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「日本人は血縁を大事にしすぎている」家族問題を抱える人に勧めたい"ある映画"

プレジデントオンライン / 2022年2月19日 15時15分

映画『万引き家族』ポスター©GAGA Corporation

親を選べないことを景品のガチャにたとえた「親ガチャ」という言葉が生まれるほど、家族との関係に悩む人は多い。TikTokで映画を多数紹介しているしんのすけさんは「幼いころに両親が離婚した僕は、映画の登場人物に自身を重ねることも多い。特に『万引き家族』のあるシーンにはとても共感した」という――。

※本稿は、しんのすけ『シネマ・ライフハック 人生の悩みに50の映画で答えてみた』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■「この境遇は自分だけじゃない」と思わせてくれる

家族についての悩みは、ごくごくプライベートなものだけど、この地球上に住むほとんどの人たちが共有できる悩みではないでしょうか。

それだけに、家族についての様々な悩みを取り上げた映画も多く、登場人物に自分自身を投影したり、仲間意識を感じたりできる作品を見つけるのは難しくありません。そんな映画と出会うことができれば、「この境遇は自分だけじゃないんだ」「おっ、仲間だ、こいつ」といった安心感を得られたり、自分の悩みを明確化できると思います。

映画で描かれる家族に関する悩みのほとんどは、最終的に解決に向かっていくのが定番です。すれ違っていた家族間の思いが通じ、最後にわかり合えてハッピーエンド。

ですが、「すれ違っていた家族間の思い」の種別の違いによって、映画ごとの個性が生まれ、独特の作品となります。つまり、一口に「家族に関する悩み」をテーマにした映画と言っても、様々なタイプのものがある。

例えば僕の場合、幼いころに両親が離婚したため、母子家庭で育っています。兄弟や姉妹はいないため、母1人、子1人です。幼いころは、やはり「親が離婚した」ということが悩みの1つでしたね。悩みより、違和感に近かったのかもしれません。

■誰かと繋がるなら「ネガティブ」な話題でもいい

家族に関する悩みの中で、「親が離婚した」というケースは比較的多いのではないでしょうか。もしもあなたが、「親の離婚」という悩みを抱えているのだとしたら、自分を映画の中の主人公として捉え、「自分は“負荷”を1つ持ってるんだな」と俯瞰(ふかん)的に考えてみてはどうでしょうか。自分の状況を俯瞰的に捉えることで、精神的苦痛を和らげる効果もあるはずです。少なくとも僕はそう思い、自分の負荷を受け止めていました。

“負荷”なんて言葉を使うと、何だかネガティブな印象を抱くかもしれません。しかし、それくらいの強烈さを与えたほうが“物語性”を高められますし、同じ悩みを抱える人と出会ったときに、その人物に対して強い仲間意識を感じるという効果をもたらしてくれます。

悩みを抱え、乗り越えようと思うとき、同じ悩みを抱えた他者との仲間意識は大きな支えとなります。

他者との仲間意識という話をすると、通常考えられるのは、共通の趣味や仕事を持っている人を想像するかもしれません。でも実は、仲間意識が最も強く感じられるのは、共通の悩みを抱えている同士だと思うんですよ。

よく、後輩同士で先輩の愚痴を言って仲良くなったりしますよね。マイナスの感情の共有で仲間意識が強くなるんだと思います。決してポジティブな意味での仲間意識ではないのですが、そんな相手がそばにいたら、「自分だけじゃないんだ」という気持ちになれるし、悩みや心の苦痛の軽減にも繋(つな)がるのではないでしょうか。

■『万引き家族』に僕が惹かれた理由

映画の話に戻りましょう。

家族をテーマとして扱った映画で印象深いものを探したとき、すぐに頭に浮かぶのが第71回カンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールに輝いた是枝裕和(これえだひろかず)監督の『万引き家族』(2018年)です。

