合併されたことにより転機が訪れ、球団としての稼ぎも重視されるようになったが、その仕組みが始まってまだ15年。MLBは、マイナーが「ハンバーガーリーグ」の別称で呼ばれるように「完全成果主義」「ハイリスクハイリターン」だが、NPBは1年で契約解除されることはほぼない。「年功序列」も多少加味されるのが日本的契約と言われている。

■年間シートが全部売れれば年間シート5000席×1席50万円=25億円

メジャーに比べ日本プロ野球の年俸は低いとはいえ、日本の他のスポーツと比較すれば圧倒的に恵まれているのは明らかである。球団の懐事情はどうなっているのか?

「球団経営」の根幹をなすのは「年間シート」である。特定の球団の数字ではないが、標準的な事例を挙げて説明しよう。年間シートが全部売れれば、年間シート5000席×1席50万円=25億円。球団には毎年25億円が入ってくる。だから球団は年間シート販売に躍起になる。

野球場
写真=iStock.com/luisramosjr
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/luisramosjr

1選手の年俸が平均4000万円とした場合、球団支配下選手70人の総年俸が約28億円(便宜上、外国人選手は考えない)。それを月ごとに12分割で支払っていくのだが、選手を維持するだけでざっとこれだけのコストがかかる。

ほかにも監督・コーチの年俸やチーム運営にあたるスタッフの人件費、設備費などがある。そのため球団は年間シート席以外の席の販売にも力を入れる。球場によって差はあるが、1試合観客7000人を損益分岐点として、それ以上は黒字になると言われている。

また、日々の「チケット代」「スポンサー代」「テレビ放映権料」「グッズ・飲食代」の売上をどれだけあげられるかも重要になるが、収益力はまだメジャーの足元にも及ばず、それが日米の球団の選手年俸差にもつながっている。

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高津 雅樹(たかつ・まさき)
スポーツライター
プロ野球の現場取材歴30年。野球の「人」「技術」「記録」「ルール」「歴史」などのジャンルで計25冊の著書がある。

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(スポーツライター 高津 雅樹)

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