この作品では、それぞれに負荷を背負った人々が寄り集まって「家族」を形成し、暮らしていく姿が描かれます。児童虐待に遭っている子ども、事情があって養子になった人物など、各自の事情が重なり、いつしか家族になった人たちの話。

いかにも非現実的であり映画的な内容で、フィクションに寄りすぎていると感じる人もいるかもしれません。特に記憶に残っているのが、タイトルにある「万引き」というフレーズ。公開当時、この言葉をキャッチとして使うことに、犯罪軽視もしくはそれを助長しているとして批判的な声が少なからずありました。

「窃盗を善行として描くのか! それをもてはやすのが日本の現実か!」と受け取った人がいたようです。しかし、そうした批判はお門違い。この作品には、人が幸せになるための1つの手段がしっかりと描かれているので、そこにぜひ注目してほしい。

小さな子供の手を握る親の手元
写真=iStock.com/spukkato
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/spukkato

■治は虐待を受けている少女を連れ去るが…

この映画が教えてくれるのは、「家族」という生活共同体の形式が与えてくれる安心感。そもそも「家族」という言葉には、常にポジティブな意味が含まれているのだと改めて考えさせてくれます。

極論を言えば、家族とは幸福そのものなのかもしれません。だからこそ、家族に関する悩みとなると、人はどんな些細(ささい)なことでも重く感じてしまうのでしょう。

『万引き家族』の冒頭、児童虐待を受けて寒空の下で震えていた幼い少女がリリー・フランキーさん演じる主人公の治(おさむ)によって救い出されます。いくら虐待されているとはいえ、女の子を連れ去るのは犯罪では……? そんな指摘もあるかもしれませんが、映画的ストーリー展開ということで、ここでは細かいツッコミはなしです。

いずれにしても、主人公の治が、事情を抱える人たちが寄り添いながら暮らせる「家族」という居場所を作ったのは、負荷を背負った者同士の仲間意識を感じたからでしょう。それぞれの家族の悩みを解決するのが目的なわけではなく、仲間意識を感じながら寄り添って暮らせる場所を作りたかったのだと思います。

■「子どもは親を選べない」を覆したワンシーン

2021年には「親ガチャ」という言葉が流行りました。それが意味するのは、景品を選べないカプセルトイと同様、子どもも親を選べない……。

ところがこの映画では、虐待する親の元に戻るか、万引きをする優しい親の元に残るかという選択肢が与えられます。事実、すでに家族の一員になっている松岡茉優(まゆ)さん演じる亜紀も、自らの意思によって「家族」になることを選んでいるのです。

亜紀の実の家庭は裕福で一見幸せそうな家族です。ですが、何らかの思いから実の家族から離れ、治たちの家族の元で暮らしています。その背景が垣間見える会話のシーンがあります。

亜紀が治に「普段、信代さんといつセックスしているの?」と尋ねるシーンです。治はそれをはぐらかすように「俺たちはここ(胸を指差して)で繋がってるんだよ」と答えます。ふと笑いながら「ウソくさ」と答える亜紀。それに対して治は「じゃあどこで繋がってると思うんだよ」と言うと、亜紀からスッと笑顔が消え「お金。普通は」と答えます。

このセリフから、恐らく亜紀の家庭は裕福が故に家族間の問題を感じていることが分かります。そんな亜紀の暗い表情を察したのか、治はこう答えます。

「俺たち普通じゃねえからな。へへっ」

■「親を選ぶ権利」もあるのではないか

子供のような冗談に聞こえながらも、その言葉に亜紀の表情がゆるみます。決して普通ではない他人の集まりこそ、亜紀が自ら選んだ親であり家族なのです。

現実ではほぼ存在しない「子どもが親を選ぶ権利」。しかし、この映画の中では、自ら選んだ「家族」に属し、貧困の中でも幸せそうに過ごす子どもたちの姿が映し出されます。

子どもは親を選べない……。多くの大人たちがこの現実の上に胡坐(あぐら)をかき、子どもたちの気持ちを軽く見ているのかもしれません。『万引き家族』という映画は、「家族」に関するあらゆる悩みを明確化し、解決するための手段を与えてくれるのではないかと改めて考えさせられましたね。

両親が離婚した家庭で育った僕は、「家族だからといって、別にお互い仲良くする必要はない」と思っている派で、もう少し丁寧な表現をすると「血が繋がっていても、家族なんてバラバラになってしまえば他人も同然だし、血が繋がっていなくても家族になりえる」という考えの持ち主です。そもそも夫婦だってもともとは他人なわけで、「結婚」という制度によって家族になっているだけ。それが親子となると、血縁関係が前提になってしまう。それがどうしても納得できないんですよね。

もちろん、僕のこの考えに共感できない人もたくさんいるでしょう。しかし、この考えを代弁してくれるような映画があるので紹介しておきます。

■血の繋がりがなくても家族にはなれる

アメリカが生んだ大人気シリーズ『ワイルド・スピード』という“ヤンキー”映画です。

『ワイルド・スピード』は、世界中の陽キャラや、“ヤンキー”たちが大好きな映画としてよく知られています。カーチェイスのシーンが満載で、車大好きな連中が、「超カッケー!」というノリで観る映画なんですよね。

実は、この映画にも「家族」というテーマが深く関わっています。登場人物たちの誰もが複雑な家族関係という共通の問題を背負っており、そうしたならず者たちが集まり、窃盗などの犯罪に手を染めていくという物語なのです。

シリーズを通して主人公役を担うドムは、仲間たちの前で「オレたちはファミリーだ」と毎回言います。とはいえ日本語の「家族」と、ドムが言う「ファミリー」のニュアンスは少し違う。彼が示唆するのは、血の繋がりはなくとも、仲間意識を感じたり、共感を覚えたりできれば、誰でも「家族」(ファミリー)になれるし、幸福を共有できるということ。

見た目はハチャメチャな“ヤンキー”映画ですが、こうした見方もできるのです。

どうも日本には、「血の繋がり」を大事にしすぎる空気があるような気がします。その繋がりにどうしても耐えられないのであれば、切ってしまってもいい。僕はそんなふうに思います。残念ながら、日本社会にはまだまだそういう風潮は育ってきていませんが……。

■映画は様々な「家族の形」を教えてくれる

しかし、映画の世界では、そうした考えがいろんな作品の中で描かれていることを知っていただきたい。すでに日本でも、徐々にではありますが、これまでと違った家族の形を描写した映画が誕生し始めています。

しんのすけ『シネマ・ライフハック 人生の悩みに50の映画で答えてみた』(KADOKAWA)
しんのすけ『シネマ・ライフハック 人生の悩みに50の映画で答えてみた』(KADOKAWA)

有名なのは、先ほど紹介した『万引き家族』。それから、2021年を代表する傑作映画であり、同じく「家族」という言葉がタイトルに含まれる『ヤクザと家族 The Family』も、血の繋がりと家族について考えさせてくれる作品です。

家族の問題に悩んだとき、映画を観ることで様々な「家族の形」の存在を知るという方法は、自分自身を救い出すためにも大切だと思います。そこで描かれているストーリーに共感し、登場人物に仲間意識を感じられれば、自分が直面している状況がそれまでと違って見えてくるかもしれません。

問題に正面から立ち向かうもよし、立ち向かわずに逃げるもよし。家族のことで悩んだとき、いろんな立ち向かい方があるという事実に映画を通じて触れてほしいですね。

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しんのすけ TikTokクリエイター
新たな映画文化発信の形を考え、映像制作や専門学校講師を務める。TikTokクリエイターとして映画感想を多数発信し、60万人以上のフォロワーを持つ。初の著書『シネマ・ライフハック』(KADOKAWA)を発売。

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(TikTokクリエイター しんのすけ)

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